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第二章 当たり前の二人

第31話 甘くないです。でも、

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「ところで翔輝さん。昨日の帰り、わたしを迎えに来て欲しいですって言ったはずなのに、来てくれませんでしたね?」

 新葉の謎指南を受けて院瀬見が俺に何かしてくるかと身構えていると、意外なことを言ってきた。

「……ん? 迎え?」
「はい。わたし待ってました。でも来てくれないので、草壁先輩の所に来ればいるんだろうなと思って……予想通りでした」

 そういや、そんなことを言ってたな。

「そうは言うけど、つららの部屋の場所は知らないから行きようがなかったぞ?」
「わたしのお部屋を知りたいから教えて欲しい! って草壁先輩に聞けばよかった話だと思うんですけど、この期に及んで言い訳するんですか?」
「いや……まぁ……」

 何だか雲行きが怪しくなってきたんだが、俺に何かするつもりじゃなかったのだろうか。俺の代わりに隅っこにいる新葉も焦りを見せているし、どういうことなんだ。

「ふふっ、翔輝さんって案外可愛いところあるんですね」
「へ?」
「まさかうろたえると思って無かったので、何だか可笑しくなっちゃいました」

 もしやこれは小悪魔女子とかいうやつなのでは?

 しかし新葉から教わったらしいものとはまるで違うように感じる。

 指南した新葉も開いた口が塞がらない状態で驚いている――となると、実は院瀬見にも一面があるということを発見したということなのでは。

「そ、そうか。怒ってないならいいんだ」
「いいえ、許す……ってまだ言って無いですよ? こう見えて、わたし甘くないんです!」

 そう言いながらも怒っているようにも見えないんだが。

「俺はどうすれば?」

 土下座でもして謝れば解決する感じには見えないかと思えば、院瀬見は新葉が座っている方に視線を移している。

 すると、

「草壁先輩! 恋愛指南、ありがとうございました!」
「そ、そう? それは良かったよー」
「早速なんですけど、これから自分の部屋で実践したいと思いますので、翔輝さんをお貸し頂いてもいいでしょうか?」
「そっ――そんなもんでよければ、いくらでも使っていいよー」

 ――などと、まるで物の貸し借りのように俺を勝手に使おうとしている。

「おい、新葉! 何を勝手に俺を――」
「翔輝さん、行きますよ!」

 新葉に文句を言うよりも先に、院瀬見は俺の手を掴んで勢いよく部屋から飛び出していた。

「つ、つららさん、俺を一体どこに……?」
「もちろん、わたしのお部屋です! 上の階なのでこのまま行きますね」
「……そ、そうか」

 院瀬見がこんな強引な行動を起こしてきたことは今まで無かったはず。それが何故こんな行動に出たのだろうか。

 いくら何でも新葉の指南だけではと思うが、しかし俺の手を掴んでいる院瀬見からは、俺を離すまいという本気さを感じる。

 新葉の部屋を出てすぐのところにあるエレベーターを使い、俺と院瀬見は目的地である院瀬見の部屋がある階に着いた。新葉の部屋よりも格調高そうに見えるのは気のせいだろうか。

「翔輝さん、どうぞ入ってください」

 手をがっちりと掴まれて拒みようがないので素直に従うことにする。

「そうするよ」

 部屋に上がり込んで俺の視界にすぐ飛び込んできたのは、透けたカーテンで仕切られた真っ白いベッドや木製の丸いテーブル、エレガントとしか言えない花柄模様をしたクッションの数々だった。

 これらを見る限り、院瀬見つららは疑いようのない最強美少女であると認めていいレベルだ。新葉の適当シンプル部屋とは比べ物にならない上品かつ乙女チックな部屋は、完全にどこかのお嬢様と言って間違いじゃない。

 そんな部屋を目の当たりにした俺の感想は、

「…………白いな」

 新葉の語彙力よりも酷い感想しか出てこなかった。

「あ、適当に座ってください」
「……って言われてもな。花柄模様のクッションの上に俺が座っていいのか?」
「翔輝さんなら構いませんので」
「あぁ、それならそうするけど……」

 院瀬見の部屋に上がり込んだとはいえ、一目で部屋の中を把握出来てしまったので特に挙動不審な動きをする必要は無い。

 それよりも問題は、

「つららの部屋に俺を連れて来てどうするつもりなんだ? 新葉の部屋だと怒るに怒れないから、本拠地でたっぷり説教でもするのか?」

 幼馴染のアレは一応上級生だ。怒りを露わにしたくても、さすがに先輩の部屋でとなると視線やら何やらで勝手が違ってくる。

 だからこそ俺を自分の部屋に連れてきたはず。だが身構える俺とは逆に、院瀬見は四つん這いの姿勢でゆっくりと俺に近づいてきている。

「わたし、草壁先輩みたいに甘くはないです。でも……この中でなら、全然別なわたしになれるんです。ですので、今からそれをお見せしたいんです」
「これからヨガでも始めるのか?」
「……翔輝さん、そのままじっとしていてくださいね……」
「――! お、おい……!」
「わたし、負けたくないんです……」
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