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第11話 アルボルド王国のお迎え
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鉱山洞穴が崩落してから一夜が明けた。
宿の世話になっていたエラスムスは女将に事情を説明して、フィルジアの組合同盟の指示を待つことにしていた。
ライラたちは気持ち良く眠るエドナの目覚めを待ちながら、どんな処遇が与えられるのかと気が気じゃない状態のようだった。
「……エドナを預けられた時は大したことはないと思っていたけど、よくよく考えたらランバート村にいた子だもんな。普通なわけがないよな」
ライラはエドナの預かりを冒険するついでにというお気楽さがあった。しかし自分が思っていた以上の力をエドナから感じ、その力に敵わないと思ってから少し弱音を吐くようになっていた。
「でも可愛い子ですわ。悪気があって崩落させたわけじゃないでしょうし、わたくしたちがこの子の面倒を見てあげないと!」
セリアはエドナの力を見ていても特に脅威は感じず、あくまで小さな女の子という目で見ている。その考えからか、あまり深刻にとらえていないようだ。
「セリアの言うことは分かるけど転送ゲートが使えない今、時間をかけて成長を見守るなんて難易度が高すぎないか?」
「エドナちゃんは九歳ですわよね。魔法学園の入学までに三年かけて心身ともに成長させる。それだけのことですわ。
セリアの言葉を聞いても、ライラはまだ納得いかない表情を見せている。二人の様子を眺めていたリズが淡々と結論を話し始めた。
「…………リズたち、今までのんきに旅をしていただけ。だからそろそろ活動しないと、ランクが落ちる。手に負えない子なのは理解した。だから慣れるしかないと思う」
「リズ……。もう~分かったよ! 私が引けていただけってわけだろ? こうなったら何が起きてもエドナの成長を見守ることにする。それでいいだろ?」
「ふふふっ、さすがはお姉さまですわ」
「……慣れるだけ」
ライラたちの葛藤をよそに、エドナはようやく眠りから覚める。
「ふわぁぁぁ……あれ、みんな早いね。おはよ~」
ベッドから体を起こしてすぐ近くを見回すと、そこにはすでに目を覚まして話をしていた三人の姿があった。
「おはようございます、エドナちゃん」
「おはよう」
「お寝坊さんだな、エドナは」
……などなど、みんな笑顔を見せてくれた。
「あっ! あのあの、ライラ」
「うん?」
「岩の破片とかでケガをしなかった? もししていたら……」
崩落はもちろん、岩のあちこちが風で飛ばされていた。そんな状況下に何事も無く逃げ切れたとはエドナから見ても到底思えなかった。
「……子供がそんな心配しなくていいんだよ。私なら何ともないさ!」
そう言ってライラはエドナの頭を優しく撫でてくる。
「うん……ごめんね」
良かったぁ。エラスムスさんみたいに顔にすり傷とかあったりしたら、どんな顔をすればいいのか分からなかったよ。
リズもセリアも笑ってくれているし、大けがをした感じじゃないよねきっと。
ライラの迷いも消えたところで、部屋のドアを叩く音が響く。
「開いていますわ」
セリアの声を聞いたのか、エラスムスが部屋に入ってくる。彼一人だけではなく、隣には宿の女将の姿もあった。
二人の顔からは神妙そうな雰囲気が感じ取れる。
「あ~、そのなんだ……よく眠れたか?」
「私らもそうだし、エドナも眠れたよ」
「それならいいんだ。ここからは女将が説明するから、話を聞いてやってくれ」
エラスムスは一歩下がり、女将を前にしてエドナたちに話をさせることに。
「朝から申し訳ないんですけどね、あなたたちにお迎えが来ているんですよ。外で待機していますので、早急に支度をしてそのお方のところに行ってくれないですか?」
女将の言葉にライラたちはお互いに顔を見合わせた。エドナだけ首をかしげてあまり分かっていない表情を見せている。
「お迎え……? 誰?」
リズがすぐに問いただすが。
「隣国アルボルドの――」
「――! 分かった。それなら行く。ライラとセリア、それとエドナも……で間違いない?」
リズの返事に女将は静かに頷いてみせた。そのまますぐ、ライラたちとエドナは身支度を整え、宿の外に出ることに。
外に出るとそこには、重厚そうな白銀の鎧を着た騎士が数人が整列していて、騎士の手前には色鮮やかな臙脂色をした胴衣の者がライラたちの前で待っていた。
「な、何事です?」
「ちっ、私らに攻撃の意思を見せるってわけか?」
「……始まる?」
セリアが驚きの声を上げ、ライラとリズが攻撃態勢を取るが。
「我らはアルボルド王国第一騎士団である。昨日、フィルジアの鉱山洞穴が崩落したとの知らせを受けた。貴女らが関わっていると聞いている。違いないか?」
――と、厳しい顔つきをさせつつ盾を構えながら有無を言わさずに口上を述べられた。
それに対し、セリアが口を開こうとするが。
「そうです! わたしのせいなんです。ごめんなさいっ!!」
その前にエドナが先に口を開き、頭を下げて謝っていた。その様子にセリアたちは唖然としている。
彼女たちが言葉を失う中、獣人らしき女性がエドナの前に立った。
「精霊村の少女?」
獣人を見るのは初めてのせいか、エドナは珍しく体をこわばらせている。
「は、はい……」
わ~本当にいるんだ。猫の耳ってことは猫の獣人ってことだよね。やっぱりニャ~とか言うのかな?
エドナが興味津々で目の前の女性を見つめている中、エドナの前にライラたちが割って入る。
「……この子に何か用が?」
「この子はわたくしたちの仲間ですわ。手出しするつもりがあるなら許しませんわ!」
「エドナだけに声をかけるのはおかしい」
エドナの思っていることとは別に、ライラたちがエドナを前に出させないように気を張ってみせた。
その様子に騎士たちは戸惑いを見せるが、猫獣人の女性は構わずエドナに声をかけてきた。
「ランバート村の少女エドナ・ランバート。キミをアルボルド王国に招待します~! なんにも怖いことは起きないので安心してくださいな~」
「ほぇっ?」
「ニャフフ。驚かせてごめんなさい~。騎士の皆さんは冒険者さんたちとお話をする為に来ただけです」
エドナはもちろんライラたちも拍子抜けしたように、その場に膝をついてしまう。身構えていた騎士たちの表情からも緊張をとかした様子に変わっていた。
「な、何だ……そうならそうと言って欲しかったよ」
「本当ですわ……」
「おとがめ無し?」
ライラたちの緊張がほぐれたところで、エラスムスから声がかかる。
「詳しく言うわけにはいかなかったんだが、悪かった。オレが事前にキミらのことを話しておいたんだ。エドナのことも」
「そうだったんだ~エラスムスも来るんだよね?」
エドナの言葉にエラスムスは。
「……いや、オレは行商人組合に顔を出す必要があってアルボルドに行けないんだ。だからここでお別れだ。ライラたちはもちろん、エドナには感謝しか出来ない。ありがとうな!」
少し寂しそうな表情を見せるエラスムスを見ながら。
「そっか。エラスムスがいてくれて良かったよ~! バルーちゃんにもお礼を言っておいてね」
「ああ、そうするよ。それと、エドナ」
「うん?」
「これはオレからだ。取っといてくれ」
エドナの手にそっと置かれたのは、鉱山洞穴の祭壇で見つけた希少な鉱石の欠片だった。
「キミのおかげで稼がせてもらったからな」
「だよね~。ありがとう、エラスムス」
「あとは彼女たちに一声かけて――」
ライラたちを気にするエラスムスだったが、彼女たちは騎士たちと楽しそうに話をしていた。その様子に苦笑しながら、エドナに手を振ってその場から離れていく。
エラスムスとの会話を終えるのを待っていてくれたのか、猫獣人の女性がエドナに顔を覗かせ話しかける。
「エドナさん、そろそろ行きましょうか?」
「は~い! あ、あなたのお名前を訊いてもいい?」
「申し遅れましたね。わたしはアルボルド王国所属のポーター、ジッタと言います。よろしくお願いしますね~!」
「ジッタさん、よろしくね!」
「ニャハハ。アルボルドはきっとエドナさんを楽しくさせますよ」
行商人のエラスムスと別れ、エドナとライラたちはアルボルド王国の迎えの者と共に、馬車に乗って王国へ向かうのだった。
宿の世話になっていたエラスムスは女将に事情を説明して、フィルジアの組合同盟の指示を待つことにしていた。
ライラたちは気持ち良く眠るエドナの目覚めを待ちながら、どんな処遇が与えられるのかと気が気じゃない状態のようだった。
「……エドナを預けられた時は大したことはないと思っていたけど、よくよく考えたらランバート村にいた子だもんな。普通なわけがないよな」
ライラはエドナの預かりを冒険するついでにというお気楽さがあった。しかし自分が思っていた以上の力をエドナから感じ、その力に敵わないと思ってから少し弱音を吐くようになっていた。
「でも可愛い子ですわ。悪気があって崩落させたわけじゃないでしょうし、わたくしたちがこの子の面倒を見てあげないと!」
セリアはエドナの力を見ていても特に脅威は感じず、あくまで小さな女の子という目で見ている。その考えからか、あまり深刻にとらえていないようだ。
「セリアの言うことは分かるけど転送ゲートが使えない今、時間をかけて成長を見守るなんて難易度が高すぎないか?」
「エドナちゃんは九歳ですわよね。魔法学園の入学までに三年かけて心身ともに成長させる。それだけのことですわ。
セリアの言葉を聞いても、ライラはまだ納得いかない表情を見せている。二人の様子を眺めていたリズが淡々と結論を話し始めた。
「…………リズたち、今までのんきに旅をしていただけ。だからそろそろ活動しないと、ランクが落ちる。手に負えない子なのは理解した。だから慣れるしかないと思う」
「リズ……。もう~分かったよ! 私が引けていただけってわけだろ? こうなったら何が起きてもエドナの成長を見守ることにする。それでいいだろ?」
「ふふふっ、さすがはお姉さまですわ」
「……慣れるだけ」
ライラたちの葛藤をよそに、エドナはようやく眠りから覚める。
「ふわぁぁぁ……あれ、みんな早いね。おはよ~」
ベッドから体を起こしてすぐ近くを見回すと、そこにはすでに目を覚まして話をしていた三人の姿があった。
「おはようございます、エドナちゃん」
「おはよう」
「お寝坊さんだな、エドナは」
……などなど、みんな笑顔を見せてくれた。
「あっ! あのあの、ライラ」
「うん?」
「岩の破片とかでケガをしなかった? もししていたら……」
崩落はもちろん、岩のあちこちが風で飛ばされていた。そんな状況下に何事も無く逃げ切れたとはエドナから見ても到底思えなかった。
「……子供がそんな心配しなくていいんだよ。私なら何ともないさ!」
そう言ってライラはエドナの頭を優しく撫でてくる。
「うん……ごめんね」
良かったぁ。エラスムスさんみたいに顔にすり傷とかあったりしたら、どんな顔をすればいいのか分からなかったよ。
リズもセリアも笑ってくれているし、大けがをした感じじゃないよねきっと。
ライラの迷いも消えたところで、部屋のドアを叩く音が響く。
「開いていますわ」
セリアの声を聞いたのか、エラスムスが部屋に入ってくる。彼一人だけではなく、隣には宿の女将の姿もあった。
二人の顔からは神妙そうな雰囲気が感じ取れる。
「あ~、そのなんだ……よく眠れたか?」
「私らもそうだし、エドナも眠れたよ」
「それならいいんだ。ここからは女将が説明するから、話を聞いてやってくれ」
エラスムスは一歩下がり、女将を前にしてエドナたちに話をさせることに。
「朝から申し訳ないんですけどね、あなたたちにお迎えが来ているんですよ。外で待機していますので、早急に支度をしてそのお方のところに行ってくれないですか?」
女将の言葉にライラたちはお互いに顔を見合わせた。エドナだけ首をかしげてあまり分かっていない表情を見せている。
「お迎え……? 誰?」
リズがすぐに問いただすが。
「隣国アルボルドの――」
「――! 分かった。それなら行く。ライラとセリア、それとエドナも……で間違いない?」
リズの返事に女将は静かに頷いてみせた。そのまますぐ、ライラたちとエドナは身支度を整え、宿の外に出ることに。
外に出るとそこには、重厚そうな白銀の鎧を着た騎士が数人が整列していて、騎士の手前には色鮮やかな臙脂色をした胴衣の者がライラたちの前で待っていた。
「な、何事です?」
「ちっ、私らに攻撃の意思を見せるってわけか?」
「……始まる?」
セリアが驚きの声を上げ、ライラとリズが攻撃態勢を取るが。
「我らはアルボルド王国第一騎士団である。昨日、フィルジアの鉱山洞穴が崩落したとの知らせを受けた。貴女らが関わっていると聞いている。違いないか?」
――と、厳しい顔つきをさせつつ盾を構えながら有無を言わさずに口上を述べられた。
それに対し、セリアが口を開こうとするが。
「そうです! わたしのせいなんです。ごめんなさいっ!!」
その前にエドナが先に口を開き、頭を下げて謝っていた。その様子にセリアたちは唖然としている。
彼女たちが言葉を失う中、獣人らしき女性がエドナの前に立った。
「精霊村の少女?」
獣人を見るのは初めてのせいか、エドナは珍しく体をこわばらせている。
「は、はい……」
わ~本当にいるんだ。猫の耳ってことは猫の獣人ってことだよね。やっぱりニャ~とか言うのかな?
エドナが興味津々で目の前の女性を見つめている中、エドナの前にライラたちが割って入る。
「……この子に何か用が?」
「この子はわたくしたちの仲間ですわ。手出しするつもりがあるなら許しませんわ!」
「エドナだけに声をかけるのはおかしい」
エドナの思っていることとは別に、ライラたちがエドナを前に出させないように気を張ってみせた。
その様子に騎士たちは戸惑いを見せるが、猫獣人の女性は構わずエドナに声をかけてきた。
「ランバート村の少女エドナ・ランバート。キミをアルボルド王国に招待します~! なんにも怖いことは起きないので安心してくださいな~」
「ほぇっ?」
「ニャフフ。驚かせてごめんなさい~。騎士の皆さんは冒険者さんたちとお話をする為に来ただけです」
エドナはもちろんライラたちも拍子抜けしたように、その場に膝をついてしまう。身構えていた騎士たちの表情からも緊張をとかした様子に変わっていた。
「な、何だ……そうならそうと言って欲しかったよ」
「本当ですわ……」
「おとがめ無し?」
ライラたちの緊張がほぐれたところで、エラスムスから声がかかる。
「詳しく言うわけにはいかなかったんだが、悪かった。オレが事前にキミらのことを話しておいたんだ。エドナのことも」
「そうだったんだ~エラスムスも来るんだよね?」
エドナの言葉にエラスムスは。
「……いや、オレは行商人組合に顔を出す必要があってアルボルドに行けないんだ。だからここでお別れだ。ライラたちはもちろん、エドナには感謝しか出来ない。ありがとうな!」
少し寂しそうな表情を見せるエラスムスを見ながら。
「そっか。エラスムスがいてくれて良かったよ~! バルーちゃんにもお礼を言っておいてね」
「ああ、そうするよ。それと、エドナ」
「うん?」
「これはオレからだ。取っといてくれ」
エドナの手にそっと置かれたのは、鉱山洞穴の祭壇で見つけた希少な鉱石の欠片だった。
「キミのおかげで稼がせてもらったからな」
「だよね~。ありがとう、エラスムス」
「あとは彼女たちに一声かけて――」
ライラたちを気にするエラスムスだったが、彼女たちは騎士たちと楽しそうに話をしていた。その様子に苦笑しながら、エドナに手を振ってその場から離れていく。
エラスムスとの会話を終えるのを待っていてくれたのか、猫獣人の女性がエドナに顔を覗かせ話しかける。
「エドナさん、そろそろ行きましょうか?」
「は~い! あ、あなたのお名前を訊いてもいい?」
「申し遅れましたね。わたしはアルボルド王国所属のポーター、ジッタと言います。よろしくお願いしますね~!」
「ジッタさん、よろしくね!」
「ニャハハ。アルボルドはきっとエドナさんを楽しくさせますよ」
行商人のエラスムスと別れ、エドナとライラたちはアルボルド王国の迎えの者と共に、馬車に乗って王国へ向かうのだった。
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