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第一章 塩対応な二人

第5話 反省しますか?しませんか?

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「――というわけで、近いうちに体育館でのサプライズでそちらに行きますので、生徒会のみなさんよろしくお願いしまーす!」

 推し女ナンバーワンらしい九賀みずきによって、今回の会議は強引ながら何とか無事に終わった。それというのも、新葉と七先輩によって院瀬見と俺の動きが物理的に封じられたからなのだが。

 つまり、会議は俺以外の生徒会メンバーと推し女たちだけで片付けたことを意味する。それはもう和気あいあいとした雰囲気で。

 そして俺と院瀬見は今、会議室から無理やり移動させられ、霞ノ宮の学食カフェに来ている。

 何というか、女子の方はカフェとか差があり過ぎないか?

 男子の方は単なる食堂だぞ? 

 渡り廊下もそこをわざわざ使用してるってのに、女子棟専用のカフェがあるなんて聞いて無いんだが。

「――で、院瀬見さん」
「……はい」
「それと、翔輝くん!」
「何でしょう?」

 放課後だというのに女子棟のカフェには暇を持て余した女子たちが、あちらこちらの席で楽しそうに談笑している。それなのにここのテーブル席は一触即発手前だ。

 七先輩は院瀬見に向き合い、新葉は俺についている。普段はただの残念な幼馴染なのに、女子棟では最強っぷりを披露できるとか聞いて無い。

「単刀直入に聞きますけど、二人はお互いのことをどう思っているんですか?」

 これまた唐突な質問だ。七先輩からそんなことを聞かれるとは意外過ぎる。

「へ?」
「低スペックっぽい偉そうにしている自称の生徒会長で、美少女選抜のわたしたちを敵対視している面倒な男子です」

 色んな肩書が追加されていて嬉しい限りだな。これだけで判断すれば、院瀬見と俺は相当に相性が悪いということになる。

 俺は何とも思ってないのに何でこんなにも言われるのか。
 
「院瀬見さん、違うよ? この子はね、美少女だからとか関係無く誰にでも態度が悪いんだよ。要するに性格がひねくれまくっててどうしようもないの。だから憎まないであげて?」

 態度が悪いとか憎んでるとか、仮にも幼馴染に向かって何て言い草だ。ちっとも味方してくれないじゃないか。

「別に憎んで無いです。変わってる男子だなって思ってるだけです」
「えっとー嫌いじゃないんだ?」
「好きじゃないです」
「あー……うん。だよねーあはははー」

 どっちだよ。新葉に対してちゃんと返事をしてあげてるだけで、何の和解にもなりはしないぞ。

「南くんはどう? 院瀬見さんのこと……」

 そうかと思えば七先輩も似たことを俺に聞いてくるし。

「俺ですか? 俺は七先輩のことが――」
「うん、ありがと。でも今は関係無いことだから、真面目に答えてくれる?」
「……」

 七先輩に誤魔化しは通用しないな。綺麗な人なうえにハスキーボイスだから逆らうことも出来ないし、する気も起きない。

「そこの準優勝のソレが言うとおり、俺は美少女選抜の優勝者だからって関係無いだけですよ。同じ人間なわけだし、違うのは男子か女子かの違いなだけでー」

 もてはやすつもりもなければ特別な感情をいだく予定はない。まだ何も分かってないのに好きも何も無いだろう。

「……彼はこんな感じだけど、どう? 院瀬見さんはそれでも気に入らない?」
「いいえ、でも……聞きたいんですけど、生徒会長としてさっきまでの態度に対して反省しますか? それともしませんか?」

 生徒会長としてとか、そんな大げさな。

「反省? どんなことに対して?」
「あなたのその態度とか、みんなに迷惑をかけたことに対してです」
「それはお互い様だと思うけどな。でも強いて言うなら、反省は――」

 これも美少女選抜優勝者のおごりってやつか。自分が悪いとか思って無くて俺にだけ罪を感じさせようとしてるのが見え見えだ。

「悪いことはしてないからな。反省などしない!」
「……そうですか。それがあなたってことなんですね。可愛くないですね、本当に」
「俺にとっては褒め言葉だな。嬉しい限りだ」
「減らず口ですね!!」
「いやー照れるね」

 もしや俺と院瀬見は、前世の時からこういう解決の出来ない運命だったりするのか?

 と思いつつ、七先輩も怖いし新葉も腕組みを始めて本気になってきたし、ちょっとだけ態度を緩めないと帰れそうにないな。

「んー……」
「ん? どうした? 院瀬見」

 院瀬見は背を向けて何かに頷きながら思考を巡らせているようだ。さすがに泣いてはいないと思われるが。

 七先輩と新葉も少し院瀬見を一人にさせるようで、二人だけで何かを話し始めた。

「俺はどうすればー?」

 新葉たちに答えを求めようとするも、鋭い視線を向けられたので俺の視線は黙って院瀬見だけに向けることに。

 この場から少し離れた院瀬見を真面目に観察すると、彼女は唇の先を人差し指でくるくると回しながら触れている動きをしている。しかもそれをあえて俺に見せているような気も。

 一体何の意味があるのか。

 そんな感じで院瀬見を見ていると、

「そこの生徒会長――」
「南でも会長でも何でも好きに呼ぶことを許可するけど?」
「じゃあ、南で」

 いきなり呼び捨てかよ。下の名前じゃないだけマシとはいえ。

「で、院瀬見。俺にまだ何か……」
「決めたんですけど、男子棟でサプライズするまで期間があるので、わたしや推し女たちみんなで生徒会に入ります」
「……何だって? 生徒会に? え、何で? ホワイ?」
「南以外の男子たちはともかくですけど、南だけ何か面白いって思ったのでー近くにいたらもっと面白いのかなーって思って」

 何だかよく分からないが、院瀬見は口元を両手で隠しながら目元だけで笑っているような、少しだけゾクッとする動きを見せている。

 てっきり俺とは顔を合わせたくないと言うかと思っていたのに、この展開は想定していない。

 しかも生徒会とか、俺以外のメンバーは何も出来なくなるのでは?
 
「何が面白いのか知らんけど、入るってことなら仕事してもらうぞ?」
「構いませんよ? 分からないことは全て南が教えてくれるんでしょ?」
「さぁ? 副会長かもしれんし、書記か会計かもしれないな」
「…………うん、いいですよそれで」

 一体どういう心境の変化が訪れたのか意味が分からなさすぎる。まさかと思うが、真性のアレとか言わないよな?

 そういうのは幼馴染のアレだけで間に合ってるんだが。

「それと……」
「まだ何か?」
「教えてませんでしたけど、わたし、院瀬見つららです。好きなように呼んでいいですよ」

 どうでもいいけど知ってた。

「じゃ、優勝者で」
「却下です」
「……可愛くないな」
「いいえ、わたし美少女選抜優勝者です」

 こいつ。もしや俺の態度の真似をしようとしているのか?

「美少女の院瀬見」
「分かりきっていることなので、ただの院瀬見で大丈夫です」

 だろうな。そこに落ち着かせようとしているのが分かりやすすぎた。
 
「俺はもう戻っていいんだろ?」
「どうぞ。次からは嫌なくらい顔を合わせるので、とっとといなくなっても大丈夫です」
「あ、そう……で、何で俺を見て笑ってるのか聞いても?」 
「面白いので。それに……」

 含みを持たせた言い方だが興味は無いな。こいつの言うとおりにとっとと戻って家に帰ろう。新葉と七先輩に声をかけて俺だけ先に男子棟へ戻った。

「…………わたしだけにあんな態度とか、何か嬉しいって感じがするかも」
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