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第一章 塩対応な二人
第1話 あ、興味ないです
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どこの高校にも生徒会がある。そして何かしらの権力を持っていると思われていたりするものだ。
しかし実態は、
「翔輝会長、次は女子棟の教室っす!」
「えー? あそこかよ……あんまり行きたくないんだけど」
「なーに言ってんすか。共学になったから立ち入り禁止が解かれたんすよ? 別学の時に夢にまで見た女子棟に行けるんすから、オレ、生徒会メンバーで良かったっす!」
俺が通う古根高校は二年に上がる手前くらいまで別学で、教員を除けば男子しかいなかった。女子と接する機会が得られるかもしれないといえば、せいぜい隣接していた霞ノ宮学園高校を気にすることくらい。
しかし別学の校舎に立ち入ることは出来ず、親戚か友人がいたとしても男子が女子棟に立ち入ることは禁止とされていた。
ところが、生徒数が減少傾向にあったことから統廃合の話が数年前から持ち上がっていたようで、お互いの校舎も大して離れていなかったことが幸いし、気づいたら共学化が成立して今に至る。
「――で、書記の下道くん。女子棟の教室がどうしたって?」
学校名は生徒数が多い古根高校になったものの、女子棟と男子棟はそもそも校舎が離れている状態。そこで別学時代に唯一共有されていた大食堂の通用口を利用して、生徒が行き来するための仮設の渡り廊下が設置された。
いずれ正式な渡り廊下が出来るまでの辛抱だが、再編されるのが夏以降なので、それまでは授業を一緒に受けることが無かったりする。
女子もしくは男子の友達に会いに行く用が無ければ、結局のところ別学時代と何ら変わりはない。しかし生徒会メンバーは生徒の声を聞いて学校に提案したりするので、結構忙しいのが実情だ。
「それなんすけど、学年問わず改修して欲しいらしいっす」
歴史から言えば霞ノ宮の方がやや歴史が長い。つまり校舎も設備も古いことを意味する。
「俺、DIYとか得意じゃないんだけど……」
「いや、会長が直接直すんじゃなくてあくまで要望を聞くだけでいいんすよ」
そんな背景があってか、今や男子よりも女子の要望を聞くことが多くなってしまった。
女子生徒が通っている霞ノ宮は全国美少女選抜コンテストに参加する学校としても有名で、一部女子のレベルが高くタレント活動をしている生徒が多い。
そしてタレント活動をする彼女たちを応援したり、広めたいとする推し女が存在する。基本的には同級生や元から友達が推し女を名乗るようだ。その活動は生徒会活動と同等にあたるらしく、学校の評価も高いらしい。
それを聞いて男子の生徒会だけが割を食っている――と思ったほどだ。
「あ、来た来た。すみませーん。ロッカーがボロいんで新しいものにして欲しいんですけどー。あとついでに、トイレも直してもらえますー?」
――などと、やってもらうのが当然かのごとく多くの女子は俺たちのことをまるで便利屋扱いしてくるからたまったものじゃない。
生徒会といっても権力があるわけでも無いし、先生に特別気に入られて内申書が劇的に良くなるわけでも無いが、別学時代は割と気楽に動いていただけに共学になってからの扱いにはどうにも納得がいかないでいる。
「……ロッカーの改修、それとトイレ……っすね」
生徒会メンバーの中で頻繁に女子棟に入るのは、決まって生徒会長の俺と書記だ。残りのメンバーは滅多に動こうとしないが、女子とどうやって接すればいいのか分からないのが本音らしい。
「翔輝会長。問題無ければそろそろ戻るっすか?」
「……そうだな。長くいてもいいことなんて無いし、戻るか」
そんな感じで用事を終え男子棟への長い渡り廊下を歩いていると、何やら前方から複数人の女子が向かって来ているのが見えた。
「……ん? 何で数人の女子が男子棟から?」
「何なんすかね? 生徒会でも無さそうだし」
「まぁいいか。どうせ無関係だろうから通り過ぎればいいだけだな」
女子が男子棟に出入りするのは今では普通の光景だ。そんなこともあり会釈だけして通り過ぎようとするが、少し派手めの金髪女子が俺に近づいてくる。
何だ?
「そこのぼーっとしたフツメン男子、待ったー!」
人探しでもしてたかのようにいきなり呼び止められた。しかも何気に失礼だ。
「……どっちの?」
「この場にはあなたとウチらしかいませんけど、頭は大丈夫ー?」
「普通男子ならもう一人いるだろ。隣の……」
書記の下道は上手いこと存在を消し、俺を置いて男子棟へと消えていた。女子棟に来ることを喜んでいたくせに、嫌な予感がする時には素早い奴だ。
「――で、俺に何の用?」
この場にいる複数の女子たちは俺が生徒会長であることなど知りもしない。何故ならまだ正式に紹介をしたことが無いからだ。少なくとも知っていたらこんな取り囲むような真似はしないし、失礼な発言はしないはず。
「あ、私ぃ、推し女の九賀みずきなんですけどー、今回選ばれた院瀬見つららさんについてどう思うか聞いて回ってるんですよー。やっぱり付き合いたいとか、お近づきになりたいって思ったりする感じですー?」
俺にICレコーダーを向けている女子は、矢継ぎ早に質問してくる。
だが、
「セミ? まだ夏じゃないし、冬だとしても氷柱が出来る心配はいらないと思うけど?」
俺の言葉に女子たちは顔を見合わせ、一斉にため息をついた。何かおかしなことでも言っただろうか?
「セミ……――じゃなくて! 全国美少女選抜優勝者の院瀬見さんのことを聞いてるんですけどー……。男子がわざわざ女子棟に来てるってことは会いに来たからなんですよねー? それともまさか彼女のことを知らないとかー?」
生徒会活動で来てるだけなんだが。
「……全国美少女選抜? 優勝者のセミが何かしたとか?」
「違くて!! あー、もう。何こいつー!」
こいつ呼ばわりはあんまりだろう。
あいつから霞ノ宮はレベルが高い女子、それもかなりの美少女がいると聞いているし、コンテストの存在はもちろん知っている。一応生徒会長だからその辺は抜かりない。
だからといってあえて知っていることを答える必要は無いので適当にするのがベストだ。
「コホン、失礼しました。インタビュアーの彼女に代わって特別に、わたし自らがお聞きしますね?」
俺にインタビューしてきた金髪女子に代わり、後ろに控えていた別の女子が同じことを聞いてくる。
俺と同じくらい高めの身長で、黒くて長いつやつやな髪をさせて目鼻立ちのいい女子だが笑顔が嘘っぽい。第一、金髪女子と違って名前を名乗らないのはどうなんだ。
目の前の女子の正体も名前もおれはひと目で分かったが、自ら名乗るまでは知らないフリをしておく方がいいだろうな。そもそも初対面なわけだし。
「答えられる範囲なら」
「……分かりました! 早速ですけど、全国美少女選抜コンテストの存在は?」
「聞いたことくらいは」
「あなたのような普通男子って、美少女なら誰でもいいとか思います?」
何を聞くかと思えばそんなことか。
「んー? さぁ……」
「全国から選び抜かれた美少女で優勝者!! それってすごいことなんですけど、あなたはその美少女と付き合いたいって思いますよね?」
いやに美少女を強調してくるな。しかも付き合いたいとかを聞いてどうするのか。
「あー。興味ないです」
バッサリと言い放ちとっとと戻ろうとすると、周りの女子に取り押さえられながら興奮した女子が俺にまくし立ててくる。
「――はぁっ? そんなわけっ! だって美少女優勝者が今まさにあなたの目の――」
「だ、駄目ですよ。ここは抑えて! 身バレさせたらサプライズにならないですってば」
「うんうん、あんな雑魚キャラ男のことなんて気にしない方がいいですよ」
――などなど、力づくで俺に詰め寄ろうとする彼女を女子たちが制止した。見た目に反してもしや暴れるキャラか?
何かされても面倒だし、俺も謂れのない雑魚キャラ呼ばわりされている以上、ここは退散することにする。
「こっちの用は済んでるんで、戻るけど?」
「……お好きにどうぞ!! この――」
「じゃ、そういうことでー」
多分俺に色んな罵詈雑言を言おうとしていたようだが、それも周りの女子たちによって口を手で塞がれていた。
美少女であることは間違いが、これから頻繁に顔を合わせるとかになってもどうもならないし気にしなくてもいいはずだ。
そう思いながら俺は男子棟へと急いだ。
◇
「……あんな男もいるんだ。まさかわたしが塩対応されるとか」
変な反応を見せた翔輝が向かった先を見ながら、つららは少しだけ口元を緩めた。
「院瀬見さん、ごめんー! すっごくムカついた気持ちはウチらも分かるよー?」
「……それよりも九賀さん、明日もまた男子棟に?」
「あ、です! その他大勢のモブ男子からの提案でー、生意気にも偉そうな会議するみたいなんで、そこで紹介したいなーと。男子が騒ぐと思うのでー……大丈夫です?」
「うん、それは別に問題無いよ。そういうのに慣れてるから」
さっきみたいな失礼男子がいるかもしれない――そう思ったつららは、何となく笑みがこぼれた。
しかし実態は、
「翔輝会長、次は女子棟の教室っす!」
「えー? あそこかよ……あんまり行きたくないんだけど」
「なーに言ってんすか。共学になったから立ち入り禁止が解かれたんすよ? 別学の時に夢にまで見た女子棟に行けるんすから、オレ、生徒会メンバーで良かったっす!」
俺が通う古根高校は二年に上がる手前くらいまで別学で、教員を除けば男子しかいなかった。女子と接する機会が得られるかもしれないといえば、せいぜい隣接していた霞ノ宮学園高校を気にすることくらい。
しかし別学の校舎に立ち入ることは出来ず、親戚か友人がいたとしても男子が女子棟に立ち入ることは禁止とされていた。
ところが、生徒数が減少傾向にあったことから統廃合の話が数年前から持ち上がっていたようで、お互いの校舎も大して離れていなかったことが幸いし、気づいたら共学化が成立して今に至る。
「――で、書記の下道くん。女子棟の教室がどうしたって?」
学校名は生徒数が多い古根高校になったものの、女子棟と男子棟はそもそも校舎が離れている状態。そこで別学時代に唯一共有されていた大食堂の通用口を利用して、生徒が行き来するための仮設の渡り廊下が設置された。
いずれ正式な渡り廊下が出来るまでの辛抱だが、再編されるのが夏以降なので、それまでは授業を一緒に受けることが無かったりする。
女子もしくは男子の友達に会いに行く用が無ければ、結局のところ別学時代と何ら変わりはない。しかし生徒会メンバーは生徒の声を聞いて学校に提案したりするので、結構忙しいのが実情だ。
「それなんすけど、学年問わず改修して欲しいらしいっす」
歴史から言えば霞ノ宮の方がやや歴史が長い。つまり校舎も設備も古いことを意味する。
「俺、DIYとか得意じゃないんだけど……」
「いや、会長が直接直すんじゃなくてあくまで要望を聞くだけでいいんすよ」
そんな背景があってか、今や男子よりも女子の要望を聞くことが多くなってしまった。
女子生徒が通っている霞ノ宮は全国美少女選抜コンテストに参加する学校としても有名で、一部女子のレベルが高くタレント活動をしている生徒が多い。
そしてタレント活動をする彼女たちを応援したり、広めたいとする推し女が存在する。基本的には同級生や元から友達が推し女を名乗るようだ。その活動は生徒会活動と同等にあたるらしく、学校の評価も高いらしい。
それを聞いて男子の生徒会だけが割を食っている――と思ったほどだ。
「あ、来た来た。すみませーん。ロッカーがボロいんで新しいものにして欲しいんですけどー。あとついでに、トイレも直してもらえますー?」
――などと、やってもらうのが当然かのごとく多くの女子は俺たちのことをまるで便利屋扱いしてくるからたまったものじゃない。
生徒会といっても権力があるわけでも無いし、先生に特別気に入られて内申書が劇的に良くなるわけでも無いが、別学時代は割と気楽に動いていただけに共学になってからの扱いにはどうにも納得がいかないでいる。
「……ロッカーの改修、それとトイレ……っすね」
生徒会メンバーの中で頻繁に女子棟に入るのは、決まって生徒会長の俺と書記だ。残りのメンバーは滅多に動こうとしないが、女子とどうやって接すればいいのか分からないのが本音らしい。
「翔輝会長。問題無ければそろそろ戻るっすか?」
「……そうだな。長くいてもいいことなんて無いし、戻るか」
そんな感じで用事を終え男子棟への長い渡り廊下を歩いていると、何やら前方から複数人の女子が向かって来ているのが見えた。
「……ん? 何で数人の女子が男子棟から?」
「何なんすかね? 生徒会でも無さそうだし」
「まぁいいか。どうせ無関係だろうから通り過ぎればいいだけだな」
女子が男子棟に出入りするのは今では普通の光景だ。そんなこともあり会釈だけして通り過ぎようとするが、少し派手めの金髪女子が俺に近づいてくる。
何だ?
「そこのぼーっとしたフツメン男子、待ったー!」
人探しでもしてたかのようにいきなり呼び止められた。しかも何気に失礼だ。
「……どっちの?」
「この場にはあなたとウチらしかいませんけど、頭は大丈夫ー?」
「普通男子ならもう一人いるだろ。隣の……」
書記の下道は上手いこと存在を消し、俺を置いて男子棟へと消えていた。女子棟に来ることを喜んでいたくせに、嫌な予感がする時には素早い奴だ。
「――で、俺に何の用?」
この場にいる複数の女子たちは俺が生徒会長であることなど知りもしない。何故ならまだ正式に紹介をしたことが無いからだ。少なくとも知っていたらこんな取り囲むような真似はしないし、失礼な発言はしないはず。
「あ、私ぃ、推し女の九賀みずきなんですけどー、今回選ばれた院瀬見つららさんについてどう思うか聞いて回ってるんですよー。やっぱり付き合いたいとか、お近づきになりたいって思ったりする感じですー?」
俺にICレコーダーを向けている女子は、矢継ぎ早に質問してくる。
だが、
「セミ? まだ夏じゃないし、冬だとしても氷柱が出来る心配はいらないと思うけど?」
俺の言葉に女子たちは顔を見合わせ、一斉にため息をついた。何かおかしなことでも言っただろうか?
「セミ……――じゃなくて! 全国美少女選抜優勝者の院瀬見さんのことを聞いてるんですけどー……。男子がわざわざ女子棟に来てるってことは会いに来たからなんですよねー? それともまさか彼女のことを知らないとかー?」
生徒会活動で来てるだけなんだが。
「……全国美少女選抜? 優勝者のセミが何かしたとか?」
「違くて!! あー、もう。何こいつー!」
こいつ呼ばわりはあんまりだろう。
あいつから霞ノ宮はレベルが高い女子、それもかなりの美少女がいると聞いているし、コンテストの存在はもちろん知っている。一応生徒会長だからその辺は抜かりない。
だからといってあえて知っていることを答える必要は無いので適当にするのがベストだ。
「コホン、失礼しました。インタビュアーの彼女に代わって特別に、わたし自らがお聞きしますね?」
俺にインタビューしてきた金髪女子に代わり、後ろに控えていた別の女子が同じことを聞いてくる。
俺と同じくらい高めの身長で、黒くて長いつやつやな髪をさせて目鼻立ちのいい女子だが笑顔が嘘っぽい。第一、金髪女子と違って名前を名乗らないのはどうなんだ。
目の前の女子の正体も名前もおれはひと目で分かったが、自ら名乗るまでは知らないフリをしておく方がいいだろうな。そもそも初対面なわけだし。
「答えられる範囲なら」
「……分かりました! 早速ですけど、全国美少女選抜コンテストの存在は?」
「聞いたことくらいは」
「あなたのような普通男子って、美少女なら誰でもいいとか思います?」
何を聞くかと思えばそんなことか。
「んー? さぁ……」
「全国から選び抜かれた美少女で優勝者!! それってすごいことなんですけど、あなたはその美少女と付き合いたいって思いますよね?」
いやに美少女を強調してくるな。しかも付き合いたいとかを聞いてどうするのか。
「あー。興味ないです」
バッサリと言い放ちとっとと戻ろうとすると、周りの女子に取り押さえられながら興奮した女子が俺にまくし立ててくる。
「――はぁっ? そんなわけっ! だって美少女優勝者が今まさにあなたの目の――」
「だ、駄目ですよ。ここは抑えて! 身バレさせたらサプライズにならないですってば」
「うんうん、あんな雑魚キャラ男のことなんて気にしない方がいいですよ」
――などなど、力づくで俺に詰め寄ろうとする彼女を女子たちが制止した。見た目に反してもしや暴れるキャラか?
何かされても面倒だし、俺も謂れのない雑魚キャラ呼ばわりされている以上、ここは退散することにする。
「こっちの用は済んでるんで、戻るけど?」
「……お好きにどうぞ!! この――」
「じゃ、そういうことでー」
多分俺に色んな罵詈雑言を言おうとしていたようだが、それも周りの女子たちによって口を手で塞がれていた。
美少女であることは間違いが、これから頻繁に顔を合わせるとかになってもどうもならないし気にしなくてもいいはずだ。
そう思いながら俺は男子棟へと急いだ。
◇
「……あんな男もいるんだ。まさかわたしが塩対応されるとか」
変な反応を見せた翔輝が向かった先を見ながら、つららは少しだけ口元を緩めた。
「院瀬見さん、ごめんー! すっごくムカついた気持ちはウチらも分かるよー?」
「……それよりも九賀さん、明日もまた男子棟に?」
「あ、です! その他大勢のモブ男子からの提案でー、生意気にも偉そうな会議するみたいなんで、そこで紹介したいなーと。男子が騒ぐと思うのでー……大丈夫です?」
「うん、それは別に問題無いよ。そういうのに慣れてるから」
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