【完結】はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話【R18】

ケロリビ堂

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二章・もどかしい二人

42.性欲の強い男エルフと水仙の娘(視点・レイモンド)

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 次の日。やはりというか、私は重い頭を振り払って起床する。一晩経って古くなった水を口にしてまずさに顔をしかめ、下から湯をもらってきてその水で割り、温度を調整して頭を洗った。半渇きの髪を背中に這わすのが気持ち悪く、頭の高い位置で結わえておいた。頭皮が引っ張られてすこし頭痛を感じる。

「ドワーフの酒は強いな……」

 出かける準備をしようとしてカバンを探ると、煙草が残り少ない。ギルドに向かう前にヒラヒラさんの煙草屋に寄ることにしよう。

「ちょっと吸うペースが早すぎるわよ」

 煙草屋に入店し、煙草入れを開けて見せるとヒラヒラさんに叱られた。

「旦那に売る分だけで強い方のコケがなくなってしまうわよ。そもそもそんなにバカスカ吸うような代物じゃないんだから、売っておいてなんだけどちょっと控えたほうがいいわよ。狂化が治った代わりに中毒になりましたじゃ笑い話にもならないわよ」

「気を付けます……。とても落ち着くのでつい頼ってしまうんですよね……」

「まあうちの煙草は味がいいからわよ。ハマるのはわかるし買ってくれるのはありがたいけどわよ……。ちょっと普通のコケを混ぜる割合を増やすわよ。旦那のオツムがこれ以上ぶっ壊れたらギルド長から怒られが発生してしまうわよ」

「お手数掛けます。これのおかげで今までよりも深く潜ることができているのでヒラヒラさんには感謝していますよ」

「あんまり無理するなわよ」

 光るコケの発生した箇所を確認して見つけ次第封鎖する仕事などが増えた分、深い階層の探索を頑張らなければと頑張った結果、六番目のダンジョンは現在地下十五階まで進められていた。ドーソンとリィナは有能だし、私も性欲の発作がなければ自分で言うのもなんだがそこそこ強い。まだこれからという時に帰るのをやめればそれなりに早いのだ。ぐちゃぐちゃに汚れた布切れを持ったままダンジョンを探索するのは嫌なので、水場のあるセーフティーゾーン以外では自慰をせず、煙草で済ませているせいで減りが早いのは今後の課題だな……、シルキィ君が催眠をかけてくれたら、もう吸わなくて済むのだろうか。今度は煙草をやめるのに苦労しそうだが。

「いた! おーい、レイモンド!」

 ギルドへ向かう道すがら、向こうから手を振りながら駆けてくる者が一人。リィナだった。私は昨日彼女を抱いたことについてツブラさんにチクリと言われたことを思い出し、ちょっと喉元が苦くなった。

「おはようございます、待たせてしまっていましたかね? そんなに長居したかな……煙草が切れてしまって、補充に……」

 彼女は走ってきたようで、少し息が上がっている。私のことを探させてしまっただろうか。

「いーんだよそんなことは。あたしもさっきついたばっかりだし。そんなことより、あんたのこと探してたんだ。あんたを訪ねて来たって人がギルドで待ってるんだよ。騒ぎになってるから早く来とくれよ!」

「私を訪ねて? どなたでしょう?」

「知らないよ、でも、会ったらわかるんじゃないのかい。早く来てって!」

 リィナに手を引かれ、軽く駆ける。ギルドのある建物が見えると、いつもは中にいる冒険者たちが外からがやがやと中を伺っているのが見えた。

「みんな何してるんですか? 揃って外に出て。中に入ればいいのに……」

「あっ!! レイモンド! おまえの客が来てるんだよ。早く行ってなんとかしてやれって」

「ドーソン。おはようございます。私の? 客? なんだかわからないですが……ご迷惑をかけてしまっているのなら申し訳ないですね。入ります、通してください」

 人垣をかき分けて、私はギルドの扉をくぐった。普段ごった返している室内はがらんとしていて、不思議に思いながら顔を上げる。

「やっと来たのですね、暁の子。臭いがきつくて息ができないので、皆さんには席を外していただいておりました。これ以上はわたくしも我慢が出来そうにありません。どこか空気の綺麗なところに連れていっていただけないかしら」

 女が一人。まばゆいばかりに輝いて、女神の彫刻のように椅子に腰かけていた。真っ白な肌。バター色の長い長い金髪。青い瞳。ほっそりとしたしなやかな肢体。ゆったりとした襞が美しい薄布のドレス。秀麗な目鼻立ちに、そして、美しくピンと尖った長い耳。

「……水仙の娘」

 彼女は……私の初恋の人、かつての妻であるエルフだった。

「暁の子。あなた、そんなに大きな体だったかしら。膨れ上がって、まるで白いオークのよう。それに、なんですか? この臭い。人間によく似た……肉をたくさん食べている臭いがしますね。変わったコケのような臭いもするし、饐えたような臭いもするし……いったいどんな生活を送っていたらこうなるのかしら」

 水仙の娘は少女だったころの面影を残した美しいかんばせを曇らせ、口元を抑えて私を見た。

「水仙の娘。どうしてエルフの里から出てきたのですか。それに、どうして私がここにいると?」

「最近迎え入れた人間の吟遊詩人から聞いたのです。ダンジョンを冒険するエルフの詩を。なんでもそのエルフは豪快で色を好むのだとか。そんなエルフがいるわけないと思いますけれど、一人だけ心当たりがないでもありませんでしたので確かめに来ました」

 そのためだけに? そんなわけはない。里のエルフたちは人間やその他の種族を嫌う傾向にある。長命ゆえの退屈を持て余しているため、時々吟遊詩人を迎え入れる時以外は別の種族とはあまり関わらず、里の中だけで自給自足の生活をし、特に理由なく外に出てきたりはしないはずだが……。

「ねえ、これ以上わたくしをこの猥雑な空間に居させないでくださらない? もう窒息してしまいそうなのです。森ほどとは言いませんから、あなたの知っている中で一番空気が綺麗な場所へ。そこで詳しい話をするのでも構わないと思うのですけれど」

「そうですね。移動しましょう。外の皆さんにも悪いですし」

 水仙の娘が扉をくぐると、遠巻きに見ていた人たちがさらに後ずさる。私はみんなに謝りながら彼女を先導した。すぐそばに小高い丘のようになっているところがあり、私が好んで飲んでいるハーブティーの原料になる花の木がたくさん植えてある。今はちょうどそれが咲く時期で、蜜のような甘い匂いが風に乗ってしてきていた。そこなら、エルフの彼女でも我慢ができるだろうと思ったから。

「どうですか。ここなら息ができるのではないですか」

「……まあ、先ほどの場所よりは幾分か楽ですね」

 私は彼女が腰を下ろす地面にハンカチを敷こうとしたが、草より綺麗な布など無いので、と断られた。黙ってハンカチを仕舞い、彼女の隣に腰かける。見下ろす下に、私たちの街とダンジョンが見えた。

「およそ三十五年ぐらいになるかしら。暁の子が書置きを置いて出て行ってしまったのは」

「そうでしたか。色々なことがありすぎてよく覚えていません。エルフにとってはあっという間ですし」

「よく覚えていませんか? あなたはあれでわたくしたちを捨てたつもりでいるのでしょうけど、わたくしたちはあなたを捨てたつもりはありませんでしたよ」

 妻にけだものと罵られ、里じゅうに私の性質が知れ渡り今まで通り居られなくなった私は、細かくは覚えていないが、『もうここには居られません。自分の居るべき場所を探しに行きます。どなたか別の立派なエルフと幸せになってください』だったか、そのような内容の書置きを置いて出て行った。あのころのエルフたちの冷たい視線は忘れていないし、それでなんとかなったつもりでいたが、違うのだろうか。

「暁の子。わたくし、もうすぐ発情期が来ます。そうなったら、あなたを再び里に迎え入れることもできるのですよ」
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