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第二章 クラン

第42話 最強は誰だ? 後編

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「おらぁっっ!!! くたばっちまいな!!」

 アルシノエの大剣一振りで、手前に見えていた魔物は一斉に吹き飛ばされる。
 とり逃がした魔物は他の戦士がとどめを刺す……という流れ。

「魔物が襲って来る度に、この町では最強が誰かを決めているんですよ。今のところ姉しかいないんですけど、以前は私が組んでいたパーティーメンバーの中に……」
「……なるほど」

 ギルドマスターだけあってアルシノエの強さは確かなようだ。
 重量のある大剣で吹き飛ばし攻撃。これなら確かに魔物の種類は関係無い。

 しかし魔物全てを吹き飛ばしても完璧ではなく、数匹は攻撃から外れている。
 攻撃の破壊力はありそうだが取り逃がしてしまうのは、大振りな攻撃にはありがちだ。

 この戦いを見ると、魔物を殲滅させるわけではないらしい。
 むしろあえて逃がしているようにも見える。
 軽傷を負う戦士もちらほら見かけるし、圧勝というわけでもなさそう。

 仕方ない。俺が出て回復を――

「ルカスさん? あれ、まだ姉たちが戦ってますけど、どうされるんですか?」
「怪我人もいるみたいだし、第一波の魔物が残り少なくなってるから、そろそろ出ておこうかなと」
「あ、本当ですね。でも、姉たちが完全に戻って来てからでもいいと思いますよ!」

 戦士たちの強さも大体分かった。
 そうなると、俺だけここに待機する意味は無いはず。

「え、でも……」
「姉の強さは分かっていただけたはずです。戦士たち全員もそうですけど、魔術師の魔法を間近で見たことが無い人たちばかりですので、ルカスさんのお強さを見せつければきっとルカスさんに対する見方が変わるはずですよ!」

 それもそうか。ウルシュラは俺の強さを知っている。
 それなのにここに控えさせているのは、アルシノエの強さを見せたかったわけか。

 しばらくして、手前に見えていた魔物は一掃。
 立てないほど怪我を負った男たちはいないようだが、疲労はかなりありそうだ。

「ふぅぅ~。どうだい? あたしらのような攻撃は見たことが無いだろう?」

 ギルドマスターのアルシノエはまだ余裕がある。
 しかし、他の戦士は休みを挟まないと厳しそうな気が。

「アルシノエさま! ルカスさんは治癒魔法が得意です。彼らを回復してもらうのはいかがでしょうか?」

 自信満々な顔でウルシュラは俺を見ている。
 第二波の魔物到達までは少し間があるし、治癒魔法をかけてもよさそうだ。
 そんなウルシュラに対し、

「へぇ? 魔術師といやあ、範囲の攻撃魔法だけかと思っていたがそんなことも出来るのかい? 万能の魔術師か。そいつはいいね! しかし、こいつらにとってはいつものことさ。回復は無用だよ」

 アルシノエはあっさり断った。
 傷だらけの肉体を勲章にしている戦士がいるのは聞いたことがある。
 ここではそれが当たり前かもしれないが、せめて今回受けたダメージ分だけでも治してやりたい。

「で、でも、ルカスさんは回復させるのも得意としてるし、すぐに元気になりますよ?」
「この町の戦士にそんな甘ったれた奴は無用だよ! それに回復に魔力を使っちまったら、今以上に魔物を取り逃がしちまうんじゃないのかい?」

 どうやら魔術師にいい印象を持っていないとみえる。
 ウルシュラを追い出したパーティーが関係していそうだが……。

「……じゃあこうしましょう。次の魔物を全て視界上から消し去ったら、皆さんを回復するというのはどうですか?」
「視界上から? 第二波、第三波関係無く全滅をさせる――そういうことかい?」
「そうです」

 相当疑われてるな。

「ウルシュラ! ルカスはそんなに強いのかい?」
「は、はい。それはもう……!」
「本当に本当だね? あんたを追い出した魔術師みたいに口先だけの奴はこりごりだよ!」

 妹であるウルシュラにまくしたてて聞くなんて。
 どれだけ魔術師嫌いなんだ。いや、この場合はウルシュラを守っての発言か。

「――もうすぐ第二波の魔物ども……それもよりにもよってゴブリンの大群が近づいて来る。そこまで言うなら、一人でやってみな! 取り逃がしも許さないよ!」
「すぐに終わりますので、ご安心を!」

 武器があるわけでも無いが、町と戦士たちを背に前面に立つ。
 
「おいおいおい! ひ弱な魔術師一人に町を託せんのか?」
「ギルドマスター! 魔術師なんざ信用出来ねえよ!」
「妹さんには悪ぃが、魔術師は――」

 疲れを見せる戦士たちが地面に座り込み、口々に文句を言い出している。
 この場で立っているのは、ウルシュラとアルシノエだけ。

 そしてここに向かって来る魔物は、ゴブリンの大群と後ろの巨人族が数百以上。
 見せつけるにはちょうどいい数だ。

「ちっ、ゴブリンキングも見えているじゃないか。本当に大丈夫なのかい?」

 アルシノエも文句を言っているが、その声をかき消すかのように俺は冴眼の力を解き放った。
 そして――

 一瞬、空が真っ白に輝く閃光が走る。
 辺りにいた彼らやアルシノエは、光に耐えられずに目を覆い、戸惑いながら声を張り上げた。

「――な、何だ、何が……!? バ、バカな……!! 魔物どもの姿が無い……だと!?」
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