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第二章 当たり前の二人
第26話 パーフェクトですけど、何か?
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「~♪ ~♬ ラララ~わたしはわたし~」
――なるほど。
「歌も上手ければ踊りも出来て、ついでに美声まで発せられると……院瀬見って実はアイドルだったのか?」
「アレはパフォーマンスですよ。だって分かりやすいじゃないですかー、ああいうのって。それに、サプライズだからってただ登場するだけだと納得しなさそうですしー……」
「……何で俺を見る?」
「南さんが、じゃなくて男子がって意味で見ただけですけどー?」
今、俺の前(正確には舞台に立つ院瀬見)にいるのは、まるでトップアイドル並の歌唱やら何やらを全校男子に披露している院瀬見つららという女子である。
普段から塩対応でちょっと不器用なところもある彼女と違い、今の姿はパーフェクトな美少女と呼べるものだ。
俺の隣にいた北門副会長は、最初こそ俺の隣で院瀬見を見ていたが、狂喜乱舞の男子に混じって同じように奇声と歓声を上げている。
「つらら~っ! つ・ら・らー!! つ・ら・らー僕を見て~!」
「つららちゃーん! 最高すぎー!! 愛してるよー!」
「つららたーん!! マジで好きだー!」
――といった感じで他の男子に紛れて声を大きくしてるわけだが、浮気性な奴だと確信した瞬間だ。
そうなると必然的に俺の隣には、推し女である九賀が並ぶわけで。
「才色兼備・成績優秀・頭脳明晰・運動力抜群~! パーフェクト美少女、バンザーイ!」
いくら何でも褒めすぎだ。才色兼備以外かぶってるし、そもそもプロモーションビデオを見ただけで判断するのはどうなんだ。
こうなると幼馴染のアレの時はどういう盛り上がり方だったのか、個人的に気になる。
しかし、ステージ上の院瀬見の笑顔といい振る舞いは初対面で感じた時の違和感そのものだ。よくもまああんな嘘っぽい笑顔でいられるな。
魅了される男子も男子だが、徹底ぶりはある意味感心する。
「……会長さんはぁ~北門さんみたいに混じらないんです~?」
院瀬見をじっと眺めていると、隣の九賀が俺に意地悪そうなことを聞いてきた。
「……何でそう思う?」
「だって好きじゃないですかー」
こいつはいきなり何を言っているんだ?
どうして俺が院瀬見を――
「――好きって、どういった意味で?」
「男子って美少女が大好きじゃないですかー!」
何だ、そういう意味か。別の意味かと思ってしまったが、どうしてそう思ったのだろうな。
「それは愚問だな。男子で美少女嫌いな奴は少数だろ。知らないけど」
「南さんはぁ、美少女に慣れすぎた可哀想な男子だってことを~自覚すべきですよぉ?」
何だその言い方は。俺に対する態度を変えてきたようだが、純よりもマシだと思われているのか。
「自覚ならとっくにしてるけどな」
「ちなみにぃ~私はどっちですかぁ?」
「美少女寄りだな」
「え~? それって半端って意味ですかぁ?」
面倒になってきたな。話す相手が九賀だけってのもあるとはいえ。
「じゃあ美少女で」
「だからぁ、そーじゃなくて~」
「美少女にも色々あるからな」
――などとやり取りしていると、体育館全体が男子たちの歓声で騒がしい。
舞台上に目をやると、まさにクライマックスな場面に差し掛かっている。
「沢山の拍手と歓声で出迎えてくれてありがとうございましたー!! 二学期から他の女子たちとともにわたしも一緒に授業を受けることになります。皆さん、よろしくお願いしますねー!」
院瀬見が幕を閉じることを告げると、
「うおおおおおおおおおおお!!」
――といった感じで、野郎たちの興奮が最高潮に達していた。
本来なら終わると同時に生徒会長の俺が挨拶をするんだが、こんな盛り上がった状態で出てったら間違いなくブーイングの嵐だ。
「……ん?」
それを知ってか知らずか、院瀬見が手招きをしているが、出ていくつもりはない。
「南さん、院瀬見さん呼んでますけど~? 出ていかないんですか?」
「俺は空気くらい読めるからな」
こんなわざとらしいことを聞くなんて九賀も大概だな。
ともかく、院瀬見の『おいでおいで』サインに完全無視を決め込んだところでようやくステージカーテンが降りた。
これからの時間は生徒会メンバーで後片付けをやることになっていることもあって、周りの女子たちは一斉に撤収を始める。
「生徒会長さん、またでーす!」
「じゃあな、九賀」
やたらと俺に絡んできた九賀は、とっとと帰りたいのかあっさり引きあげて行った。
だが、
「そこの暇男子さん。随分と楽しそうでしたね?」
「あん?」
「九賀さんとずっとお話をされてたじゃないですか」
嘘だろ?
ずっと見てた?
そんなはずはないと思うが、フジツボのようにあらゆる部位が開眼したとしたらなかなかに恐怖だな。
全校男子に向けてパフォーマンスをしてた奴が舞台袖の俺に気づくわけがないのに。
しかし今の今までサプライズの主役を張っていた主人公が、頬を膨らませながらずっと俺を睨んでいるのはどう考えても……。
「というか、何でそんな機嫌が悪いんだ?」
「別に機嫌なんか悪くありません!」
院瀬見の怒りはおそらく、サプライズを頑張っている自分を放置して推し女と楽しそうに会話してたのが気に入らないってことだろう。
機嫌を取るつもりはないが、フォローはしとくか。
「ところで……つららは歌も上手いし踊りも完璧だったけど、これから本格的に芸能界デビューするのか?」
「えっ、今なんて……?」
とりあえず今後の生徒会活動のこともあるし、聞いておかなければ。
「芸能界デビューするんだろ、と」
「しませんよ、そんなの! というかわたし、パーフェクト美少女なので! それが何か?」
院瀬見は悪気なく俺にしたり顔を見せた。
「な、何も無い」
何だか迫力が違うし妙な説得力がある。この際だ、さらに褒め称えておこう。
「まぁ、アレだ。これからは男子の推し男が出来るんじゃないか?」
「要りません! もうっ! そんなどうでもいいことを聞いたんじゃないのに!」
不機嫌が直らないのは何故なんだ。もしや知らぬ間に変なことを口走ったか?
しかし院瀬見の機嫌はともかく、サプライズを無事に終えられたのは良かった。
「生徒会長! コードの片付けを手伝ってくださいっす!」
「分かった。今行く」
さすがに何もしないのはよろしくないので、下道たちの撤収作業に加わることにする。
「院瀬見さん。お疲れ! 夏休み以降もよろしくな」
「何言ってるんですか?」
「へ?」
夏休みに突入したらほぼ会わない――そう思っての発言だったのに。
「翔輝さんに休みなんて無いですよ? ですので、明日からもよろしくお願いしますね」
院瀬見はそんなことを上目遣いで言い放ち、俺から逃げるようにしてこの場からいなくなった。
明日から何かあっただろうか?
あんな上目遣いまで使いだすなんて、よほど機嫌を損ねてしまったということかもしれないな。
――なるほど。
「歌も上手ければ踊りも出来て、ついでに美声まで発せられると……院瀬見って実はアイドルだったのか?」
「アレはパフォーマンスですよ。だって分かりやすいじゃないですかー、ああいうのって。それに、サプライズだからってただ登場するだけだと納得しなさそうですしー……」
「……何で俺を見る?」
「南さんが、じゃなくて男子がって意味で見ただけですけどー?」
今、俺の前(正確には舞台に立つ院瀬見)にいるのは、まるでトップアイドル並の歌唱やら何やらを全校男子に披露している院瀬見つららという女子である。
普段から塩対応でちょっと不器用なところもある彼女と違い、今の姿はパーフェクトな美少女と呼べるものだ。
俺の隣にいた北門副会長は、最初こそ俺の隣で院瀬見を見ていたが、狂喜乱舞の男子に混じって同じように奇声と歓声を上げている。
「つらら~っ! つ・ら・らー!! つ・ら・らー僕を見て~!」
「つららちゃーん! 最高すぎー!! 愛してるよー!」
「つららたーん!! マジで好きだー!」
――といった感じで他の男子に紛れて声を大きくしてるわけだが、浮気性な奴だと確信した瞬間だ。
そうなると必然的に俺の隣には、推し女である九賀が並ぶわけで。
「才色兼備・成績優秀・頭脳明晰・運動力抜群~! パーフェクト美少女、バンザーイ!」
いくら何でも褒めすぎだ。才色兼備以外かぶってるし、そもそもプロモーションビデオを見ただけで判断するのはどうなんだ。
こうなると幼馴染のアレの時はどういう盛り上がり方だったのか、個人的に気になる。
しかし、ステージ上の院瀬見の笑顔といい振る舞いは初対面で感じた時の違和感そのものだ。よくもまああんな嘘っぽい笑顔でいられるな。
魅了される男子も男子だが、徹底ぶりはある意味感心する。
「……会長さんはぁ~北門さんみたいに混じらないんです~?」
院瀬見をじっと眺めていると、隣の九賀が俺に意地悪そうなことを聞いてきた。
「……何でそう思う?」
「だって好きじゃないですかー」
こいつはいきなり何を言っているんだ?
どうして俺が院瀬見を――
「――好きって、どういった意味で?」
「男子って美少女が大好きじゃないですかー!」
何だ、そういう意味か。別の意味かと思ってしまったが、どうしてそう思ったのだろうな。
「それは愚問だな。男子で美少女嫌いな奴は少数だろ。知らないけど」
「南さんはぁ、美少女に慣れすぎた可哀想な男子だってことを~自覚すべきですよぉ?」
何だその言い方は。俺に対する態度を変えてきたようだが、純よりもマシだと思われているのか。
「自覚ならとっくにしてるけどな」
「ちなみにぃ~私はどっちですかぁ?」
「美少女寄りだな」
「え~? それって半端って意味ですかぁ?」
面倒になってきたな。話す相手が九賀だけってのもあるとはいえ。
「じゃあ美少女で」
「だからぁ、そーじゃなくて~」
「美少女にも色々あるからな」
――などとやり取りしていると、体育館全体が男子たちの歓声で騒がしい。
舞台上に目をやると、まさにクライマックスな場面に差し掛かっている。
「沢山の拍手と歓声で出迎えてくれてありがとうございましたー!! 二学期から他の女子たちとともにわたしも一緒に授業を受けることになります。皆さん、よろしくお願いしますねー!」
院瀬見が幕を閉じることを告げると、
「うおおおおおおおおおおお!!」
――といった感じで、野郎たちの興奮が最高潮に達していた。
本来なら終わると同時に生徒会長の俺が挨拶をするんだが、こんな盛り上がった状態で出てったら間違いなくブーイングの嵐だ。
「……ん?」
それを知ってか知らずか、院瀬見が手招きをしているが、出ていくつもりはない。
「南さん、院瀬見さん呼んでますけど~? 出ていかないんですか?」
「俺は空気くらい読めるからな」
こんなわざとらしいことを聞くなんて九賀も大概だな。
ともかく、院瀬見の『おいでおいで』サインに完全無視を決め込んだところでようやくステージカーテンが降りた。
これからの時間は生徒会メンバーで後片付けをやることになっていることもあって、周りの女子たちは一斉に撤収を始める。
「生徒会長さん、またでーす!」
「じゃあな、九賀」
やたらと俺に絡んできた九賀は、とっとと帰りたいのかあっさり引きあげて行った。
だが、
「そこの暇男子さん。随分と楽しそうでしたね?」
「あん?」
「九賀さんとずっとお話をされてたじゃないですか」
嘘だろ?
ずっと見てた?
そんなはずはないと思うが、フジツボのようにあらゆる部位が開眼したとしたらなかなかに恐怖だな。
全校男子に向けてパフォーマンスをしてた奴が舞台袖の俺に気づくわけがないのに。
しかし今の今までサプライズの主役を張っていた主人公が、頬を膨らませながらずっと俺を睨んでいるのはどう考えても……。
「というか、何でそんな機嫌が悪いんだ?」
「別に機嫌なんか悪くありません!」
院瀬見の怒りはおそらく、サプライズを頑張っている自分を放置して推し女と楽しそうに会話してたのが気に入らないってことだろう。
機嫌を取るつもりはないが、フォローはしとくか。
「ところで……つららは歌も上手いし踊りも完璧だったけど、これから本格的に芸能界デビューするのか?」
「えっ、今なんて……?」
とりあえず今後の生徒会活動のこともあるし、聞いておかなければ。
「芸能界デビューするんだろ、と」
「しませんよ、そんなの! というかわたし、パーフェクト美少女なので! それが何か?」
院瀬見は悪気なく俺にしたり顔を見せた。
「な、何も無い」
何だか迫力が違うし妙な説得力がある。この際だ、さらに褒め称えておこう。
「まぁ、アレだ。これからは男子の推し男が出来るんじゃないか?」
「要りません! もうっ! そんなどうでもいいことを聞いたんじゃないのに!」
不機嫌が直らないのは何故なんだ。もしや知らぬ間に変なことを口走ったか?
しかし院瀬見の機嫌はともかく、サプライズを無事に終えられたのは良かった。
「生徒会長! コードの片付けを手伝ってくださいっす!」
「分かった。今行く」
さすがに何もしないのはよろしくないので、下道たちの撤収作業に加わることにする。
「院瀬見さん。お疲れ! 夏休み以降もよろしくな」
「何言ってるんですか?」
「へ?」
夏休みに突入したらほぼ会わない――そう思っての発言だったのに。
「翔輝さんに休みなんて無いですよ? ですので、明日からもよろしくお願いしますね」
院瀬見はそんなことを上目遣いで言い放ち、俺から逃げるようにしてこの場からいなくなった。
明日から何かあっただろうか?
あんな上目遣いまで使いだすなんて、よほど機嫌を損ねてしまったということかもしれないな。
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