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第Ⅰ章 リバース編

1-17.【月虹】が叶える、少女の祈り

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 「倒れている奴らなんて相手にせず、さぁおいで」

 オトキミ君を助けるために駆け寄ろうとしたが……。
 夫に似た半骸骨の男性が、両手を広げ道をふさぐ。

 「こないでーー!! がいこつのあくまーーー!!」
 「……あ。なるほど。ちょっと待ってくれ」

 彼は何かを思い出したか。
 大蛇になったオトキミ君が倒した、階位悪魔アーク・デーモンの体からできたを掴み……。


 「《  ー 天使も悪魔も、紙一重かみひとえ ー  》」
  

  呪文を唱え始めた。


 「《  ー 〇 呪文(スペル) ●魔法(マジック) ー  》」


 手に持っていた灰が、黒と白のオーラを生み出した。
 そして、そのまま灰を、骸骨側の顔に塗布とふするようにつけた。


 「《  ー ◎ 真実をねじ曲げる神様の灰化粧アリバイ ー  》
 

 呪文を唱え終わった数秒後、オーラが光っては消え。
 手を離した後……。

 「これで、もう怖くないかな?」

 そこには、半骸骨の顔が無くなり。

 「え……パパ?」

 完全に。
 夫に似た綺麗きれいな顔に変わっていた。

 「さっきまで、ガイコツのおかおをしていたのに……?」
 「ハッハッハ。何を言っているんだ。マリアの顔の下も骸骨があるんだよ?」
 「ほんとうに? マリアのかおのしたも、ガイコツなの?」
 「あぁ、本当だよ。パパは怪我けがをしていただけさ。だから今、傷を治したんだよ……マリア。コレでパパだって信じてくれるかな?」

 世界には自分に似ている人間が、三人はいる。
 ……と聞くけど。
 近寄る事ができない。

 「ねぇ、マリア。教えて欲しい。みたいなのは、どうやって出したんだい?」
 「えっ? わかんないけど……シ・エルてんしちょうさまがくれた、このほうせきがひかって……」

 マリアが首からぶら下げている、夫の作ったペンダントを指さした。
 シ・エル天使長がエンチャントしてくれた黒曜石の宝石。
 小雨こさめが降っている中でも、黒く綺麗な輝きが瞳を奪う。

 「シ・エル……天使長? なるほど……そういう事か……」

 シ・エル天使長の名前を聞いて、一瞬目を大きく開き驚いていた。
 そして、その後何かに気づいたのか、いやらしく目を細め嬉しそうにニヤついていた。

 「マリア。パパにそのペンダントと宝石を、よく見せてくれないか?」

 そう言いながら。
 こちらに手を出して、ゆっくりと近づいてきた。
 
 「__っ!? いやだっ!!」

 名前を呼ばれたが。この人は、夫ではない。
 マリアもそう感じたのだろうか。
 私を抱きしめる力が強くなった。
 私もマリアを離さないように、腕の力を強めて警戒けいかいしていた。

 「あ? 見せろって言ってんだろうが。この……クソガキっ!!」
 
 しかし。
 夫に似ている相手の顔が、みにくゆがんだ。

 「……っひ!! いやああぁーー!!!」

 今までの美しさが無かったかのように、豹変する。
 夫に似ていた面影はない。

 『悪魔』__そのものの顔。

 そして一瞬で、手の届きそうな範囲まで近づいてきたその時。
 男性の背中から、まるで黒く長い腕が二つ。
 巨大な悪魔の羽が生えて、こちらに襲い掛かってきた。

 シュッ!!

 「いやああぁあぁぁーー!! ママァァーーー!!」
 「__!!? マリア!!? あっぐぁ!!」

 その長い片羽が、私からマリアを奪い。
 そして、もう一つの羽で私の体と口を拘束した。

 __声が、出せない!!

 足元をバタバタさせるが地面につかない。
 成人女性を、楽々と宙に浮かせている羽の力。
 悪魔の恐ろしい力を思い知る。
 
 そして……。

 「だめええぇえええーー!! かえしてええぇぇーー!!」
 「コレが、あのガーサで有名な破壊神の天使長シ・エルが授けた宝石か……ッハ!」

 悪魔がペンダントのチェーンを引きちぎり、マリアからペンダントを自らの手で奪った。
 ここにはいないシ・エル天使長を目の敵にしているのか、宝石を見て鼻で笑う。

 「今この状況で、神秘術ディー・アークが発動しないという事は……この宝石が起動装置スイッチになっていたという事か。クソったれ天使共め。この宝石は持ち帰り、に献上しよう」

 悪魔がペンダントにめ込まれた宝石を、ちからづくではずした。

 「いやっ! かえして!! それはマリアのなの!! パパがつくってくれたペンダントなの!!」
 「ん? あぁ……そうだったのか。なら……このペンダントは……こうしよう!!」

 悪魔の握力であれば、金属は一瞬で壊せるであろうに……。
 マリアに見せつけながら、夫が作ってくれた十字架じゅうじかのペンダントを悪魔がゆっくりと壊そうとした。

 十字架から、パキパキ……っと。
 今にも壊れそうな。
 くだけ散りそうな金属音を、マリアに聞こえるように、わざと音を立てている。

 「いやあああああああーーーーーー!!! やめてええええぇええええーー!!!」

 パリーーーーンッ!!!!

 十字架のペンダントが砕け散る音がした。
 地面に破片が落ちる音が木霊こだまする。

 マリアの泣き叫ぶ声と、悪魔の甲高かんだかい下品な笑い声が同時に聞こえた。

 目の前の光景に、頭が沸騰する。
 今すぐにでも、娘を抱きしめてあげたい。
 この悪魔を、こららしめてやりたい。
 
 けど……私にはそんな力は……ない。
 体は拘束こうそくされて身動きは取れず、抱きしめてあげる事も。
 声が出せないため、言葉をかける事もできない。

 「……ぅう! ……どうして。どうしてこんな……ひどいこと……するの……」

 マリアが涙を流しながら、地面に散らばった十字架の割れた破片を見ながら悪魔に訴えた。

 「どうしてって? ……そりゃあ、お前が、いらない子供だからだよ、マリア」

 悪魔の口から出た言葉は、娘への暴言ぼうげんだった。

 「マリア……いらない……こ?」
 「あぁ、そうだ。お前は、産まれてくるべきではなかったんだよ、マリア」
 「……っ!?」

 マリアが悪魔の顔に視線を動かし、顔を見た瞬間だった。

 先ほどまで泣いていた顔とは違う。
 もっと、になった。
 
 「子供は、親を選べないけどね。親は、子供を選べるんだよ。間引きって言葉は習ったかな?」
 「いや……そのかおで……そんなこと……いわないで……」
 「お前のせいで、ママは悪魔に見つかり、これから不幸になるんだ」

 マリアの聞いたこともない、悲しそうな、苦しそうな声。
 その原因は、悪魔の顔を見て気づいた。

 「マリア。パパはね。お前がいると幸せになれないんだ」

 それは……悪魔の顔が、おぞましい悪魔の顔ではなく。
 に戻っていたからだった。

 その顔で。
 夫の顔で。
 そんな酷い暴言を言う事に。
 娘を傷づける事に。

 怒りで。
 頭が狂いそうになる。

 気づけば鼻息は荒く。
 体を必死で動かすが、ピクリとも動かない。

 何が、娘を守るだ。

 目の前の光景を、ただ涙を流しながら見ている事しかできなかった。

 「だから……思いっきり、いたぶって殺す事にするよ」

 そう言いながら、悪魔はマリアを捕まえていた羽を高速で揺らしマリアを投げ飛ばした。

 「___っ!!? いやああああああーーー!!!」
 「アッハッハッハッハッハ!!!」

 投げ飛ばされた方向に、アユラ君とガケマル君がいた。
 
 「ガケマルっ!!」
 「ま、か、せ、て(マリアちゃんを受け止める)」

 アユラ君がオトキミ君を応急処置おうきゅうしょちしていたのか。
 手の空いたガケマル君が、忍者のように俊敏しゅんびんな動きで、優しく受け止めた。

 「ケ、ガ、は?(痛くなかった?)」
 「あ……ありがとう。ガケマルおにいちゃん」

 マリアを見る限り、怪我はなさそうな様子だ。
 少し、安心した。

 しかし……。

 「受け止めたか……しかし、これでどうかな?」

 悪魔の顔が、再びおぞましい悪魔の顔に変わり。


 「《  ー 黒き悪魔よ、黒きえた獣達よ ー  》」
  

  呪文を唱え始めた。


 「《  ー 〇 呪文(スペル) ●魔法(マジック) ー  》」


 悪魔の体中から、禍々しい黒いオーラと同時に。
 周囲に、黒い魔法陣と煙幕のようなものが現れた。
 

 「《  ー ◎ 人間を喰らう愛のない獣悪魔達 ー  》
 

 呪文を唱え終わった瞬間。
 魔法陣から大量の悪魔達が現れた。

 __狼、馬、怪獣、野獣。

 顔が半分骸骨の状態で、数として三十から五十まで近くの獣型の悪魔が、その場に召喚された。

 「あの小娘共を殺れ。喰らい尽くせ。ケモノ共」

 「「「「「AAAAAKKKKUUUUUーーー!!!」」」」」
 
 先頭にいた狼型の悪魔が、マリア達に襲い掛かった。

 「オトキミ様……。申し訳ありません!! ガケマルッ!!」
 「フンッ!!」

 アユラ君がオトキミ君の応急処置を止めて、マリアを守るように悪魔達と戦ってくれた。

 アユラ君が、弓矢で獣達を射貫いぬき。
 ガケマル君が、持っている棒切れで叩き潰す。
 襲い掛かってきた獣達が吹き飛び、倒れ、動きを止める。

 しかし……。

 「やっぱり……。秘術アーク奇跡ミ・ラークも持たない俺達には……」
 「無、理、か、も(万事休ばんじきゅうす)」

 アユラ君達が攻撃した箇所、悪魔が受けた傷は再生されていき。
 何事もなかったかのように、獣悪魔達は立ち上がり再び襲い掛かった。

 それを数回、数十回と繰り返していた。

 「ぐっ!! うぁああーー!!!」
 「ア、ユ、ラ! ぐぅっ!!」

 アユラ君とガケマル君は人間であり、体力は無尽蔵ではない。
 少しずつ、時間がかかるにつれて。
 悪魔達の猛攻もうこうに耐えられなくなり、傷を負う。

 気づけば、傷だらけの瀕死な状態。
 二人の動きが、少しずつ鈍くなるのは、素人目から見ても明らかだった。
 
 「フ……フッハッハッハッハッハッハッハッハ!! どうしたどうした!! その調子では、大事な一般市民を守れんぞ! 秘術アーク奇跡ミ・ラークも持たない奴らが悪魔を今までどうやって退治してきたのだ!! こんなゴミカス共がギルドにいるとはな!!」

 微動だにせず、野次を飛ばし。
 獣悪魔達がマリア達を甚振いたぶる姿を見て、愉悦ゆえつひたる目の前の悪魔。

 「倒れた小僧がいないと何もできない無能共が! いや、あの小僧も神秘術ディー・アークを持っておきながら雑魚ザコだったな!! カス共が、必死になる姿を見るのは気分が良い! アッハッハッハッハッハ!!!!」

 人が死ぬかもしれない瞬間を、まるで娯楽を楽しむかのように、はしゃぐ悪魔。
 
 娘を命がけで守ってくれている二人を侮辱する事に、反吐ヘドが出る。

 「何をにらんでいる、女。あぁ、そうか。我が口を塞いでいたからか」

 わかっていながら、白々しらじらしい口調でこちらを嘲笑あざわらう悪魔。

 「ん、待てよ。に、この女を献上けんじょうしなくても……。そうだ、良い事を思いついた」
 「……ぶはっ!! げほっ!!」

 突然口を塞いでいた部分だけ解放され、咳込んでしまった。

 「女。ディア、と言ったな。どうだ。止めて欲しいか?」
 「……え?」
 「今すぐ、あの獣達の攻撃を止めて欲しいかともうしておる。どうだ? 条件はあるが、どうする?」

 悪魔が、悪魔じみた厭らしい微笑みを浮かべ。
 文字通り、悪魔の問いかけをしてきた。

 「……何をすれば良いの?」
 「簡単な事さ。お前はこれから、我のきさきになれ」

 きさき……?

 「アンタは……どこかの……王様なの? そうは……見えないけど」
 「アッハッハッハ。こんな状況でも強気なのも良い。貴様を妻として迎える事で、我は悪魔の中で、になれるのだよ」

 妻に迎える? 新しい邪神の王? 

 「何を……言って……」
 「女。貴様は、この世界で自分が特別な存在だという事に気づいていないようだな。貴様をめとった悪魔は、この世界のになれる可能性があるのだ。貴様の娘が、神のしろにしか授からない力、神秘術ディー・アーク神鉄のダイヤモンド処女・ヴァージン。先ほどのの事なんだが、それが何よりの証拠だ」

 マリアと……あのバリアの力が……どう関係してるの……?

 「これ以上詳しい事は教えられない。教えられるのは……我が悪魔達の競争に勝ったという事だけだ。アッハッハッハッハッハッ!!」
 
 競争……? 勝った……? 

 「全国各地で、今頃、無駄に街を破壊している間抜けな悪魔達を出し抜いたのだよ!!! アッハッハッハッハッハ!!」 
 
 さっきから……一人で。

 「さぁ!! 女!! 我々の結婚式を行い、契約けいやくを結ぼう!!」

 訳の分かんない事を……好き放題言って……。

 「だ……れが……」
 「ん?」
 「誰が……アンタの……妻になるもんですか……!!」

 声が出せるように、身体に力を入れて叫んだ。
 体に残った、最後のを振り絞る。
 体を縛る腕に、その力を集中させた。

 「__!? ママっ!!」

 私の声に気づいたのか。
 離れた所からマリアの声が聞こえた。
 マリアと一瞬だけ目が合い、微笑んだ。

 「私には……死に別れたとしても……たとえ生まれ変わっても……愛している夫がいるの!」

 ありったけの力を右腕に集中させ、隠していた物を握りしめる。

 シュン!!
 
 「__っ!? 何!!」

 右腕だけ。しばる羽から抜け出せた。

 「だれがアンタみたいな、一方的なDV暴力男と……結婚するもんですかっ!!」

 パリーンッ!!!

 着物の袖に入れておいた最後の氷結剤。
 アンプルに、ありったけの秘力を込めて、悪魔の顔面目掛けてぶつけた。

 カチカチカチカチッ!!!

 ……つもりだった。

 空気上の氷の結晶が煙のようになり、目の前を塞いだ。

 「……何をしようとしていたんだ、女。慈悲じひをくれてやったのに、状況を理解していないようだな」

 少しずつ氷の煙が晴れて、視界がクリアになる。
 氷結剤のアンプルは悪魔に当たらず、床に落ちた。
 奇襲は失敗だった。

 コンマ数秒間だったと思う。
 投げ飛ばした氷結剤は払いのけられ、地面に落ちて割れた。

 落ちた箇所に氷の鋭い結晶、氷山ができた。
 雨が降っていたこともあり、思っているよりも大きい氷の刃が私の足元にある。
 悪魔が、氷山の刃と私を見比べた。


 「多少、傷物きずものになっても良いか……。自分の作った氷で、身のほどを知れっ!!」
 
 
 悪魔の怒りと同時に、氷山目掛けて叩きつけられそうになった。
 視界が急速落下し、目の前に鋭い氷山の先端が近づいた。

 考えられる最悪の結末死に方と……。


 ー 生まれ変わっても君をみつけた。今度こそ、君を幸せにするから。 ー


 夫の顔と声が、脳内によぎった。


 これが……、走馬灯そうまとうなんだ……。


 あなた……ごめんなさい。


 マリアを……守れなかった……。







 「いやあぁぁーー!!! パパーーー!!! かえってきてーーーー!!!!!」







 マリアの大声が聞こえる一瞬、少し前。
 降っていた小雨が止み。
 小雨を降らせていた雲が移動して。

 空から月が現れた。

 その月は【黒い月】に変化し、その月明かりにより。
 __【月虹げっこう】が現れた。
 

 その瞬間。


 ドカーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 鼓膜こまくが破けるのではないか、と思う程の爆発音と。
 地面が壊れるのではないか、と思う程の地震が発生した。

 その影響か。
 悪魔が体勢を崩し。
 氷山の先端が私の頬をかすめ。
 私の身体が地面と衝突した。

 「うっ!!? 痛っ……生きてる?」

 死ぬよりは、まし。……な痛みに耐えながら。
 何が起きたのか、状況に困惑した。

 「え?」

 爆発音は、マリア達がいた場所から少し離れた、墓石が並んでいる場所の方から聞こえた。

 「__っ!? 何だ!?」

 悪魔を含め。
 その場にいた全員が手を止め、音が鳴った方を一斉に振り向いた。

 そこには、土の塔が建ったっていた。
 
 いや、違う。そう見えるぐらいに。
 地中にあった爆弾がまるで爆発したかのように。
 土の噴水ふんすいが現れ、土と砂の雨を降らせていた。


 そして、空に浮かぶ【黒い月】に、影を作る謎の物体が目に入った。


 土の噴水の先端。
 空に舞い上がる謎の物体に、その場にいた全員が目を奪われた。

 アレは……いったい何なのか? 

 ……と全員が思い、目を凝らした。

 「……ひつぎの……ふた?」

 悪魔は夜目やめが効くのか。
 月の影に見える謎の物体の正体に、いち早く気づいたのが、私を縛る悪魔だった。

 空に浮かぶのは。
 土葬され地中に埋まっていた……なの?
 なぜ?
 
 どうして、棺の蓋が空高く舞い上がっているのか。
 そう考えていた矢先。


 < パチ! パチ! パチ! パチン!! >


 指を鳴らした音が、連続で四回鳴った。

 「Aッ!?」 
 「AKッ!?」 
 「AKUUッ!?」
 「AAKKUUッツ!!?」

 空に目を奪われていた私を含め全員が、悪魔達の悲鳴に誘われて地中に目線を下ろした。

 爆発した地面の中から土と砂埃が現れて、煙幕えんまくのように広がり視界を悪くしていた。

 何処に人がいて。
 何処に悪魔がいるのか。
 わからなくなる程の煙幕の中。

 地上で、悪魔達の悲鳴と、と共に……。
 
 ザシュ! ブシュッ!
 ドコッ! バキッ!!

 斬撃と殴打の音が、響きわたる。

 「誰かが……獣悪魔を殺す音が聞こえる……くっ!! こざかしい!!!」

 悪魔が私を縛っていない方の巨大な羽を使い。
 団扇うちわで仰ぐように、風を呼び起こした。

 土と砂の煙幕が晴れ。
 そこには、マリアとアユラ君とガケマル君の姿と……。

 「な……!!? 全滅だと!!?」 

 あたり一面に、召喚された全ての獣悪魔達の死体が、転がっていた。

 死体には、謎の傷痕きずあとがつけられ絶命して、死体が順番に灰になっていった。

 自分の強さに自信を持っているはずの悪魔が。
 目の前で起きている不可思議な状況に飲み込まれ、冷や汗を出しながら警戒を強める。

 「何だ!? 何が起こっている……ぐあああぁぁあああーーー!!」

 悪魔の悲鳴と共に、自分を縛る羽が無くなっている事に気づいた。

 悪魔の羽が紙切れのように、綺麗に切り落とされ地面に落ちて。

 羽の根元から大量の黒い血が、噴水のように出血し、悪魔がもがき苦しむ。


 「? あぁ、よ。がね」


 すぐ近くで。
 聞き覚えのある声が聞こえた。

 「え? きゃあ!!?」

 そして、自分がお嬢様抱っこをされながら、かつぎ運ばれている事に気づいた。

 「ママッ!! __あっ!!」

 気づけば、マリア達がいる目の前まで移動していた。


 「……大丈夫?」


 ー あの……大丈夫ですか? ー


 初めて出会った時と同じ。
 私を心配してくれた、助けてくれた声。

 「僕に、できそうな事はあるかな? ディア」

 【黒い月】の月明かりに照らされて見えた姿は……。


 「パパだ!! ママッ!! パパがかえってきたーーー!!!」


 私の__最愛の人だった。
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