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第一章 宮廷魔術師
第9話 最弱の攻撃戦士
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オークの集落であるセルド村。
ここを通るには、アーテルに認められる必要があった。
認められると裏口に通され、オークのみが暮らす村への進入を許される。
「本当に本当に、何もして来ませんか?」
酒盛りのオークと交渉していたはずなのに……。
ウルシュラは何で怖がってるんだろう。
これから獣人とも仲間になっていくし、慣れてもらわないと厳しいのに。
「俺たちは敵じゃないし、アーテルの"仲間"とされたからね。通り抜けるだけなら、特に何も心配いらないと思うよ」
「そ、それならいいんですけど~……」
俺たちは雑貨屋アーテルの裏口からセルド村に入った。
目的地はコボルト族の森、オーディー。
コボルト族のアロンを送り届けることで、改めてアーテルが『協力者』となる。
「ところでアロン。武器はその手斧かな?」
「そうだぞ。おいら、強い! 任せろ!」
「手斧を手にしてるということは、君は戦士ってことになるのかな。魔物が出たら戦いぶりを見せてもらおうかな」
宮廷図書館で読み漁った文献。
それによれば、コボルトは獣人の中でも"最弱"とされている。
しかし戦いにおけるセンスがいい。
小柄な体格を上手く使って驚異的に素早い……など。
これまで魔法での戦いが中心だった俺からすれば、学ぶべきものがありそうだ。
セルド村を出た直後。
アロンよりも小柄である獣、ラットが複数匹で現れた。
セルド村の入口は安全な雑貨屋だったが、出口側は一面森の中。
オークが日常的に通るけもの道が続いている。
人間の手は入っておらず、かなり複雑な地形だ。
ラット程度ならすぐに追い払えるが……。
「そいつらはおいらがやる! おいらは素早くて強烈なんだぞ」
「自信があるみたいだね。それなら君に任せるよ」
小さな手斧を持ちながら、アロンは複数のラットに向かって行く。
その姿勢は見習うところがあり、彼の戦いぶりを見てから動くつもりだ。
その様子にナビナは不安そうな表情で、
「最初からルカスが行くべき。あの子、きっと弱い」
そんなはっきり言わなくても。
ナビナはおれのすぐそばに立っていて、アロンが向かう姿を見ているだけだ。
ウルシュラは――
「ミルクがいいかな~それとも~」
コボルト族に会うと知った時から、なぜかひたすら調理している。
後方支援職の彼女だが、直接的な戦闘以外は何か作っていたいらしい。
「ルカスさん。戦いが終わったら教えてください~。道具を片付けますから!」
「終わったらそうするよ」
ウルシュラに話しかけたほんのわずかな時間に、ナビナから声が上がる。
「あっ……! ルカス、あの子危ない」
すぐに振り返り、ラットがいるところを見てみると……。
「こんなにいっぺんに厳しいぞ。こんなのは戦いって言わないんだぞ!」
全身傷だらけになったアロンが、やせ我慢をしながら立っている。
やはり戦うことは厳しいのか? しかし簡単に手助けをしていいのか迷う。
アロンを見ると彼は弱り切った表情をしていて、敵への恐怖が顔に表れている。
「ルカス。大丈夫、あの子は悔しがらない。ルカスがとどめを刺すべき」
「ナビナはアロンのそばにいてあげて!」
「うん。分かった」
ナビナも魔術が使えると最初に聞いていた。
そばについててもらえば、アロンの傷はきっと良くなるはず。
アロンとナビナを後ろに下がらせ、俺はラットが集まっている所に近づく。
ラットは基本的に、自分たちよりも"弱い"相手にしか向かって来ない。
村を出てすぐに現れたのもアロンを見つけたからだ。
近付いて来ない獣に対しやれることと言えば、脅威となる力を見せるだけ。
そう思いながら俺は手に魔力を集め、軽い風を起こす――
――はずだった。
足下に見える小さな複数のラット。そこに手をかざそうとするが……。
視界に入っていたラットが、旋風によって遠くの茂みに吹き飛んでいた。
「あれっ? まだ何もしてないのに……」
これも冴眼でやったのか?
魔力消耗による魔法を繰り出す場合、一瞬のためらいが生じる。
敵の見極めや、攻撃後の後始末など。それらを考えてから行動に移す。
それが今までやって来た任務でのやり方だった。
しかし、自分で全く自覚の無いことが目の前で現実に起きた。
ラット程度だと力を使うまでも無いとはいえ。
冴眼から"敵"と認識された対象だからだろうか。
「ルカス、終わった?」
「見ての通りだよ。アロンの傷は平気?」
「痛そうにしてる。ルカスが治してあげて。ナビナ、近くで見てるから」
「え? ナビナが治癒してあげたんじゃないの?」
ナビナは思いきり首を左右に振っている。
魔術が使えるはずなのに治癒の出来ない魔術なのか。
横になっているアロンに近づき、彼を見つめる。
「クゥゥ……」
すると、みるみるうちにすり傷や腫れがひいていく。
冴眼は治癒に優れた力なのか? 水も出したし、癒し効果もあった。
しかしそれなら宮廷魔術師を消した力は……。
「……ルカスの目、使ってる感覚ある?」
「まだ無いかな。また光ってるってことだよね?」
ナビナが軽く頷いてみせた。
「自分で分かるようにならないと眠る力、引き出せない。今使ってる力は聖石の一部」
「えっ、何でそんなことが分かるの?」
聖石といえば、宝石鑑定屋の店主がそんなことを言っていた。
そうなると今まで使っていた力は、全然大したことがないということになる。
「大丈夫。ルカスの力、ナビナが少しずつ少しずつ……」
どうやらナビナは、自分のことを話す気は無いようだ。
「ルカスはアロンを見ておいて。ナビナ、ウルシュラ呼んで来る」
「あぁ、うん」
戦わないナビナの力。
森に暮らす普通のエルフとは違う子なのかもしれない。
とにかくアロンが目覚めるのを待って、オーディーの森を目指すか。
ここを通るには、アーテルに認められる必要があった。
認められると裏口に通され、オークのみが暮らす村への進入を許される。
「本当に本当に、何もして来ませんか?」
酒盛りのオークと交渉していたはずなのに……。
ウルシュラは何で怖がってるんだろう。
これから獣人とも仲間になっていくし、慣れてもらわないと厳しいのに。
「俺たちは敵じゃないし、アーテルの"仲間"とされたからね。通り抜けるだけなら、特に何も心配いらないと思うよ」
「そ、それならいいんですけど~……」
俺たちは雑貨屋アーテルの裏口からセルド村に入った。
目的地はコボルト族の森、オーディー。
コボルト族のアロンを送り届けることで、改めてアーテルが『協力者』となる。
「ところでアロン。武器はその手斧かな?」
「そうだぞ。おいら、強い! 任せろ!」
「手斧を手にしてるということは、君は戦士ってことになるのかな。魔物が出たら戦いぶりを見せてもらおうかな」
宮廷図書館で読み漁った文献。
それによれば、コボルトは獣人の中でも"最弱"とされている。
しかし戦いにおけるセンスがいい。
小柄な体格を上手く使って驚異的に素早い……など。
これまで魔法での戦いが中心だった俺からすれば、学ぶべきものがありそうだ。
セルド村を出た直後。
アロンよりも小柄である獣、ラットが複数匹で現れた。
セルド村の入口は安全な雑貨屋だったが、出口側は一面森の中。
オークが日常的に通るけもの道が続いている。
人間の手は入っておらず、かなり複雑な地形だ。
ラット程度ならすぐに追い払えるが……。
「そいつらはおいらがやる! おいらは素早くて強烈なんだぞ」
「自信があるみたいだね。それなら君に任せるよ」
小さな手斧を持ちながら、アロンは複数のラットに向かって行く。
その姿勢は見習うところがあり、彼の戦いぶりを見てから動くつもりだ。
その様子にナビナは不安そうな表情で、
「最初からルカスが行くべき。あの子、きっと弱い」
そんなはっきり言わなくても。
ナビナはおれのすぐそばに立っていて、アロンが向かう姿を見ているだけだ。
ウルシュラは――
「ミルクがいいかな~それとも~」
コボルト族に会うと知った時から、なぜかひたすら調理している。
後方支援職の彼女だが、直接的な戦闘以外は何か作っていたいらしい。
「ルカスさん。戦いが終わったら教えてください~。道具を片付けますから!」
「終わったらそうするよ」
ウルシュラに話しかけたほんのわずかな時間に、ナビナから声が上がる。
「あっ……! ルカス、あの子危ない」
すぐに振り返り、ラットがいるところを見てみると……。
「こんなにいっぺんに厳しいぞ。こんなのは戦いって言わないんだぞ!」
全身傷だらけになったアロンが、やせ我慢をしながら立っている。
やはり戦うことは厳しいのか? しかし簡単に手助けをしていいのか迷う。
アロンを見ると彼は弱り切った表情をしていて、敵への恐怖が顔に表れている。
「ルカス。大丈夫、あの子は悔しがらない。ルカスがとどめを刺すべき」
「ナビナはアロンのそばにいてあげて!」
「うん。分かった」
ナビナも魔術が使えると最初に聞いていた。
そばについててもらえば、アロンの傷はきっと良くなるはず。
アロンとナビナを後ろに下がらせ、俺はラットが集まっている所に近づく。
ラットは基本的に、自分たちよりも"弱い"相手にしか向かって来ない。
村を出てすぐに現れたのもアロンを見つけたからだ。
近付いて来ない獣に対しやれることと言えば、脅威となる力を見せるだけ。
そう思いながら俺は手に魔力を集め、軽い風を起こす――
――はずだった。
足下に見える小さな複数のラット。そこに手をかざそうとするが……。
視界に入っていたラットが、旋風によって遠くの茂みに吹き飛んでいた。
「あれっ? まだ何もしてないのに……」
これも冴眼でやったのか?
魔力消耗による魔法を繰り出す場合、一瞬のためらいが生じる。
敵の見極めや、攻撃後の後始末など。それらを考えてから行動に移す。
それが今までやって来た任務でのやり方だった。
しかし、自分で全く自覚の無いことが目の前で現実に起きた。
ラット程度だと力を使うまでも無いとはいえ。
冴眼から"敵"と認識された対象だからだろうか。
「ルカス、終わった?」
「見ての通りだよ。アロンの傷は平気?」
「痛そうにしてる。ルカスが治してあげて。ナビナ、近くで見てるから」
「え? ナビナが治癒してあげたんじゃないの?」
ナビナは思いきり首を左右に振っている。
魔術が使えるはずなのに治癒の出来ない魔術なのか。
横になっているアロンに近づき、彼を見つめる。
「クゥゥ……」
すると、みるみるうちにすり傷や腫れがひいていく。
冴眼は治癒に優れた力なのか? 水も出したし、癒し効果もあった。
しかしそれなら宮廷魔術師を消した力は……。
「……ルカスの目、使ってる感覚ある?」
「まだ無いかな。また光ってるってことだよね?」
ナビナが軽く頷いてみせた。
「自分で分かるようにならないと眠る力、引き出せない。今使ってる力は聖石の一部」
「えっ、何でそんなことが分かるの?」
聖石といえば、宝石鑑定屋の店主がそんなことを言っていた。
そうなると今まで使っていた力は、全然大したことがないということになる。
「大丈夫。ルカスの力、ナビナが少しずつ少しずつ……」
どうやらナビナは、自分のことを話す気は無いようだ。
「ルカスはアロンを見ておいて。ナビナ、ウルシュラ呼んで来る」
「あぁ、うん」
戦わないナビナの力。
森に暮らす普通のエルフとは違う子なのかもしれない。
とにかくアロンが目覚めるのを待って、オーディーの森を目指すか。
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