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第四章 迷わない関係
第70話 初めて記念日?
しおりを挟むこういう場合、相手が院瀬見だけなら何とかなりそうな気もするが、下道たちが目の前にいる以上変に誤魔化すのはかえって危険だ。
「どうしてかというと、それは……俺のワイシャツが泥だらけになってしまったからだ!」
「……はい?」
「つまり、制服の代わりに寄り添ってくれているというわけだ」
我ながら意味不明な言い訳をしてしまった。新葉はいつもどおりだからいいとしても、聖菜は院瀬見に見せつける為だけにくっついているはずだ。
しかし九賀は正直言って謎すぎる。新葉の手下になったとはいえ、俺にくっついてくるとか謎すぎるぞマジで。
「いやいや、翔輝会長。それはあまりにも苦しい言い訳っすね~!」
「だよな~。南はもっと潔い奴だと思ってたけど違うのか?」
下道の奴、俺をまた会長呼びするとか随分と調子のいい奴だな。鈴原も便乗してるし。
「言い訳じゃないですわよ? そこの男子くん」
「えっ? く、草壁先輩、それは本当なんすか!?」
「ですわ。つべこべ言わずにとっとと活動に入って欲しいザマス」
お前はどこの偽貴族なんだよ。
「……南は嘘ついてない。本当のこと。裸になろうとしてたから阻止してる。それだけ」
おいおい、ややこしくするなよ。俺がいつ露出狂になったっていうんだ?
「ウチも協力してるだけだしぃ。院瀬見さんがそこまで言わなくてもどうでもよくないですかぁ?」
「協力……そうなんですか? 翔輝会長さん?」
どうやら俺が露出するのを防ぐために密着している――そういう言い訳らしい。真実は全く異なるがそういうことにしてこの場は終えておこう。
「そういうことになるな。何せ、俺にとって重要な……それこそ制服を汚してでも必要な行動の結果でこうなっているわけだから彼女たちの協力は不可欠だったわけだ」
腕に絡んでいる二人に関しては俺がしてくれと言ったわけじゃないからな。
「……そうですか。必要だったわけですね。分かりました。じゃあその件についてはもう何も言いません。あなたの意思で今の状況になっていないことも分かりましたので、今は咎めません」
何とかなったか。新葉は放置でいいとしても、聖菜と九賀には変な行動をしないように後で言っておこう。
「じゃあ活動についてだが、そっちの新メンバーの紹介をしてくれるんだろ?」
「新メンバー? あぁ、そうですね」
院瀬見の合図で上田の妹の隣に座っている謎男子が立ち上がり、
「自分の名は、しずく。つららの協力者。以上」
冷めた低音ボイスであっさりと言い放った。
「……それだけ? 他に言うことは無いのか?」
「つららに嫌がることをした奴には容赦しない。以上」
「…………なるほど」
ここにきて許婚みたいな奴が出てきたな。院瀬見を下の名前で呼んでるし、妙な迫力まである。そのせいか下道や鈴原が委縮して何も言えなくなっているし。
「――というわけで、今期の活動については三年の草壁新葉がいる関係で、三年の教室にも入ることになるので心してもらう」
それはともかく、聖菜と九賀を引きはがしたところで何とか活動定例会を終了に持っていけた。
出だしは嫌な雰囲気になりそうだったものの、生徒会の活動内容を話し始めたらその場にいる誰もが黙って話を聞いていたので、それは良かったと言える。
定例会を終え、今日はこのまま解散――したまでは今までどおりだったのだが。
「わたしがどうしてこんなにも怒っているのか、翔輝さんは理解出来ていますか?」
「で、出来ていない」
家に帰った俺を待っていたのは、院瀬見の本気説教だった。新葉は二階に避難したが、俺だけは逃げようがないわけで。
「そもそも制服が汚れたのはわたしのせいですよね?」
「いや、あれは俺がつららの為にしたことで……」
「うん。それはいいんです! そうじゃなくて、どうしてあの二人が翔輝さんにくっついていたのかってことを言いたいんです!」
「あいつらがくっついていたことに気付くまで俺は気のせいだとばかり……」
新葉だけはすぐに気づけたが。
しかしそこまで怒るほどのことなのか?
「……もういいですっ! わたしもう寝ますから!!」
「お、おぉ。おやすみ、つらら」
「うん、おやすみなさい。翔輝さん」
いつまでも同じことを説教しても仕方が無いと判断してくれたようで、院瀬見はあっさりと自分のベッドにもぐりこんでしまった。
しずくとかいう謎男子のことも聞けずに終わったが、今は気にせず寝ることにする。
……うーん。気のせいか腕が重いような?
熟睡中にこんな思いをしたことなんて今まで無かったはずなのに、もしや金縛り現象とかいうやつなのでは?
しかし気にしたら負けるので、寝ることに集中してそのまま眠ることにした。
「翔輝さん、翔輝くん……起きて、起きてください。遅刻しちゃいますよ……」
「うーんうーん……」
「起きないなら起きるまでこのまましちゃいますからね?」
「…………むむむ? うぇっ!? 目の前につらら!?」
「はい、つららです。目覚めました?」
やけに腕に重さを感じるかと思いきや、俺の腕にくっついている院瀬見の顔が至近距離にあった。正確には身動きを封じられているくらいの近さだ。
「何を……しているのか聞いても?」
「翔輝くんの腕にくっついてます」
そうだろうな。いつから俺の布団に潜りこんだのか分からないが、無意識の中で感じていた腕の違和感がまさにそれだろう。
「見れば分かるけど、今の格好はどう見ても……」
「はい、添い寝です。わたしにとって初めての添い寝です」
以前保健室で似た状況になったことはあるが、あれは添い寝というものではなかった。
「初めての……って、え、何で……」
「何でもいいじゃないですか。わたしにとって初めての記念日なんですもん! 翔輝くんはそうじゃないかもだけど、これからもっともっと……初めてを作っていくからその第一歩なんです!」
何というか何と言えばいいのか。
「で、腕は何で?」
「わたしが勝手に腕にくっつきたかったからに決まってます! 悔しかったんですからね!」
「あ~……」
「でも、わたしじゃなくてこれからは翔輝くんが――してくださいね」
よく聞こえなかったが、この状況は多分俺にとっても初記念の日かもしれないな。
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