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第四章 迷わない関係
第75話 わたし、心が広いので!前編
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「……え? いま何て?」
「だからぁ、南さんの良くないウワサが全校で流れちゃってますって言ったんですけどぉ……?」
院瀬見に起こされることも無ければ、新葉に叩き起こされることが無かった朝。
教室に入った直後に、九賀が珍しく俺に声をかけてきた。隣の席にいち早く座っているはずの院瀬見の姿はどこにもなく、かといって下道たちの姿も見えないのはいいのか悪いのかという感じだが。
そして九賀の言葉を完全に信じるわけでも無いのだが、気のせいかクラスの連中――特に女子を中心に、俺を見てはひそひそ話をしているのが見てとれる。
「どんなウワサだ?」
「聞きたいですぅ?」
「そりゃあな。というか、何でそれを俺に?」
「だってそのウワサが本当だったら、言ってくれたらウチも南さんに好きなだけされたいですしぃ」
は? 何言ってんだこいつ。
そもそも教えるつもりがあるのかないのかどっちなんだ。そこまでもったいぶったところで俺が屈するとでも思っているのか。
「……そのことを院瀬見は?」
「まだ知らないと思いますよぉ。知ったら南さんのことを見損なってフっちゃうんじゃないですかぁ?」
とっくにフラれてるけどな。それなのに俺の家に居候してるんだから、何を考えているのか意味不明すぎる。
「じゃ、耳を貸してくださ~い」
「内緒話をしないと駄目なレベルなのかよ」
かつて北門の奴が九賀に気があって色々と近づいていたが、九賀にとってあいつは遊び相手にならなかったと判断され、全く相手にされていなかった時があった。
つまり、九賀と話をするには軽い気持ちで聞く必要がある。
「そうで~す。じゃ、お耳に近づきますねぇ」
そう言いながら九賀は俺の左耳に近づきながら少しかがみ、一見すると誤解を招きそうな姿勢で俺の耳にささやいた。
「……はぁ!? 俺がナンパ魔だと?」
「わわっ! ……いきなり大声出すとかありえないんですけどぉ。ウワサレベルでそんな声を上げなくてもよくないですか~?」
そうは言うけど九賀が無駄に俺に近づいてきたことで、周りから俺に聞こえるようにひそひそじゃない会話が聞こえてくる。
「うっわ、最低すぎじゃね? あれが今の生徒会長とか~」
「院瀬見さん、可哀想~」
「無いわ~……」
くっ、何で朝から俺がこんな目に遭わねばならんのか。院瀬見の姿が無いのが幸いしているとはいえ、よりにもよって今日に限ってそこそこ教室に人がいるし。
「……なぁ、今日って何かあったか?」
「何にも無いと思いますよぉ? たまには朝早く来たいときがあるので、それじゃないですかね~」
「そんなわけあるかよ。一応聞くけど、ウワサを流したのは誰か分かるか?」
「女子じゃないですかねぇ」
そりゃそうだろうとしか言えない。大体この手のウワサは男よりも女子、それも俺のことを良く思わない女子が流すものだ。
男子が流すとしたら思い当たる奴はいるにはいるが、三人とも共通してナンパしているし、自分に不利になりそうなことをわざわざ流さないだろう。
「おはようございます。翔輝くん」
「――ぬわぁっ!?」
「わっ。びっくりした~。何をそんなびくびくしてるんですか?」
「え、いや……」
九賀はすでに自分の席にいて、代わりに院瀬見が俺の目の前に立っている。
「ふふん、わたしにはお見通しですよ?」
「な、何かな?」
「今日寝坊したんですよね? わたしや新葉さんが蹴りを入れてもちっとも起きてくれませんでしたから、遅れるだろうなぁって二人で話してましたもん」
蹴りを入れた……だと?
新葉の奴はともかく、院瀬見まで俺を蹴るのか。そこまで熟睡してたとは迂闊すぎるな。
「そ、そうか。それは悪かったな」
「いえいえ!」
「だからといって蹴りはやめた方がいいぞ」
ただでさえ院瀬見は力が強いわけだし。
「そうなの? 新葉さんが言うには、翔輝くんは美少女から蹴りを入れられると気持ち良くなる変態だから、定期的に蹴った方が血行も良くなるんだって言ってましたよ」
あの野郎……最近調子に乗ってきてるな。当たり前のように家にいるのも影響してるかもだが、後できつく叱っておこう。
「断じて違う! それにしたって新葉のことはすっかり信じてるんだな」
「やっぱり先輩ですし、翔輝くんを一番よく知ってる人なので仲良くしておきたいんです」
そういうことなら仕方が無いが、蹴りは変な誤解を生んでるからやめさせよう。
「ところで……」
「あっ、授業始まりますよ。お話はお昼休みでいいですか?」
「……それでいいです」
「うん。今日は新葉さんも交えて一緒に食べましょうね!」
「それで大丈夫です、つららさん」
「だからぁ、南さんの良くないウワサが全校で流れちゃってますって言ったんですけどぉ……?」
院瀬見に起こされることも無ければ、新葉に叩き起こされることが無かった朝。
教室に入った直後に、九賀が珍しく俺に声をかけてきた。隣の席にいち早く座っているはずの院瀬見の姿はどこにもなく、かといって下道たちの姿も見えないのはいいのか悪いのかという感じだが。
そして九賀の言葉を完全に信じるわけでも無いのだが、気のせいかクラスの連中――特に女子を中心に、俺を見てはひそひそ話をしているのが見てとれる。
「どんなウワサだ?」
「聞きたいですぅ?」
「そりゃあな。というか、何でそれを俺に?」
「だってそのウワサが本当だったら、言ってくれたらウチも南さんに好きなだけされたいですしぃ」
は? 何言ってんだこいつ。
そもそも教えるつもりがあるのかないのかどっちなんだ。そこまでもったいぶったところで俺が屈するとでも思っているのか。
「……そのことを院瀬見は?」
「まだ知らないと思いますよぉ。知ったら南さんのことを見損なってフっちゃうんじゃないですかぁ?」
とっくにフラれてるけどな。それなのに俺の家に居候してるんだから、何を考えているのか意味不明すぎる。
「じゃ、耳を貸してくださ~い」
「内緒話をしないと駄目なレベルなのかよ」
かつて北門の奴が九賀に気があって色々と近づいていたが、九賀にとってあいつは遊び相手にならなかったと判断され、全く相手にされていなかった時があった。
つまり、九賀と話をするには軽い気持ちで聞く必要がある。
「そうで~す。じゃ、お耳に近づきますねぇ」
そう言いながら九賀は俺の左耳に近づきながら少しかがみ、一見すると誤解を招きそうな姿勢で俺の耳にささやいた。
「……はぁ!? 俺がナンパ魔だと?」
「わわっ! ……いきなり大声出すとかありえないんですけどぉ。ウワサレベルでそんな声を上げなくてもよくないですか~?」
そうは言うけど九賀が無駄に俺に近づいてきたことで、周りから俺に聞こえるようにひそひそじゃない会話が聞こえてくる。
「うっわ、最低すぎじゃね? あれが今の生徒会長とか~」
「院瀬見さん、可哀想~」
「無いわ~……」
くっ、何で朝から俺がこんな目に遭わねばならんのか。院瀬見の姿が無いのが幸いしているとはいえ、よりにもよって今日に限ってそこそこ教室に人がいるし。
「……なぁ、今日って何かあったか?」
「何にも無いと思いますよぉ? たまには朝早く来たいときがあるので、それじゃないですかね~」
「そんなわけあるかよ。一応聞くけど、ウワサを流したのは誰か分かるか?」
「女子じゃないですかねぇ」
そりゃそうだろうとしか言えない。大体この手のウワサは男よりも女子、それも俺のことを良く思わない女子が流すものだ。
男子が流すとしたら思い当たる奴はいるにはいるが、三人とも共通してナンパしているし、自分に不利になりそうなことをわざわざ流さないだろう。
「おはようございます。翔輝くん」
「――ぬわぁっ!?」
「わっ。びっくりした~。何をそんなびくびくしてるんですか?」
「え、いや……」
九賀はすでに自分の席にいて、代わりに院瀬見が俺の目の前に立っている。
「ふふん、わたしにはお見通しですよ?」
「な、何かな?」
「今日寝坊したんですよね? わたしや新葉さんが蹴りを入れてもちっとも起きてくれませんでしたから、遅れるだろうなぁって二人で話してましたもん」
蹴りを入れた……だと?
新葉の奴はともかく、院瀬見まで俺を蹴るのか。そこまで熟睡してたとは迂闊すぎるな。
「そ、そうか。それは悪かったな」
「いえいえ!」
「だからといって蹴りはやめた方がいいぞ」
ただでさえ院瀬見は力が強いわけだし。
「そうなの? 新葉さんが言うには、翔輝くんは美少女から蹴りを入れられると気持ち良くなる変態だから、定期的に蹴った方が血行も良くなるんだって言ってましたよ」
あの野郎……最近調子に乗ってきてるな。当たり前のように家にいるのも影響してるかもだが、後できつく叱っておこう。
「断じて違う! それにしたって新葉のことはすっかり信じてるんだな」
「やっぱり先輩ですし、翔輝くんを一番よく知ってる人なので仲良くしておきたいんです」
そういうことなら仕方が無いが、蹴りは変な誤解を生んでるからやめさせよう。
「ところで……」
「あっ、授業始まりますよ。お話はお昼休みでいいですか?」
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