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第三章 恋と争う二人
第68話 膝の上でもよかったんですよ?
しおりを挟む「…………」
「あの、何してるんですか?」
「口を開けて待ってる」
「そんなのは見たら分かります! そうじゃなくて、まさかわたしが翔輝さんのお口の中に放り込むとでも思っているんですか?」
そうじゃないのか?
思わせぶりな感じだし、てっきり『あ~ん』をしてくれると期待しているんだが。もしかしなくても俺の勝手な思い込みというやつだったりするのか。
角度の問題だとしたら顔を傾けたりしてみるか?
「これでどうだ?」
「えっと、そうしたいのは山々なんですけど、箸を忘れてきちゃったから無理なんです」
「――えぇっ!? それ、だって手で食べるサンドイッチ……」
「うん。わたしは手で食べられます。翔輝さんに食べさせるつもりだったんですけど、割り箸を忘れちゃいまして、なので……今日はごめんなさいっ!!」
顔を斜めに傾けたり、口をいつもより大きく開けた俺の努力って一体。朝早く作ってくれていたのは良かったとして、割り箸が無いごときで昼抜きはキツい。
「そ、それなら――これでどうだ!!」
こうなったら制服が汚れても仕方ない――という勢いで、俺は院瀬見が座るベンチの真下に仰向けに転がってそれをしてくれるのを待つことにした。
もちろんスカートの中身を気にする余裕などないし、こんな行動をして変態と罵られても仕方が無いがやむを得ない。
「そ、そこまでするんですか? 翔輝さん、生徒会長なのに……」
「は、早くサンドイッチを口の中めがけて落としてくれ!」
この状態で冷静になって考えたが、確かに俺の口の中にサンドイッチごと指を突っ込む行為はあり得ないことだ。それも好きでも無い相手に対して。
「もう~仕方ない人ですね。じゃあ半分こにして落とすので、ちゃんと口で受け止めてくださいね?」
俺の希望を汲んだようで、院瀬見は手にしたサンドイッチを半分にちぎって地面で待つ俺の口の真上をめがけて手を動かし始めた。
「ぷっ、ぷわっ!? ちょい待った! トマトの汁が目に~!!」
「えっ? あ……そ、そうだよね。ハムの方にするべきだよね」
「目が~目が~! ああぁぁぁ……」
完全に不意打ち攻撃だ。まさかトマトで視界を奪われるとは。この場に誰も来ないのをいいことに、俺は大口を開けながら叫びまくった。
「――あぁぁぁぁ……んぐっ……もぐ…………んぐ、ん?」
叫んでいた俺の口を塞ぐかのように、口の中に次々とレタスやら卵やらが放り込まれている。
「ふぅっ……」
「……落ち着きました? というか、そこまで騒がなくてもいいのに」
「突然だったから焦ってしまった。悪いな、つらら」
「ううん、まさか汚れるのをものともしないで地面に転がるなんて思わなかったし。そこまでわたしのを――とか思わなくて。……美味しかったですか?」
味を――と言われると、正直言ってよく分からなかった。
昼抜きだけは避けたかったというだけの理由に尽きるだけだし、やはり真上から食べ物を落とされて食べても美味しさを感じにくいみたいだ。
「よく分からなかった。ごめん」
こういう場合、相手が相手だけに素直に言っておくのが無難だろう。
「……でしょうね。あんな食べさせ方をしたのはわたしも初めてでしたもん。素直に言ってくれれば……もしくは、わたしに隙があったわけだから行動してくれればよかったのに」
そう言いながら院瀬見は自分の膝の辺りをポンポンと叩いてみせた。
「隙? それはむしろ俺の方では? ほぼ無防備に地面に寝ていたぞ?」
「……隙があったら好きにしていいって言ったのを忘れてるんだ?」
「隙があったら――いや、それはつららのセリフだった気が」
「どっちでも良くて! そうじゃなくて、翔輝さんらしくなかったのは残念ってだけです」
生徒会長らしからぬおバカな行動のことだろうな。誰もいないであろう庭園の地面に、仰向けになって餌を待つ魚になっていたわけだし。
しかし一応、腹を空かせることにはならなかったので良しとする。院瀬見も自分の分をすでに食べ終え、弁当箱を片付けているようだ。
「ここが秘密の場所ってことは理解したし、昼はここで食べるって認識でいいのか?」
学食カフェと教室以外で食べるとなると、多分ここが最適になるはずだ。
「気に入ってくれたようで何よりです! でも秘密のショートカットは内緒ですよ? ここに来るんであれば、普通に来るのがおすすめです!」
「……ん? いや、そうじゃなくて」
何か言ってることが噛み合わないんだが?
「この場所をお気に入りにしてくれたんですよね? 翔輝さん」
「まぁな。そうじゃなくて、俺とここで一緒に食べるって意味じゃ?」
「えっ? あっ――あぁ……なるほど。それも悪くないんですけど今回は減点があったので、またの機会があったら一緒に食べるかもです」
何だ、減点って。
やはり変態っぽい行動を起こしたのがミスったのか?
「そうか。それならまたの機会を待つことにする」
「じゃあ戻りましょうか」
言いながら、院瀬見はショートカットではない正規のルートへと足を向ける。
「あれ? 非常口の方じゃないのか?」
「一方通行なんですよ、あそこ。逆へは戻れないの」
「そうなのか。それは不便だな……」
「だから秘密のショートカットなんですよ!」
おそらく知っているのは院瀬見くらい。そうだとすると俺が一人で来る意味は無いことを意味する。
何の減点なのか知らせずに俺の前を歩く院瀬見だったが、校舎に近づこうとする直前になって俺に振り向いたかと思えば、目を細めながら意味深に微笑んでいる。
「それにしても翔輝さん、残念でしたね?」
「何が?」
「何も地面に寝転がらなくても、わたしの膝の上にでも寝転がってくれたら素直に食べさせることが出来たのに。それこそ前はもっと……」
何だと!? もしやそれが減点か?
期待外れだったという意味なら完全に俺の判断ミスだな。なんてこった。
「まぁ、いいです。その他どうでもいい男子とは違うことをしてくれる翔輝さんを信じてわたしは待つだけなので」
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