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迎えに来てくれた白馬に乗った騎士様
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「きしし……」と変な笑いが何度も込み上げる。
寝台の中で夜も更けたというのに、私は思い出し笑いを止めることができなかった。
ロウソクの炎に触れることができず、それはもう悔し気だったノヴァック様の顔が浮かぶ。
なんて気分がいいんだろう。あんな怖い顔をしてるくせに、けっこう小心者なんだわ。
彼に触れられた時の感触がふわっとよみがえり、指先を唇に当てた。
私の指がやけどしたと思って、あんなに取り乱すなんて……
大きな手で触れて、大丈夫かどうか何度も確かめてくれた。
私のことを本気で心配してくれた。
素直に嬉しいと思うのに、胸が苦しくなった。
眠れない頭で何が苦しくさせるのかを一生懸命考えた。「ノヴァック様に早くまた会いたい」と心の中で言ったとき、やっと答えにたどり着いたと分かった。
彼は毎週必ず会いにきてくれる。次はどうやって驚かせようかなとわくわくした。
けれど彼はパタリと来なくなった。
◇◇◇ ◇◇◇
侯爵家の次男様に会うために、男爵令嬢ごときがお誘いしてもいいものか?
いやいや無理でしょう。と結論を出し、ひたすら彼が来てくれるのを待ったが何の連絡もなく放置された。私は予想していたよりも早く空気になってしまった。
巣穴に戻ってしまったドラゴンには、もしかしたら結婚式まで会えないのかもしれなかった。
それでも次に会えた時のためにと、ノヴァック様を驚かせる方法を日夜考え続け、調べ方も実験もどんどんエスカレートしていく私を心配して、侍女のカヤが手紙を書くように勧めてきた。
「バラ園が見ごろだそうですよお嬢様。お誘いしてみたらいかがです」
父が財力にものを言わせた豪邸にいても、会話できる相手はカヤのみ。その彼女に連日励まされて、思い切って手紙を出すと意外にも彼はすぐに応じてくれた。ドラゴンは動くとなると速いようだ。
「ちょっと立ち止まって……」
バラ園で呼び止めてきた声は、低く滑らかでホットチョコレートのように甘い響きがした。
大きな手が近づいてきた時、息ができなかった。
取ってくれた枯れた花びらを見せて、面白い物を見たように彼が少し目を細める。私はきっと驚きすぎてすごい顔をしていたのだろう「どうしたの?」と問いかけるような彼の瞳が優しくて、どうしたらいいのか分からなくなった。
バラの花に囲まれて、ドラゴンはいなくなってしまった。けして見ることができない伝説上の生き物は姿を消し、1人の男性が目の前に立っていた。
私はやっぱりクノールの田舎の村娘で、バラの香りの勝負で頭がいっぱいになったら、気安くノヴァック様を引っ張って連れまわしたり、挙句に怒って「ずるい」と叫んで追いつめたり、令嬢にあるまじき失礼をしたのに。
笑った……
大きな声をあげて笑うと少年ぽくなって可愛かった。
喜びで胸がいっぱいになって、そして体から溢れだしてしまった。
私はこの人に会いたかった。会えない2カ月間が寂しかった。でも寂しいなんて感情をもったら私はクノールで生きていくことができなかった。家族の誰からも気づいてもらえない寂しさを抱えて生きていくことなんてできない。
だから私は、誰にも会いたいなんて思ってはいけなかった。
絶対に負けてはいけない勝負に、私は敗北寸前のところまで追い詰められて、それでも何とか平静を保とうとした。
手のひらに梢から注がれる太陽の光を載せた時、ノヴァック様が愛おし気に光を見た。
「ああ太陽の王女様だ」
私が必死に張り巡らせてきた壁は崩れ落ちて、無防備になった私の心臓をドラゴンが食べてしまった。
ノヴァック様が好き。
いつか白馬に乗った騎士様が私を迎えに来てくれることを、少女のように願っていた。
もう寂しく無いの、ノヴァック様が私を王女様にして迎えにきてくれた。
私に気づいてくれた。
寝台の中で夜も更けたというのに、私は思い出し笑いを止めることができなかった。
ロウソクの炎に触れることができず、それはもう悔し気だったノヴァック様の顔が浮かぶ。
なんて気分がいいんだろう。あんな怖い顔をしてるくせに、けっこう小心者なんだわ。
彼に触れられた時の感触がふわっとよみがえり、指先を唇に当てた。
私の指がやけどしたと思って、あんなに取り乱すなんて……
大きな手で触れて、大丈夫かどうか何度も確かめてくれた。
私のことを本気で心配してくれた。
素直に嬉しいと思うのに、胸が苦しくなった。
眠れない頭で何が苦しくさせるのかを一生懸命考えた。「ノヴァック様に早くまた会いたい」と心の中で言ったとき、やっと答えにたどり着いたと分かった。
彼は毎週必ず会いにきてくれる。次はどうやって驚かせようかなとわくわくした。
けれど彼はパタリと来なくなった。
◇◇◇ ◇◇◇
侯爵家の次男様に会うために、男爵令嬢ごときがお誘いしてもいいものか?
いやいや無理でしょう。と結論を出し、ひたすら彼が来てくれるのを待ったが何の連絡もなく放置された。私は予想していたよりも早く空気になってしまった。
巣穴に戻ってしまったドラゴンには、もしかしたら結婚式まで会えないのかもしれなかった。
それでも次に会えた時のためにと、ノヴァック様を驚かせる方法を日夜考え続け、調べ方も実験もどんどんエスカレートしていく私を心配して、侍女のカヤが手紙を書くように勧めてきた。
「バラ園が見ごろだそうですよお嬢様。お誘いしてみたらいかがです」
父が財力にものを言わせた豪邸にいても、会話できる相手はカヤのみ。その彼女に連日励まされて、思い切って手紙を出すと意外にも彼はすぐに応じてくれた。ドラゴンは動くとなると速いようだ。
「ちょっと立ち止まって……」
バラ園で呼び止めてきた声は、低く滑らかでホットチョコレートのように甘い響きがした。
大きな手が近づいてきた時、息ができなかった。
取ってくれた枯れた花びらを見せて、面白い物を見たように彼が少し目を細める。私はきっと驚きすぎてすごい顔をしていたのだろう「どうしたの?」と問いかけるような彼の瞳が優しくて、どうしたらいいのか分からなくなった。
バラの花に囲まれて、ドラゴンはいなくなってしまった。けして見ることができない伝説上の生き物は姿を消し、1人の男性が目の前に立っていた。
私はやっぱりクノールの田舎の村娘で、バラの香りの勝負で頭がいっぱいになったら、気安くノヴァック様を引っ張って連れまわしたり、挙句に怒って「ずるい」と叫んで追いつめたり、令嬢にあるまじき失礼をしたのに。
笑った……
大きな声をあげて笑うと少年ぽくなって可愛かった。
喜びで胸がいっぱいになって、そして体から溢れだしてしまった。
私はこの人に会いたかった。会えない2カ月間が寂しかった。でも寂しいなんて感情をもったら私はクノールで生きていくことができなかった。家族の誰からも気づいてもらえない寂しさを抱えて生きていくことなんてできない。
だから私は、誰にも会いたいなんて思ってはいけなかった。
絶対に負けてはいけない勝負に、私は敗北寸前のところまで追い詰められて、それでも何とか平静を保とうとした。
手のひらに梢から注がれる太陽の光を載せた時、ノヴァック様が愛おし気に光を見た。
「ああ太陽の王女様だ」
私が必死に張り巡らせてきた壁は崩れ落ちて、無防備になった私の心臓をドラゴンが食べてしまった。
ノヴァック様が好き。
いつか白馬に乗った騎士様が私を迎えに来てくれることを、少女のように願っていた。
もう寂しく無いの、ノヴァック様が私を王女様にして迎えにきてくれた。
私に気づいてくれた。
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