4 / 50
第一章 宮廷魔術師
第4話 冒険者クラン
しおりを挟む「ルカスさん、その椅子は壁に寄せてください」
「全部を?」
「ですです! ナビナを起こさないように静かにお願いしますね」
「……」
どうして俺も一緒になってギルド作りをしてるんだろう……。
しかも、
「ギルドを作ってまだひと月ですか!?」
「そうなんですよ~。ギルドが作られていない町を探してロッホにたどり着いたのは良かったんですけど、人が少なくてどうにも……」
ウルシュラは今まで各地を旅して来たってことか。
「他に知り合いは?」
「それがですね、ここに来る前にパーティーの人たちに見捨てられちゃいまして~」
まさかパーティーを追放された?
そうなると偶然にしても似た境遇同士になる。
「え……?」
「私、実は故郷では『園芸師』でした。戦うよりも収穫して食材を集めたり、木材や植物で薬を……それから魔道具や装備品を作ったりとか、目立たずに動くのが好きでして」
宮廷庭師なら帝国にいた。園芸師は聞いたことが無いけど、特別職だろうか?
装備品を作れるならパーティーでは重宝されそうなのに。
「それって、後方支援職じゃないですか! それなのに追い出されたってことですか?」
宮廷魔術師にも支援を専門とした者たちがいた。
彼らの多くは苦とせずに動いていたが、あくまで任務だったというのもあるのかもしれない。
「色々と作るのに時間がかかる私がいると効率が悪いと感じていたみたいで、装備を作った後にお別れすることになっちゃったんですよ」
「仲間の人はその時なんて言ってたんですか?」
「いやぁ、特には。引き留められもしなかったので、見捨てられちゃったんだなぁと」
なるほど。それで辺境の町に来たわけか。
「元のパーティーには戻れないから、冒険者ギルドを自分で作ろうと?」
ウルシュラの故郷がどこかはともかく、冒険者の経験は俺より上だ。
「そうなんですよ」
「それは大変でしたね」
「大変でしたけど、でも……ルカスさん!」
「はい?」
ウルシュラは俺に詰め寄りじっと見つめて、
「一緒に冒険者やりませんか?」
――と、真剣な眼差しで言われてしまった。
この町を目指していた第一の理由。それは仲間を求めていたことにある。
退職金代わりの宝石は呪われていたし、売れたとしてもやっていけない。
それに地方を旅するとなると、一人だけでは後々になって苦労する。
だが冒険者として動くなら仲間と一緒に動く方がいい。
まさかこんな形でなるとは想像していなかったけど。
冒険者として始めるには、この方が自分らしいかもしれない。
「俺からもよろしくお願いします!」
「おぉ~! ルカスさんのような宮廷の魔術師さんとお知り合いになれて、とっても嬉しいです!」
「……あ、それは――」
ここで正直に言うべきだろうか。
しかし……。
「それじゃあもう遅いので、お休みしますね!」
ギルド作りを夜通しやるかと思っていたが、さすがに寝るらしい。
ナビナはすでに寝静まっているし、俺も横になって眠ることにする。
宮廷魔術師だったことは後で話そう……。
「ルカス、ルカス……」
眠ってからしばらくすると、ナビナの声が聞こえた。
もしかしていつの間にか朝になっていたのか。
「……んん? ナビナ? どうしたの?」
しゃがんだナビナが俺の顔を覗き込んでいた。
そのまま耳元に近づき、
「外でお水欲しい」
――と、お願いされた。
起きているのはナビナだけで、ウルシュラはスヤスヤと眠っている。
「外に? 分かった、すぐに起きるよ」
宮廷装備を全て取られた俺が着ているのは、防御力の無い薄いシャツ。
しかしそのおかげでどこでも寝られるし、すぐに動くことが出来る。
俺はすぐに扉を開け外に出た。
まだ薄暗さが残る早朝だが、念の為周辺の様子を見るも人の気配は無い。
俺を追うようにナビナも外に出て来たが、何故かカップを手にしている。
「ルカス、お水出して」
「近くに井戸か湧き水でもあるのかな?」
農地が多いロッホだ。湧き水くらいはありそうだが……。
しかしまだ朝もやがかかっていて、周りが見づらい状態だ。
「……違う。ルカスが出せる。出して」
「へ? 俺? 出すっていうのはもしかして、魔術でって意味かな?」
「大丈夫。ナビナがそばにいる。だから思いきり出していい。ウルシュラも喜ぶ」
こんな風に言われたことが無いだけに、すぐに水を出すのは難しい。
まさか単純に水を出せと言われるとは……。
一度目を閉じ、水を出すのを思い浮かべることに。
目を閉じた瞬間、勢いよく水を流すかのようなイメージが見えた。
俺はとっさにナビナが手にしたカップを見つめ、
無意識に水をカップに流し込んでいた。
水の元素となるものはどこにも無いのに……。空から降って来た?
「ほ、本当に出た……魔力を使って無いのに一体どこから……」
これも冴眼の力だろうか?
「ルカス、ありがと。ウルシュラを起こす」
ナビナが嬉しそうに教会の中へ入って行く。
俺も中へ戻ると、
「わぷっ!? どうして水が顔に~……」
「今日、出発。起きないと、探せない」
起きなかったウルシュラに、ナビナが水をかけていた。
ナビナが飲むわけじゃなかったらしい。
「出発~? そ、そうだったね……あっ、ルカスさん、おはようございますです」
冒険者ギルドをこのままにして旅に出るつもりだろうか。
「あ、どうも」
それにナビナが口にした探すという意味も不明だ。
「このお水って、もしかしてルカスさんが?」
「すみません、まさか顔にかけるなんて思わなくて……」
「いえいえ、おかげで目が覚めました! やっぱり魔術師さんは凄いですね!」
魔術師か……。
おそらくウルシュラは、俺のことを宮廷魔術師のままだと思っている。
ウルシュラの理由のように、俺もいつかきちんと話さなければ。
「ところで、今日これからどこに行くんですか?」
辺境の町といっても、帝国からすぐに来れる場所だ。
顔見知りの宮廷魔術師が来ないとも限らないし、どうしたものか。
「もしかしてナビナに聞きましたか?」
「いえ、何も」
ウルシュラがやけに嬉しそうにしている。
何か記念すべき日だったりするのだろうか。
「ルカスさん。今日は何と言っても、冒険者としての初日じゃないですか!」
「……冒険者。ということは?」
「もちろん、冒険に出て行くってことです! ナビナも一緒です!」
寝る前にそんなことを言っていたが、昨日の今日でもう出発するなんて。
「いや、しかし……ここの冒険者ギルドはどうするんですか?」
「それなんですけど、ルカスさん。私が個人で作ったギルドでもあるので、ここを私たちの本拠地にしまして、チームとしてやっていきたいんです! どうですか~?」
ウルシュラが個人で作ったギルドだと、役所のような組織とはならない。
ここで冒険者を集めて運営するのは難しくなる。
「チームとして動くとなると、他の冒険者のグループとの関係は……クラン?」
「そうですそうです! 同じ目的の人なら協力者を得られるじゃないですか~!! もちろん、私たちのチームもあと何人か仲間を入れたいです」
「ナビナも一緒ですか?」
ナビナを気にすると、ナビナは頷きながら俺に笑顔を見せた。
「もちろんです。今はまだ誰がリーダーじゃなくてもいいので、どうですか?」
俺の意思を尊重するのは決定なのか。
まずは、
「それじゃあ、ウルシュラ。今日から同じ冒険者としてよろしく頼む!」
「楽しみですね、ルカスさん~!」
「ナビナも楽しみ」
どうなることかと思ったが、まずは出発することから始めよう。
0
お気に入りに追加
858
あなたにおすすめの小説
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです
やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」
ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。
あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。
元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……
更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。
追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に!
「――わたし、あなたに運命を感じました!」
ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません
※他サイトでも投稿しています
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる