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第一章 宮廷魔術師

第7話 獣人酒場の頼みごと

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「ルカスさん、ルカスさん!! 大変です、大変なので今すぐ起きてください!」

 んん……?
 ウルシュラが俺を起こしてる? 

 離れの部屋だったはずなのに何でいるんだ。
 ナビナは隣のベッドに寝かせてはいるけど……。

「し、失礼して叩き起こさせて頂きますよ」
「……いっ!? お、起きる、起きるから!」

 結構な衝撃が頬に当たりそうだったので、慌てて目を覚ます。
 ウルシュラがかなり焦った表情を見せているが、何かあったのだろうか。

「アーテルさんが大変なんですよ!! ルカスさんの力で何とかして欲しいです!」

 何が大変なのかを言わず、ウルシュラの手に引かれて店先に行くと……。
 オークに囲まれているアーテルの姿があった。

「何で店の中にオークが入り込んでるんだ?」
「早く早く助けてあげてください~!」

 特に怖がっている様子も無いし、逃げるそぶりも見せてない。
 脅されてるとしたら大変だ。冴眼で睨むか……。

「アーテルさん! 大丈夫ですか?」
「あら、もう目が覚めたの? まだ夜中なのに何か心配事でも?」
「心配も何も、オークがいるじゃないですか! 何かあってからでは――」

 俺の言葉で、一斉にオークたちが俺やウルシュラに睨みを利かせる。
 
「心配いりませんよ。ここは獣人酒場なんですから。それも深夜限定でね!」

 獣人酒場……?
 ただの雑貨屋じゃなくて、獣人憩いの店でもあったのか。

 よく見ると、オークの手には液体入りのグラスが見えている。

 ウルシュラは怖がって、すっかり隠れてしまった。
 支援職なせいもあるかもだけど、獣人相手は苦手みたいだ。

「酒場……なるほど。しかしどこから来たんです? ここがセルド村と聞いてましたが、入口なんてどこにも……」

 ここには夜遅くに到着した。
 セルド村の入口に建っていたのは雑貨屋のみで他は見えなかった。
 オークがこれだけ集まるということは、どこかに抜け道があるはず。

「村への入口? それなら裏口にあるわ」
「えっ? 店の中からですか?」
「そう。裏口から吊り橋を渡る必要があるんだけど、村へはうちの店を通らないと行けないわね」

 そうか、どうりで。
 セルド村の入口を阻む様に建っていたし、そういうことか。

「村へ行き来が出来るのは深夜だけですか? 昼間は村に行けないとか?」
「そうね。セルド村はオークの集落だから、認められないと駄目かな」

 サゾン高地の先は未開の地。
 帝国はそこまで手を広げていなかった。
 とはいえ、獣人の集落が続いていたのは驚きだ。

「ル、ルルル……ルカスさん、だ、大丈夫なんですか?」

 ウルシュラが顔を強張らせながら、そぅっと近づいて来た。
 そこまで無理しなくても。

「ここにいる彼らは問題無いみたいだよ」
「よ、よかったぁ~。でもそういうことなら、チャンスです!」
「……ん? チャンスって?」
「もちろん、クランへのスカウトですよ!」

 クランもいいけど、パーティーメンバーを増やす方が先のような。

「ルカス。もう朝……?」

 怖くないことを知ったウルシュラは、オークたちに声かけしている。
 そんな中、賑やかな店内に気づいたのか、ナビナが目をこすりながら起きて来た。

「まだ朝には早いかな」
「……ん、そこにいる男の子、誰? ルカスの知ってる子?」
「へ? どこに男の子が……あれっ? いつの間にくっつかれてたんだ?」
「連れて行く子?」

 ナビナが指している子はどう見ても人間ではなく、犬に似た頭部をしている。
 小さめの手斧を持ってそばに立っていた。

 俺よりも小柄だが、骨太で手足が長いから打撃系タイプか。

「君は?」
「おいら、アロン。アーテルの話、聞いた。仲間、欲しいんだろ? おいらも欲しい。連れてけ!」
「仲間……? もしかして冒険者仲間ってことかな?」

 冒険者とクランについては、店主であるアーテルには伝えてある。
 雑貨屋なりに協力するよと言ってくれたからなのだが……。

「さぁ、連れてけ!」

 俺の言葉を理解しているのか不明だな。
 どう見てもコボルト族の子どもだし。
 とにかく、アーテルに聞いてみないと進めようがない。

「あらあら、いないと思ったらもう紹介を済ませたの?」

 そう思っていたら、アーテルがアロンの頭を撫でている。
 まんざらでもないのか、アロンは嬉しそうだ。

「アーテルさん。この子って?」

 気付かないうちに、店内はすっかり静まり返っている。
 朝が近いのか、オークたちはいなくなったようだ。

「ルカスさんに紹介しようとしてたんだけど、その子はコボルト族のアロン。途中まででいいから、仲間に加えてあげてくれない?」
「途中というと?」
「セルド村の先にオーディーって森があるんだけど、アロンはその森の子なの。しばらくここにいたんだけど、帰りたいって言いだして聞かなくてね。どう? 頼んでもいい?」

 協力されるはずが、お使いを頼まれてしまった。
 頼まれるのはいいとして、

「ちなみに依頼を終えたら――」
「セルド村への自由な立ち入りを認めてあげるわ! ルカスさんたちとはこれから長い付き合いになるだろうし、獣人の斡旋も出来るからね」
「獣人の斡旋……紹介してくれるってことですか?」
「そうなるわね。ルカスさんの力はともかく、ウルシュラとナビナちゃんは戦えないわけでしょ? 冒険者としてやって行くなら、戦いが好きな仲間も入れておかないと」

 なるほど。村への許可を出しているのがアーテルだったのか。
 斡旋となれば、獣人の仲間を得るのに苦労しなくなる。

 そういえばウルシュラのスカウトは――

「ルカスさ~ん……」

 ウルシュラが落ち込んだ顔で俺を呼んでいる。
 分かりやすいな。

「オークのスカウトは失敗?」
「聞いてくださいよ~。それがですね、オーク用の鎧を大量に作ったら仲間になるとか言い出して……そんなの無理に決まってるじゃないですか~!」

 かなり悔しかったのか、ウルシュラは肩を落として部屋に戻って行く。
 交渉はあまり得意じゃ無さそうだ。

「ルカス。アロンがやる気出してる。連れて行く?」
「そうだ。おいら、役に立つ! 連れてけ」

 コボルト族の森に子どもを送り届けるお使いか。
 お使いとはいえ、今後獣人の仲間が増えるとすれば彼らのことを知るいい機会だ。

「夜が明けたら出発するよ。途中までよろしく、アロン」
「おいらに任せろ!」
「ルカス、もう少し眠っていい?」
「いいよ。ゆっくりおやすみ」

 アーテルが言うように、攻撃が出来るのが俺だけではこの先苦労する。
 それに冴眼の力を使いこなせるようじゃないと。

 まずはお使いをして、それから仲間を増やしていくのがよさそうだ。
 それにしても、帝都門で追い払った宮廷魔術師の連中が気になる。

 おそらく俺がしたことは、賢者リュクルゴスに伝わっているはず。
 帝国周辺の警戒はともかく、どこまで手を広げて来るのか。

 冴眼を使いこなして、城の中を自在に見ることが出来るようになれば……。
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