うちのお母さんは最低だ

ツバサ

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翌朝も、私は電車に乗って、学校へ向かう。その道中、電車内でスマホを見ると、北野さんからメッセージが来ていることに気づいた。
『おはようございます。ヤミーさん。もしよかったらなんですけど、今月末の日曜日、オフ会しませんか?』
十分前に、そんなメッセージが来ている。
オフ会? どうしたんだろう急に。
『オフ会ですか?』
『はい。確かヤミーさんって、愛知県住みでしたよね?実は27日の同人誌のイベントに出ることになったので、もしよかったら一緒に参加できたらなと思いましてて』
『なるほど』
『これ、イベントのリンクです』
送られてきたURLをタップして、詳細を確認する。会場は全然行ける距離だけど。
『家の事情もあると思うので、ダメだったら全然断ってくれて大丈夫です』
北野さんには私の家のことも話している。門限があることや、休日は基本外出できないこと、今年になってから門限が厳しくなったことも。ネット上の関係で、顔が見えないからこそ、割とこと細やかに話すことができた。
でも、私にはお母さんの門限がある。そのために遥ちゃんの誘いだって断ったんだ。そう思っていつもみたいにお断りの返事を送ろうとしたのだけど。
『ありがとうございます。オフ会については少し、考えさせてください』
なぜか私は、断るのではなく先送りにしていた。
「オフ会……行きたいな」
閉じられた入り口にもたれかかり、窓の外の景色を見ながら呟く。
北野さんとは出会って一年と少しになる。まだそんなに長い付き合いじゃないけど、北野さんにはたくさん助けてもらったし、相談にも乗ってもらった。会えるなら会いたい。そして、お礼を告げたい。
それだけじゃない。北野さんは同人誌のイベントに参加しようと言った。それはつまり、私にとっては初めてのコスプレイベントということでもあって。
北野さんには悪いけど、私の興味の比重はどっちかというと後者に偏っていた。
でも、遥ちゃんの誘いを断ったのに行ってもいいんだろうか。それにお母さんをどうすればいいか考えなきゃいけない。色々な要素が渦巻いて、私を迷わせていた。
やっぱり、断ろうかな。でも、行きたい。ああ、でもやっぱり遥ちゃんに悪いし、お母さんにバレたくないし……。
なんて思って、あれこれ考えてるうちに電車を派手に乗り過ごしてしまって。
乗り過ごした駅で何十分も待ってようやく来た折り返しの電車に乗って、学校へダッシュ。
息を切らして被服室に入ると。
「おはよう、雫ちゃん。どうしたの? そんなに急いで……」
不思議そうな顔でこちらを見るココロちゃんに迎えられる。
私は肩で息をしながら、頭を下げた。
「ごめん、電車、乗り遅れちゃって!」
「や、全然大丈夫だよー。うちは元々、何時に集合とか決めてないし。だからそんなに急がなくても、ゆっくり来ればよかったのに~」
「あはは……確かにそうだったね」
ココロちゃんの言う通り、家庭科部に時間的な縛りはほとんどない。平日も休日も、いつ来ていつ帰ってもいい。来る来ないすらも自由だ。ついでに、部室に来て何するかも自由で、服作りに勤しむもよし、先生に許可は必要だけど料理してもよしとのことだ。なんならお喋りするだけで帰ってもお咎めなしなのだから、活動の緩さは校内随一だと思う。
ちなみにそれを決めたのはココロちゃんだ。ココロちゃん的にファッションとは須くして自由から生まれるものらしく、創造の想像を助長するため、自由な方針にしたらしい。
それでも。私にとって遅刻というのは何よりも重い。電車を乗り過ごしたのが、もし帰りだったら? 門限を越えてしまったら、悲惨なことになる。そう思うと、居ても立っても居られなくなって、駆け出してしまっていた。
「それより、どうして電車に乗り遅れたの? もしかして、寝過ごした?」
「ううん、寝過ごしたわけじゃないけど……」
「じゃあ、悩みごと?」
ただの当てずっぽうだろうけど、当たっていて、ぎくりとしてしまう。漫画のようなあからさまな反応じゃないけど、めざとく察したらしい。
「その反応、当たりかな? ココロちゃんはいつでも相談待ち受けてますぜー?」
ニヤリと笑って、自分の隣の椅子をポンポンと叩くココロちゃん。
ああ。なんでこの子はこんなふうに、私が一番言ってほしいことをサラリと言ってくれるのだろう。
「……じゃあ、聞いてもらおうかな」
いつも、どうしても吐き出したい悩みがあった時は、北野さんに聞いてもらっていた。その北野さんに頼れない以上、一番頼りにできるのはココロちゃんだ。だけど、これは私の問題だから、極力頼らないようにしようと思っていたのに。
「がってん。お任せあれ~」
ぐっと拳を握って、ニコリと笑うココロちゃん。俗に言うマッスルポーズだけど、全然似合ってない。でも、今はそれが頼もしく見えた。
私は誘蛾灯に引かれるようにココロちゃんの隣に座る。
「それで、何があったの?」
「えっと、実は今朝、昨日話した人にオフ会に誘われて……ううん。その前から話すよ」
早速今朝あったことを話そうとして、北野さんのことはちゃんと話していないのを思い出した。相談事に乗ってもらうのに、隠すのは不義理だろう。この際だから、そこも含めて話してしまうことにした。
「どこからでも大丈夫だよ。ココロちゃんは何でも受け入れてやるぜ」
ココロちゃんは頬杖をついて、私の顔を覗き込んでくる。いつものことだけど、近い。この距離で喋るのは緊張する。
「前も話したと思うけど、北野さんは私の衣装作りを作ってくれてる人で──」
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