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第二章 当たり前の二人

第41話 知りたいですか?でも、

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「翔輝くんのことを好きって、誰が?」
「つららが」
「……えっ? わたし――ですか?」
「ま、まぁな」

 いきなりそんなことを聞かれるとは思ってなかったっていうより、呆気に取られた感じだな。

「……ふーん。知りたいですか? そうだとしたらがっかりですね」
「え?」

 さっきまでの笑顔が消えてどういうわけか不機嫌そうにしてるんだが。

「あーあ……せっかく違うと思っていたのに、翔輝くんもその辺のつまらない男子と同じなのかな?」

 そうかと思えば不貞腐れてるし。そういやこいつの最初って確か。

「あん? 同じかどうかは知らん。俺はただ聞いてるだけだぞ」
「その先を求めてるとかじゃないって意味?」
「そうだけど?」
「本当にそうなんですか?」

 なんだ?

 もしかしなくても、その辺のモブ男子がするような質問がタブーなのか?

 そうだとしたら――

「――おっと、勘違いするなよ? 俺はその辺の奴らと違ってマニアックな好み……いや性癖だぞ? ちょっとやそっとの好意だとか行為で落ちるほどちょろい奴じゃない」
「……うん、知ってました。翔輝くんってシスコンだから、そう簡単にいかないと思ってました」
「シスッ……!?」

 姉なんていないんだが?

 いや、幼馴染のアレの存在が院瀬見を脅かしてるだけか。

 しかし俺のとっさの誤魔化しで何とかなったようで、院瀬見の表情が分かりやすいくらいに明るくなっている。

「翔輝くん」
「……ん?」
「でも、どうしても聞きたいなら――」

 かと思えば急にじらし始めたな。聞いた俺の方が面倒くさくなってきた。

「いや、もういいよ。どうでも。軽く聞いてみただけだし」

 この話はこれで終わりにする――そう思っていたのに、院瀬見は俺を見ながら意地悪っぽく笑いながら、
 
「わたし、翔輝くんのこと、好きじゃないです」

 と、バッサリと言い放った。

 俺の反応を待っているかのように、期待を込めた上目遣いをしてくる院瀬見に対し、

「だろうな」

 俺は無関心のごとく淡々とした返事をしてみた。

 それなのに、

「でも、嫌いでもないんです」
「あん?」

 随分と曖昧な答えを出してきた。

「そんなことはどうでもよくて~」
「ぐえっ?」

 夏休み中で廊下には誰もいないことをいいことに、院瀬見は俺の真横に近づいたと思ったら体当たりをしてきた。

 そしてそのまま体を寄せながら、

「翔輝くん、わたしにくっつかれて嬉しいよね?」
「……好きじゃない奴にこんなことする奴なんだな。何でこんなことをするんだ?」
「嫌いでもないわけですし、ぶっちゃけどうでもいいじゃないですか~」

 などと、ちゃっかりと腕を絡めてくる。

「俺を捕らえてどうするつも――」

 文句の続きを言おうと思ったら手の平で口を押さえつけられた。不機嫌そうにしていたくせに、今は真逆の表情でいたずらっぽく笑っている。

「翔輝くんはこれ以上、しゃべらなくていいの」
「…………んぬぬ」
「それじゃぁ、お昼ご飯に行きましょ~」
「……んんんーー」

 てっきり女子棟のカフェに行くかと思ったが、あそこにはアレがいるし北門もいるはずだからさすがにそこじゃないようだ。

「ぷはーーーっ」

 校舎の外に出たところで、ようやく口を開くことを許された。

「どこに行こっか?」

 しれっとそんなことを聞いてくるなんて調子のいい奴だな。

「……あそこでいいんじゃないのか? るるポートの」
「あっ、いいですね、そこ! うんうん、さすが翔輝くん」
「でも女子の誰かと遭遇するかもしれないけどな」
「別にいいんじゃないですか?」
「へ?」

 かつて交流会を開いたるるポートは、この辺の学生が気楽に利用しているショッピングモールだ。以前行った時でもそこそこいたが、今は夏休み中なこともあって予想よりも見知った顔がいる可能性が高い。
 
 もちろん遭遇する相手によるが、推し女だとすれば色々厄介な展開になるのは目に見えている。

「別にいいって……腕を組んで歩いてるんだぞ? 推し女の誰かだとしたら絶対に何か言われるだろ」
「でもまだ付き合ってないんですよ? それにこれは、ただのエスコートなので問題無いです」
「う……それはそうだが」
「じゃあいいじゃないですか! つべこべ言わずにとっとと歩いてくださいよー」

 この押しの強さは新葉と同じだ。何でもかんでもあいつと比較するのもどうかと思うが、選抜に選ばれるだけあって強い所が似ているんだよな。

「好きでも無いのによくやるよ、全く……」
「でも、嫌いじゃないので! そこは勘違いしたら駄目です!」
「あ、はい……」

 手が付けられないとはこのことか。

「うんうん、良く出来ました!」
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