真面目に掃除してただけなのに問題ありまくりの賢者に生まれ変わっちゃった~えっと、わたしが最強でいいんでしょうか?~

遥 かずら

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第16話 魔物集落はどこ?

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 エドナの言うことを聞かなかったライラとリズが大木に縛り付けられている中、セリアはジッタに頭を下げていた。

「本当にごめんなさい! わたくしが気を付けていればゴブリンに掴まることなど無かったはずでしたのに、怖い思いをさせてごめんなさい」
「ニャフフ。怖くはなかったです。あいつらは尻尾を掴んでくることしか出来ないのでびっくりはしましたけど、このとおり無事でしたから気にしていないですよ~」

 ジッタはそれほど気にしていないようで、セリアは胸をなでおろした。問題は、エドナのあっけらかんとした態度だ。

 あれだけ威力のある属性魔法を発動させ、レセンガ峡谷の地形そのものを変えているというのに、エドナはまるで何事もなかったかのように振る舞っていてセリアはなかなか言葉をかけることが出来なくなっている。

「あはっ、そんなに緊張しなくていいのに。わたし、もう怒ってないよ。だってセリアは悪くないもんね!」

 そんなセリアに対し、エドナはいたずらっぽく笑いながら声をかけた。

「そ、そうなのです? わたくしが悪くないとすれば……ライラに怒っていますのね?」

 リズのことは元々そこまでじゃないのか、完全にライラだけに怒っていそうだとセリアは感じている。

「そう! ライラってば酷いんだよ~! ジッタを助けようとしないで自分だけ逃げるんだもん。だから頭でも冷やしてもらおうかなって思って水をかけたの」
 あんな言い方って無いと思うんだよね。ジッタは怖くないなんて言うけど、尻尾を掴まれて捕えられたらやっぱりトラウマになりそうだし。

 セリアがしたことのようで、遠目に見える位置には大木に縛られたライラとリズが見えている。その光景を見るだけでもエドナは怒りが収まっていた。

「それでしたら、物凄く反省していますわよ。ライラも焦っていたとはいえ、ジッタさんを見殺しにするのはどうかと思いましたもの」
「だよね! でも、もう怒りはどこかに行っちゃったから戻って来てもらっていいよ~」
「エドナちゃんがそう言うなら連れてきますわ」

 ライラへの怒りはすでに消えたエドナは、セリアが連れてきたライラとリズを見ながら一言だけ言い放つことに。

「リズは地下倉庫に入っていたからいいとして、ライラ!」
「う、うん」
「もっと優しくしてあげてね?」

 とんでもなく怒られてしまうかと思っていたライラだったが、そうでもなかったことに安心して笑みがこぼれる。

 そのすぐ後に、エドナに言われたとおりジッタの前に出て深々と頭を下げて謝ってみせた。

「変に焦ったのが良くなかったよ……ジッタさん、ごめん」
「ニャハ。わたしはもう気にしていませんよ~。わたしも水浴びをしちゃいましたし、お互いこれで落ち着いたということで」
「はは、そうですね」

 ライラやジッタが落ち着きを取り戻したところで、ずっと押し黙っていたリズが口を開く。

「……エドナ、気づいてる?」
「うん。見えないんだよね。ずっと探しているんだけど」
「リズもさっきから気にしているけど、全然感じられない。これってやっぱりエドナの魔法のせい?」

 リズは大木の縛りから解放された直後から周辺の気配を探っていた。エドナも同じように、魔物集落があるとされる辺りから全く気配が感じられなくなっていることに気づいていたようで――。

「二人で景色なんか眺めたりしてどうしたのさ?」

 そんなこととは知らず、ライラが軽い気持ちで話しかけてくる。

「はぁ……ライラが一番気楽そう。エドナも気づけているのに」
「な、何が?」

 ライラの戸惑いをよそに、セリアとジッタも周辺の異常さに気づき始めた。

「ニャフゥ……。これほど静かなのはおかしいです」
「ええ、わたくしも同じ意見ですわ。となると、考えられるのはエドナちゃんがしたことが関係していると言っていいんでしょうね」

 さすがにライラだけ理解出来ていないのもまずいので、セリアが教えてあげることに。

「なっ、何だって!? 動物も魔物も全く気配が感じられない?」
 ライラはすぐさま声を張り上げて驚いた。
 
「とにかくさ、魔物集落がある場所に行ってみようよ」

 ライラも異常な事態に気づいたところで、魔物集落があるとされるところに行くことになった。

 レセンガ峡谷の中腹に位置する斜面にひと際大きな岩。そこが魔物集落の入口にあたる場所のようで、その辺りに獣人がいたとされている。

 エドナたちはライラを最後尾に、先行してリズと共にその場所へ進んでいた。ついて早々に気づいたのは、集落の残骸はおろか暮らしていた面影さえも全て消え去っていることだった。

「魔物集落はどこにいったのぉぉぉ?」
 何で何で? 最初の穴倉にいたゴブリンのボスとかがたくさんいると思っていたのに全然いた形跡が無い。足下は至る所が水浸しになってて歩きにくいし、どこかその辺の穴とかに隠れてないのかな。

 エドナが発動した巨大な水膜により、レセンガ峡谷の魔物集落は消失。しかしそれをやった自覚が無いエドナは、大量の水によって全て流された光景すら忘れて辺りを探しまくっている。

 ライラたちはそんなエドナの行動を眺めながら、ふと猫王から授かった腕輪を見て顔を引きつらせた。

「近しい子の影響を最小限に……それなのに魔物の集落を消失させちゃうんだもんなぁ。うぅっ、鳥肌が立ったかも」
「怒らせると恐ろしい女の子……ですのね。いい子ですのに」
「リズは分かってた。あの子が災害級の力があることを……」
「……水膜に包まれた時、温かい水でしたよ。ですので、あの子はきっと優しい子なんだと思います」

 ……などなど、それぞれ思うことは別のようで。ジッタ、セリア、ライラ……そしてリズも、改めてエドナの強さを身に染みて思い知った。

 もっとも、エドナだけは何故集落はそのものがなくなり魔物の気配も無くなってしまったのか理解出来ずに、未だに戻って来ていないが。

「……ま、まぁ、何事も無くレセンガ峡谷を抜けることが出来て良かったんじゃないかな」
「そ、そうですわね。本来は魔物集落に乗り込む必要は無かったわけですし」
「冒険者は戦うだけが冒険じゃない」

 ……などと、ライラパーティーは自分たちに言い聞かせている。

 そんなライラたちの言葉に頷きながらも。

「でも、エドナさんのおかげでアルボルドへの脅威は消え失せました。彼女には感謝しかありません」

 ジッタは耳と尻尾を動かしながら笑顔を見せた。

 ライラたちが自分たちに言い聞かせて納得した頃になって、ようやく諦めたのかエドナが集落跡から戻って来た。

「はあぁ~……探したけど魔物の姿がどこにも無かったよ~」

 かなり落ち込んでいるようでがっくりと肩を落としている。そんなエドナに近寄って、ジッタがエドナの頭を撫でてきた。

「……あ」
「ニャフ。エドナさんならきっと大丈夫ですよ~。わたしが保証します」
「うん。ジッタさんに撫でられたら何だか落ち着いたよ、ありがとう」
「ニャフフ。エドナさんのおかげでアルボルド王国も落ち着けそうです。こちらこそありがとうございました」
「ほぇ?」

 エドナの頭を撫でて、お互いにお礼を言いあったところでジッタが深く頭を下げる。

「みなさん。これからも大変だと思いますけど、エドナさんはきっと大丈夫です! そしてみなさんも大丈夫です。ですので、エドナさんのことをよろしくお願いします!」
 そう言うと、ジッタは満面の笑みを見せた。

「その言い方ですと、ここでお別れということです?」
「ニャフ。そうです」
「そ、そうか~。短い間だったけどありがとう」
「ニャハハ。いえいえ」

 セリアとライラはレセンガ峡谷の状態で判断したのか、彼女に笑顔を見せている。

「……ジッタにこれをあげる」
「これは――骨の数珠ですね?」

 リズは穴倉で見つけた何かの骨の数珠をジッタに手渡す。

「それを持っていけば、猫王も安心」
「ありがとうございます。リズさん」

 ライラたちにお礼をしたジッタは、エドナの前に立って。

「エドナさん、楽しいひと時をありがとう! わたしはここでお別れです」
「どうして?」
「猫王の加護があるのはここ、レセンガ峡谷までなんです。そこから先へは何か別のことが無ければ行くことは出来ません。またどこかで会えたらいいなと思っています」

 ジッタは耳を垂らしながら寂しそうに見せている。
 そんなジッタにエドナは。

「出会いもあれば別れもある……うん、そうだね。またどこかで会えるよ、きっと! だからジッタさんに会えてよかったよ~!」
「ニャハ! 大人ですね、エドナさんは。わたしもです! それじゃ、またどこかで!」
「は~い、またね!」
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