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第二章 当たり前の二人

第46話 カワイイ嘘

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「つららさん、じょ、冗談ですよぉ……アハハ、でもそこの南と何も無いんだとしたらどうなるか分からないかもですよ? それじゃ、おつです~」

 院瀬見が次期生徒会副会長だという話に納得した九賀は、俺への興味を薄くしてあっさり帰って行った。もちろんスクープ的な情報なので、院瀬見からはかなり厳しく口止めを受けていた。

 九賀に対して院瀬見が厳しくなったのはそれだけが理由じゃなく、帰る直前になって俺のことを弄ったのが直接の原因でもある。

 ◇

「つららさんが副会長……と。分かりました~。それはそれとしてなんですけど~、南さんを狙うのは問題無いですよね~?」
「えっ? みずきさんが……? それってどういう――」
「私ぃ、実は南さんのことが結構気に入ってまして~、二学期から本気出そうかなって思ってるんですよね~」
「えっ、えぇ!? え、ウソ……好き――ってこと?」

 何を言うかと思えばそれか。その話題のことをまだ継続してたとか、中々にしぶとい奴だな。とはいえ、こんな突拍子の無い嘘に騙される院瀬見じゃないと思うが。

「好きですよ? こいつ、案外面白い奴ですし~」

 心にもないことを軽々と言う奴だ。それなのに院瀬見の顔には余裕が消えているように見える。

 まさかと思うが信じてないだろうな?

「……冗談ですよね? みずきさんはわたしの推し女なんだから南さんのこと、好きになったら駄目ですよ」
「いやぁ、推し女活動はきちんとしてるつもりなので~。でも恋愛するのは自由じゃないですかぁ。だからつららさんに文句を言われる筋合いは~……」
「駄目っ!! そんなの、認めないんだから! それ以上ふざけたことを言うつもりなら――」
「アハハ~冗談ですよぉ。そんな、本気で怒らないでくださいよぉ」

 ――などと、段々と院瀬見が本気でブチ切れそうになりそうなところで、九賀の方が先に折れた。

 あのままからかいを続けたら俺に怒りの矛先を向けかねなかった。

 ◇

「翔輝くんっ。あのあの、ごめんね!」

 九賀がいなくなった直後、院瀬見は俺に深々と頭を下げながら謝罪をしてきた。

 その理由はもちろん、

「……副会長の件は嘘だったんだろ?」
「うん。嘘……でした。でもでも……本当になったら嬉しいなぁって思ってて」

 人差し指を合わせながら恥ずかしがっているが、それはもう可愛さアピールとしか思えない。しかしさっきまでの怒りはどこへ消えたんだろうか。

 そういう態度を見せてくるなんて、俺も気持ちをはっきり出していかざるを得ないな。

「んー……ま、まぁ、俺も嬉しいかもな」
「本当っ?」
「まぁ、大体は」
「えへへ……じゃあ決めちゃいますね!」
「何を?」

 一体何を決めたのかと思っていると、院瀬見はスマホを取り出してどこかに電話をかけ始める。

 俺が近くにいるのに聞こえてしまうのはアリなんだろうか。

「院瀬見つららです。……はい、了承を得ました。ですので、二学期からはそのように進めてください。はい、よろしくお願いいたします……っと。オッケーです!」

 この言い方はもしかしなくても学校への連絡なのでは?

「な、なぁ、今のは――」
「はいっ。本当にわたし、副会長になります! その了承を得られたんです。これでいつでもどこでも翔輝くんのそばにいられますねっ!」
「――っ! 本当にもうこれはアレだな。俺も素直になるしかないってことだな……」
「はい? 翔輝くんが素直に? また何か隠し事でもしてるんでしょ~? 正直に言えば許してあげなくも無いですよ?」

 九賀との妙なやり取りのことを言っているんだろうが、これを言えばまた不機嫌になるだろうか。しかしここで言うのも俺の意に反するし、もったいぶるのも手だな。

「あーまぁ、何だ。実は……」
「うんうん、実は?」
「完成したらしいぞ」
「うんうんうん……え?」

 この前の生徒会活動の時、北門たちメンバーにも伝えきれなかったことがあった。あの時は北門とアレの問題があったからというのもあるが、二学期がもうすぐ始まるということもあって、いよいよソレが完成するという話を教員から聞かされた。

 についてはまだ誰にも知らされていないし、ごく限られた者にしか教えていない。さすがに新葉アレには教えてしまっているが、アレの反応は俺的には非常につまらなかったのを覚えている。

 ◇

「ほー……? さすがは生徒会長だね! でもそれをあたしに教えていいのかい? つららちゃんには教えたの?」
「……まだだ」
「ほぅ? ほほぅ? あたしには読めたぜ?」
「何だよ?」

 普段はアホの子なのに、こういう時だけ頭が冴えているのは何でなんだろうか。

「つまらない翔輝が考えることなんてあたしにはお見通しなんだぜ? サプライズ返しをするつもりがあるのだね? ふふん、正解だろー?」
「ちっ」

 安易すぎたか?

「まぁ、それも青春さね。いよいよあたしから卒業する時が来たのだね。頑張りたまえ! 二学期が始まる前にあたしがお祝いをしてあげよう!」
「うるさい、黙れ!」
「フフフッ。わくわくするぜ~! まぁ、フラれたら幼馴染のお姉さんがいっぱい抱きしめまくっちゃうよ!」

 ――などと、俺が考えていることがバレバレだったのが悔しかった。

「翔輝くん、何が完成したの?」

 ただし、これはサプライズにはなれないので答えを正直に言っておく。

「渡り廊下だ」
「……渡り廊下って、女子棟と男子棟を結ぶ廊下の?」
「それだ」
「え、何か面白そう~! もう通れるの?」

 この辺りがアレと違うな。ちゃんと好反応をしてくれる。

「まだ関係者くらいだけど、俺なら可能だ」
「行きた~い! 二学期が始まる前に先に歩いてみたい!」

 そう言うと思っていた。

「よし、じゃあ明日はどうだ?」
「うん。大丈夫! 先にそこで待ってればいい?」
「いや、待ち合わせをするぞ。勝手に通れないし、近くには工事関係者がいるからな」

 もちろん嘘だが、俺なりのサプライズだから嘘をついておく。

「同じ学校なのに待ち合わせっていうのもおかしいよね~。でも、特別っぽいから許してあげます!」
「じゃ、帰るか」
「ですね! 生徒会副会長にもなるし、二学期が始まるのが楽しみです!」

 その前に俺も覚悟を決めないと……だな。
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