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第一章 宮廷魔術師

第14話 転移門を目指して

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「ルカス、よく眠れた……?」
「ルカス!! 起きたんなら早く支度しなよ! あたしはウルシュラを起こしてくっから」

 俺はどのくらい眠っていたのか。
 初めに聞こえて来たのはナビナの声だ。次に聞こえたのが、威勢のいいミディヌの声。
 俺を起こす声ですらやたらに声が大きかった。

 ふかふかなベッドから体を起こし、ゆっくり目を開ける。

「……ナビナ、ちょっと近いんだけど……」
「ルカスの目、確かめてるだけだから問題無い」

 そう言われても、額がくっつくくらい近づかれているんだけど……。
 ナビナにその気が無くても何となく恥ずかしい。

 そんな俺に構わず、ナビナは無言で見つめてくる。
 ナビナの瞳は、細かい灰色の結晶石が混ざり合った不思議な瞳色だ。

「ん、分かった。まだまだ途中だけど、先に済ませればもっと輝きが増す」
「……覚醒は果たしたってことかな?」
「果たした。でも、まだ。その前にルカスは片付けておかないと駄目」

 ナビナの目からは先を見通す何かが見えている。
 そして完全な覚醒を果たすには、先にやらなければならないことも。

 おそらくそれは――賢者リュクルゴスとの決着。
 リュクルゴスが俺を追う限り、クランどころか冒険者ライフを送ることも叶わない。

「分かってるよ」
「うん。それならいい。それから、ルカス……アーテルが呼んでる」

 そう言うと、ナビナは満足気な顔で部屋を出て行った。
 ナビナか……未だに彼女のことはよく分からないままだな。

 アーテルがいる所に向かおうとすると、窓から見える外はすっかり暗くなっていた。
 
「ルカスさん、体の調子はもういいの? 少し顔が赤いようだけど……」
「あ、いえ、問題無いですよ。話って何ですか?」
「そうね、その前に…………」

 どういうわけか、アーテルの視線が俺の全身に注がれている。 

「その格好だとさすがに戦えないでしょうし、うちで用意した魔術師ローブを着てもらいたいんだけど……どうかしら?」
「格好……? げぇっ!? え、何で……薄いシャツ一枚に……」

 さすがに裸では無かったとはいえ。

「あなたを寝かせる時に、ウルシュラとミディヌさんが脱がしてくれてね」
「あの二人が……なるほど」

 俺だけ先に眠ってしまうとということらしい。

「そのシャツは『レグリースシャツ』っていって、ウルシュラが大量に作ったシャツなんだけど……間に合わせだから気にしないであげてね」
「……」

 アーテルからローブを渡され、すぐに着替えた。
 宮廷魔術師装備とは性能面で劣るが、身軽さがあって動きやすい感じがある。

「このローブもウルシュラが?」
「ううん、それはうちの余りも……最後の在庫になるわ。うちのお得意様が買いに来てたんだけど、最近は来なくなってね。でも結構着れるものでしょう?」

 余りものか。それでも物は良さそうだしいいけど。

「いや、なかなか着やすいですよ」

 魔法防御力は高く無さそうだけど、物理防御には強そうな感じがする。

「ところで、ウルシュラは?」
「ミディヌさんが起こしに行ってくれてるんだけど……あぁ、来たわね」

 ウルシュラは以前、ナビナに水をかけられてようやく起きた。
 ミディヌの疲れ切った様子を見ると、起こすのにかなり苦戦するみたいだ。

「おはようございます、ルカスさん~! そろそろ出発しますか?」
「まだ暗いけどね」

 俺が寝てしまった時間が中途半端だったこともあるが、夜明けまではだいぶ時間がある。

「ルカス。朝を待つ前に行った方がいいと思うぜ!」
「えっ?」
「もうすぐこの辺にまで奴ら……宮廷魔術師の連中が来るはずだ。ルカスとあたしを追ってな!」

 そうか、特務の連中だな。かなりの数が展開されているはず。
 皮肉なことに、リュクルゴスの言う代表のような奴らだ。

 そうなると夜のうちに移動するしかないか。

「ルカスさん。ここからどうやって帝国に向かうんですか~?」

 徒歩ではいずれ朝を迎えてしまう。
 それにゴブリンを相手しながら抜けて行くのも面倒だ。
 
「アーテルさん。ラザンジ村は今……?」
「ラザンジ? あの村はすでに廃村で、しかも獣の棲み処になっていたはずだけれど……そこに何かあったかしら?」

 バルディン帝国の宮廷魔術師なら、東西南北に位置する転移門の場所は把握している。
 だが南の転移門から転移可能なのは北のみ。一方通行で簡単には戻れない。

 問題は転移門を使わなくなって、数年以上も経っていることだ。
 果たして転移門が正常に動くかどうか。

 それに宮廷魔術師アルムグレーンでは無くなった俺が使えるかどうかも……。
 
「ラザンジ村には、帝国の宮廷魔術師が使える転移門があるんです。そこからなら北の転移門に飛べるんですが……」

 サゾン高地を突っ切るよりも、魔物の棲み処に行く方が手っ取り早いはず。

「えぇ? でも、ルカスさん。ルカスさんはもう宮廷魔術師じゃないですよね? 大丈夫なんでしょうか?」

 ウルシュラも痛いところを突くな。あれだけ興奮気味だったのに。

「もちろん確実じゃない。でも迷ってる余裕は無いし、ゴブリンに襲われるよりはマシなんじゃないかな?」
「そうね……歩くよりも早いだろうし、西の帝国に向かうなら北に行くのがいいかもしれないわ。廃村になってからは道も荒れてるけれど、ここからさほど遠くも無いわ」

 かつてのラザンジ村は転移門でしか行けず、セルド村すらも知らなかった。
 しかしけもの道となった今なら、直通で行けるはず。

「ルカスならきっと何とか出来る……行こう、ルカス」
「あたしはルカスが行くところに行くぜ! あんたは恩人だからな!」
 
 まるでウルシュラだけが渋っているように思ったのか、

「い、行きます行きます! ルカスさんなら魔物でも何でも問題無いじゃないですか~!」
「――よし、忘れ物が無いなら行こう」
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