7 / 25
第7話 行商人とフィルジア同盟
しおりを挟む
「ふぅ。今日の稼ぎはどれくらいになることやら……。足りない分はバルーに掘らせて補えばいいか」
エドナを運んだ荷馬車は、日が沈む前に町に到着していた。
穏やかなポルトル海峡に面した断崖をくり抜いて築かれた港町フィルジアは、様々な種族、職業の者が集う賑やかな町でもあり、隣国アルボルドの同盟でもある。
ここでは近年、荒れ果てた海岸沿いに出来た鉱山洞穴の鉱脈資源を使って金策取引が行われており、行商人がひっきりなしに訪れていた。
夕暮れに差し掛かろうとしていたそんな時、荷馬車の荷を降ろしていた男は白いローブに包まれた少女が眠っている姿に驚く。
「お嬢ちゃん! お嬢ちゃん!! 参ったな、いつから乗っていたんだ? まさかバルーが連れてきたんじゃないよな?」
「わふぅ?」
「……いや、待てよ。白いバルーを捕まえた時に重さを感じたが、間違ってどこかのお嬢ちゃんをオレが連れてきたんじゃ……?」
自分の相棒である犬のバルーではなく、どこから連れてきたのか分からない謎の少女の寝姿を見て、男は誰にも気づかれないように静かに起こすことにした。
「あ~……お嬢ちゃん? 頼むから起きてくれ~……」
「…………んん」
「起きそうにないくらい気持ちよさそうにしているな……。よし、バルー。顔を舐めて起こしてやってくれ」
「くぅん」
男の指示を素直に聞き、バルーはエドナの顔を舌でペロペロと舐めている。
何だろう?
何かがわたしの顔をくすぐっているような。
わたしっていまどこにいるんだったっけ?
「えっ? あ、あれっ?」
「わぅ!」
「ワンちゃん!? お、起こしてくれたの? あっ……」
白い犬に顔を舐められ起きたエドナだったが、犬が戻って行く先に見知らぬ人が立っていることに気づいてしまう。
「あ……こ、こんにちは」
「こ、こんにちは」
「……」
「…………え~と、参ったな」
「わふぅ?」
目を覚ましたエドナの気づきに男はとっさのことで言葉が出て来ず、固まっている。
「可愛い~!」
「だろ? バルーはオレの唯一の相棒なんだ」
しかし白い犬の首かしげが場を一気に和やかにさせ、急に打ち解けた。
「あのっ、ごめんなさいです! 勝手に荷馬車に……」
話を続ける前にエドナは男に対し、すぐに頭を下げた。
「……あ、あぁ。お嬢ちゃんの様子だと、オレが悪いみたいだな。バルー……こいつはオレの相棒なんだが、どうもバルーを捕まえたつもりがお嬢ちゃんを捕まえてしまったみたいなんだ」
お嬢ちゃんなんて言われるのは前世ぶりくらいだろうか、とエドナは思ってしまった。
「ううん、可愛いワンちゃんを抱っこしていたわたしが悪いんです」
可愛い犬を相棒に連れているという時点で、悪い人じゃないよね。荷馬車に色々置いてあったし、この人はきっと行商人だろうし。
「お嬢ちゃんはしっかりしてる子なんだな。オレは行商人をしているエラスムス。こいつは相棒のバルー」
「わんわんっ!」
「バルーちゃんと、エラスムスさん。わたし、エドナ……エドナ・ランバートです」
さっきまでの静寂が嘘のように、お互いに頭を軽く下げて笑顔を見せた。
「ランバート! 精霊村か。そんなに遠くないが、エドナちゃんは一人……で?」
「えっと、冒険者のみなさんと途中ではぐれちゃって、気づいたらエラスムスさんの荷馬車に乗せられてたんです」
「そりゃあ……すまないことをした。どの辺りではぐれたのか分かるかい?」
バルーを見つけたのはシェルの森だったけど、奥に進みまくった先が街道だったから詳しくは答えられないよね。
「わたしがシェルの森を勝手に抜けたから分からないんです」
「そうか。あの街道はランバートに戻るか、フィルジアに来るかの二択だから恐らくここに向かってくるはず。だから心配しなくていいと思う」
エラスムスの考えは当たっていた。エドナが知らぬ間にフィルジアに到着していた頃、彼女たちは慌てずにフィルジアに向かっていたからだ。
「フィルジアってここのことなんですか?」
エドナが改めて周りを見回すと、行商人が行き交う光景や獣人らしき種族も見えていて、ここが活気のある賑やかな町だということが見てとれた。
目の前のエラスムスも風貌こそ伸ばしっぱなしの無精ひげ、ぼさぼさな長い茶色い髪が目立つが、行商人だけあって上級な革でなめした服と革のベルト、トラウザを履いていて身なりはきちんとしているのが分かる。
「ああ。ここは港町フィルジア同盟。同盟ってのは隣国にあるアルボルドのって意味でな、そこと良好な関係って意味なんだ。見ての通り、オレみたいな行商人には最高の町さ!」
そう言うとエラスムスは自分を指して勝ち誇った顔を見せた。
「バルーちゃんを相棒っていうのはどういう意味なの?」
「あぁ、それは――っと、もうすぐ暗くなるし、連れてきてしまった責任もあることだ、良ければオレが泊まってる宿に移動しないか?」
「うん、いいよ」
眠っていたらフィルジアに着いていたことをエドナは、特に慌てることもなければ泣くこともなく、エラスムスの言葉に素直に返事をしてみせた。
「……エドナちゃんはいくつなんだ?」
宿に向かう途中、エラスムスは首をかしげながらエドナを見ながら難しそうな顔を見せる。
「九歳だよ。どうして?」
「オレに娘なんてもんはいないが、子供にしてはいやに落ち着いているなと思ってな。精霊村から来たってことが関係してるかもしれないが……」
ランバート村にはそもそもわたし以外に子どもがいなかったし、話をしていたのがおじいちゃんとかだったから幼い子どもって感じにはならないかも。
「よく分からないけど、バルーちゃんがいるからじゃないかなぁ」
「はははっ、そうかもな」
エラスムスは笑いながらエドナ、バルーを引き連れて宿のあるいくつもの小さな店が連なった小路へと足を進めた。
「戻ったよ、女将さん!」
「エラスムスさん、その女の子は?」
やっぱりそう言われちゃうよね。どうすればいいんだろ。
「あぁ、その子はエドナ。オレの相棒さ!」
え?
でも道の途中で拾ったとか言えないよね。
エラスムスの言葉を聞いた宿の女将はエドナを見ながら、少しも怪しむ表情を見せずに笑顔を見せている。
「相棒ってことなら構わないよ! フィルジアじゃ珍しくないからね」
「そ、そうなの?」
「あぁ! 犬を相棒にしてるんだ、子供だって立派に相棒になるだろうからね」
女将が言っていることにいまいち理解が出来なかったものの、正直に言っても仕方が無いと思ったエドナはそのまま素直に返事をすることにした。
「……っと、今回は長くいるつもりだ。お代はこれくらいで足りるよな?」
行きつけの宿のようで、エラスムスは宿の女将に数十枚の銀貨を払っている。
「はいはい、頂いておくよ。いつもの場所に行くつもりかい?」
「そうだな。稼ぎとして最高だからな」
「行くなら早朝にしときなよ」
「何故だ? ……おっと、エドナは先に部屋で眠っていていいぞ」
エドナに聞かせたくない話なのか、エラスムスはエドナに部屋へ行くように言いつけた。本来なら出会ったばかりのエラスムスに厳しくされるはずがないのだが、前世の記憶を持つエドナは素直に頷いて部屋へ向かうことにした。
「うん、そうする~」
何の話かはよく分からないけど、このまま一緒に行動することになりそうだし明日になれば分かることだよね。
エドナとエラスムスが宿に着いてからしばらく経った夜半過ぎ――。
ライラたち冒険者パーティーもフィルジアの町へたどり着いていた。夜半過ぎではあるが、港町なだけあって行き交う人や発着する船は休まることがない。
「ふぅ……すっかり暗くなったね」
「すでに夕方だった。だから仕方ない」
「この町にエドナちゃんがいるのかしら? 一人で泣いてないかしら?」
「あの子は泣かないんじゃないか?」
「泣いてもこの町は面倒を見ない。だから泣いていない」
街道をひたすら道なりに歩いて来たライラたちは、深夜でも人の往来がある町の光景を見ながらエドナのことを気にかける。
……とはいえ、セリア以外の二人は全く心配する必要が無いと判断してるようだ。
「疲れたし、どこかの宿を探して休もう!」
「賛成」
「エドナちゃんは?」
セリアだけがエドナを気にしているが、ライラとリズは周りを見回している。
「深夜に探したって見つからないだろ。この時間に探す方が危ないし」
「そう」
「そ、そういうことでしたらそうするしかありませんわね」
「そういうことだよ」
明るくなってから探せばいい――そんな気持ちを持ってライラたちはフィルジアの宿を探すことにした。
「エドナちゃん、起きてもらえるか?」
「う……んん」
早朝――まだ星が見えて薄っすらと暗さが残っている時間になって、エドナはエラスムスに起こされた。
「ふわぁぁ……なぁに?」
「この時間ならひと気も少ない。だから途中まで送ろうと思っている」
「え? それってランバート村の方にってこと?」
てっきりわたしに聞かせたくなかった何かに連れて行くと思っていたのに。
「ああ、そうだ。冒険者たちがフィルジアに来ていれば一番良かったかもしれないが、この町がいくら小さくても歩いて探し回るのは厳しい。もしかすれば途中の街道で待っている可能性もあるからその方がいいと思ってな」
エラスムスにとって、犬のバルーと勘違いしてエドナを荷馬車に乗せてしまったことが誤算だった。もし冒険者が街道にいるのであれば、冒険者に任せた方がいいと判断したようだ。
「エラスムスさんはバルーちゃんを連れてどこかに行く予定なんだよね?」
「あぁ……だが決して安全な場所じゃない。さすがに昨日出会ったエドナちゃんをそこに連れて行くわけにはいかないだろ」
エラスムスとしても、やはり子供であるエドナをそのまま連れ回すのは良くないと思っていた。それならば早朝の内に途中まで送る方がいいと考えていたのである。
「ううん、どんな場所か分からないけど、わたしは平気だよ」
「……なぜそう言い切れる?」
「だってわたし、賢者だもん!」
エドナを運んだ荷馬車は、日が沈む前に町に到着していた。
穏やかなポルトル海峡に面した断崖をくり抜いて築かれた港町フィルジアは、様々な種族、職業の者が集う賑やかな町でもあり、隣国アルボルドの同盟でもある。
ここでは近年、荒れ果てた海岸沿いに出来た鉱山洞穴の鉱脈資源を使って金策取引が行われており、行商人がひっきりなしに訪れていた。
夕暮れに差し掛かろうとしていたそんな時、荷馬車の荷を降ろしていた男は白いローブに包まれた少女が眠っている姿に驚く。
「お嬢ちゃん! お嬢ちゃん!! 参ったな、いつから乗っていたんだ? まさかバルーが連れてきたんじゃないよな?」
「わふぅ?」
「……いや、待てよ。白いバルーを捕まえた時に重さを感じたが、間違ってどこかのお嬢ちゃんをオレが連れてきたんじゃ……?」
自分の相棒である犬のバルーではなく、どこから連れてきたのか分からない謎の少女の寝姿を見て、男は誰にも気づかれないように静かに起こすことにした。
「あ~……お嬢ちゃん? 頼むから起きてくれ~……」
「…………んん」
「起きそうにないくらい気持ちよさそうにしているな……。よし、バルー。顔を舐めて起こしてやってくれ」
「くぅん」
男の指示を素直に聞き、バルーはエドナの顔を舌でペロペロと舐めている。
何だろう?
何かがわたしの顔をくすぐっているような。
わたしっていまどこにいるんだったっけ?
「えっ? あ、あれっ?」
「わぅ!」
「ワンちゃん!? お、起こしてくれたの? あっ……」
白い犬に顔を舐められ起きたエドナだったが、犬が戻って行く先に見知らぬ人が立っていることに気づいてしまう。
「あ……こ、こんにちは」
「こ、こんにちは」
「……」
「…………え~と、参ったな」
「わふぅ?」
目を覚ましたエドナの気づきに男はとっさのことで言葉が出て来ず、固まっている。
「可愛い~!」
「だろ? バルーはオレの唯一の相棒なんだ」
しかし白い犬の首かしげが場を一気に和やかにさせ、急に打ち解けた。
「あのっ、ごめんなさいです! 勝手に荷馬車に……」
話を続ける前にエドナは男に対し、すぐに頭を下げた。
「……あ、あぁ。お嬢ちゃんの様子だと、オレが悪いみたいだな。バルー……こいつはオレの相棒なんだが、どうもバルーを捕まえたつもりがお嬢ちゃんを捕まえてしまったみたいなんだ」
お嬢ちゃんなんて言われるのは前世ぶりくらいだろうか、とエドナは思ってしまった。
「ううん、可愛いワンちゃんを抱っこしていたわたしが悪いんです」
可愛い犬を相棒に連れているという時点で、悪い人じゃないよね。荷馬車に色々置いてあったし、この人はきっと行商人だろうし。
「お嬢ちゃんはしっかりしてる子なんだな。オレは行商人をしているエラスムス。こいつは相棒のバルー」
「わんわんっ!」
「バルーちゃんと、エラスムスさん。わたし、エドナ……エドナ・ランバートです」
さっきまでの静寂が嘘のように、お互いに頭を軽く下げて笑顔を見せた。
「ランバート! 精霊村か。そんなに遠くないが、エドナちゃんは一人……で?」
「えっと、冒険者のみなさんと途中ではぐれちゃって、気づいたらエラスムスさんの荷馬車に乗せられてたんです」
「そりゃあ……すまないことをした。どの辺りではぐれたのか分かるかい?」
バルーを見つけたのはシェルの森だったけど、奥に進みまくった先が街道だったから詳しくは答えられないよね。
「わたしがシェルの森を勝手に抜けたから分からないんです」
「そうか。あの街道はランバートに戻るか、フィルジアに来るかの二択だから恐らくここに向かってくるはず。だから心配しなくていいと思う」
エラスムスの考えは当たっていた。エドナが知らぬ間にフィルジアに到着していた頃、彼女たちは慌てずにフィルジアに向かっていたからだ。
「フィルジアってここのことなんですか?」
エドナが改めて周りを見回すと、行商人が行き交う光景や獣人らしき種族も見えていて、ここが活気のある賑やかな町だということが見てとれた。
目の前のエラスムスも風貌こそ伸ばしっぱなしの無精ひげ、ぼさぼさな長い茶色い髪が目立つが、行商人だけあって上級な革でなめした服と革のベルト、トラウザを履いていて身なりはきちんとしているのが分かる。
「ああ。ここは港町フィルジア同盟。同盟ってのは隣国にあるアルボルドのって意味でな、そこと良好な関係って意味なんだ。見ての通り、オレみたいな行商人には最高の町さ!」
そう言うとエラスムスは自分を指して勝ち誇った顔を見せた。
「バルーちゃんを相棒っていうのはどういう意味なの?」
「あぁ、それは――っと、もうすぐ暗くなるし、連れてきてしまった責任もあることだ、良ければオレが泊まってる宿に移動しないか?」
「うん、いいよ」
眠っていたらフィルジアに着いていたことをエドナは、特に慌てることもなければ泣くこともなく、エラスムスの言葉に素直に返事をしてみせた。
「……エドナちゃんはいくつなんだ?」
宿に向かう途中、エラスムスは首をかしげながらエドナを見ながら難しそうな顔を見せる。
「九歳だよ。どうして?」
「オレに娘なんてもんはいないが、子供にしてはいやに落ち着いているなと思ってな。精霊村から来たってことが関係してるかもしれないが……」
ランバート村にはそもそもわたし以外に子どもがいなかったし、話をしていたのがおじいちゃんとかだったから幼い子どもって感じにはならないかも。
「よく分からないけど、バルーちゃんがいるからじゃないかなぁ」
「はははっ、そうかもな」
エラスムスは笑いながらエドナ、バルーを引き連れて宿のあるいくつもの小さな店が連なった小路へと足を進めた。
「戻ったよ、女将さん!」
「エラスムスさん、その女の子は?」
やっぱりそう言われちゃうよね。どうすればいいんだろ。
「あぁ、その子はエドナ。オレの相棒さ!」
え?
でも道の途中で拾ったとか言えないよね。
エラスムスの言葉を聞いた宿の女将はエドナを見ながら、少しも怪しむ表情を見せずに笑顔を見せている。
「相棒ってことなら構わないよ! フィルジアじゃ珍しくないからね」
「そ、そうなの?」
「あぁ! 犬を相棒にしてるんだ、子供だって立派に相棒になるだろうからね」
女将が言っていることにいまいち理解が出来なかったものの、正直に言っても仕方が無いと思ったエドナはそのまま素直に返事をすることにした。
「……っと、今回は長くいるつもりだ。お代はこれくらいで足りるよな?」
行きつけの宿のようで、エラスムスは宿の女将に数十枚の銀貨を払っている。
「はいはい、頂いておくよ。いつもの場所に行くつもりかい?」
「そうだな。稼ぎとして最高だからな」
「行くなら早朝にしときなよ」
「何故だ? ……おっと、エドナは先に部屋で眠っていていいぞ」
エドナに聞かせたくない話なのか、エラスムスはエドナに部屋へ行くように言いつけた。本来なら出会ったばかりのエラスムスに厳しくされるはずがないのだが、前世の記憶を持つエドナは素直に頷いて部屋へ向かうことにした。
「うん、そうする~」
何の話かはよく分からないけど、このまま一緒に行動することになりそうだし明日になれば分かることだよね。
エドナとエラスムスが宿に着いてからしばらく経った夜半過ぎ――。
ライラたち冒険者パーティーもフィルジアの町へたどり着いていた。夜半過ぎではあるが、港町なだけあって行き交う人や発着する船は休まることがない。
「ふぅ……すっかり暗くなったね」
「すでに夕方だった。だから仕方ない」
「この町にエドナちゃんがいるのかしら? 一人で泣いてないかしら?」
「あの子は泣かないんじゃないか?」
「泣いてもこの町は面倒を見ない。だから泣いていない」
街道をひたすら道なりに歩いて来たライラたちは、深夜でも人の往来がある町の光景を見ながらエドナのことを気にかける。
……とはいえ、セリア以外の二人は全く心配する必要が無いと判断してるようだ。
「疲れたし、どこかの宿を探して休もう!」
「賛成」
「エドナちゃんは?」
セリアだけがエドナを気にしているが、ライラとリズは周りを見回している。
「深夜に探したって見つからないだろ。この時間に探す方が危ないし」
「そう」
「そ、そういうことでしたらそうするしかありませんわね」
「そういうことだよ」
明るくなってから探せばいい――そんな気持ちを持ってライラたちはフィルジアの宿を探すことにした。
「エドナちゃん、起きてもらえるか?」
「う……んん」
早朝――まだ星が見えて薄っすらと暗さが残っている時間になって、エドナはエラスムスに起こされた。
「ふわぁぁ……なぁに?」
「この時間ならひと気も少ない。だから途中まで送ろうと思っている」
「え? それってランバート村の方にってこと?」
てっきりわたしに聞かせたくなかった何かに連れて行くと思っていたのに。
「ああ、そうだ。冒険者たちがフィルジアに来ていれば一番良かったかもしれないが、この町がいくら小さくても歩いて探し回るのは厳しい。もしかすれば途中の街道で待っている可能性もあるからその方がいいと思ってな」
エラスムスにとって、犬のバルーと勘違いしてエドナを荷馬車に乗せてしまったことが誤算だった。もし冒険者が街道にいるのであれば、冒険者に任せた方がいいと判断したようだ。
「エラスムスさんはバルーちゃんを連れてどこかに行く予定なんだよね?」
「あぁ……だが決して安全な場所じゃない。さすがに昨日出会ったエドナちゃんをそこに連れて行くわけにはいかないだろ」
エラスムスとしても、やはり子供であるエドナをそのまま連れ回すのは良くないと思っていた。それならば早朝の内に途中まで送る方がいいと考えていたのである。
「ううん、どんな場所か分からないけど、わたしは平気だよ」
「……なぜそう言い切れる?」
「だってわたし、賢者だもん!」
26
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ
柚木 潤
ファンタジー
実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。
そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。
舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。
そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。
500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。
それは舞と関係のある人物であった。
その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。
しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。
そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。
ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。
そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。
そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。
その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。
戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。
舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。
何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。
舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。
そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。
*第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編
第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。
第5章 闇の遺跡編に続きます。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる