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第一章 塩対応な二人

第25話 サプライズでいこう! 2

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 幼馴染のアレがメガネで現れてもたまにかけたりしてるから特に驚きは無かったが、まさか院瀬見までもがメガネをかけてくるなんて、さすがに意表を突かれた。

「あれっ? そんなに驚くことです? でも、翔輝さんへのサプライズは成功したようで何よりです!」

 俺が素直に驚きを見せたことで相当に嬉しかったのか、院瀬見は俺に対し両手を大きく広げて満面の笑顔を見せている。

 その仕草は普段よりも可愛い寄りだ。もちろん本人に言うつもりは無いが。

「ところで、院瀬見って普段はメガネじゃないよな?」
「ですです。これは伊達だてメガネなので。草壁先輩はどうか知りませんけど、これはに見せるサプライズです」

 つまり俺が驚く顔が見たかったわけか。相変わらずいい性格をしてる。院瀬見の態度に九賀も同じことを思ったのか、口角を上げてニヤついているようだ。

 九賀は俺のことを気に入らないと思っているから仕方がないけど。

「幕が上がったらそのメガネは外すのか?」
「……どうします? 他の男子にもメガネなわたしを見せつけてやりますか?」
「それは院瀬見の自由だろ」
「もー! そういうこと言うとか、あり得ないんですけど!」

 俺の言ったことが気に入らなかったのか、院瀬見は握りこぶしを作ってぽかぽかと俺の頭を軽く叩いてくる。

「そんなに怒るなよ。そもそもメガネを外すのもかけたままにするのも院瀬見の自由なんじゃないのか?」 
「ほんっっとうに、鈍重男子ですねっ!!」
「何が?」

 頬を膨らませながら何やら怒っているが、そこまで本気で怒っているでもないようだ。この様子に呆れているのは九賀と女性スタッフくらい。

「もーいいですっ!」

 そう言いながら、院瀬見は俺の目の前でメガネを外してしまった。メガネ姿に対して何か言葉でも欲しかったのだろうか。

「ところで院瀬見――」
「それはそうと、向こうの女子たちに囲まれている男子は大丈夫なんですか?」
「ん? 女子に囲まれ……あぁ、副会長の北門のことか。あいつなら放っておいても問題無い。……一応俺の側近だし、紹介しとこうか?」
「いいえ、結構です。女子なら誰でもいい感を見せてる男子に興味はありませんから。それと、ところでの続きは何ですか?」

 さすがに男子の姿は見えているんだな。そして俺が言いかけたこともスルーしたわけじゃないとか、その辺はさすがだ。

「新葉はドレスアップだったけど、院瀬見のそれはいつもの制服だよな? 着替えはしなくていいのか?」
「――つまり俺の目の前で着替えろというわけですか? 堂々と覗き宣言なんて、翔輝さんって変態ですね」

 こいつはいちいち突っかかってくるな。だがあえてでいかせてもらう。

「何だ、知らなかったのか? 俺は真性の変態だ! そういうわけだから着替えてもらっても構わないぞ! それとも最強美少女は恥じらいが半端ないのか?」
「……まぁ、それはそれでいいんですけど、今は素直な態度を出して欲しいです」

 院瀬見は自分の髪を触りながら、俺を恨めしい目で見つめている。もしやストレスを抱えさせてしまったのか?

「えっと……悪い」
「あまりに素直すぎても気持ち悪いですけど、今はそれで許してあげます!」
「一言余計だ」
「でも、あと一つ……」

 まだ何か文句がありそうだが、俺を見るよりも何故か周りを気にしだしている。

 もしや誰も見ていない内に本気で殴ってくるのか?

「んん?」
「これで――」
「――!? お、おい」

 周りにいる者たちのほんの少しのよそ見の間に、院瀬見は俺の後ろに回り込み、まるで抱きつくようにして腕を回しながら体当たりをしてきた。

「……これで完全に許します。それと、やっと落ち着けそうです」

 まるで新葉みたいな動きだった。

 抱きつきとはちょっと違うが、あいつもをしたことで落ち着くと言っていたから多分それと同じことだな。

 もしかして、選抜優勝者なのに実は緊張しまくっていたのだろうか。

「院瀬見さーん。そろそろ草壁先輩のサプライズが終わるっぽいですー! そろそろ衣装をーって、あれ? 南さんの後ろで何してるんですか?」

 どうやら新葉のお披露目ショーが終わるようで、九賀が声をかけてきた。

「あっはい! 生徒会長さんがどうしても背中を掻いて欲しかったみたいなので、掻いてあげてました」

 何て苦しい言い訳なんだ。

「えぇ? マジで最低でクズ野郎ですねー」

 いや、信じるなよ。

「ですので、九賀さんはこのダメダメな変態生徒会長さんをしっかりと見張っててくださいね! お願いします」

 そう言うと、院瀬見はペロッと舌を出しながら控室へ駆けていく。

 それにしても、最初に比べれば態度が軟化してきている気がする。密かに新葉から甘え方を伝授されたとかじゃないよな?

「翔輝会長! サボってごめん」

 我を忘れた純が戻ってきた。

「ハーレム状態から現世に戻ってきたか」
「そんなんじゃないけど、みんな優しくてつい甘えちゃって……それより、院瀬見さんのサプライズが始まるんだよね?」 
「まあな」

 新葉に一目惚れしてたくせに、まだ院瀬見のことが気になっているのか。

「……それはそうと、九賀さんが翔輝を睨んでいるのは何でなの? もしかしてまた院瀬見さんを怒らせることを言った?」
「さぁな。九賀に聞いてみればいいんじゃないか?」
「あ、後にしとくよ」
「……?」

 こいつもよく分からない奴だな。あれだけ話しかけていた相手なのに、気まずそうに目も合わせられないなんて。 

「そろそろ幕を開く時間だね」
「そういや、新葉アレはどこに行った?」

 すでに新葉のサプライズは終わっている。それなのに舞台裏に戻ってきていないし、気配が感じられない。

「南さん。草壁先輩なら、いい刺激になったよ。とか言いながら満足気に帰りましたよ」
「え、そうなのか? 泣いて……じゃなく?」
「泣くような人じゃないと思いますけどー?」

 九賀が嘘をつくようには見えないが、新葉が単独で一体どんなサプライズを繰り広げたのか気になるな。

「それならいいんだ。教えてくれてありがとな、九賀」
「――い、いいえ。意外に優しく出来るんですね、南さんってー」
「まあな」
「……二学期からもっと――」
「ん?」

 純の変わりようにも驚いたが、九賀の態度も変わったか?

 二学期から本格的に関わることになるから、ちょっとだけでも態度を変える努力をしている感じなのかもしれないな。

「翔輝。始まるよ! 舞台袖で見守ろうよ!」
「そうだな」

 俺と純、少し離れている九賀とスタッフさんとで舞台袖に移動した。

「……副会長より生徒会長が良さげかも。手強そうだけど……あはっ」

 九賀の機嫌も良くなったようで、ひとまずは安心だ。

 そして――いよいよ、院瀬見つららが古根の男子の前に姿を見せる時がきた。
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