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第一章 塩対応な二人
第11話 探してました
しおりを挟む俺と院瀬見が談話室に戻ると同時にその場はすぐに解散した。俺たちはそのまま男子棟に戻り、その足で各自帰宅となった。
俺と純は帰りが途中まで同じということもあって、一緒に帰ることに。どうやらいいことがあったらしく、俺は素直にその話を聞くことにした。
「ほー? じゃあ俺がいない間に距離が縮まった。そういうことか?」
「うん、そうなんだよ。九賀さんが企画してくれたんだけど、せっかく生徒会活動を一緒にするわけだしそういう機会があってもいいんじゃないかなって。どうかな?」
俺と院瀬見のスキンシップな時間が繰り広げられていた同時刻、談話室に残っていた生徒会メンバーと推し女たちは知らぬ間に仲を深めていた。
といっても、発言の中心は副会長の北門と推し女リーダーの九賀みずきの二人だけ。残りのメンバーは途中で抜けた二見を含めなくてもずっと沈黙状態だったようだ。
女子と仲良くなりたいとほざいていた下道は話しかけることすら出来ずに石化し、上田は水を飲みまくって話にすら加わらなかったらしい。
「どうって、そういうのは別に俺の許可なんていらなくないか?」
「それはそうなんだけど……。ほら、院瀬見さんも生徒会活動に参加するわけだから……」
「あん?」
「急な話なんだけど明日一緒に交流会をしようってことになったんだ。それでその、院瀬見さんも来るはずだから翔輝は平気なのかなぁって」
それはまた急展開な話だな。
院瀬見も参加するとなれば推し女向けモードになるのは明らかだし、こっちのメンバーもまともに話が出来ないんじゃないのか。
「俺が何で心配なんだ?」
「だって院瀬見さんに対する態度も厳しいし、相性も悪そうだからギスギスした状態でカフェとか行って楽しめるのかなって」
スキンシップな関係は俺と院瀬見の問題だから言えないとしても、さすがに交流会でそんな酷いことにはならないと思うが。
「問題無いと思うぞ」
「え? 本当に?」
こいつは心配しすぎる。今までの俺の態度でそう判断してるんだろうが、そんな酷くないはずだ。
「ちなみに交流会ってのをどこでやるつもりなんだ?」
「えっと、霞ノ宮の女子が日常使いしてるらしいんだけど、本屋併設のカフェが海沿い近くにあるって聞いたんだけど、翔輝は知ってる? 制服で行けば学割が利くらしいんだけど……」
「あぁ……るるポートのあそこか」
七先輩と初めて会った場所がまさにあそこだった。
新葉の付き添いでアウェイ状態のカフェに行った俺を出迎えてくれたのが、今や親しい関係となった七石麻だった。そういう意味で俺にとっては思い入れのある場所でもある。
「ちなみになんだけど、上田くんと下道くんは行けないって」
「だろうな……」
上田は緊張で錯乱状態になりそうだし、下道はナンパ野郎に成り下がる可能性があるからな。ただでさえ女子ばかりがいる場所でもあるし。
「それじゃあ、明日現地集合だからオープン前の時間に到着しておいてね!」
「分かった。純も頑張れよ」
「え? う、うん……よく分からないけど。またねー」
俺の見立てでは純と九賀がいい感じなのではないかとみている。だからこその交流会だと思われるが、俺も院瀬見を刺激しないように気を付けておくか。
「翔輝ー! こっちー!!」
せっかくの土曜休みに出かけるのは微妙だが、副会長だけ行かせるわけにもいかないと思ってるるポートに来てみれば、すでに純が待っていた。
「何だよ、今日は早いな。登校時間はギリギリなのに、やはり目当ての女子がいるからなのか?」
「休みの日は起きれるんだよねー何だか分からないけど」
俺の疑問はスルーしてるようだが、こんなにアクティブな奴だったとは意外だ。まさかオープン前の入口で待機するほど期待しているとはな。
オープン前に来いと言われて来たものの、肝心の女子たちは一体何時に集合なのか。
「純は初めてだから知らないだろうけど、ここは迷うぞ。気を付けろよ?」
「そ、そうなんだ。でも行くところはカフェ併設の本屋だけだよね?」
「まぁな」
「じゃあ大丈夫だよ!」
――などと純と二人だけで話をしまくっていたら、
「おはようでーす! お待たせしましたー! 北門さんお待たせです。ついでにフツメン会長も」
九賀は純狙いか?
「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね、生徒会長さん」
「南会長。聖菜もいるからよろしく……」
九賀に続いて、院瀬見ともう一人の推し女、十日市聖菜が俺たちに声をかけてきた。院瀬見の態度はやはり猫かぶり状態のようで、近くを歩く一般男性に微笑んでいる。
美少女選抜優勝者だけあって、ショッピングモールでも注目を浴びる運命のようだ。そう考えると学校にいる時よりも気を遣っていそうだが。
当然だが、俺と純同様に三人とも制服姿だ。
それにしても聖菜という推し女からの視線が妙に気になる。何かした覚えは全く無いんだが、二見とはまた違うタイプだしどう接するべきなのか。
「どうしましたか? 南さん」
「別にどうもしない。それより、選抜優勝者がこんな人目に触れる所に来て平気なのか? 院瀬見だけレッドカーペットでも敷いた方がいいんじゃないのか?」
「相変わらずくだらないことを思いつきますね。学校の外でもそんな人だなんて、一度頭の中を覗いてみたいものです」
「覗けるもんならな!」
「……そうですね。いずれそうします」
さらっと怖いことを言う奴だな。さすがに外での発言には気を付けているのか、今の会話は俺たちがいる範囲内での音量だった。
「と、とりあえず、本屋に行きませんかっ?」
しかしそれを間近で聞いている九賀は気が気じゃないようですぐに本題に入った。
「そ、そうしようか。翔輝もほら、行こうよ」
「俺は場所を知ってるし先に行ってていいぞ。俺は適当に歩きながら向かうから」
「そうなんだ。じゃあ九賀さんに十日市さん、それから――院瀬見さんも先に行きませんか?」
「…………ええ」
院瀬見を気にする純に対し、院瀬見は気乗りしない表情を見せている。この期に及んで院瀬見も休みの日はだらけたいタイプか。
「とにかく先に行ってていいぞ! 院瀬見も九賀たちにちゃんとついて行った方がいいぞ?」
「あなたに言われるまでもありません。さぁ、九賀さん。行きましょうか」
「はいっ。こっちでーす!」
女子たちと純が先に行ったのを見計らい、俺は連中の知らない近道を使って先回りをした。
るるポートは滅多に行かないが、新葉たちと何回か来た時に目をつけていた専門コーナーがどうしても気になっていた。
ここじゃないとコアな本を見ることが出来ないわけだが、女子たちの目的はカフェなこともあってここに立ち寄る機会が得られない。
そう思って先回りして天井近くにまでそびえる本棚を見上げていたのに――
「――いやらしい本はここにはありませんよね?」
「ぬおわっ!? い、院瀬見?」
おっと、いくらひと気が無いとはいえ声を上げては駄目だ。
「怪しい動きをするなと思っていましたけど、そういう意味だったんですね?」
「断じて違う! というか、何でここが分かったんだよ……」
「だって、探してましたもん」
「えっ」
「南を、探してました」
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