【完結】はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話【R18】

ケロリビ堂

文字の大きさ
上 下
76 / 91
後日談

後日談・姪っ子がやってきた! ④

しおりを挟む
「嫌な予感がする……」
「あ? なんつった?」

 レイモンドが呟きと共に下向き加減の長い耳をピクっと立ち上げる。道を知らないので少し後ろを小走りでついてきていたアルベリオがその呟きを聞きとがめ、詳しく聞きなおそうとした。

「やっぱり『上から』行こう……ちょっと急ぎます!」
「おい! 聞けよっ」

 アルベリオの声が聞こえているのかいないのか、レイモンドはそう言うと突然路地裏に積んであるガラクタを踏み台にして塀を駆け上がり、壁の欠けているところなどに指を引っ掛けてあっという間に近くの建物の屋根まで登ってしまう。アルベリオは舌打ちとため息を一つずつつくと不可視の翼を広げ、散歩でもするようにトントンと身軽に壁を歩いて登った。

「わかる! わかるぜぇ~、おじちゃんもお前くらいのころ、大人が見てるそういうもんが不思議でならなかったもんなぁ~」
「あ……ええと……はい」

 ララミィとリットを呼び止めた酒臭い男はにやにやと笑いながら話を続ける。リットはいけないものを買おうとして失敗した姿をずっと見られていたことを恥じ、どう返事したらいいのかわからない。

「なあ、おじちゃんが代わりに買ってやろうか?」
「え……いいの?」
「おうよ、そのかわり頼みたいことがあるんだけどよ、ちょっとそっちのおじょうちゃんも一緒にこっちに来てくれよ。なあに、全然大変なことじゃないぜ……イヤなこともしねえから……へへへ」
「リット、駄目。帰ろ」

 ララミィは普段からアルベリオによって嘘つきとそうじゃない奴をよく見分けろと言われている。目の前の男は酔っている様子なのに目をかっぴらいて瞬きもせず、とても不自然な様子だった。演技臭い。そうでなくてもこんな昼間から酒を飲んで子供に声をかけるような男は怪しすぎた。

「いいから来いって!」
「わ、わあッ!!」

 リットの手を引っ張って人通りの多い所に逃げようとしたララミィだったが、リットは反対の手を男につかまれてしまう。子供の力では引き戻す事が出来ず、暗がりに引っ張り込まれてしまった。

「おっと、お前も逃げるな」
「わッ、いつの間にっ! やだ、離してッ、むー!」

 自分だけ姿を消して一人で逃げるべきか、でもそうしたらリットが、と悩んだ数秒の隙をついてララミィの背後から新しく別の男が現れた。さっきの男よりやせ型だが、冒険者崩れなのだろう、ララミィの肩を強い力でがっしりと掴んで離さなず、騒ぎ始めた彼女の口を大きくてタバコ臭い手で覆って叫べなくしてしまう。
 いつの間にか特に治安の悪い区画に来てしまった二人はを助ける大人はいなかった。

「へへへ……コロコロむちむちしやがって、いーもん食わされて甘やかされてんな……メスガキが……」
「お? そっちは男か? オスガキも乙なもんなんだよな……げへへ……」
「な、何するの……ぼくたち、お金持ってないです。持ってるけど、絵物語が買えるくらいのお金しか持ってないですッ……」
「あーあー、構わねえ構わねえ。お前らを人買いに売って金増やすからよ……」
「むー! むー! がぶッ!!」
「痛っで!!」

 口を押さえる男の手に想いきり噛みつき、ララミィが拘束から逃れる。

「こんのクソガキがッ!!」
「やめて! ララミィちゃんに酷いことするなッ!!」

 噛みつかれた男の怒りの拳がララミィに迫った瞬間、リットがその腕に取りすがる。狙いを逸らされた殴打の軌道はララミィの頭のすぐ横で空を切る。

「おい、顔はやめろ、値が下がるだろうがッ」
「でもよぉ、このクソガキども……大人を舐めやがって……」

 取りすがられた男はリットの胸倉を掴み、反対の腕から引き剥がした。小さな少年は持ち上げられて、地面に足もつかない。

「リット!? どうしてッ!?」
「ぼ、ぼくだって男の子だもん!! 女の子が危ない目に遭ってたら助けたいんだッ!!」

 なぜ会ったばかりの自分を助けようとしたのか、と言外に問いかけるララミィの言葉にぶらぶらとぶら下げられながらもリットは叫ぶ。恐怖で涙を溢れさせた瞳で、悪漢をキッと睨んでいた。
 その言葉を聞いた男たちは一瞬ぽかんとしたが、次の瞬間爆発したように笑いだした。

「おいおいおいおい、あんまり笑わせるんじゃねえぜ!」
「かっこいいねえ、ヒーローさんよ!」
「ひゃはははは、ひー、笑い死んじまう、助けてーっ!」
「わははは、そんなちっちぇえ拳で何をどう助けるって? 気持ちは立派だがそんなんでぽこぽこ殴られたって羽虫が止まったくらいだっての!!」
「彼はまだ子供なので。代理の拳はこっちです」
「あ?」

 ずしん、と重い音がして、頭上からなにか巨大なものが落ちて来た。巨大なものには長くて太い腕が生えていて、その先端で石の様な拳が握られており、ブンと空気を切るような音を立ててリットをぶら下げた男を殴り抜いた。怒りに逆立った金色の髪がゆらゆらと揺れている。こめかみにビキビキに血管を浮かせた白い鬼のようなエルフの足元に、昏倒した男がどさりとその身を沈めた。

「レイちゃ!!」
「死なれると嫌なので手加減はしました。怪我はありませんか? 遅くなってごめんなさい」
「て、てめえは色ボケレイモンド!! くそッやべえ!!」

 残った男がくるりと背を向けて駆けだす。路地裏の出口に差し掛かろうとしたところで、大きな黒い羽を広げた何かが優雅に真っ直ぐ、しかし勢いよく落ちてきて、そのまま土足で男の背中を踏みつぶした。

「ぐええッ!!」
「ったく、足速すぎだろ……屋根の上あんなふうに走り回ったらモンスターの噂が出るわ……。んで? 俺はこいつのほうをコテンパンにすればいいってわけだな?」

 男が咳き込みながら見上げると、しゃがんで顔を近づけて来たアルベリオの褐色の肌がめらりと赤く変わり、黒目と白目の色が反転し、白い角がずるりと現れた。魔性の者を目にした男が小さく悲鳴を上げると、アルベリオは二重にブレたような複雑な発声で言葉を紡いだ。

『お前は子供が恐ろしくてたまらなくなる。これはお前が子供を心から守りたいと思えるようになるまで続く。せいぜい恐怖を楽しみな』
「は……へ……っ?」

 男は何を言われたのか一瞬理解できなかった。しかし、じゃりっとちいさい足音が耳を叩いた途端、今まで感じたことのない恐怖が心ににじり寄ってくる。恐る恐るそちらを見ると、そこには小さなサキュバスが腕を組みながら男を怒りのまなざしで見下ろしていた。

「ヒ……ひゃ……ひゃぎゃ……」

 ぶるぶると慄く男の目に、その女児はどう見えているのだろうか。それは頑是ない唇を開いて一言、言い放った。

「おじさん、大人なのにララが怖いの? なっさけなあい! ざぁこ、ざあぁーッこ♡」
「い゛やーッ!!! 怖いぃいいいい!!!! 子供怖いぃいいいい!!!!!」

 泣きわめく男を淫魔の親子がそっくりな表情で指をさして笑っていると、伸び切った男を肩に担ぎ上げ、反対の腕でリットを抱き上げたレイモンドがニコニコと近づいてくる。

「人買いとつながりがある者を見つけたら捕まえて差し出すようにギルドから依頼が来ていましたので。その人も拘束して突き出しましょう。それからみんなのところに戻りましょう」

 あとはそれから、ね。と優しく声をかけられ、リットはうつむいて爪先を見つめた。ギルドで受け取った報奨金を、レイモンドは子供たちに渡した。悪人を見つけたのはリットだから、という理屈で、リットは他の子供たちにやったじゃんと褒められたが、当の本人は心に苦いものを感じていた。リットをそそのかして抜け出したララミィもバツが悪そうだった。

「子供が見てはいけないものがあるところには背伸びをしている子供を見つけて悪いことをしようとする悪い大人がいるものです。悪いのは子供に悪さをする人のほうに決まってますがそういう人に悪さをする理由を与えないように、これからは気をつけてくださいね。リット」
「ララ、ララ、ララララララララララよぉ~! 勝手にいなくなったらパパびっくりすんだろうがよぉ~。この年で馬鹿な精気袋を誘っておびき出すのはすげえ才能だけど実技は学び舎に上がって実習すませてからだぁ~。いきなり大人になろうとすんな~。知らないとこではパパから離れんなよ、わかったか?」

 二人の保護者は、それぞれの子供にそれぞれの理屈で教育的指導をするのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...