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第二章 当たり前の二人
第47話 嘘じゃなくて本当に?
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院瀬見との待ち合わせ場所は嫌だったが女子寮の玄関にした。学校に行くだけとはいえ、さすがに学校近辺だと変な邪魔が入りかねないからだ。
しかし場所が場所だけに、院瀬見よりも先にこいつと必ず会話をしなければならないのが問題なわけで。
「ほほぉ、つららちゃんから翔輝くんと呼ばれてるなんてね~。すごいじゃん! とうとう翔輝にも訪れてしまったのだね。それも最強美少女が! うんうん……あたしも頭が高いよ」
「それを言うなら鼻が高い……だろ」
やはり何もかもが惜しい幼馴染だこいつは。こいつなりに喜んでくれているのは分かるが、まだ成功するかは分からないからな。
「そうそう、七ちゃんも喜んでいたよ!」
「まだ確定してないし、何も言って無いぞ」
「ほろ? そうなの? 言っちゃいなよ~。あ――実は今日が記念日になるんだね!? そうなのだね?」
「知らん」
七石先輩はすっかりタレント活動で大忙しのようで、ほとんど会うことが無くなった。しかし新葉とは連絡を取り合っているようで、近況は大体聞いている。
七石先輩には落ち着いた時にでもお礼を言っておくとして。
「そういうお前はどうなんだよ? 北門のつきまといは解決したのか?」
俺の補佐でもあった元副会長の北門は、最初こそ院瀬見に惚れて俺に脅し文句を言い放っていたが、新葉に夢中になってしまったらしくつきまとうようになっていた。
特にあのナンパの日はかなりしつこかったようだ。そんな悪い奴じゃなかったのに、何でつきまといまでしてしまったのか。
下道や上田は害が無いので現状維持だが、北門は謹慎を喰らったと聞く。夏休み中なのが幸いしたとはいえ、生徒会メンバーから外されることになってしまった。
「北門? 誰だい?」
「……いや、誰でも無い」
新葉は基本的に底抜けに明るい性格だ。とっくに忘れているようだし思い出させても良くないだろうから聞くのはやめとこう。
「翔輝くん」
「……ん?」
新葉に気を遣ってやろうとしていたら、院瀬見が来ていた。夏休みであっても学校に行くということで制服姿だ。この辺はさすが真面目かつ優等生らしい。
それに対し、俺も一応制服を着て来ている。生徒はともかく校内には誰がいるか分からないので用心に越したことはない。
「お待たせです。あ、翔輝くんも制服なんですね。良かったです!」
「まぁな」
「ぬふ……んんっ。ごきげんよう、つららちゃん」
俺と院瀬見のやり取りを見て薄ら笑いを浮かべる新葉だが、すぐにいつものこいつに戻った。
「草壁先輩! 今日は翔輝くん、お借りしますね」
「よござんす! そんなもんでよければ好きなだけ借りちゃって! でも、もしいらなくなったらあたしが引き取って差し上げよう」
またしても変な言葉――は、一生直らないからどうでもいいか。
「……? どういう意味でしょう?」
「フフフッ。今日は翔輝もつららちゃんにとってもきっと、記念になる日だと思うわ。あたくしからはそこまでしか言えないの。ごめんあそばせ」
「記念……あ、渡り廊下のことですよね! 確かに記念ですね」
新葉の俺を見る目が憐みに変わっているようだが、渡り廊下が記念になるわけがないだろ。新葉はやはり何かが足りなかったか。
新葉に見送られ、俺たちは学校へ向かうことに。
「翔輝くん。聖菜のことなんですけど~……」
「どした? 聖菜がまた何か?」
「二学期が楽しみ……ってメッセージが来てました。それ以上のことは何も……なんですけど、翔輝くんの方には何かメッセージ来ました?」
「いや……」
二学期からは男女が同じ教室になる。授業はもちろん、スポーツ授業も同じところで受けることになるわけだが、クラス分けはまだ公表されていない。
そんな状況なのに、聖菜は何かしらの情報を得ているという意味だろうか?
「不気味ですね……」
「平気だろ。気にしなくていいと思うぞ」
「う、うん」
院瀬見に対してというより、俺に何かしてくるだろうな。しかしそうだとしても恐れる必要は無い。
「それじゃ、わたしは霞ノ宮側から入りますね」
「分かった」
俺と院瀬見は事前に伝えていたとおり、それぞれの校舎から入り、渡り廊下がある近くで再会することにした。二人で見に行くだけだと面白くないという判断が下ったからだ。
出来立てほやほやの渡り廊下を渡るだけなのに、何でか俺の方が緊張してきた。しかも幸運なことに遭遇する生徒も少なければ、教員ともすれ違わなかったことで余計に緊張が増してきている。
「翔輝くーん! 久しぶりでーす! ここが真新しい渡り廊下なんですね!! ペンキの臭いがして出来立てって感じです~」
「おー」
「それじゃ、近づきますね」
「そうする」
何をアホなことをしているんだと言われそうだが、俺たちは古根と霞ノ宮の境界線に位置する廊下で対面を果たした。
そのまま近づきながら拳でお互いこつんとやる――という予定にしていたが、
「あー……つらら! ちょっとそこで止まってくれ」
「ほぇ? 何です?」
「ここでつららにはっきり言っておくことがある! とりあえずそれを黙って聞いてもらうぞ」
こういうところでべたな行動をとることにした。
「……どうぞ?」
「悪いが俺はつららのことが好きになってしまった! その辺のモブと同じになっちまった。つららは俺のことが好きでも嫌いでもなんでもないかもだが……つまり、そういうことだ!」
渡り廊下で『告白』をする――というアホな提案を聞いた新葉は笑いこけていたが、応援だけはしてくれた。俺から告るというのも妙な話だが、いい加減気持ちだけは伝えておこうと思ったから仕方が無い。
答えがどうであれ――だな。
「――翔輝くんがわたしを好き……それって――嘘……じゃなくて、本当に……ですか?」
しかし場所が場所だけに、院瀬見よりも先にこいつと必ず会話をしなければならないのが問題なわけで。
「ほほぉ、つららちゃんから翔輝くんと呼ばれてるなんてね~。すごいじゃん! とうとう翔輝にも訪れてしまったのだね。それも最強美少女が! うんうん……あたしも頭が高いよ」
「それを言うなら鼻が高い……だろ」
やはり何もかもが惜しい幼馴染だこいつは。こいつなりに喜んでくれているのは分かるが、まだ成功するかは分からないからな。
「そうそう、七ちゃんも喜んでいたよ!」
「まだ確定してないし、何も言って無いぞ」
「ほろ? そうなの? 言っちゃいなよ~。あ――実は今日が記念日になるんだね!? そうなのだね?」
「知らん」
七石先輩はすっかりタレント活動で大忙しのようで、ほとんど会うことが無くなった。しかし新葉とは連絡を取り合っているようで、近況は大体聞いている。
七石先輩には落ち着いた時にでもお礼を言っておくとして。
「そういうお前はどうなんだよ? 北門のつきまといは解決したのか?」
俺の補佐でもあった元副会長の北門は、最初こそ院瀬見に惚れて俺に脅し文句を言い放っていたが、新葉に夢中になってしまったらしくつきまとうようになっていた。
特にあのナンパの日はかなりしつこかったようだ。そんな悪い奴じゃなかったのに、何でつきまといまでしてしまったのか。
下道や上田は害が無いので現状維持だが、北門は謹慎を喰らったと聞く。夏休み中なのが幸いしたとはいえ、生徒会メンバーから外されることになってしまった。
「北門? 誰だい?」
「……いや、誰でも無い」
新葉は基本的に底抜けに明るい性格だ。とっくに忘れているようだし思い出させても良くないだろうから聞くのはやめとこう。
「翔輝くん」
「……ん?」
新葉に気を遣ってやろうとしていたら、院瀬見が来ていた。夏休みであっても学校に行くということで制服姿だ。この辺はさすが真面目かつ優等生らしい。
それに対し、俺も一応制服を着て来ている。生徒はともかく校内には誰がいるか分からないので用心に越したことはない。
「お待たせです。あ、翔輝くんも制服なんですね。良かったです!」
「まぁな」
「ぬふ……んんっ。ごきげんよう、つららちゃん」
俺と院瀬見のやり取りを見て薄ら笑いを浮かべる新葉だが、すぐにいつものこいつに戻った。
「草壁先輩! 今日は翔輝くん、お借りしますね」
「よござんす! そんなもんでよければ好きなだけ借りちゃって! でも、もしいらなくなったらあたしが引き取って差し上げよう」
またしても変な言葉――は、一生直らないからどうでもいいか。
「……? どういう意味でしょう?」
「フフフッ。今日は翔輝もつららちゃんにとってもきっと、記念になる日だと思うわ。あたくしからはそこまでしか言えないの。ごめんあそばせ」
「記念……あ、渡り廊下のことですよね! 確かに記念ですね」
新葉の俺を見る目が憐みに変わっているようだが、渡り廊下が記念になるわけがないだろ。新葉はやはり何かが足りなかったか。
新葉に見送られ、俺たちは学校へ向かうことに。
「翔輝くん。聖菜のことなんですけど~……」
「どした? 聖菜がまた何か?」
「二学期が楽しみ……ってメッセージが来てました。それ以上のことは何も……なんですけど、翔輝くんの方には何かメッセージ来ました?」
「いや……」
二学期からは男女が同じ教室になる。授業はもちろん、スポーツ授業も同じところで受けることになるわけだが、クラス分けはまだ公表されていない。
そんな状況なのに、聖菜は何かしらの情報を得ているという意味だろうか?
「不気味ですね……」
「平気だろ。気にしなくていいと思うぞ」
「う、うん」
院瀬見に対してというより、俺に何かしてくるだろうな。しかしそうだとしても恐れる必要は無い。
「それじゃ、わたしは霞ノ宮側から入りますね」
「分かった」
俺と院瀬見は事前に伝えていたとおり、それぞれの校舎から入り、渡り廊下がある近くで再会することにした。二人で見に行くだけだと面白くないという判断が下ったからだ。
出来立てほやほやの渡り廊下を渡るだけなのに、何でか俺の方が緊張してきた。しかも幸運なことに遭遇する生徒も少なければ、教員ともすれ違わなかったことで余計に緊張が増してきている。
「翔輝くーん! 久しぶりでーす! ここが真新しい渡り廊下なんですね!! ペンキの臭いがして出来立てって感じです~」
「おー」
「それじゃ、近づきますね」
「そうする」
何をアホなことをしているんだと言われそうだが、俺たちは古根と霞ノ宮の境界線に位置する廊下で対面を果たした。
そのまま近づきながら拳でお互いこつんとやる――という予定にしていたが、
「あー……つらら! ちょっとそこで止まってくれ」
「ほぇ? 何です?」
「ここでつららにはっきり言っておくことがある! とりあえずそれを黙って聞いてもらうぞ」
こういうところでべたな行動をとることにした。
「……どうぞ?」
「悪いが俺はつららのことが好きになってしまった! その辺のモブと同じになっちまった。つららは俺のことが好きでも嫌いでもなんでもないかもだが……つまり、そういうことだ!」
渡り廊下で『告白』をする――というアホな提案を聞いた新葉は笑いこけていたが、応援だけはしてくれた。俺から告るというのも妙な話だが、いい加減気持ちだけは伝えておこうと思ったから仕方が無い。
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