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第一章 塩対応な二人
第8話 隙が出来たら好きにするので
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勝手に庭園に呼ばれた挙句に使われることになるとは思わなんだ。談話室にいるメンバーを呼びに行くのも面倒だし、そもそも院瀬見に対してびびることなく相手が出来るのは俺しかいない以上は仕方が無いことかもしれない。
俺は言われたとおり、小さな物置小屋に立てかけてあった脚立を手にして院瀬見のところに持って行くことに。
脚立を持って行くと、院瀬見は用意していた枝切りばさみを手にして俺を待ち構えていた。
「ありがとうございます。南はそこで黙って突っ立ってていいですから」
「スカート姿のままでお前が上に?」
「そうですけど? いつものことなので気にしなくていいです。あ、でも……」
「ん?」
俺の手は借りないと言いながらも、院瀬見は何故か土がついている自分の腕を俺に近づけてきた。
「南の手を使って、わたしの手と腕に付いている土を落としてもらえませんか?」
「……土を? 何で俺?」
「だって、猫の手も借りたいって言うじゃないですか」
「俺は関係無くないか?」
何かと思えば猫の手ならず俺の手を気軽に使うわけか。
「そ、それくらいやってくれたっていいじゃないですかー!」
「何でほっぺを膨らませてキレてんだよ? そんな怒ることか?」
「南の返事は冷たいです。……らしいからそれはいいんですけど」
冷たいも何も、何で俺が手伝うことが確定になっているのか意味が分からない。
「というか、わたし女子ですよ?」
「見たら分かる。しかも美少女選抜優勝者だしな」
「脚立に上がるのに手を汚したくないし、滑ったら危ないじゃないですか。しかも今日に限ってタオルを忘れちゃったんですよね」
院瀬見は黒くて長い髪を揺らしながら土いじりをしていたが、軍手も無ければタオルも手にしていなかった。準備不足にも程があるだろ。
腕まくりをしている院瀬見の腕には、汗も相まって簡単には取れそうにない土が付いている。手の平にも土が付いていて、これを自分の手で落とすと脚立に上がる時に滑って落ちてしまいかねない。
目の前で突っ立っていながら何もしないで怪我をさせたら、俺は間違いなく出禁になるし追放されるだろうな。後で新葉はもちろん七先輩に怒られるのは明らかだ。
あぁ、くそっ。
「……タオルも何も無いけど手で取り除けばいいんだろ?」
「はい、問題無いです」
何か妙な感じがするものの、変なことをするでもないので黙って院瀬見の腕に付いた土を取り除くことにした。
女子の肌に触れるのは初めてでも無いが、相手が相手だけに妙な緊張感があった。しかし俺の緊張感なんてどうでもいいのか、院瀬見は微動だにせず黙って俺がすることを見ている。
「女子に触れることに随分手慣れてるみたいですけど、生徒会長って保健委員とかもやるんでしたっけ?」
「保健委員は保健委員だろ。さすがにやらないぞ」
「……あぁ、そうすると相手は七石先輩か草壁先輩なんだ。それなら納得です」
「あん?」
何に納得していたのかは不明だが、ひとまず院瀬見の腕に付いていた土は地面に落とした。
残るは――
「――手の平の土は握手でいいので取ってください」
「握手? つまり俺の手に土の汚れを移せと?」
俺をタオル代わりにするとは図々しいな。
「ご名答です! いい機会です。ここで握手してついでに仲直りしましょう」
「俺と院瀬見って喧嘩してたんだっけか?」
「名前を覚えてくれませんでしたし、美少女選抜にも興味を示さなかったじゃないですか! それって生徒会長としてどうなのかなって思いました。それからー……」
根に持ってるとか、性格悪すぎだろ。
「はぁー……だるいな。分かったよ」
色々面倒になったのでそのまま手を差し出そうとすると、
「えいっ!」
「――! いきなり握るなよ」
「南の動きは隙だらけですよ? あんまり隙だらけにしてると、好き勝手にしちゃいますけどいいんですか?」
「それこそ勝手にすればいいんじゃねーの? どうでもいいし」
どうやら完全に俺の手を便利な道具としか見ていないようだ。
それにしても、普通は俺の態度にムカついてもおかしくないのに嬉しそうにしてるのはどういうことなんだ?
これも優勝者の余裕っぷりを見せつけたいって意味だとすれば、俺もこの態度を改めるわけにはいかないな。新葉辺りはうるさそうだが生徒会活動までは口出しして来ないし、現状維持でやらせてもらう。
「……で、俺はこのまま黙って突っ立ってろと?」
「南のおかげで手の汚れも気にならなくなりましたから。それに空に伸びまくっている枝をちょっとだけ切るだけなので、心配いらないです」
「俺が心配するとでも?」
「しなくて結構ですよ。わたし、最強美少女ですから! それと、南のことだから心配無いと思うんですけど、覗かないでくださいね?」
「アホか!」
自分で言うのかよ。まるで新葉《わかば》みたいだな。しかし院瀬見は、スカートのまま苦にすることなく手際よく枝木を切って地面に落としていっている。
女子棟に庭園があったのも驚きだが、こいつがいつも手入れをしているとしたらその部分だけは見直してやってもいいかもしれない。
「ふぅー、大体切り終わりました! 今から下りるので南は枝木を――わっ!?」
「ば、馬鹿っ、何やってんだ!!」
それほど高所でも無いとはいえ、脚立から地面に落ちればただでは済まないはず。黙って突っ立ってろと言われたがそうも言ってられないので、俺はとっさに傾きそうな脚立に向かって身を乗り出していた。
俺は言われたとおり、小さな物置小屋に立てかけてあった脚立を手にして院瀬見のところに持って行くことに。
脚立を持って行くと、院瀬見は用意していた枝切りばさみを手にして俺を待ち構えていた。
「ありがとうございます。南はそこで黙って突っ立ってていいですから」
「スカート姿のままでお前が上に?」
「そうですけど? いつものことなので気にしなくていいです。あ、でも……」
「ん?」
俺の手は借りないと言いながらも、院瀬見は何故か土がついている自分の腕を俺に近づけてきた。
「南の手を使って、わたしの手と腕に付いている土を落としてもらえませんか?」
「……土を? 何で俺?」
「だって、猫の手も借りたいって言うじゃないですか」
「俺は関係無くないか?」
何かと思えば猫の手ならず俺の手を気軽に使うわけか。
「そ、それくらいやってくれたっていいじゃないですかー!」
「何でほっぺを膨らませてキレてんだよ? そんな怒ることか?」
「南の返事は冷たいです。……らしいからそれはいいんですけど」
冷たいも何も、何で俺が手伝うことが確定になっているのか意味が分からない。
「というか、わたし女子ですよ?」
「見たら分かる。しかも美少女選抜優勝者だしな」
「脚立に上がるのに手を汚したくないし、滑ったら危ないじゃないですか。しかも今日に限ってタオルを忘れちゃったんですよね」
院瀬見は黒くて長い髪を揺らしながら土いじりをしていたが、軍手も無ければタオルも手にしていなかった。準備不足にも程があるだろ。
腕まくりをしている院瀬見の腕には、汗も相まって簡単には取れそうにない土が付いている。手の平にも土が付いていて、これを自分の手で落とすと脚立に上がる時に滑って落ちてしまいかねない。
目の前で突っ立っていながら何もしないで怪我をさせたら、俺は間違いなく出禁になるし追放されるだろうな。後で新葉はもちろん七先輩に怒られるのは明らかだ。
あぁ、くそっ。
「……タオルも何も無いけど手で取り除けばいいんだろ?」
「はい、問題無いです」
何か妙な感じがするものの、変なことをするでもないので黙って院瀬見の腕に付いた土を取り除くことにした。
女子の肌に触れるのは初めてでも無いが、相手が相手だけに妙な緊張感があった。しかし俺の緊張感なんてどうでもいいのか、院瀬見は微動だにせず黙って俺がすることを見ている。
「女子に触れることに随分手慣れてるみたいですけど、生徒会長って保健委員とかもやるんでしたっけ?」
「保健委員は保健委員だろ。さすがにやらないぞ」
「……あぁ、そうすると相手は七石先輩か草壁先輩なんだ。それなら納得です」
「あん?」
何に納得していたのかは不明だが、ひとまず院瀬見の腕に付いていた土は地面に落とした。
残るは――
「――手の平の土は握手でいいので取ってください」
「握手? つまり俺の手に土の汚れを移せと?」
俺をタオル代わりにするとは図々しいな。
「ご名答です! いい機会です。ここで握手してついでに仲直りしましょう」
「俺と院瀬見って喧嘩してたんだっけか?」
「名前を覚えてくれませんでしたし、美少女選抜にも興味を示さなかったじゃないですか! それって生徒会長としてどうなのかなって思いました。それからー……」
根に持ってるとか、性格悪すぎだろ。
「はぁー……だるいな。分かったよ」
色々面倒になったのでそのまま手を差し出そうとすると、
「えいっ!」
「――! いきなり握るなよ」
「南の動きは隙だらけですよ? あんまり隙だらけにしてると、好き勝手にしちゃいますけどいいんですか?」
「それこそ勝手にすればいいんじゃねーの? どうでもいいし」
どうやら完全に俺の手を便利な道具としか見ていないようだ。
それにしても、普通は俺の態度にムカついてもおかしくないのに嬉しそうにしてるのはどういうことなんだ?
これも優勝者の余裕っぷりを見せつけたいって意味だとすれば、俺もこの態度を改めるわけにはいかないな。新葉辺りはうるさそうだが生徒会活動までは口出しして来ないし、現状維持でやらせてもらう。
「……で、俺はこのまま黙って突っ立ってろと?」
「南のおかげで手の汚れも気にならなくなりましたから。それに空に伸びまくっている枝をちょっとだけ切るだけなので、心配いらないです」
「俺が心配するとでも?」
「しなくて結構ですよ。わたし、最強美少女ですから! それと、南のことだから心配無いと思うんですけど、覗かないでくださいね?」
「アホか!」
自分で言うのかよ。まるで新葉《わかば》みたいだな。しかし院瀬見は、スカートのまま苦にすることなく手際よく枝木を切って地面に落としていっている。
女子棟に庭園があったのも驚きだが、こいつがいつも手入れをしているとしたらその部分だけは見直してやってもいいかもしれない。
「ふぅー、大体切り終わりました! 今から下りるので南は枝木を――わっ!?」
「ば、馬鹿っ、何やってんだ!!」
それほど高所でも無いとはいえ、脚立から地面に落ちればただでは済まないはず。黙って突っ立ってろと言われたがそうも言ってられないので、俺はとっさに傾きそうな脚立に向かって身を乗り出していた。
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