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第8話 わたし、賢者なんです!
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エドナははぐれてしまったライラたちと一刻も早く合流したい。そう思いながらも、今は自分を宿にまで泊めてくれた彼に何かしたいと思っていた。
その為なら自分のことを隠すわけにはいかない――そう感じて打ち明けたが。
「けん……何だって?」
「賢者!」
頭の上に?マークが乗っかるような顔をするエラスムスに対し、エドナは胸を張って堂々と名乗って見せた。
「はははははっ!! エドナちゃんはオレを楽しくさせてくれる才能があるな! 賢者とは大きく出たもんだ。そうだとすると、冒険者パーティーが賢者とはぐれて慌てふためいているってことになるが……」
「む~……本当だもん。本当に賢者だもん」
他に言いようがないといった不機嫌な顔で、エドナはエラスムスを睨んでいる。
「いや、悪かった。今の時点でエドナちゃんが賢者だと認めることは出来ないが、そこまで言うならオレと一緒に行くか? ただし問題が起きても知らないぞ」
「うん、行きたい!」
「もちろん相棒のバルーも一緒なんだが、怖くなったらいつでも戻ってもらっていいからな!」
部屋の中にバルーの姿は無く、宿の外で待機させているようだ。
「そんなことにはならないから大丈夫だよ!」
いきなり賢者です。なんて言って信じる人なんていないよね。だからといってあんなに笑うことないのに。
「よし。それじゃあ、顔を洗って出発しよう」
「は~い」
エラスムス、バルーと共にエドナが来た場所は、フィルジアの外れにある荒れ果てた海岸沿いに出来た鉱山洞穴の入口付近だ。
早朝なだけあって人の姿は無く、聞こえるのは波の音と付近に見える捨てられた船だけである。入口奥には、侵入者を監視する場所らしき台が確認出来る。
「だぁれもいないね~」
「戻るか?」
「怖くないし、問題ないもん!」
「その意気だ。だが、早朝じゃないとエドナは中に入ることすら出来なかっただろうから、幸運とも言えるな」
エラスムスの話によると、昼間の明るい時間帯は監視する人間が立っていて、簡単に鉱山洞穴に入れない決まりになっているらしい。
鉱山洞穴には取引に使われる鉱石が埋まっているようで、監視がいない時を狙って侵入する人間が後を絶たないのだとか。
「バルー」
「わぅ」
「エドナのそばを離れるなよ?」
「わん!」
エラスムスの指示を理解しているのか、バルーはエドナの足下にくっついて離れずについて来る。
「バルーが何でオレの相棒かっていうと、嗅ぎつける能力があるからなんだ」
「嗅ぎつける? それって宝箱とか~?」
「ははっ、そんなものは無いよ。鉱山洞穴にあるのは鉱石だけだ。バルーは希少な鉱石とそうじゃないのを嗅ぎ分けることが出来る鉱脈探しのエキスパートなんだ」
もしかしてシェルの森にいたのって、珍しい石が眠っていたからなのかな。
「希少? それってえっと、レアな石ってこと?」
エドナは近くに落ちていた石を拾ってエラスムスに見せた。
「ははっ、それは単なる石ころだ。そうじゃなくて、レアってのは滅多にお目にかかれないって意味だ。そうじゃなければ稼ぎにはならないが」
レアな石を見つけることで、冒険者でもない行商人のエラスムスはそれで生活をしているらしい。
「言っとくが、中に入ったら外への出口にたどり着くまで出られないぞ。それに女将の話によれば、今まで確認出来なかった魔物が出るようになったとも聞いている。もし魔物に遭遇したらオレは身をひそめることしか出来ない。……それでも行くか?」
エラスムスは本気でエドナを心配してくれているようで、真剣な表情でエドナを見つめている。
「そこまで言うなら、わたし絶対信じさせるもん! もしエラスムスが危ない目にあったらわたしが助けてあげるんだから!」
「……分かった。行こうか」
エドナに念を押したエラスムスは、バルーを先に行かせて鉱山洞穴へ進むことに。
フィルジア鉱山洞穴は最初に見つけた時は、貝殻や魚の骨くらいしか取れなかった。だが退屈していた行商人が数人で奥まで行ったところ、希少な鉱石が落ちていたのを発見。
それをきっかけとして、町の人間のみならず行商人自らが洞穴に入るようになった。しかし、本来いないはずの魔物の姿が見られるようになって以降は入口に監視台を設け、むやみやたらに侵入するのを止めているのだとか。
「ふ~ん……自然の洞穴じゃないから明るいんだ~」
「町外れで荒れ果てているって言っても、町の中に変わりは無いからな。昔の連中が洞穴に手を加えたんだろうな」
エラスムスが言っているとおり、人の手でつけられた照明のようなものが天井部分に延々と付けられていた。
ただし通路の壁はむき出しの岩壁になっていて、貝殻が半分程度まで露わになっている。
「魔物は奥にいるの?」
「そう願いたいね。オレはこんななりと態度をしているが、戦えないからな。もちろん、バルーも戦力と呼べない」
「そうなんだ……でもわたしがいるから、すっごく奥まで進んでも大丈夫だよ!」
「……ああ」
バルーの嗅ぎつけを待ちながらしばらく奥の方まで足を進めていると、突如としてバルーの足が止まりだした。
「ウウウウ……!」
嗅ぎつけでも唸らないバルーが前方に向けて、突然ほえだし始めた。
「お、おい、どうしたバルー!」
「もしかしてさっそく魔物が出たのかな?」
「まだ入り口から五百メートルも進んでないぞ。こんなところでいるとしたら、採掘なんて成立しなくなる」
そう言いながら、エラスムスは両肩を震わせながら表情をこわばらせている。
「きゃぅぅぅん!!!」
バルーの悲鳴に似た鳴き声が戻って聞こえてきたかと思っていると、エドナたちを通り過ぎて入口の方へ駆けていく。
「な、何だ? 何であいつオレを通り過ぎて……うっ!? に、逃げろ!! エドナ、入口に向かって走れ!! は、早くっ!」
「えっ?」
「岩だ!! よく分からないがでかい岩が迫って来てるんだよ!! 急げ!」
「えぇっ!?」
犬のバルーは入口付近まで逃げたのか、すでに近くにはいなく残されたエラスムスも焦ったのか、エドナの手を握れずにそのまま走って行ってしまう。
「…………おっきい岩が転がって来るなんて、一体どこのアトラクションなんだろ。でも、逃げる必要なんてない! 何とか出来るはずだし」
エラスムスとバルーがいないのを好都合にして、もうすぐ目の前に迫る大岩に対しエドナは両腕を伸ばして待ち構えた。
ゴゴゴゴ、とした重厚な響きをさせて大岩がエドナの手前まで迫る。
「え~いっ! 洞穴を汚したら駄目なんだから~!!」
迫った大岩に対し、エドナが見せた動きは手を添えるだけだった。しかしその直後、勢いづいて転がってきた大岩は一瞬にして破砕していた。
まるで見えない力が働いたかのように、粉々になっていたのである。
「あ、何とかなった~!」
エドナは特別に何らかの魔法を唱えたわけではなく、ランバート村で土壁を腐らせたようなイメージを大岩にぶつけただけに過ぎない。
あくまでイメージしかしなかったのにもかかわらず、エドナはものの見事に解決してしまった。
「お、お~い?」
「わぅぅ」
しばらくして、入口付近からエラスムスとバルーが呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら無事に逃げていたらしい。
「エラスムスさ~ん、バルーちゃん! もう大丈夫だよ! こっちに来てもいいよ」
エドナの声に応じてエラスムスとバルーが姿を見せた。
「ま、まさかだよな?」
「くぅん……」
エラスムスたちはあれだけ自分たちに迫っていた大岩の姿はすでに無く、まるで幻でも見ていたかのような呆然とした反応でエドナに対している。
「だから大丈夫って言ったよ~?」
「あぁ、いや……しかし、一体何をしたんだ? 岩があった跡が無いんだが」
「んとね、勝手に砕けたの」
「砕けた? それはエドナがやったのか?」
「そうだよ」
本人を目の前にしてそれでもエラスムスは信じられないといった表情を見せているものの、現実に大岩が迫って来ていたのを思い出し、自分を納得させたように頷いていてみせた。
「ううむ……それならやはり、あの子たちの言葉通りの結果になったというわけか」
「あの子たち? え、誰のこと?」
エドナが何事も無かったのを確実にしたかったエラスムスは、エドナの言うことを信じ、入口付近に待機している者たちを呼び始める。
「ライラとリズ……それから、セリアだったな。こっちへ来てくれないか!」
ええっ?
どうしてライラたちがここにいるんだろう。
入口付近まで逃げたのは分かるけど、もしかしてわたしを探しに来たってこと?
エラスムスの呼びかけに、エドナの前に姿を見せたのは紛れもなくライラたちだった。彼女たちは一様に安堵した表情を見せている。
「ライラ、リズ、セリア……ご、ごめんなさぁぁぁい!!」
ライラたちを見た途端、真っ先に泣き声を上げたのはエドナだった。
「はは、無事で良かったよ。エドナ」
「そうだと思ってた」
「まさか行商人さんを説得して鉱山洞穴に入っているなんて、驚くことしか出来ませんでしたわ。でも無事に会えて何よりですわ」
エラスムスはエドナを捜し回っていたライラたちを洞穴入口で見かけ、転がる大岩とエドナのことを話していた。そして案の定エドナが何事も無くいるのを見て、ライラたちの話のとおりだと信じていたのだった。
「わたしを探してフィルジアまで歩いて来たの?」
ランバート村の方には行かなかったよね、やっぱり。
「そりゃあね。エドナがランバート村に戻るわけは無いと思っていたわけだし」
「そっかぁ。あの、探しに来てくれてありがとう」
「いいよ。私らも目を離したのが悪かったからね。今後はお互いに気をつければいいんだよ」
「――うんっ!」
ライラが一番心配していたようで、エドナの言葉を優しく受け止めていた。
「ところで、君たちもついて来てくれるっていうのは本当か?」
エラスムスの話に対し、ライラたちは笑顔で頷いている。
「……そんなわけだから、エドナ」
「うん」
「私らもこの人とバルーの手伝いをすることにしたよ」
すでにエラスムスの話に乗っていたのか、ライラたちはそれぞれの武器を手にしてやる気を露わにしている。
「えっ本当?」
嬉しそうなエドナを見ながら。
「オレとしては助かるからいいが、エドナもいいんだろ、それで」
「もちろん!」
「それなら、一緒に行こう。たとえ魔物が出てもオレとしてはこれほど心強い味方はいないからな」
偶然の再会、出会いだとしてもエラスムスにとって安心して鉱石探しが出来るのはありがたかったようで、ライラたちに何度も頭を下げている。
「……よし、それじゃあ先頭はバルーのままで、続くのは私とセリア。後ろがリズとエドナ。鉱脈が見つかったら安全を確保してからエラスムスに前に出てもらうよ!」
その為なら自分のことを隠すわけにはいかない――そう感じて打ち明けたが。
「けん……何だって?」
「賢者!」
頭の上に?マークが乗っかるような顔をするエラスムスに対し、エドナは胸を張って堂々と名乗って見せた。
「はははははっ!! エドナちゃんはオレを楽しくさせてくれる才能があるな! 賢者とは大きく出たもんだ。そうだとすると、冒険者パーティーが賢者とはぐれて慌てふためいているってことになるが……」
「む~……本当だもん。本当に賢者だもん」
他に言いようがないといった不機嫌な顔で、エドナはエラスムスを睨んでいる。
「いや、悪かった。今の時点でエドナちゃんが賢者だと認めることは出来ないが、そこまで言うならオレと一緒に行くか? ただし問題が起きても知らないぞ」
「うん、行きたい!」
「もちろん相棒のバルーも一緒なんだが、怖くなったらいつでも戻ってもらっていいからな!」
部屋の中にバルーの姿は無く、宿の外で待機させているようだ。
「そんなことにはならないから大丈夫だよ!」
いきなり賢者です。なんて言って信じる人なんていないよね。だからといってあんなに笑うことないのに。
「よし。それじゃあ、顔を洗って出発しよう」
「は~い」
エラスムス、バルーと共にエドナが来た場所は、フィルジアの外れにある荒れ果てた海岸沿いに出来た鉱山洞穴の入口付近だ。
早朝なだけあって人の姿は無く、聞こえるのは波の音と付近に見える捨てられた船だけである。入口奥には、侵入者を監視する場所らしき台が確認出来る。
「だぁれもいないね~」
「戻るか?」
「怖くないし、問題ないもん!」
「その意気だ。だが、早朝じゃないとエドナは中に入ることすら出来なかっただろうから、幸運とも言えるな」
エラスムスの話によると、昼間の明るい時間帯は監視する人間が立っていて、簡単に鉱山洞穴に入れない決まりになっているらしい。
鉱山洞穴には取引に使われる鉱石が埋まっているようで、監視がいない時を狙って侵入する人間が後を絶たないのだとか。
「バルー」
「わぅ」
「エドナのそばを離れるなよ?」
「わん!」
エラスムスの指示を理解しているのか、バルーはエドナの足下にくっついて離れずについて来る。
「バルーが何でオレの相棒かっていうと、嗅ぎつける能力があるからなんだ」
「嗅ぎつける? それって宝箱とか~?」
「ははっ、そんなものは無いよ。鉱山洞穴にあるのは鉱石だけだ。バルーは希少な鉱石とそうじゃないのを嗅ぎ分けることが出来る鉱脈探しのエキスパートなんだ」
もしかしてシェルの森にいたのって、珍しい石が眠っていたからなのかな。
「希少? それってえっと、レアな石ってこと?」
エドナは近くに落ちていた石を拾ってエラスムスに見せた。
「ははっ、それは単なる石ころだ。そうじゃなくて、レアってのは滅多にお目にかかれないって意味だ。そうじゃなければ稼ぎにはならないが」
レアな石を見つけることで、冒険者でもない行商人のエラスムスはそれで生活をしているらしい。
「言っとくが、中に入ったら外への出口にたどり着くまで出られないぞ。それに女将の話によれば、今まで確認出来なかった魔物が出るようになったとも聞いている。もし魔物に遭遇したらオレは身をひそめることしか出来ない。……それでも行くか?」
エラスムスは本気でエドナを心配してくれているようで、真剣な表情でエドナを見つめている。
「そこまで言うなら、わたし絶対信じさせるもん! もしエラスムスが危ない目にあったらわたしが助けてあげるんだから!」
「……分かった。行こうか」
エドナに念を押したエラスムスは、バルーを先に行かせて鉱山洞穴へ進むことに。
フィルジア鉱山洞穴は最初に見つけた時は、貝殻や魚の骨くらいしか取れなかった。だが退屈していた行商人が数人で奥まで行ったところ、希少な鉱石が落ちていたのを発見。
それをきっかけとして、町の人間のみならず行商人自らが洞穴に入るようになった。しかし、本来いないはずの魔物の姿が見られるようになって以降は入口に監視台を設け、むやみやたらに侵入するのを止めているのだとか。
「ふ~ん……自然の洞穴じゃないから明るいんだ~」
「町外れで荒れ果てているって言っても、町の中に変わりは無いからな。昔の連中が洞穴に手を加えたんだろうな」
エラスムスが言っているとおり、人の手でつけられた照明のようなものが天井部分に延々と付けられていた。
ただし通路の壁はむき出しの岩壁になっていて、貝殻が半分程度まで露わになっている。
「魔物は奥にいるの?」
「そう願いたいね。オレはこんななりと態度をしているが、戦えないからな。もちろん、バルーも戦力と呼べない」
「そうなんだ……でもわたしがいるから、すっごく奥まで進んでも大丈夫だよ!」
「……ああ」
バルーの嗅ぎつけを待ちながらしばらく奥の方まで足を進めていると、突如としてバルーの足が止まりだした。
「ウウウウ……!」
嗅ぎつけでも唸らないバルーが前方に向けて、突然ほえだし始めた。
「お、おい、どうしたバルー!」
「もしかしてさっそく魔物が出たのかな?」
「まだ入り口から五百メートルも進んでないぞ。こんなところでいるとしたら、採掘なんて成立しなくなる」
そう言いながら、エラスムスは両肩を震わせながら表情をこわばらせている。
「きゃぅぅぅん!!!」
バルーの悲鳴に似た鳴き声が戻って聞こえてきたかと思っていると、エドナたちを通り過ぎて入口の方へ駆けていく。
「な、何だ? 何であいつオレを通り過ぎて……うっ!? に、逃げろ!! エドナ、入口に向かって走れ!! は、早くっ!」
「えっ?」
「岩だ!! よく分からないがでかい岩が迫って来てるんだよ!! 急げ!」
「えぇっ!?」
犬のバルーは入口付近まで逃げたのか、すでに近くにはいなく残されたエラスムスも焦ったのか、エドナの手を握れずにそのまま走って行ってしまう。
「…………おっきい岩が転がって来るなんて、一体どこのアトラクションなんだろ。でも、逃げる必要なんてない! 何とか出来るはずだし」
エラスムスとバルーがいないのを好都合にして、もうすぐ目の前に迫る大岩に対しエドナは両腕を伸ばして待ち構えた。
ゴゴゴゴ、とした重厚な響きをさせて大岩がエドナの手前まで迫る。
「え~いっ! 洞穴を汚したら駄目なんだから~!!」
迫った大岩に対し、エドナが見せた動きは手を添えるだけだった。しかしその直後、勢いづいて転がってきた大岩は一瞬にして破砕していた。
まるで見えない力が働いたかのように、粉々になっていたのである。
「あ、何とかなった~!」
エドナは特別に何らかの魔法を唱えたわけではなく、ランバート村で土壁を腐らせたようなイメージを大岩にぶつけただけに過ぎない。
あくまでイメージしかしなかったのにもかかわらず、エドナはものの見事に解決してしまった。
「お、お~い?」
「わぅぅ」
しばらくして、入口付近からエラスムスとバルーが呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら無事に逃げていたらしい。
「エラスムスさ~ん、バルーちゃん! もう大丈夫だよ! こっちに来てもいいよ」
エドナの声に応じてエラスムスとバルーが姿を見せた。
「ま、まさかだよな?」
「くぅん……」
エラスムスたちはあれだけ自分たちに迫っていた大岩の姿はすでに無く、まるで幻でも見ていたかのような呆然とした反応でエドナに対している。
「だから大丈夫って言ったよ~?」
「あぁ、いや……しかし、一体何をしたんだ? 岩があった跡が無いんだが」
「んとね、勝手に砕けたの」
「砕けた? それはエドナがやったのか?」
「そうだよ」
本人を目の前にしてそれでもエラスムスは信じられないといった表情を見せているものの、現実に大岩が迫って来ていたのを思い出し、自分を納得させたように頷いていてみせた。
「ううむ……それならやはり、あの子たちの言葉通りの結果になったというわけか」
「あの子たち? え、誰のこと?」
エドナが何事も無かったのを確実にしたかったエラスムスは、エドナの言うことを信じ、入口付近に待機している者たちを呼び始める。
「ライラとリズ……それから、セリアだったな。こっちへ来てくれないか!」
ええっ?
どうしてライラたちがここにいるんだろう。
入口付近まで逃げたのは分かるけど、もしかしてわたしを探しに来たってこと?
エラスムスの呼びかけに、エドナの前に姿を見せたのは紛れもなくライラたちだった。彼女たちは一様に安堵した表情を見せている。
「ライラ、リズ、セリア……ご、ごめんなさぁぁぁい!!」
ライラたちを見た途端、真っ先に泣き声を上げたのはエドナだった。
「はは、無事で良かったよ。エドナ」
「そうだと思ってた」
「まさか行商人さんを説得して鉱山洞穴に入っているなんて、驚くことしか出来ませんでしたわ。でも無事に会えて何よりですわ」
エラスムスはエドナを捜し回っていたライラたちを洞穴入口で見かけ、転がる大岩とエドナのことを話していた。そして案の定エドナが何事も無くいるのを見て、ライラたちの話のとおりだと信じていたのだった。
「わたしを探してフィルジアまで歩いて来たの?」
ランバート村の方には行かなかったよね、やっぱり。
「そりゃあね。エドナがランバート村に戻るわけは無いと思っていたわけだし」
「そっかぁ。あの、探しに来てくれてありがとう」
「いいよ。私らも目を離したのが悪かったからね。今後はお互いに気をつければいいんだよ」
「――うんっ!」
ライラが一番心配していたようで、エドナの言葉を優しく受け止めていた。
「ところで、君たちもついて来てくれるっていうのは本当か?」
エラスムスの話に対し、ライラたちは笑顔で頷いている。
「……そんなわけだから、エドナ」
「うん」
「私らもこの人とバルーの手伝いをすることにしたよ」
すでにエラスムスの話に乗っていたのか、ライラたちはそれぞれの武器を手にしてやる気を露わにしている。
「えっ本当?」
嬉しそうなエドナを見ながら。
「オレとしては助かるからいいが、エドナもいいんだろ、それで」
「もちろん!」
「それなら、一緒に行こう。たとえ魔物が出てもオレとしてはこれほど心強い味方はいないからな」
偶然の再会、出会いだとしてもエラスムスにとって安心して鉱石探しが出来るのはありがたかったようで、ライラたちに何度も頭を下げている。
「……よし、それじゃあ先頭はバルーのままで、続くのは私とセリア。後ろがリズとエドナ。鉱脈が見つかったら安全を確保してからエラスムスに前に出てもらうよ!」
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