【完結】はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話【R18】

ケロリビ堂

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後日談

海辺の街に旅行に行こう⑩

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 人魚の長老はキリっとした感じのおばあさんだった。男の人魚はいないことはないんだけど、全体的に女のひとのほうが数が多い気がする。槍を構えた体格のいい人魚たちが長老の脇に控えて彼女を守っていた。

「わたくしたちの大事な稚魚を送り届けてくれたと聞きました。感謝します、人間たち」

 大きな貝殻のほうまで泳いでいったネレイスちゃんの頭を撫でながらそう言う長老の言葉に、わたしたちは小舟の上で居住まいを正す。レイモンドさんはいつもどおりニコニコしているし、リューグ君はカチコチに緊張している。わたしもちょっと不安になって、レイモンドさんの手をぎゅっと握った。

「わたくしたちはあの大イカがこの近くに出るようになってから陸に住まう人間たちと交流をしなくなって久しく、それが急にいなくなったもので稚魚や若魚たちは陸に興味津々でね。この子のようにふらふらと様子を見に行ってしまう者が出るのは時間の問題だったのですよ。わたくしも最近の人間たちのことを知らない。いい機会だから話を聞きたくてあなたたちを招いたのだ。どうかいろいろと聞かせてもらえないだろうか。陸の人間はわたくしたちに友好的か?」

 わたしはその問いを聞いて、レイモンドさんとリューグ君の顔を交互に見た。リューグ君はどう言ったらいいのかわからないようで、口をもごもごさせていた。今後もネレイスちゃんと仲良く生きていくためには長老によく思ってもらえる返答をする必要があるだろうとわたしも思う。だけど、実際はネレイスちゃんは奴隷商人に売られそうになってしまっていたのだ。それを隠して人間は友好的ですなんて言っちゃったら大変なことになってしまうかもしれない……。そんなふうに考えていたら、レイモンドさんが口を開いた。

「陸の人間があなたたちに友好的かという問いにはおおむねそうとしか言いようがないかもしれませんね。私と妻はあの街の住人ではなく旅行者なのです。そんな私の意見でよいならお話しますが、昔人魚を釣り上げた漁師がいたということで、そのモチーフが恋愛のお守りになったりしているので恐怖したりはしていないと思います」
「そ、そうだ。昔その漁師が人魚と協力して漁をしてたっておれたち漁師の中には伝わってる。でもクラーケンがいたせいでできなくなってしまったと聞いた」
「ただ、ネレイス君はさっき奴隷商人に攫われて売られそうになっていました。それも事実です」
「おい、エルフ!」
「そうなのかい? ネレイス」

 レイモンドさんはとても正直な人だから、多分隠したりしないだろうなって思ってたけどその通りだった。あまり都合のよくない話を勝手に話されてリューグ君はレイモンドさんに掴みかかろうとした。レイモンドさんはそれを片手で抑えてまあまあと笑っている。その間に、長老はネレイスちゃんに誘拐について詳しく聞いているようだった。

「嘘ついちゃだめですよ。君が人魚のひとたちと仲良くしたくても、街の人みんながそうなのかはまだわからない。私たちはよそ者だし、これは君が街に持ち帰って大人と相談すべきことですね。」
「そ、そうだけどよう」
「ここにいる彼のように人魚と友好な関係を築きたいという人間は少なくないのだと思います。ただ人間の中には自分とは違う種族には驚くほど冷淡な者がいるのも事実です。私もエルフなので人間とは違いますし、そのせいでネレイス君のように奴隷商人に売られそうになったことがあります。だから信用しすぎず、かといって警戒しすぎずに少しずつ関係を良くしていくといいのではないかと思いますね」
「……エルフ殿はどうしてこの子を助けようと思ってくれたのですか? あなたたちは本当にただの通りすがりの旅行者のようだ。ここまでネレイスを送り届けることまでしているが、ここで襲い掛かられて噛み裂かれて殺されるかもしれないとは思わなかったのですか?」

 長老がそう言うと、周りに控えていた人魚たちが一斉に口をぐわっと開ける。よく見たらギザギザの歯がびっしり生えていてすごく怖い!! だけどレイモンドさんはそれを見ても空まで抜けていくような声で笑って見せた。

「あははははっ、そんなの余計リューグ君一人で行かせるわけにはいかないですね。私がネレイス君を助けたのは私たちが大人で、彼らが子供だったからですよ。大人は子供を助けるものです。私はそういう生き方をしているエルフなので、その通りに行動しています。妻にはそれに付き合ってきてもらっただけです。さて、私たちは噛み裂かれて殺されるのでしょうか? あなたたちが子供を助けて送ってくれた恩人にそんなことするひとたちなのだったらどっちみち交流はちょっと難しそうだな……」

 レイモンドさんは人魚の長老をじっと見据えている。目は笑みの形に弧を描いているけど、その奥にある若草色の目は少し怖かった。

「……冗談です。エルフ殿の言う通り恩人にそんなことはしません」
「あはは! よかった!」
「貴重な話が聞けてよかったです。奥様ももう陸に戻りたいでしょう。そこまで送らせます。これは救出の礼です」
「おや?」

 長老が何かを取り出し、わたしたち一人一人に手渡してくれる。受け取ってみると、それは小さな宝石だった。

「我々が海の涙と呼んでいるものです。人間には珍しいものなのでお金に変えることができるでしょう。もう一度、大事な稚魚を助けてくれてありがとうございました」

 来た時と同じように、小舟を人魚たちに押してもらってわたしたちは浜辺に戻ってきた。船の横にネレイスちゃんがぴったりくっついて泳いでいて、船着き場についたらまた足を生やして海から上がってくる。リューグ君はもらった宝石を握りしめてなにか考えているようだった。

「これから君たちは忙しくなるのでしょうね。その宝石目当てに人間が人魚たちを襲うような未来にならないように、よく考えて頑張ってくださいね」
「ああ……ありがとう……」

 そう答えたリューグ君の目は、強い意志を宿してきらめいているように見えた。わたしは彼らが幸せに結ばれたらいいなと心から思った。

「ネレイスちゃん、リューグ君、ばいばい」
「うん、元気で」
「……ばいばい」

 もう空は夕暮れになっていて、海もオレンジ色にキラキラ光っていた。わたしたちは可愛い恋人たちとお別れして、宿のほうまで戻ってくる。

「ちょっと怖かったですかね。実を言うと少しヒヤヒヤしました。なんとかなってよかった」
「そうですね……でもレイモンドさんのお話がうまくいってたから、座ってるだけで全部終わっちゃいました。もしうまくいかなかったらどうしようと思ってました?」
「うまくいかなかったら? 風の精霊魔法をぶっ放して、船ごと脱出しようと思ってましたよ」
「あはは! そうなんじゃないかと思ってました! わたしも実はいつでも幻惑魔法ありったけ出せるように準備してました!」
「似た者同士ですね」
「うふふ♡」

 わたしはレイモンドさんの腕に抱き着いて、あたまをもふっともたれかからせる。そんな状態で寄り添いながら歩いていると、もう夜で海水浴のかんじでもないのに宿のあたりの浜辺に人がたくさん出てきていて、食べ物の露店もまだ出ていた。

「おや、なんでしょうね。お祭りでしょうか? そういえばお腹がすいちゃいました」
「何か食べましょうよレイモンドさん!」
「そうですね! 食べましょう食べましょう!」

 どうやらレイモンドさんの考えた通り、週に何度かはクラーケン退治を祝うという名目のお祭りを浜辺でやるのだと露店のおじさんが教えてくれた。
 わたしたちはブドウの葉でくるんで焼いた赤いお魚をほおばりながら、海風に吹かれて冷たいお酒で乾杯をした。
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