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キスをする時はいつも
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「ミリア、君にキスをしてもいい?」
ブルーにアメジストの紫がほんのり混じる不思議な色の瞳。
完璧に整った美神のお顔、その赤い唇が近づいてくる。
甘い眼差し、大きな手が優しく頬に触れてきて、そして……
「ミリア大好きだよ」
くう、この体がドロドロに溶かされそうな美声。
好きです、こんなの好きにきまってるんです、私はあなたに、とっくの昔に骨抜きにされて、ふにゃふにゃなんです。だからキスしていいかなんて聞かなくてもいいの、今すぐ、服を全部脱いで、ベットに突入してもらって全然いいんだから!
「お母さま、見てー! チューしてるよ」
可愛い男の子の声に、熱を帯びてヒートアップしてきたキスはピタリと止まった。
はいそうです、ここは植物園のベンチです。
あれ? さっきは一応人気は無かったのに、なんとなく遠巻きに人だかりできてませんか?
今日も公開キッスしちゃいました。
そりゃあ旦那様は絶世の美男子ですから、皆さんキス姿なんか見たら眼福で昇天するでしょう。でも相手の私は平々凡々の地味顔ですからね、辛い……
いやいや地味顔関係ないよね、美女でも辛いよねこのシチュエーション。
「恥ずかしいです旦那様」
濡れた唇のまま、切なげに見てくるしょんぼりワンコみたいな旦那様……。すみませんけど、そのどうしようもなく強烈な色気をしまってくれませんかねえ。
人だかりの奥の方に、お喋り大好きジョルジオ男爵令嬢の姿がちらりと見えました。はい、今回も「ビーシェヴァル伯爵夫人は溺愛されてますわー」と、いつも通りの噂がたつんですね。
結婚して1年と半年、旦那様の溺愛はこのごろ加速している。
メルランド国は特別な存在に守られている。
それは『神獣』
圧倒的な神力で、契約者を守る、天のみ使い。
神獣が守る限り、国は他国からの侵略を受けない。この国の守護神として、神獣は崇められている。しかしここで重要な点がある。神獣は国を守る存在ではない、契約者を守るのだ。だから結果的に、契約者を脅かすものを排除してくれる過程で、契約者の国も守ってくれる。
ついでに国も守ってくれる守護神様。
それで、神獣さまの本命が、私の旦那様である。
神獣様が何ものからも守りたくなっちゃう存在。100万の大軍でも、大魔法使いの最強魔法でも、吹っ飛ばすくらい神獣様は契約者のことが大切、だから古来から、神獣付きとの結婚は上手くいかないと言われており……
神獣様が結婚相手に焼きもちを焼いちゃう。
この一言に尽きる。たいへんシンプルな理由。
だから神獣持ちは結婚できない。
神獣の嫉妬の度合いによっては、結婚をして、子供だけつくって、即離婚する、契約以外なにも入り込まないようなドライな結婚ができた契約者も過去にはいたらしい。
でも、神獣の契約者は結婚できない。これがメルランド国の常識なのだ。
あなたは将来結婚できないと知っていて、神獣と契約しますか?
私は契約しないですよ、嫌ですね、国の平和の為でもお断りです。好きな人と結ばれてイチャイチャして、可愛い子供を産んで、仲良し家族をつくりたいですもん。
神獣って奴らは(ごめんなさい、奴らなんて言っちゃ天罰くだる)、そこんとこ、よーく分かってらっしゃるんです。
旦那様がまだ4歳くらいの、「おかーたま」みたいに母親を舌足らずに呼んでる、何にも知らない純粋無垢な時に、こっそり現れて、もふもふ、ふわふわで良い気持ちにさせて「一緒にいたいか?」「うん!」みたいに、言葉巧みに契約に持ち込むらしい。
それって悪徳商売と同じ、幸せになる壺を買わされるのと同じ、そんなわけで、私の旦那様ディルク・フォン・ビーシェヴァル伯爵(当時は伯爵子息)は、ケーキあげるからこの契約書におなまえ書こうね、みたいな感じで、何にも知らないまま神獣の契約者になったのです。
私の結婚生活は、幸せかと聞かれると、幸せな気分にさせられたまま、生殺し地獄にいるこの状態を、幸せと呼べるのか……。幸せではない。でも不幸かと聞かれると、そうですとも言い難い。
旦那様は優しい。
タウンハウスにいる時は、観劇に、流行りのお店に、評判の庭園にとお出かけに連れていってくれて、社交嫌いなのに、伯爵としてパーティーにも、私をこれでもかと着飾らして連れて行く。もちろん完璧なエスコートは言うまでもない。
領地に行けば、忙しいのに遠乗りに連れていってくれたり、わざわざ私のためにパーティーを催したり、バラ園つくったり、噴水つくったり……
ドレスに宝石とじゃんじゃん贈り物くれるし……
そして、見たことはないけれど、雪山で起きるという雪崩、きっとこんな感じにだんだん大きく膨れ上がって、勢いを増していくに違いない。
旦那様の愛の囁きを「雪崩告白」と私は名付けている。
「好きだよミリヤ、すごく好きだよ、誰よりも好きだよ、世界中の何よりも好きだよ、君無では生きていけないくらい好きだ、わたしの全てを捧げるミリア、好きだ、好きだ、好きだーだーだー」
旦那様は私に甘い愛の言葉をくれる。
優しく触れる、愛おしくてたまらないと、とろける瞳でみつめながら。
深く口づけて「君を今すぐ抱きたい」という顔をする。
そう、絶対そう思ってる。
だって顔だけじゃないもん、隠してるつもりかもしれませんが、だってこれでも奥様ですからね、旦那様の体の一部が「したいよー」ってご主張なさっているのは、ちゃんと知ってます。
ですけれども……
人前限定の溺愛。
旦那様は、二人きりになると、私に触れない。
ブルーにアメジストの紫がほんのり混じる不思議な色の瞳。
完璧に整った美神のお顔、その赤い唇が近づいてくる。
甘い眼差し、大きな手が優しく頬に触れてきて、そして……
「ミリア大好きだよ」
くう、この体がドロドロに溶かされそうな美声。
好きです、こんなの好きにきまってるんです、私はあなたに、とっくの昔に骨抜きにされて、ふにゃふにゃなんです。だからキスしていいかなんて聞かなくてもいいの、今すぐ、服を全部脱いで、ベットに突入してもらって全然いいんだから!
「お母さま、見てー! チューしてるよ」
可愛い男の子の声に、熱を帯びてヒートアップしてきたキスはピタリと止まった。
はいそうです、ここは植物園のベンチです。
あれ? さっきは一応人気は無かったのに、なんとなく遠巻きに人だかりできてませんか?
今日も公開キッスしちゃいました。
そりゃあ旦那様は絶世の美男子ですから、皆さんキス姿なんか見たら眼福で昇天するでしょう。でも相手の私は平々凡々の地味顔ですからね、辛い……
いやいや地味顔関係ないよね、美女でも辛いよねこのシチュエーション。
「恥ずかしいです旦那様」
濡れた唇のまま、切なげに見てくるしょんぼりワンコみたいな旦那様……。すみませんけど、そのどうしようもなく強烈な色気をしまってくれませんかねえ。
人だかりの奥の方に、お喋り大好きジョルジオ男爵令嬢の姿がちらりと見えました。はい、今回も「ビーシェヴァル伯爵夫人は溺愛されてますわー」と、いつも通りの噂がたつんですね。
結婚して1年と半年、旦那様の溺愛はこのごろ加速している。
メルランド国は特別な存在に守られている。
それは『神獣』
圧倒的な神力で、契約者を守る、天のみ使い。
神獣が守る限り、国は他国からの侵略を受けない。この国の守護神として、神獣は崇められている。しかしここで重要な点がある。神獣は国を守る存在ではない、契約者を守るのだ。だから結果的に、契約者を脅かすものを排除してくれる過程で、契約者の国も守ってくれる。
ついでに国も守ってくれる守護神様。
それで、神獣さまの本命が、私の旦那様である。
神獣様が何ものからも守りたくなっちゃう存在。100万の大軍でも、大魔法使いの最強魔法でも、吹っ飛ばすくらい神獣様は契約者のことが大切、だから古来から、神獣付きとの結婚は上手くいかないと言われており……
神獣様が結婚相手に焼きもちを焼いちゃう。
この一言に尽きる。たいへんシンプルな理由。
だから神獣持ちは結婚できない。
神獣の嫉妬の度合いによっては、結婚をして、子供だけつくって、即離婚する、契約以外なにも入り込まないようなドライな結婚ができた契約者も過去にはいたらしい。
でも、神獣の契約者は結婚できない。これがメルランド国の常識なのだ。
あなたは将来結婚できないと知っていて、神獣と契約しますか?
私は契約しないですよ、嫌ですね、国の平和の為でもお断りです。好きな人と結ばれてイチャイチャして、可愛い子供を産んで、仲良し家族をつくりたいですもん。
神獣って奴らは(ごめんなさい、奴らなんて言っちゃ天罰くだる)、そこんとこ、よーく分かってらっしゃるんです。
旦那様がまだ4歳くらいの、「おかーたま」みたいに母親を舌足らずに呼んでる、何にも知らない純粋無垢な時に、こっそり現れて、もふもふ、ふわふわで良い気持ちにさせて「一緒にいたいか?」「うん!」みたいに、言葉巧みに契約に持ち込むらしい。
それって悪徳商売と同じ、幸せになる壺を買わされるのと同じ、そんなわけで、私の旦那様ディルク・フォン・ビーシェヴァル伯爵(当時は伯爵子息)は、ケーキあげるからこの契約書におなまえ書こうね、みたいな感じで、何にも知らないまま神獣の契約者になったのです。
私の結婚生活は、幸せかと聞かれると、幸せな気分にさせられたまま、生殺し地獄にいるこの状態を、幸せと呼べるのか……。幸せではない。でも不幸かと聞かれると、そうですとも言い難い。
旦那様は優しい。
タウンハウスにいる時は、観劇に、流行りのお店に、評判の庭園にとお出かけに連れていってくれて、社交嫌いなのに、伯爵としてパーティーにも、私をこれでもかと着飾らして連れて行く。もちろん完璧なエスコートは言うまでもない。
領地に行けば、忙しいのに遠乗りに連れていってくれたり、わざわざ私のためにパーティーを催したり、バラ園つくったり、噴水つくったり……
ドレスに宝石とじゃんじゃん贈り物くれるし……
そして、見たことはないけれど、雪山で起きるという雪崩、きっとこんな感じにだんだん大きく膨れ上がって、勢いを増していくに違いない。
旦那様の愛の囁きを「雪崩告白」と私は名付けている。
「好きだよミリヤ、すごく好きだよ、誰よりも好きだよ、世界中の何よりも好きだよ、君無では生きていけないくらい好きだ、わたしの全てを捧げるミリア、好きだ、好きだ、好きだーだーだー」
旦那様は私に甘い愛の言葉をくれる。
優しく触れる、愛おしくてたまらないと、とろける瞳でみつめながら。
深く口づけて「君を今すぐ抱きたい」という顔をする。
そう、絶対そう思ってる。
だって顔だけじゃないもん、隠してるつもりかもしれませんが、だってこれでも奥様ですからね、旦那様の体の一部が「したいよー」ってご主張なさっているのは、ちゃんと知ってます。
ですけれども……
人前限定の溺愛。
旦那様は、二人きりになると、私に触れない。
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