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第二章
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しおりを挟む杏奈は既に亡くなっていた。
背中に刺さったナイフからは未だに血が流れている。
お湯の中に入っており身体が温まっていた状態だった為、余計に出血量が多かったのだろう。
視線を移動させるともう一つある事に気づいた。
杏奈の左手の甲が出血していたのだ。
真琴先生の左手の甲にあった傷と同様のものが、杏奈の手にもついている。
この傷にはいったい何の意味があるのか。
「おい、どうなっているんだよ。何で杏奈ちゃんも殺されなくちゃならないんだよ。いい加減にしろよな犯人。今此処にいる誰かなんだろう」
慎二が大声で怒鳴る。
しかしそれに対して声をあげる者は誰一人もいなかった。
数十秒の沈黙が流れ、その沈黙を断ち切る様に倫太郎が声を上げる。
「まずは杏奈を部屋のベッドまで移動させよう。こんな姿のまま此処に置いておく事は俺には出来ない」
僕達は杏奈の遺体を洗面所から杏奈の部屋のベッドへと移動させる。
杏奈の部屋の鍵は、洗面所に置いてあった彼女の私物のポーチの中に入っていた。
のり子さんが用意してくれたブランケットを、遺体の上から被せ僕達は部屋を後にした。
そのまま食堂へ向かい全員が席に着くのを確認すると、倫太郎が口を開く。
「こんな事が起こってすぐに聞くのは申し訳ないけど、杏奈が入浴していた二十時三十分~二十一時三十分の間の全員の行動を確認したい」
今度は誰も文句を言う人はいなかった。
「まず先に、俺と海斗はその時間はずっと二人で客間にいたよ。一度も客間からは出ていない。次美波からお願いできるかい」
下を見て塞ぎ込んでいた美波が顔を上げる。
「私はお風呂から上がった後は、自室で髪を乾かしていました。本当は洗面所でやりたかったんですが、時間がかかりそうだったので自室に移動しました。スキンケア含め三十分程で全て終わらせて、二十一時頃からは食堂でのり子さんと一緒に夕食の片付けをしていました」
次に慎二。
「杏奈ちゃんが風呂に入る前までは、俺と杏奈ちゃんと荒井で食堂で時間を潰していたんだよ。それで二十時三十分頃になって杏奈ちゃんが風呂に入ってからも少しの間は、そのまま荒井と一緒にいたんだけど、食後で眠くなって来たから俺だけ先に部屋に戻ったよ。
二十時五十分位だったんじゃないか」
次に荒井。
「慎二さんが話した通り、大体は食堂にいました。慎二さんが部屋に戻った後も俺はそのまま食堂でのり子さんと話していたんですけど、二十一時過ぎに美波さんが食堂へ来てのり子さんと本格的に片付けをし始めたので、邪魔しちゃ悪いと思って俺も部屋へ戻りました」
次に黒澤。
「僕は夕食を食べ終わってからは、客間で小説の続きを読んでいました。一回トイレに行きましたけどそれ以外の時間は客間にいました。椿さんも佐々木も僕がずっと客間にいたのを見てましたよね」
最後にのり子。
「先程倫太郎様の要望で洗面所へ行くまでは、ずっと食堂におりました。入れ替わりで誰かしらは食堂にいる状況だったので、偽りじゃない事は証明できると思います。そして先程皆様が仰られていた、食堂にいた時間帯も全員間違いないと思います」
「皆協力ありがとう、こんな事が続いて疲れているだろうから今日はもう休もうか」
倫太郎がそう言うと、僕とのり子以外は各自の部屋へと戻っていった。
その後ろ姿には覇気がなく、今にも倒れしまうのではと心配になる者もいた。
「海斗には悪いんだけど、最後に杏奈が殺害された浴室の現場確認を一緒にしてもらってもいいかい。」
僕は首を縦に振る。のり子を食堂へ残し、僕達は洗面所へ向かった。
洗面所の扉は各部屋の扉とは違ってスライド式の造りであった。
洗面所の扉もその奥の浴室の扉にも鍵が付いていないので、誰でも簡単に出入りする事が可能だ。
杏奈の遺体を移動させた今でも、湯船の中は真っ赤に染まっている。
「犯人は杏奈が入浴中に洗面所へ忍び込み、シャワーを浴びている杏奈を背後から襲った。その拍子に杏奈は前方に倒れ込み、湯船に沈んだまま生き絶えたというところかな。犯行が可能なのは杏奈が入浴中に完全なアリバイがない慎二、荒井、黒澤、美波の四人のうちの誰かという事になるね」
「でも黒澤さんはずっと僕達と客間にいましたよね。彼には犯行は難しいのではないでしょうか」
「黒澤が一度客間から出て行った時があっただろう。確か二十一時過ぎくらいだった筈だ。十分ほど戻ってこなかったからその時間があれば彼にも犯行は可能さ。それともう一つ気になる事がある」
倫太郎はパンツの右ポケットから煙草の箱を取り出し、そのうちの一本に火をつけると口に咥えた。
「左手の甲の傷」
真琴先生と杏奈の遺体どちらにもついていた左手の甲の刺し傷。
犯人は二人を殺害した後にわざわざ傷を残している。
それも殺害に使用したものとは別の凶器でだ。
「この傷の意味が理解出来たら、僕達は犯人に近づけるのでしょうか」
倫太郎は煙を一つ吐き出すと「そうだね」と言って洗面所の扉の方へと向かっていく。
現場確認をしたその後、自室前へと来たがのり子に一声掛けてから休もうとなった為、僕達はホールを通り食堂へと戻る事にした。
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