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そして、それを纏った私も、当然最高だ。
「……ヤミーさんですか?」
メイクを終えて、北野さんと合流すると、自信がなさそうに確認されてしまう。
「はい! ヤミーです!」
私はニコッと笑って頷いた。
「そ、そうでしたか。すみません、あまりに雰囲気が変わっていたので、見間違えてしまいました……」
「ふふ、ウィッグもしてると、わかりませんよね。私も不思議な気分です。自分の顔なのに、鏡で見たら、自分じゃないみたいで」
私の場合、アニメのコスプレをするわけじゃないから、顔特殊なメイクは必要ない。基本的にナチュラルメイクで仕上げてる。派手なのは、鮮やかな紫のアイシャドウと、両目に入れた透き通るような赤色のカラコンくらいだ。そのチョイスの理由は、テーマに合わせたからだ。この衣装は、他のコスプレイヤーさんが小悪魔のコスプレをしてるのを見て、着想を得た。それで、自分なりにアレンジしたイメージが魔界の令嬢だ。
「ええ。まるで本物の魔族みたいですよ。そのツノも、すごくお似合いです。それ、手作りしたんですか?」
「これですか? これは……本当は作りたかったんですけど、時間が足りなくて。結局買っちゃいました」
カチューシャについてる魔族のツノに触れる。
基本、私はこういうキャラもののコスプレはしない。当初は普通にウィッグだけでいく予定だったのだけど、イベントに向けて、急遽用意することにしたのだ。ただ、流石に制作期間が短くて、作るには間に合わなかった。だから、ネット通販で注文したのだ。ちなみに届け先はココロちゃんのお宅にして、受け取ってもらった。支払いは当然私だけど。
「ちょっと私らしくないチョイスですけど、変じゃないならよかったです」
「そんな。変なんて、とんでもないです。すごく綺麗ですよ。それに、あわせのテーマに沿ってて、とてもいいと思います」
「あわせのテーマって、ダークでしたよね?」
「はい。暗めの雰囲気だったら、なんでもいいんですけど……」
「っ? どうかしました?」
「いえ。では、早速スタジオに移動しましょうか」
途中、北野さんは言葉を切って私の格好をまじまじと見つめた。何かゴミでもついてたかな。そう思ったけど、北野さんは深く答えることなく、クスッと笑うと、踵を返して歩き出してしまった。
「着きました。今日はここで撮影をします」
しばらくして、会場の外のテラスのような場所に案内される。このあたりはコスプレイヤーのエリアらしい。同人誌を販売している人はいなくて、コスプレをしてるような人たちがそこら中にしている。中には写真撮影をせがまれ、人だかりができているところもあった。
フォトスタジオが立っていた。それに、椅子や机、ティーセットまである。テーマを考えると、闇のお茶会的なシチュエーションだろうか。天蓋まであって、とても本格的だ。
「す、すごいですね。でも、こんなに場所を占有しちゃっていいんですか?」
ただ、周りには私たちのようにフォトスタジオを展開しているような人たちはいない。嫌に目立っていて、不安になる。
「大丈夫です。ここは自分達のスペースですし、運営に問い合わせて、スタジオ設営の許可も貰ってますので」
「そうなんですね。それならよかったです」
運営に問い合わせたというなら、大丈夫だろう。いつも撮影は殺風景な自室でやってたから、こんなところで撮れるなんて、楽しみすぎる。
「おーっす、キタノさーん。ヤミーちゃん、連れてきたー?」
感激してスタジオを眺めていると、私たちの後ろから、大きな声で名前を呼ばれる。
振り向くと、濃淡な黒にオレンジのカラーコンタクトを入れた女性が、手を振りながら歩いてくるところだった。
「ええ。連れてきましたよ。リラさん」
「てことは、君がヤミーさんかな?」
「あ、はい。ヤミーです。初めまして、リラさん」
「ういーす! はじめましてー!」
手を上げてくる。これはハイタッチ待ちだろうか。私も手を上げると、パーンと叩かれる。
「うひゃー。ヤミーちゃんの実物、初めてみたけどカワイイなー! キタノくんが絶賛するわけだよ」
ぐるぐると回って、私の身体を舐めまわすように観察するリラさん。気恥ずかしくなって、肩をすくめる。
「おや? もしかして、見られて恥ずかしがってる? そういえば、今回がイベント初参加だっけ?」
「あ、あはは……そうです」
「そっかそっか、初々しいのう。写真撮っていいかい?」
スマホをちらつかせて、私に撮影をせがんでくるリラさん。
大丈夫ですよ。そう答えようとしたけど。
「リラさん。ヤミーさんが困ってます。からかうのはその辺にしてあげてください」
それより早く、キタノさんがリラさんを制した。
「キタノくんさ。そんなこと言って、本当はヤミーちゃんの写真、他の人に撮らせたくないだけなんじゃないの?」
嗜められたリヤさんが、ニヤリと怪しく笑う。
「……いえ。そんなことは」
キタノさんは眉を顰めると、私の方をチラリと見てきた。
険悪というわけじゃないけど、なんだか居た堪れない空気になってしまう。
「あ、あの。私は写真、大丈夫ですよ。というか、撮ってくれると嬉しいです。キタノさんもリラさんも、撮ってくれませんか?」
「……ヤミーさんがそう言うなら、喜んで」
「ほんと? 撮る撮るー!」
さりげなく、キタノさんに最初に撮ってもらう。リラさんには申し訳ないけど、一番最初に写真を撮ってもらうのは、北野さんがよかった。……まぁ、家庭科室で試着した時に、すでにココロちゃんに数え切れないくらい撮られてたんだけど。とはいえ、ココロちゃんだって特別な人だ。全然問題ない。
椅子に座ったり、立ってスカートを両手で摘んだり、色々とポーズも決めて、撮ってもらう。
北野さんは、一眼レフの結構本格的なカメラを持っていた。パシャパシャと音を鳴らして、私の姿を激写していく。
撮影してもらうのも初めてだけど、ポーズを取るのも初めてだ。
「……ヤミーさんですか?」
メイクを終えて、北野さんと合流すると、自信がなさそうに確認されてしまう。
「はい! ヤミーです!」
私はニコッと笑って頷いた。
「そ、そうでしたか。すみません、あまりに雰囲気が変わっていたので、見間違えてしまいました……」
「ふふ、ウィッグもしてると、わかりませんよね。私も不思議な気分です。自分の顔なのに、鏡で見たら、自分じゃないみたいで」
私の場合、アニメのコスプレをするわけじゃないから、顔特殊なメイクは必要ない。基本的にナチュラルメイクで仕上げてる。派手なのは、鮮やかな紫のアイシャドウと、両目に入れた透き通るような赤色のカラコンくらいだ。そのチョイスの理由は、テーマに合わせたからだ。この衣装は、他のコスプレイヤーさんが小悪魔のコスプレをしてるのを見て、着想を得た。それで、自分なりにアレンジしたイメージが魔界の令嬢だ。
「ええ。まるで本物の魔族みたいですよ。そのツノも、すごくお似合いです。それ、手作りしたんですか?」
「これですか? これは……本当は作りたかったんですけど、時間が足りなくて。結局買っちゃいました」
カチューシャについてる魔族のツノに触れる。
基本、私はこういうキャラもののコスプレはしない。当初は普通にウィッグだけでいく予定だったのだけど、イベントに向けて、急遽用意することにしたのだ。ただ、流石に制作期間が短くて、作るには間に合わなかった。だから、ネット通販で注文したのだ。ちなみに届け先はココロちゃんのお宅にして、受け取ってもらった。支払いは当然私だけど。
「ちょっと私らしくないチョイスですけど、変じゃないならよかったです」
「そんな。変なんて、とんでもないです。すごく綺麗ですよ。それに、あわせのテーマに沿ってて、とてもいいと思います」
「あわせのテーマって、ダークでしたよね?」
「はい。暗めの雰囲気だったら、なんでもいいんですけど……」
「っ? どうかしました?」
「いえ。では、早速スタジオに移動しましょうか」
途中、北野さんは言葉を切って私の格好をまじまじと見つめた。何かゴミでもついてたかな。そう思ったけど、北野さんは深く答えることなく、クスッと笑うと、踵を返して歩き出してしまった。
「着きました。今日はここで撮影をします」
しばらくして、会場の外のテラスのような場所に案内される。このあたりはコスプレイヤーのエリアらしい。同人誌を販売している人はいなくて、コスプレをしてるような人たちがそこら中にしている。中には写真撮影をせがまれ、人だかりができているところもあった。
フォトスタジオが立っていた。それに、椅子や机、ティーセットまである。テーマを考えると、闇のお茶会的なシチュエーションだろうか。天蓋まであって、とても本格的だ。
「す、すごいですね。でも、こんなに場所を占有しちゃっていいんですか?」
ただ、周りには私たちのようにフォトスタジオを展開しているような人たちはいない。嫌に目立っていて、不安になる。
「大丈夫です。ここは自分達のスペースですし、運営に問い合わせて、スタジオ設営の許可も貰ってますので」
「そうなんですね。それならよかったです」
運営に問い合わせたというなら、大丈夫だろう。いつも撮影は殺風景な自室でやってたから、こんなところで撮れるなんて、楽しみすぎる。
「おーっす、キタノさーん。ヤミーちゃん、連れてきたー?」
感激してスタジオを眺めていると、私たちの後ろから、大きな声で名前を呼ばれる。
振り向くと、濃淡な黒にオレンジのカラーコンタクトを入れた女性が、手を振りながら歩いてくるところだった。
「ええ。連れてきましたよ。リラさん」
「てことは、君がヤミーさんかな?」
「あ、はい。ヤミーです。初めまして、リラさん」
「ういーす! はじめましてー!」
手を上げてくる。これはハイタッチ待ちだろうか。私も手を上げると、パーンと叩かれる。
「うひゃー。ヤミーちゃんの実物、初めてみたけどカワイイなー! キタノくんが絶賛するわけだよ」
ぐるぐると回って、私の身体を舐めまわすように観察するリラさん。気恥ずかしくなって、肩をすくめる。
「おや? もしかして、見られて恥ずかしがってる? そういえば、今回がイベント初参加だっけ?」
「あ、あはは……そうです」
「そっかそっか、初々しいのう。写真撮っていいかい?」
スマホをちらつかせて、私に撮影をせがんでくるリラさん。
大丈夫ですよ。そう答えようとしたけど。
「リラさん。ヤミーさんが困ってます。からかうのはその辺にしてあげてください」
それより早く、キタノさんがリラさんを制した。
「キタノくんさ。そんなこと言って、本当はヤミーちゃんの写真、他の人に撮らせたくないだけなんじゃないの?」
嗜められたリヤさんが、ニヤリと怪しく笑う。
「……いえ。そんなことは」
キタノさんは眉を顰めると、私の方をチラリと見てきた。
険悪というわけじゃないけど、なんだか居た堪れない空気になってしまう。
「あ、あの。私は写真、大丈夫ですよ。というか、撮ってくれると嬉しいです。キタノさんもリラさんも、撮ってくれませんか?」
「……ヤミーさんがそう言うなら、喜んで」
「ほんと? 撮る撮るー!」
さりげなく、キタノさんに最初に撮ってもらう。リラさんには申し訳ないけど、一番最初に写真を撮ってもらうのは、北野さんがよかった。……まぁ、家庭科室で試着した時に、すでにココロちゃんに数え切れないくらい撮られてたんだけど。とはいえ、ココロちゃんだって特別な人だ。全然問題ない。
椅子に座ったり、立ってスカートを両手で摘んだり、色々とポーズも決めて、撮ってもらう。
北野さんは、一眼レフの結構本格的なカメラを持っていた。パシャパシャと音を鳴らして、私の姿を激写していく。
撮影してもらうのも初めてだけど、ポーズを取るのも初めてだ。
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