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第一章
1-10 ★
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それは鈴虫が十歳になったある日。ふんわりと暖かい春の風が吹く午後の事だった。
この時期は畑に種を蒔いたり山に入って山菜を集めたりと、やる事ならばいくらでもある時期である。喜一郎は腰が痛いと言うお妙を手伝って屋敷の庭で山菜を干していた。喜一郎も、もう良い労働力だ。本来ならばもう少し力仕事をしても良い。しかし今日はお妙を手伝うように申し付けられていたので屋敷に留まっていたのだ。
そこへ突然、嘉平が帰って来た。普段は朝でかけると夕方まで帰って来る事はあまり無いのにどうしたのだろうか。喜一郎は何だか妙な違和感を覚えた。お妙は嘉平が帰って来ると、申し合わせたように仕事を喜一郎に託し、鈴虫に美味しいお団子を作ってあげるからと言って厨に入ってしまった。喜一郎は鈴虫の為に腰の痛みをおしてまで、わざわざ団子なんか作ってやるのか納得いかなかった。悶々としたまま嘉平を横目で見遣ると、嘉平は廻り廊下に座って、何か考え事でもしているのだろうかぼんやりとしていた。
鈴虫は一人で機嫌良くあや取りして遊んでいる。嘉平はそのうち何か算段がついたのか、桃の花の枝を一枝手折って鈴虫を傍らに呼び寄せた。鈴虫は嬉しそうに枝を手にすると、薄紅色の可憐な花に目を輝かせる。嘉平はそんな鈴虫の耳元で「鈴虫、日が暮れたら堂に行ってみようか。行ったこと、ないだろう?」と囁いた。鈴虫は突然の事に一瞬キョトンと目を丸くし、「日が暮れてから外に出るのも、暗いお堂に行くのも怖い。」とイヤイヤと首を横に振った。
「暗いのが怖いのならば、今から一緒に行こうか?」嘉平は鈴虫の髪を撫でながら促した。
喜一郎はその様子を見逃さなかった。やはり、何かが妙だ。
堂は雪虫の死後は長らく使われていなかった。あの日喜一郎が覗いていた壁板の隙間は、背丈の伸びた目線には合わず、中腰の不恰好な姿勢でしか覗き込めなくなっていた。喜一郎はお構いなしに尻を突き出し、壁に手をついて穴を覗き込んだ。堂の中には何も無かった。雪虫が使い古した汚れた布団も、夥しい血の痕も、何事も無かったように消えて無くなり、ただ省みられることの無かった時間だけが刻まれていた。
嘉平は鈴虫を中に促し戸を閉めると、入り口近くの壁際に勧め二人並んで座った。
「鈴虫、ここは何だか知ってるかい?」嘉平の問いかけに鈴虫は小首を傾げて考えてみせる。
「ここはね、観世音菩薩様が降りていらっしゃる処なんだよ…そしてここはね、お前が生まれた場所でもあるんだ。」鈴虫はう~んと、反対側に首を捻った。
「観世音菩薩様が何か分からないのかね?」鈴虫は口を尖らせて、こくこくと頷いた。
「ほら、お正月に絵を見せただろ?頭から布を被った…」鈴虫はにこっと笑って頷いた。
嘉平は鈴虫の手を握って話を続けた。
「絵の中の観世音菩薩様はお優しそうだっただろう?人間にはね、煩悩と言う苦しみがあるんだよ。その煩悩から救うために観世音菩薩様はここに降りていらっしゃるんだよ…。」煩悩なんて言葉は喜一郎にも良く分からなかった。もちろん鈴虫が分かるわけもない。嘉平の言葉をただ黙って聞いている。「菩薩様は衆生の無明火をご自身の化身の法性華で消してくださるんだ。」おそらく鈴虫には衆生、無明火、法性華なんて言葉も良く分からないだろう。何だか難しい話をしているんだろうなと言う顔つきで困っている。
「鈴虫よ、観世音菩薩様は絵の中に居たままで衆生を救うことが出来ると思うかね?」嘉平は鈴虫に問うてみた。
鈴虫は今の話の内容は初めて耳にする言葉ばかりで、質問されても答えようが無い。再び口を尖らせて眉を八の字に寄せて首を傾げる。
「絵の中からではたとえ菩薩様でも衆生を救うのは難しいことなんだ。だからね、菩薩様はお前のみたいに可愛い子の身体を借りて皆を助けに来てくれるんだよ。」
嘉平は鈴虫が話の内容を理解する事など期待はしていなかった。今はただ説明をしたと言う事実だけで十分だ。鈴虫は何か言いたげな顔をして嘉平を見上げた。嘉平はそんな鈴虫の手をぐっと引き寄せて、腕の中に閉じ込めて静かに耳元で言った。
「鈴虫、観世音菩薩様に身体をお貸しする用意を始めようか。」
桃の花の枝を取り上げられ、細い手首を一つ纏めに握られると、不安で潰されそうになる。鈴虫にはこれから自分の身に起こることが理解できてはいない。只ならぬ雰囲気に表情を固めて嘉平に身を委ねているだけだ。嘉平は鈴虫の膝の上に手を置くと、そのまま手を滑らせて太腿を撫で上げた。着物の裾を割り脚の間に手をしのばせると、鈴虫は泣きそうな顔で下唇を噛み締めた。嘉平の指は止まることなく後に回って触っちゃいけない所に触れてくる。そこまで来て、やっと何かされるとはっきり理解したのだろう、滅多に喋らない鈴虫が「ぃやッ!」と口を開いた。
「だぁめだよ。」嘉平は出来るだけ優しい口調でゆっくりと嗜めると、すっと小指を立てる。
「今日はこれだけ。すぐに終えるから静かにしておいで。」嘉平が言うと、鈴虫は一筋涙を零して指を見つめる。
「いや…こ、こわい…。」鈴虫は力を込めて体を捻ってみるが、全く無駄な抵抗である。
嘉平は鈴虫の手を引き倒し、うつ伏せに組み敷くと身体の上に跨り、小さな白い尻を割り開いた。
「ぃやッ!めッめッ!!!ぃやッ!!!」小さな手が床を必死に叩く。しかし大人の男の力に敵うはずも無く、あっけなく制圧されてしまった。「暴れないで、諦めて言うことを聞きなさい。脚を開いて!体を強張らせなければそんなに痛まないよ。こんな姿勢では痛いんだぞ。仕方ないなぁ…!」嘉平は自分の小指を根元まで口に含むと、唾液を付けて小さな菊門にその先を捻じ込む。この世の終わりのような鋭い悲鳴が上がった。
「ィッ いっだぁぁぁーぃッ!!!」鈴虫は逃れようとボロボロと涙を零しながら床板を掻き毟ったり、手足をバタつかせ抗った。足の爪が剥がれて血が滲む。鈴虫は痛いのと怖いので半狂乱になって暴れているが、嘉平はお構いなしに体重を掛けて鈴虫を押さえつけ、「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。」と数えながら少しずつ指を奥へと進めていく。
時が捩れながらジリジリと進んでいった。
「はい、はい、おしまいだよ。今日はおしまい。」嘉平は指を引き抜き襤褸で拭った。鈴虫は大泣きしながら四つん這いで堂を奥まで逃げてガタガタ震えている。足の間に血が滲んでいるのが見えた。
「暴れるから傷になって血が出てしまったよ。お薬塗ってあげるからこっちにおいで。」嘉平は静かに手を伸ばしたが、鈴虫は興奮が収まらず、着物の裾を両手で押さえつけて大声で泣いている。
「ほれ、足の爪も割れて血が出てるよ。」嘉平はゆっくり近づいて、そっと鈴虫の足に触れた。鈴虫は壁に阻まれて逃げることは出来ない。鈴虫の瞳が悲しそうに威嚇し、言葉は嗚咽と混ざり合って吐き出すことが出来ない。ただ飲み込むにも赦し難く、唇を戦慄かせるだけだ。
ひとつ…さっきまで大切にしてた桃の花の枝はどこへ行ってしまったの…ふたつ…せっかく咲いた桃の花が散ってしまった…みっつ…くしゃくしゃになった枝にはもう花は付いていない…よっつ…花びらの上でのた打ち回って全部台無しにしてしまったのは誰…いつつ…もう、くしゃくしゃ…くしゃくしゃしか残ってない…!
嘉平を責めたい。恨みの言葉の一つも言ってやりたいのに、吸い込みすぎた空気が吐き出せずに話すどころではない。忙しなく呼吸している筈なのに胸の苦しさがばかりが増して溺れてしまいそうなのだ。手足は冷たく痺れて自由が利かなくなっている。ひゅうひゅうと喉を鳴らしたかと思うと、鈴虫はそのまま気を失って倒れてしまった。
「こっちに向かって来るから、覗いてるのがばれるかと焦ったぜ。」
「大丈夫なのか?」
「わからん。泣きすぎて息が続かなくなったんだろう。」
「可哀相になぁ…」
「仕方ないさ。あれは本来はそういう役割に産まれ付いた忌み子だ。
親父が自分で取り上げて愛着があったから甘やかされていただけだ。」
「そういう役割って…やっぱり…。」
「あれの身体には観世音菩薩様が乗り移る…ってのは寺小姓と同じだ。
但し、稚児灌頂されてないから坊主に遣られる事は無い。
鈴虫のお相手はこの辺りの村の男みんなだ…知ってる…だろ?
あぁ、雪虫が死んでから十五年、この村は『日照り』続きだから分からないか?」
佐吉の顔色が一瞬にして曇った。
独り身の男全員…この言葉が佐吉に重く圧し掛かる。実際のところは、喜一郎のように相手にしたがらない者もいるだろう。しかし、佐吉は自分だけのものに出来ないと言う現実を目の前に突きつけられてしまった。
「…他の村にも何人か居るらしいな。」
「そう、例えば上ノ村には梔子と五月雨と言う双子が居るのは知ってる。
俺と同じ年らしいが、梔子は頭がいかれちまってる。」
佐吉は気分が沈んで、もうこれ以上は言葉を紡ぎ出すことが出来ない。
会話が途切れた。
この時期は畑に種を蒔いたり山に入って山菜を集めたりと、やる事ならばいくらでもある時期である。喜一郎は腰が痛いと言うお妙を手伝って屋敷の庭で山菜を干していた。喜一郎も、もう良い労働力だ。本来ならばもう少し力仕事をしても良い。しかし今日はお妙を手伝うように申し付けられていたので屋敷に留まっていたのだ。
そこへ突然、嘉平が帰って来た。普段は朝でかけると夕方まで帰って来る事はあまり無いのにどうしたのだろうか。喜一郎は何だか妙な違和感を覚えた。お妙は嘉平が帰って来ると、申し合わせたように仕事を喜一郎に託し、鈴虫に美味しいお団子を作ってあげるからと言って厨に入ってしまった。喜一郎は鈴虫の為に腰の痛みをおしてまで、わざわざ団子なんか作ってやるのか納得いかなかった。悶々としたまま嘉平を横目で見遣ると、嘉平は廻り廊下に座って、何か考え事でもしているのだろうかぼんやりとしていた。
鈴虫は一人で機嫌良くあや取りして遊んでいる。嘉平はそのうち何か算段がついたのか、桃の花の枝を一枝手折って鈴虫を傍らに呼び寄せた。鈴虫は嬉しそうに枝を手にすると、薄紅色の可憐な花に目を輝かせる。嘉平はそんな鈴虫の耳元で「鈴虫、日が暮れたら堂に行ってみようか。行ったこと、ないだろう?」と囁いた。鈴虫は突然の事に一瞬キョトンと目を丸くし、「日が暮れてから外に出るのも、暗いお堂に行くのも怖い。」とイヤイヤと首を横に振った。
「暗いのが怖いのならば、今から一緒に行こうか?」嘉平は鈴虫の髪を撫でながら促した。
喜一郎はその様子を見逃さなかった。やはり、何かが妙だ。
堂は雪虫の死後は長らく使われていなかった。あの日喜一郎が覗いていた壁板の隙間は、背丈の伸びた目線には合わず、中腰の不恰好な姿勢でしか覗き込めなくなっていた。喜一郎はお構いなしに尻を突き出し、壁に手をついて穴を覗き込んだ。堂の中には何も無かった。雪虫が使い古した汚れた布団も、夥しい血の痕も、何事も無かったように消えて無くなり、ただ省みられることの無かった時間だけが刻まれていた。
嘉平は鈴虫を中に促し戸を閉めると、入り口近くの壁際に勧め二人並んで座った。
「鈴虫、ここは何だか知ってるかい?」嘉平の問いかけに鈴虫は小首を傾げて考えてみせる。
「ここはね、観世音菩薩様が降りていらっしゃる処なんだよ…そしてここはね、お前が生まれた場所でもあるんだ。」鈴虫はう~んと、反対側に首を捻った。
「観世音菩薩様が何か分からないのかね?」鈴虫は口を尖らせて、こくこくと頷いた。
「ほら、お正月に絵を見せただろ?頭から布を被った…」鈴虫はにこっと笑って頷いた。
嘉平は鈴虫の手を握って話を続けた。
「絵の中の観世音菩薩様はお優しそうだっただろう?人間にはね、煩悩と言う苦しみがあるんだよ。その煩悩から救うために観世音菩薩様はここに降りていらっしゃるんだよ…。」煩悩なんて言葉は喜一郎にも良く分からなかった。もちろん鈴虫が分かるわけもない。嘉平の言葉をただ黙って聞いている。「菩薩様は衆生の無明火をご自身の化身の法性華で消してくださるんだ。」おそらく鈴虫には衆生、無明火、法性華なんて言葉も良く分からないだろう。何だか難しい話をしているんだろうなと言う顔つきで困っている。
「鈴虫よ、観世音菩薩様は絵の中に居たままで衆生を救うことが出来ると思うかね?」嘉平は鈴虫に問うてみた。
鈴虫は今の話の内容は初めて耳にする言葉ばかりで、質問されても答えようが無い。再び口を尖らせて眉を八の字に寄せて首を傾げる。
「絵の中からではたとえ菩薩様でも衆生を救うのは難しいことなんだ。だからね、菩薩様はお前のみたいに可愛い子の身体を借りて皆を助けに来てくれるんだよ。」
嘉平は鈴虫が話の内容を理解する事など期待はしていなかった。今はただ説明をしたと言う事実だけで十分だ。鈴虫は何か言いたげな顔をして嘉平を見上げた。嘉平はそんな鈴虫の手をぐっと引き寄せて、腕の中に閉じ込めて静かに耳元で言った。
「鈴虫、観世音菩薩様に身体をお貸しする用意を始めようか。」
桃の花の枝を取り上げられ、細い手首を一つ纏めに握られると、不安で潰されそうになる。鈴虫にはこれから自分の身に起こることが理解できてはいない。只ならぬ雰囲気に表情を固めて嘉平に身を委ねているだけだ。嘉平は鈴虫の膝の上に手を置くと、そのまま手を滑らせて太腿を撫で上げた。着物の裾を割り脚の間に手をしのばせると、鈴虫は泣きそうな顔で下唇を噛み締めた。嘉平の指は止まることなく後に回って触っちゃいけない所に触れてくる。そこまで来て、やっと何かされるとはっきり理解したのだろう、滅多に喋らない鈴虫が「ぃやッ!」と口を開いた。
「だぁめだよ。」嘉平は出来るだけ優しい口調でゆっくりと嗜めると、すっと小指を立てる。
「今日はこれだけ。すぐに終えるから静かにしておいで。」嘉平が言うと、鈴虫は一筋涙を零して指を見つめる。
「いや…こ、こわい…。」鈴虫は力を込めて体を捻ってみるが、全く無駄な抵抗である。
嘉平は鈴虫の手を引き倒し、うつ伏せに組み敷くと身体の上に跨り、小さな白い尻を割り開いた。
「ぃやッ!めッめッ!!!ぃやッ!!!」小さな手が床を必死に叩く。しかし大人の男の力に敵うはずも無く、あっけなく制圧されてしまった。「暴れないで、諦めて言うことを聞きなさい。脚を開いて!体を強張らせなければそんなに痛まないよ。こんな姿勢では痛いんだぞ。仕方ないなぁ…!」嘉平は自分の小指を根元まで口に含むと、唾液を付けて小さな菊門にその先を捻じ込む。この世の終わりのような鋭い悲鳴が上がった。
「ィッ いっだぁぁぁーぃッ!!!」鈴虫は逃れようとボロボロと涙を零しながら床板を掻き毟ったり、手足をバタつかせ抗った。足の爪が剥がれて血が滲む。鈴虫は痛いのと怖いので半狂乱になって暴れているが、嘉平はお構いなしに体重を掛けて鈴虫を押さえつけ、「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。」と数えながら少しずつ指を奥へと進めていく。
時が捩れながらジリジリと進んでいった。
「はい、はい、おしまいだよ。今日はおしまい。」嘉平は指を引き抜き襤褸で拭った。鈴虫は大泣きしながら四つん這いで堂を奥まで逃げてガタガタ震えている。足の間に血が滲んでいるのが見えた。
「暴れるから傷になって血が出てしまったよ。お薬塗ってあげるからこっちにおいで。」嘉平は静かに手を伸ばしたが、鈴虫は興奮が収まらず、着物の裾を両手で押さえつけて大声で泣いている。
「ほれ、足の爪も割れて血が出てるよ。」嘉平はゆっくり近づいて、そっと鈴虫の足に触れた。鈴虫は壁に阻まれて逃げることは出来ない。鈴虫の瞳が悲しそうに威嚇し、言葉は嗚咽と混ざり合って吐き出すことが出来ない。ただ飲み込むにも赦し難く、唇を戦慄かせるだけだ。
ひとつ…さっきまで大切にしてた桃の花の枝はどこへ行ってしまったの…ふたつ…せっかく咲いた桃の花が散ってしまった…みっつ…くしゃくしゃになった枝にはもう花は付いていない…よっつ…花びらの上でのた打ち回って全部台無しにしてしまったのは誰…いつつ…もう、くしゃくしゃ…くしゃくしゃしか残ってない…!
嘉平を責めたい。恨みの言葉の一つも言ってやりたいのに、吸い込みすぎた空気が吐き出せずに話すどころではない。忙しなく呼吸している筈なのに胸の苦しさがばかりが増して溺れてしまいそうなのだ。手足は冷たく痺れて自由が利かなくなっている。ひゅうひゅうと喉を鳴らしたかと思うと、鈴虫はそのまま気を失って倒れてしまった。
「こっちに向かって来るから、覗いてるのがばれるかと焦ったぜ。」
「大丈夫なのか?」
「わからん。泣きすぎて息が続かなくなったんだろう。」
「可哀相になぁ…」
「仕方ないさ。あれは本来はそういう役割に産まれ付いた忌み子だ。
親父が自分で取り上げて愛着があったから甘やかされていただけだ。」
「そういう役割って…やっぱり…。」
「あれの身体には観世音菩薩様が乗り移る…ってのは寺小姓と同じだ。
但し、稚児灌頂されてないから坊主に遣られる事は無い。
鈴虫のお相手はこの辺りの村の男みんなだ…知ってる…だろ?
あぁ、雪虫が死んでから十五年、この村は『日照り』続きだから分からないか?」
佐吉の顔色が一瞬にして曇った。
独り身の男全員…この言葉が佐吉に重く圧し掛かる。実際のところは、喜一郎のように相手にしたがらない者もいるだろう。しかし、佐吉は自分だけのものに出来ないと言う現実を目の前に突きつけられてしまった。
「…他の村にも何人か居るらしいな。」
「そう、例えば上ノ村には梔子と五月雨と言う双子が居るのは知ってる。
俺と同じ年らしいが、梔子は頭がいかれちまってる。」
佐吉は気分が沈んで、もうこれ以上は言葉を紡ぎ出すことが出来ない。
会話が途切れた。
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