冷たい左手

池子

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第三章

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のり子と別れ僕達は再度倫太郎の部屋へと戻る為、玄関扉を開き建物内へと入る。
するとそこに、僕の部屋の前に一人で佇んでいる荒井の姿があった。
荒井は僕の姿に気づいた様で、
「佐々木一体何処に行ってたんだよ。あっ、倫太郎さんも一緒だったんですね」
「荒井こそこんなところで一人で何をしているんだい。今日は一人で行動するのは避けるように話しただろう。次は君が狙われているかもしれないんだぞ」
倫太郎に注意された荒井は、ばつが悪そうな顔をする。
「すみません、でも大丈夫ですよ。俺はこの中の誰かに恨まれる様な事をした覚えもないし、俺が誰かを恨んでいる事もありませんから。それに慎二さんもついさっき一人でトイレに行ってましたよ」
倫太郎が額に右手をあて、一つ溜息を吐く。
「慎二の奴、言い出した本人なんだから、自分の言葉に責任は持ってくれよな。慎二には俺から後で言っておく。それで荒井は海斗に何か用事でもあったのかい」
「いやあ、やっぱり何でもないです」
そう言って、荒井は直ぐにその場を立ち去ろうとする。
しかし、倫太郎が荒井の進行方向に身体をグッと入れ、行く手を阻む。
「俺がいる状況では話せない事なのかい。海斗が一人でいる時に何をしようとしていたんだ」
倫太郎は冷ややかな声で荒井へと詰め寄る。
荒井は倫太郎の普段は見せない冷たい表情に怖気ついた様に、口を開いた。
「そんな大した事ではないです。二人が今回の殺人事件について何処まで分かったのか気になっただけです。倫太郎さんは教えてくれないだろうと思ってので、佐々木が一人でいる時に聞こうと思いました。それだけですよ、だからそんな怖い顔しないで下さい」
倫太郎は数秒荒井を見つめた後、詰めていた身体を離す様に、一歩後ろへと下げる。
「荒井が言った事は一先ず信じよう。だが、犯人の可能性がある君に事件の事を教える事は出来ない」
「分かりました、あまり期待はしていなかったので大丈夫です。お手を煩わせてすみませんでした。俺は食堂に戻りますね」
荒井がその場を立ち去り、僕達も倫太郎の部屋へと入った。
僕はすっかり定位置となってしまっている、ベッドへと腰を下ろす。
「真琴先生の密室トリックが解けた事によって俺達は犯人の正体に近づいた。というよりこのトリックを誰からも疑われずに行える人間は、一人しかいないと思っている」
倫太郎の言う通りだ。
しかし真琴先生の殺人トリックが解けても、杏奈の殺人をその人が実行したという証拠は何も無いのだ。
まだ僕達には見つけ出さなくてはいけない事が残っている。
椅子に座って煙草を口に咥えた倫太郎の表情は、どこか満足げだ。
先程は吸えなかった為、その分も煙草の味を楽しんでいるのだろう。


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