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第四章 迷わない関係
第73話 嘘なんかじゃないですもん
しおりを挟む「……」
「…………」
「二人とも帰って来たと思ったらケンカでもした感じ? それとも言葉をお忘れ?」
新葉が気になるのも無理は無いな。
何せお互い後ろめたさがあるから何も言えないわけだし。俺から先に切り出そうとも思ったが、部屋に入ったら急に言いづらくなった。
「お見合いかっ!? ってお姉さん、ツッコミをいれちゃうぞ~?」
もう入れてるだろ!
まぁ、新葉なりに気を遣っているんだろうが、俺はともかく院瀬見は何も聞こえていないようだな。
でもこのままだと新葉が調子に乗ってきそうだし、俺から動くしかないか。
「ごめん、つらら!」
「え? 何の謝罪ですか、それ」
「その、生徒会メンバーのあいつらを監督出来てなくて迷惑をかけた……の謝罪だな」
「……生徒会メンバーの? あぁ、あのナンパの人たちのことですか。別にわたしは何とも思ってないですし、翔輝くんに言われるまで忘れてました」
何だ、そうだったのか?
そうだとすると俺の謝罪の内訳は残る一つ。
「じゃあえっと、電話でのことはごめん!!」
「電話……お店の中の女子の声は結局誰だったんですか?」
「しずくだ。つららの幼馴染の」
「幼馴染の……あぁ、そういえばあの子、誰かを追いかけていなくなってましたけど翔輝くんだったんですね。あの子でしたらたとえ何かされていたとしても問題無いです」
幼馴染なのは本当だったようだ。
「問題無いって、どういう意味で?」
「しずくはいたずらっ子なんです。お気づきだったと思うんですけど、あの子は学校では男子避けに男装するクセがあるんですよね。外では女子なのに……」
「だ、男装! 今はそれが推しなのかい? だとしたらあたしが頑張るしかないよ!?」
「いえ、草壁さんは気にしなくていいので……」
そういえばしずく本人も男子がウザいとかそんなことを言ってたような気がする。しかし院瀬見の口ぶりだけで判断すれば、そこまで気にするレベルじゃないように聞こえるな。
そうなると俺の問題はこれでいいとして、
「それはそうと、つららは俺に言わなきゃいけないことあるんじゃないか?」
「……何かありましたっけ?」
俺は正直に白状したのにまさかのおとぼけか?
「目の前にいるそこの新葉のことだ」
「ぬっ? あたし!?」
「いや、お前は口を挟むな」
「何だとぉ!」
さっきから会話に割り込んできているのは気にしていなかったが、今は事情が違うから少しだけ黙っててもらわないと話にならない。
……ということで、普段は絶対にやらないことを新葉に実行する。新葉の脇に手を入れて、後はくすぐるだけ――なのだが。
「うひょい!? こ、こら、翔輝っ! あたしに一体何をしようというのかね? このままじゃお嫁に行けなくなるではないか! まさかのその手で揉みしだこうとしている!?」
などと勘違いを暴走させ始めたので、院瀬見に目配せをして察してもらうことに。
「草壁……あの、新葉さんっ! 冷静に、ひとまずお部屋に戻って深呼吸をしてきてください。翔輝くんは女子に触れることに何のためらいも無い激ニブ人間なので」
むしろ俺に厳しいな。しかし院瀬見の言葉は素直に届いたのか、胸に手を置いて深呼吸をしながらようやく俺の部屋から出て行った。
「まるで新葉さんがいると話しづらいみたいに感じましたけど、新葉さん絡みのお話ですか?」
「まぁ……。あのさ、俺に嘘をついてないか?」
「――どういう意味ですか?」
これだけははっきりさせとかないとな。
「俺に電話をかけてきた時、つららはすでに俺の家の部屋にいて、目の前につららが寝転がっているって言ってたよな?」
「はい。言いました」
「それ、嘘だろ?」
「……どうして?」
今となっては問い詰める必要も無いが、一応聞いておかないと。
「だって、俺から新葉に電話した時にあいつシャワー中だったぞ。下道たちからナンパされた時間までは外にいたはずのつららが俺の部屋にすでにいたのはあまりにも早すぎるだろ」
とはいえ、いちいち細かい時間は見てないから確証はないけど。
「はぁ……何を言うかと思えば、翔輝くんの勘違いと思い込みの話じゃないですか」
「ん?」
勘違い?
電話を受けた時に新葉が部屋にいると言い訳したのは俺が先なんだよな。それで実際にいたって話なわけだが。
「そもそもナンパされたのはわたしじゃないし、新葉さんは確かにこのお部屋で眠っていましたもん! 眠っているのを起こすのは悪いのでわたしはすぐ外に出ました! その後すぐに翔輝くんがいそうなところを歩き回って……わたし、嘘なんかついてないですもん!!」
やばい、これはちょっと泣きそうな予感がする。
「あ、いや……でもあの場所から俺の家まではそこそこの距離があるし、そんな瞬間移動みたいな移動は出来ないんじゃないかなと」
「新葉さんが寝転がっているのを見るのに数分もかかりませんけど? それともこの部屋にわたしがいなかった……って思ってるの?」
俺の言い訳がここまで苦しい展開を生むことになるなんて、これはまずい。好かれてもいない俺がここで嫌われたら取り返しのつかないことになるんじゃ?
「はろ~! 新葉さん、復帰だぜ!!」
院瀬見に対し何も言えなくなったところで、新葉が戻って来た。こうなればこいつに正直に言ってもらうしかない。
「新葉――」
「新葉さん。シャワーを浴びる前に、このお部屋で眠ってましたよね?」
くっ、院瀬見の方が早かったか。
「ほぇ? ま、まさか、よだれを見られた!?」
「いえ……でも、ありがとうございます」
「ええぇっ!? ありがとうって、まさかつららちゃんにそんな性癖が~!?」
「違います!!」
移動速度が速くて、しかも新葉の寝姿も見ていたのは本当だったようだ。
もう一度激しい土下座ポーズで謝る態勢を取るしか――
――うおっ!?
新葉のしょうもない対応をしていたかと思いきや、気配を消して院瀬見は俺をじっと見ていた。
冷めた眼差しで何を言うかと思えば、
「……翔輝くんのお気持ちはよく分かりました。やっぱりわたしではまだ足りないんですね?」
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