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第二章 当たり前の二人
第36話 悪いが、見えてる(え?
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「えーと、つららさん? 俺の話を……ちょっと立ち止まっ――」
「言い訳は後で聞きます! そんなことよりも、人通りが少ないところに行くのが先決です! 黙ってわたしに手を引かれてもらいますから!!」
院瀬見の言う言い訳とは、もちろんナンパをしたあいつらと一緒にいたことに違いない。そうじゃなければこんなにも苛立ってないはず。
俺の手を力強く握って離そうとしないのが何よりの――
「――ど、どこまで行くんだ? ひと気の無い所まで行く必要は無いと思うんだけど……」
院瀬見はへそ出しスタイルで歩くにはまだいいとしても、俺からすれば歩きづらそうな格好をしている。それなのにそれすら気にする余裕がないのか、ただひたすらに前進を続けて止まるきっかけすら失っているようだ。
彼女の言う人通りの少ない道はとっくに過ぎていて、むしろちょっと治安的に不安そうな道に差し掛かっている。
「もう~!! ムカつくムカつくムカつく!」
「――って、あ……雨が降ってきたんだけど? つららさん? 俺の声が聞こえてるか? 麦わら帽子が落ちたぞ~? お~い?」
「…………」
これは――完全にキレてるな。
俺にというよりあいつらにって感じだが、塩対応してたから問題無いと思っていたのに全然平気じゃなかったわけか。
俺の手を握る彼女の手も力が入っていて、少しだけ熱さを感じてしまう。
だが、ぽつぽつと降っていた雨粒がかなり激しさを増して、さすがに上半身や頭を濡らし始める。通行人の姿もまばらになり、建物の中へと引っ込み始めた。
「つっ、冷たっ!? えっ……?」
「……ようやく気づいたな」
「え、どうしてこんなにずぶ濡れに……しょ、翔輝さんの仕業なの!?」
「アホか!! 俺じゃなくて自然だ。文句は自然に言ってくれ」
俺も院瀬見も全身ずぶ濡れ状態と化した。
あいつらがいた場所から相当遠くの場所にまで移動して来たわけだが、今いる場所は明らかに表通りじゃなくどちらかといえば、普段は絶対に近づかない裏通り。
しかも立ち入ってはいけないエリアのようで、装飾が派手な建物が通りのほとんどを占めている。もし夜だった場合、かなり煌びやかなネオンになること間違いなしで、何も知らない院瀬見なら素直に入りそうな予感がしないでもない。
「しょ、翔輝さん……あの、服とか濡れて冷たいです。……乾かしたいのでどこか入っていいですか?」
「…………透けブ」
「――え」
「いや、悪い。見えた。もちろん悪気はないぞ?」
「…………う、嘘っ」
興奮状態で暴走して気づけなかったらしく、院瀬見は自分の胸元を見た後、口に手をやって戸惑いを隠せず状態だ。透けた下着を隠すことが出来ないこともあって、恥ずかしさで顔を赤くしている。
しかし顔を赤くさせていたのもつかの間で、へそ出しで体の冷えが一気にきたようで体を大きく震えだした。
こういう時こそ俺が何とかするべきなんだろうが、このエリアの建物に入るのはさすがに躊躇いが生じる。
「翔輝さん、すぐ目の前にあるビルに入ってください! も、もう限界が近いです……」
「目の前……いや、まずいだろさすがに」
「問題無いです! だってファッションホテルって書いてます!」
「いや、それは意味が違――」
「――とっとと入りますから、翔輝さんもとっとと入ってください!!」
何かをするつもりもなく、そこで時間を消費しようという邪《よこしま》な考えは一切無い――のだが。
何も知らずに部屋に入った院瀬見は俺の心配をよそに、何の迷いも無くシャワールームに入ってしまった。部屋に入った時点で室温が暖かかったこともあって鼻歌まで聞こえてくる。
本人としては濡れた服を脱いで乾燥機にかけ、ついでに髪を乾かすつもりがあるのだろうが、まさかここが非常によろしくないホテルだなんて知るはずも無いわけで。
俺はというと未だに頭はずぶ濡れで、服も濡れた状態。正直言って寒さを感じて仕方がない。
そこに、
「翔輝さん、わたしだけシャワー先に浴びちゃいました! 翔輝さんも体を温めてください」
割とあっさりとした時間で院瀬見が部屋に戻ってきた。
「……いや、俺はいいよ」
もちろんそんなことにはならないが、場所が場所だけに妙な気分になる。
「駄目ですっ!! そのままにしたら風邪をひくじゃないですか! わたしだけ温まって、何てひどい女だ! って、翔輝さんなら絶対後で言うに決まってるもん。それは嫌なので浴びて欲しいの!」
俺への言葉遣いがすでに甘ったるくて理性を失いかねないんだが?
そのうえ彼女の今の姿は備え付けのバスローブ一枚だけになっていて、蒸気を帯びた長い髪が無駄に艶めかしい。
「……分かったよ。つららの服も乾くまで時間がかかりそうだし、俺もそうする……でも――」
「うん。なぁに?」
「ここがどういう部屋なのか、その辺に置いてるマニュアルでも読んで待っててくれ。もしくはモニターをつければすぐに熱も冷めるはずだ」
とりあえずシャワーで温まったら、速攻でここを出ることを考えよう。院瀬見とはそもそもそういう関係ですら無いし。
院瀬見の精神状態があまり良くない方向に予想されるが、俺もとりあえず体を温めることに集中する。
「ファッション……えーーーー!!」
俺がシャワールームに入ってすぐ、院瀬見の甲高い声が鳴り響いていた。
「言い訳は後で聞きます! そんなことよりも、人通りが少ないところに行くのが先決です! 黙ってわたしに手を引かれてもらいますから!!」
院瀬見の言う言い訳とは、もちろんナンパをしたあいつらと一緒にいたことに違いない。そうじゃなければこんなにも苛立ってないはず。
俺の手を力強く握って離そうとしないのが何よりの――
「――ど、どこまで行くんだ? ひと気の無い所まで行く必要は無いと思うんだけど……」
院瀬見はへそ出しスタイルで歩くにはまだいいとしても、俺からすれば歩きづらそうな格好をしている。それなのにそれすら気にする余裕がないのか、ただひたすらに前進を続けて止まるきっかけすら失っているようだ。
彼女の言う人通りの少ない道はとっくに過ぎていて、むしろちょっと治安的に不安そうな道に差し掛かっている。
「もう~!! ムカつくムカつくムカつく!」
「――って、あ……雨が降ってきたんだけど? つららさん? 俺の声が聞こえてるか? 麦わら帽子が落ちたぞ~? お~い?」
「…………」
これは――完全にキレてるな。
俺にというよりあいつらにって感じだが、塩対応してたから問題無いと思っていたのに全然平気じゃなかったわけか。
俺の手を握る彼女の手も力が入っていて、少しだけ熱さを感じてしまう。
だが、ぽつぽつと降っていた雨粒がかなり激しさを増して、さすがに上半身や頭を濡らし始める。通行人の姿もまばらになり、建物の中へと引っ込み始めた。
「つっ、冷たっ!? えっ……?」
「……ようやく気づいたな」
「え、どうしてこんなにずぶ濡れに……しょ、翔輝さんの仕業なの!?」
「アホか!! 俺じゃなくて自然だ。文句は自然に言ってくれ」
俺も院瀬見も全身ずぶ濡れ状態と化した。
あいつらがいた場所から相当遠くの場所にまで移動して来たわけだが、今いる場所は明らかに表通りじゃなくどちらかといえば、普段は絶対に近づかない裏通り。
しかも立ち入ってはいけないエリアのようで、装飾が派手な建物が通りのほとんどを占めている。もし夜だった場合、かなり煌びやかなネオンになること間違いなしで、何も知らない院瀬見なら素直に入りそうな予感がしないでもない。
「しょ、翔輝さん……あの、服とか濡れて冷たいです。……乾かしたいのでどこか入っていいですか?」
「…………透けブ」
「――え」
「いや、悪い。見えた。もちろん悪気はないぞ?」
「…………う、嘘っ」
興奮状態で暴走して気づけなかったらしく、院瀬見は自分の胸元を見た後、口に手をやって戸惑いを隠せず状態だ。透けた下着を隠すことが出来ないこともあって、恥ずかしさで顔を赤くしている。
しかし顔を赤くさせていたのもつかの間で、へそ出しで体の冷えが一気にきたようで体を大きく震えだした。
こういう時こそ俺が何とかするべきなんだろうが、このエリアの建物に入るのはさすがに躊躇いが生じる。
「翔輝さん、すぐ目の前にあるビルに入ってください! も、もう限界が近いです……」
「目の前……いや、まずいだろさすがに」
「問題無いです! だってファッションホテルって書いてます!」
「いや、それは意味が違――」
「――とっとと入りますから、翔輝さんもとっとと入ってください!!」
何かをするつもりもなく、そこで時間を消費しようという邪《よこしま》な考えは一切無い――のだが。
何も知らずに部屋に入った院瀬見は俺の心配をよそに、何の迷いも無くシャワールームに入ってしまった。部屋に入った時点で室温が暖かかったこともあって鼻歌まで聞こえてくる。
本人としては濡れた服を脱いで乾燥機にかけ、ついでに髪を乾かすつもりがあるのだろうが、まさかここが非常によろしくないホテルだなんて知るはずも無いわけで。
俺はというと未だに頭はずぶ濡れで、服も濡れた状態。正直言って寒さを感じて仕方がない。
そこに、
「翔輝さん、わたしだけシャワー先に浴びちゃいました! 翔輝さんも体を温めてください」
割とあっさりとした時間で院瀬見が部屋に戻ってきた。
「……いや、俺はいいよ」
もちろんそんなことにはならないが、場所が場所だけに妙な気分になる。
「駄目ですっ!! そのままにしたら風邪をひくじゃないですか! わたしだけ温まって、何てひどい女だ! って、翔輝さんなら絶対後で言うに決まってるもん。それは嫌なので浴びて欲しいの!」
俺への言葉遣いがすでに甘ったるくて理性を失いかねないんだが?
そのうえ彼女の今の姿は備え付けのバスローブ一枚だけになっていて、蒸気を帯びた長い髪が無駄に艶めかしい。
「……分かったよ。つららの服も乾くまで時間がかかりそうだし、俺もそうする……でも――」
「うん。なぁに?」
「ここがどういう部屋なのか、その辺に置いてるマニュアルでも読んで待っててくれ。もしくはモニターをつければすぐに熱も冷めるはずだ」
とりあえずシャワーで温まったら、速攻でここを出ることを考えよう。院瀬見とはそもそもそういう関係ですら無いし。
院瀬見の精神状態があまり良くない方向に予想されるが、俺もとりあえず体を温めることに集中する。
「ファッション……えーーーー!!」
俺がシャワールームに入ってすぐ、院瀬見の甲高い声が鳴り響いていた。
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