上 下
43 / 78
第二章 当たり前の二人

第42話 危険な恋敵

しおりを挟む
「な、なぁ? おかしくないか?」
「……何がです?」
「モールに入ってから俺だけずっと見られてるんだけど……」

 俺と院瀬見は学校を出てからるるポートに入るまで、ずっと腕を組みながらここまで歩いて来た。

 夏休み中が幸いして学校の近くでは気にする必要は無かったが、ショッピングモールに来た途端、腕を組んでいるだけの俺たちは周りの客から一斉に注目を集めた。

 どう考えても普通じゃないのは明らかで、その原因を作っている本人はまるで自覚が無いのか首をかしげている。院瀬見はともかく何で俺が見られているのか。

「それはだって、見ちゃいますよ」
「つららはそうだろうけど、俺はなるべく目立ちたくないのに……」
「わたし、優勝者ですから! だから翔輝くんは見られちゃう運命なんです」

 ドヤ顔をされても、それはそうだろうなという感想しか出てこない。

 とはいえここは学校の連中の女子や女性客が多く、一人だけで来ている男性客は皆無だ。そうなると男はどうしても目立ってしまう。

 そもそもこのモールで美少女選抜の予選をしたと聞いているだけに、院瀬見つららがいれば嫌でも目立つ。認知度が段違いっていうのもあるが。

「そもそも好きでもない奴と腕組みしてるのを見られて平気なのはどうなんだ?」
「嫌いでもないですし」
「……それはもう何度も聞いた」
「うんうん」

 駄目だ、何を言ってもそれしか言わなくなってる。

 何もしなくても人目を引くのに、その隣を大したことのない男がくっついていれば何事かと見てしまうのは当然か。

 ……自分で言ってて悲しくなるな。

「しかし前もそうだったけど男より女性率が高いな」
「それはそうですよ~。このモールって霞ノ宮女子が気軽に来れるところですもん。ここに来れば大体揃いますし、カフェもあるので気楽なんです」

 そういや――

 交流会の時は見栄を張って詳しいなどとほざいていたが、実のところほとんど訪れることが無い。図書カフェに行く順路までは覚えているものの、他のショップのことまでは正直言って知らなかったりする。

「――で、この前行ったカフェに行くんだろ?」

 別に安上がりのカフェじゃなくてもいいが、院瀬見に案内出来るレベルじゃない。

「んー……先に水着ショップに行きたいです」
「……何でそんなところへ?」
「もちろん水着を着る為ですけど、何かおかしいこと言いました?」
「おかしくない……」
「でしょ?」

 夏休み中だから何もおかしなことじゃないけど、何で今なんだか。

「それじゃ、翔輝くんはこのままついて来てね」
「分かった……」

 力づくで抜けようと思えば出来た。しかし悲しいことに俺よりも院瀬見の方が腕っぷしが強いうえ、なまじ注目を浴びてしまった以上うかつなことは出来そうに無いのは確かだ。

 院瀬見と俺は腕を組んだまま、アパレルショップが並ぶモール二階に来た。ほとんど女子向けばかりが目立ち、客も女性ばかりで俺だけアウェイ状態だ。

「翔輝くん、どれがいい?」

 何で俺に聞くんだか。

「動きやすくてオシャレなものなら何でも」
「えっ?」

 俺がおかしなことを言ったかのように、院瀬見はまた首をかしげている。

「……泳ぐんだろ?」
「ううん、泳がない水着が欲しいの」

 まさかの観賞用だとすれば誰かに見せる系か?

 院瀬見の場合、その辺に立ってるだけでも魅力的だ。たとえ泳がなくても水着で肌を露出すれば、勝手に色気を放出する可能性がある。

「海に行って見せびらかすだけなら何でもいいんじゃないのか?」
「もうっ! もういいです。わたしだけで勝手に決めるんだから! 翔輝くんはその辺のベンチで座って待っててくださいっ!」

 好かれても嫌われてもいないただの野郎に何で泳ぎもしない水着を聞いてくるのか意味が分からないし、強引に連れられてきたのにあっさり店内から追い出されるとは予想外だ。

 とはいえ、勝手に動いても面倒なので黙って待つことにした。

「…………」

 アウェイな状態なだけにその辺を見回すと通報されかねない。

 それでもいつ戻ってくるか不明なので水着店をちらちら気にしていると、

「南は女装もしたりする……?」
「あん? お前……聖菜せな?」
「そう、聖菜。奇遇な出会い、やっぱり運命感じる」

 当初は院瀬見の推し女として紹介された十日市聖菜。だが、院瀬見によると油断してはいけない相手らしい。

 こいつとは七石先輩関係のバイトで少しだけ関わったが、その後は直接会うことが無かった。それがまさかこんなところで会うとは。

「よく分からんが、俺は女装の趣味は無い。俺はただここで座ってるだけだ。お前は何でここにいるんだ?」
「不思議なのは南がここにいること。私は何も不思議じゃない。でも出会ったから不思議かも?」
「……かもな」

 院瀬見と鉢合わせしないでくれよ真面目に。

「この水着、似合う?」

 多少の警戒をしながら話していたら、どういうわけか目の前で購入したらしい水着を俺に見せつけてきた。

「いや、俺は分からないな」

 聖菜に対し冷たい態度になってしまうが、直感的に危険な女子だと感じるからだ。もちろん、事前に七石先輩から少しだけ聖菜のことを聞いているというのもある。

「海にいつ行く?」
「さぁな。それは聖菜が決めればいいんじゃないか?」
「そうする。都合、いつがいい?」
「……俺は一緒に行くとは言って無いけどな」

 人の話を聞かない子か。気質がかなり危ない気がするな。

「翔輝くーん! お待たせです。待たせてごめ――」
「院瀬見つらら。何でここに?」

 あぁ、やはりそうなるよな。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...