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第二章 当たり前の二人

第27話 まずは友達から、です

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「バカバカバカ!! 翔輝のバカたれー! 何であたしを全く見ていなかったんだよー!!」
「悪い、忙しかった」
「何だとぉ!? あたしとつららちゃんとどっちが大事なんだい!?」
「サプライズの主役に決まってるだろ」
「くっ……正論だけど何か悔しい~!!」

 生徒会主催(ということにしてあった)サプライズは、昨日無事に終了した。それと同時に、一学期終業となって今日からは夏休みが始まっている。

 院瀬見が言い放った一言が気になったがそれは後で気にするとして、今は幼馴染の新葉わかばの機嫌を直すことが先決だ。

 まさか新葉が飛び入りでサプライズをすることになるとは全く予想していなかったうえ、すぐに院瀬見が現れたこともあって新葉のショーを見ることが出来なかった。

 ――ということで、怒り狂いながら新葉が俺の部屋に乱入してきたので大人しく説教を受けている。 

「でも、お前の中では成功したんだろ?」
「もち! それはもう全男子のどエロい視線を独り占めしたとも!」
「それはどうなんだ……というか、ドレスアップしてたはずだよな? あの衣装からどうやって刺激的な視線を得られるんだ……」
「おほほ……それは内緒」

 あまり深くは聞かないでおくが、多分反則的な何かをやったんだろうな。

「……お前がいいならいいんだけど、俺の部屋に上がり込んで来たってことは何か用があるんだろ?」

 学校に行っている時に俺の部屋に上がり込んで来る新葉は、基本的に暇つぶしに来ることが多い。しかし夏休み突入初日から顔を見せるということは、何かの企みがある可能性がある。

 少なくとも一年前がそうだったので、おそらくそうに違いないはずだ。

「翔輝、今日から暇じゃん?」
「そりゃあまあ……でも生徒会活動が無いわけじゃないけどな。で、用は?」
「あたしからの朗報に胸をときめかせたまえ!」
「何だそりゃ」

 やはり新葉こいつには何かが足りない。言いたいことの要点が上手くまとまりきれていないってことだが。

「暇男子な翔輝にとっておきの話なんだぜ!」
「だからそれは何?」
「何とっ! 今日の午後から始まるイベントのアルバイトをする権利を得たのだー! 嬉しかろう?」

 何を企んでいたかと思えば、夏休み初日からアルバイトだと?

 それも勝手に進めているとか。

「俺に拒否権は無いのか?」
「あたしのショーをないがしろにした不届きものにそんなものはないんだぜ!」

 別に軽んじたつもりは無かったんだが、逆らっても面倒だから話だけ聞いてやることにする。

「……何のイベント?」
「ふふふ。喜べ! あの七石麻が宣伝しているCMのPRスタッフだぜっ!」
「七先輩か。でも何で俺が?」
「それはもちろん、コネに決まってるじゃん! 使えるやつは使うし使わせる。持つべきものは幼馴染の特権なのさ!」

 持つべきものは友――ならともかく、要は俺を便利に使いたいだけだろ。

「午後からって言ってたが、お前も行くんだよな?」

 こんな突発的なバイトを言ってくるってことは何か企んでいるな。とにかくこいつと一緒に行けば何か分かるはず。

「あたしも暇じゃないんだよ? 甘ったれるんじゃないよ!」
「何でお前が逆ギレしてるんだよ……」
「あたしは行けないけど、その代わり最強の助っ人にお願いしたから、助っ人と一緒に頑張りたまえ! おほほ……」

 最強の助っ人と言っていた時点で予感はあったが――

「――何ですか? 人のことをジロジロと」

 新葉の含み笑いで予想出来ていたが、集合場所に現れたのは院瀬見だった。しかもかなり地味な格好なうえ、分厚い黒縁メガネをしている。

 サプライズ前にかけていたメガネよりもさらに地味だ。ちらっと見ただけでは一目で院瀬見とは気づかないレベルと言っていい。

 さらに言えば、ぱっと見ショートヘアと勘違いしそうなくらい深々とかぶった帽子と、あまりイメージの無かった活発的なショートパンツを履いている。

「一応確認するが、新葉に頼まれてここに来てるんだよな?」
「草壁先輩のお願いでしたし、七石先輩のお仕事関係ですから。それに昨日のサプライズ前にお話を聞いていたのでさすがに断る理由も無かっただけですけど、何か問題でもありますか?」
「そんなのは無いが、ただでさえ人目を引く院瀬見がよりにもよって地味なバイトとか、出来るのかと心配になっただけだ」

 俺の言葉に、院瀬見は自分の格好を確かめながら眉をひそめた。

「目立たない格好にしたのに、人目を引くんですか? 本当ですか?」

 よほど疑心暗鬼のようだ。

「地味目の格好? どこがだよ! 丸みのあるシンプルなキャップをしたってすぐに分かったぞ。院瀬見はもう少し自分の魅力に気づいた方がいいぞ。それとも気づかないくらい神経がおかしいのか? やるなら徹底的に変装するくらいじゃないと無駄な努力になるぞ」
「…………」

 ここまで言えばさすがに気付くだろ。

「つまり、翔輝さんはそこまでわたしのことを見ている――そういうことですよね?」
「見たくなくても見るだろ。学校でもそうだが、今も自分アピールが半端無いからな! 自覚は無いんだろうけどな」
「分かりました! 明日からは地味子になれるようにもっと頑張ります。ですので、翔輝さんにはとしてこれからもっとアドバイスしてもらいたいです!」
「……友達? 誰が?」
「翔輝さん」

 おかしいことを言ってるな。

 学校ではあくまで生徒会のメンバーとして接していたに過ぎなかったはず。それなのに、いつの間にか俺が院瀬見の友達になっていたとは。
 
「今までは友達じゃなかったよな?」
「そうですね。でも、これからはお友達ってことで! そんな考えることですか?」
「……別にわざわざ宣言することでもないと思うが」
「でも言わないと翔輝さんって分からなそうですもん。だからこそまずは友達から、ですよ。いけませんか?」
「いや……」

 そんな大げさに言うことでもないはずなのに、何故か院瀬見は両手を合わせて俺の返事を待っている。

「分かったよ。じゃあ今日から俺と院瀬見は友達ってことでいい」
「本当ですかっ? そ、それじゃあ、友達記念にわたしのことは『つらら』って呼んで欲しいです!」
「え? 何でそうなるんだ……」
「友達ですから」

 そんな急に呼べるわけないんだが。

「つ、つらら……」

 意外に恥ずかしいものだなこれは。

 しかし、

「はいっ! 翔輝さん!」

 凄く嬉しそうに呼ばれてしまったので、これから徐々に慣れるしかない、か? 

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