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第二章 クラン

第49話 幼帝の言葉

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「ふん、何だってこんなところに来る必要があるってんだ?」
「ミディヌ。俺だって来たくて来たわけじゃないよ。でも――」

 拘束という形で宮廷魔術師の女性を連れて来た。
 とはいえ、

「卑怯者め!」

 城に入っても彼女はずっとこの調子だ。
 アーテルに言われた通り、俺はミディヌとウルシュラを加えて帝国に転移して来た。

 帝国入りすることに多少の抵抗はあった。
 しかし今やここでの脅威は失せていて、緊張する必要も無くなっている。

「ルカスさん、ルカスさんがいた帝国の城がここなんですか?」
「……うん、そうなるね」
「でも何だか寂しい感じがしますです」
「そうだね」

 今まで城に足を踏み入れたことがあるのはナビナだけ。ウルシュラとミディヌはもちろん初めてのことになる。ミディヌはずっと気を張っているが、ウルシュラが言うように緊張感はほとんど無い状態だ。

 それもそのはずで、すれ違う人間のほとんどは宮廷魔術師ではない者ばかり。
 皇帝による影響によるものなのか、賢者の存在が無くなったからなのかは不明だ。

「ルカス。皇帝はどこ?」

 ナビナが首を傾げて聞いてくる。

「ルカスが何で居場所を知ってんだ? 聖女の身内だからか?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「あたしにはどうでもいいけどな。もしここで宮廷魔術師とやり合うってなら、いつでもやりたいくらいだ!」
「それはさすがに……」

 皇帝がいるところは、今まで賢者か聖女しか知らされていなかった。
 俺が賢者を崩した後、皇帝として姿を見せた少女は自分がどこにいるのかを明らかにした。

 しかし詳しい居場所については明かしてくれなかった。
 ナビナはここの庭には足を踏み入れたものの、皇帝と出会っていない。
 それを考えれば、俺以外のメンバーに顔を見せるのは異例ともいえる。
 
「あっ、ルカスさん。お迎えの人たちがあそこに~!」

 ウルシュラが前方に向かって指を差す。
 その場所は中庭に通じる扉付近だ。あの辺りに侍従を置いているということは、やはり中庭からでしか行けないということかも。
 
「くそっ、離せっ!! ルカス・アルムグレーン! この卑怯者めが!!」
「この女も連れて行くつもりなのか? ルカス」
「うう~ん……」

 賢者による絶対服従なのか、宮廷魔術師の女性はずっと言うことを聞いてくれない。
 皇帝の下に連れて行けば精神状態が治る可能性があるだけに、連れて来てはみたものの……。

「行けば何とかなるかもしれないけど、何とも言えないかな……」

 帝国に飛ぶ前、冴眼の力で女性の怪我は治癒した。
 しかし俺に対する憎悪だけは回復することは無く、結局連れて来るしかなかった。

「全く、適当な奴め」

 ミディヌの言うことはもっともな話だ。
 とはいえ、現状はこれしか思い浮かばず……。

「ルカス。中庭が変わってる」
「本当だ……あんなに荒れ果てていたはずなのに」
「ルカスさん。帝国の庭がここなんですよね? すごい庭園じゃないですか!!」

 俺と賢者が戦った時、確かに荒れ果てていた。
 だが今の光景はあの時の記憶が嘘だったかのような、彩り豊かな花壇がふんだんに表れている。

 庭のことに目が無いウルシュラが夢中になっているところで、

「ルカス・アルムグレーン。こっちに上がって来てくれる?」
 
 声が上から聞こえて来た。
 見上げると、一見すると壁にしか見えないところに窓が見えている。
 侍従に案内され、俺たちは皇帝がいるところにたどり着いた。

「ええぇ? バルディン帝国の皇帝さんって、どう見ても~」
「ふんっ、皇帝じゃなくて幼帝じゃねえか!」
「……わたしと変わらないくらい?」

 などなど、皇帝の見た目に対する反応は様々。
 賢者との戦い以来とはいえ、こうして真正面で対峙するのは初めてのことになる。

「ルカス・アルムグレーン。そこの宮廷魔術師の女をこちらに……」

 賢者に服従状態の女性を見て、皇帝はすぐに察したようだ。
 そのまま数人の侍従たちが奥の方へと連れて行く。

「あなたが帝国の皇帝? わたしは、ナビナ。ルカスに何の用?」
「そう、帝国の皇帝バルディン・モナルカ。ルカス。それから仲間のあなたたちにはやってもらいたいことがあって、ここに呼んだの」
「――俺たちにやってもらいたいこと?」

 この期に及んで今さら何を頼むつもりなのか。
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