真面目に掃除してただけなのに問題ありまくりの賢者に生まれ変わっちゃった~えっと、わたしが最強でいいんでしょうか?~

遥 かずら

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第2話 お騒がせ賢者の生まれ変わり?

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 奈々が浴室から滝の中へと流されてから数年後。奈々はランバート村のエドナとして成長し、九歳となっていた。

 奈々は前世の記憶を持つベテランの代行屋だったが、今ではすっかりエドナと呼ばれることに慣れ、村の人々からも可愛がられてすくすくと成長した。

 目の前にいるレンケン司祭もエドナの面倒を根気よく見てきた一人だ。

「エドナ。目を開けたらくれぐれも強く触れずに、軽く触れるだけでいいんじゃからの」
「うんっ」

 レンケン司祭に言われたとおり、エドナはテーブルに無造作に置かれた食器や容器に手を伸ばし、撫でるように触ってみることに。

「えっ? わわわっ!? な、何? 何なのこれ~!?」

 すると、目の前にあった鉄製のお皿やコップがみるみるうちに錆つき、そこから黒い煙のようなものが漏れ出ている。

 それだけかと思えば、触れた食器類は全て黒焦げになって跡形もなく消えてしまった。

「ひぐっ、ひっ……お、おじいちゃん、ごめんなさぁぁぁい!」

 エドナが泣き顔を見せながら謝ろうとすると、レンケン司祭は怒ることなくむしろ微笑んでみせた。

「よいよい、これしきのことで気にすることではないよ」
 しかしううむ、闇属性が強いんじゃろうか? 
 加護は四元素だけのはずなんじゃが。じゃとしてもこの容器はなぜに錆びずに形が崩れないんじゃ?
 まさか問題を起こしまくったあやつに似た賢者として生まれてきたか? などと、レンケン司祭はエドナに聞こえないように小声で呟いている。

「あれっ? それ、ペットボトル? 何でここにあるの?」

 ぶつぶつと呟くレンケン司祭の手には、エドナが前世で使用していた清掃用のペットボトルが握られていた。

「うん? なんじゃその、ペッ……トボ…………トルというのは」
「ううん、何でも無い~」

 まさかわたしと一緒に流されてきた?
 中身は確か超強力な消毒液だった気がするけど空っぽになっているし、たぶん似た容器だよねきっと。
 
「これっ! それ以上触らんでもよい! わしの考えがまとまるまで大人しく待っているんじゃぞ?」
「わかってるってば、おじいちゃん」
「いずれ魔法学園に進むことになるんじゃから、落ち着いてもらわねば困るんじゃ」
 
 そうは言いつつも、ペットボトルに触りたくて仕方が無いエドナは落ち着くことが出来ず、じっと眺めて気を引こうとしている。

「ええい! 落ち着かん!! 散歩でもしてきなさい」
「うん、わかった~!」
「歩き回る前にディーネ瀑布ばくふにお祈りをしてくるんじゃぞ?」
「は~い」

 エドナが生まれてきたランバート村はのどかな農村だ。

 しかしエドナが物心ついた時、レンケン司祭をはじめ、風車小屋のシフル、畑いじりのノオム、鍛冶職人のサラなど、何らかの元素魔法が使える人たちが暮らしているということで、エドナはここが普通の村じゃないことに気づいた。

 といっても、村にいる人のほとんどは農作業をしている人たちばかり。エドナから見ればここが特別な村だという認識は無かった。

 村外れにあるディーネ瀑布。

 ここは水精霊ウンディーネによる加護があり、冷水ではなく温かな湧水が流れ落ちている。エドナはそこから星の束と共に生を受けたと聞かされていた。それもあって、エドナは言われた通りに毎日拝むようにしている。

 浴室から流されたと思ったら赤子に生まれ変わり、現れた場所は大いなる滝と呼ばれるディーネ瀑布。生まれた場所も謎なうえ、そもそもなぜ自分が異世界に生まれ変わったのかエドナは未だに理解が追いついていない。

「今日も一日元気です……っと」
 そのせいか、お祈りも適当に済ませていた。
 
 それにしてもウンディーネかぁ。精霊神さまがわたしを呼んだとかじゃないと思うけど、模範的に生きてきたから加護を受けられたのかな?

 もっとも、前世で模範的と言われていたエドナは一人だけで何でもこなすことが当たり前だったせいか、自分のペースで問題無く出来ると思う節があった。

「あ、サラさんだ~!」

 ディーネ瀑布での祈りを済ませてその場から離れようとするも、エドナは小川で武器を洗う鍛冶職人のサラに声をかけた。

「やぁ、エドナ。いつものお祈りかい?」
「うん」
 
 気さくに話すサラは、燃えるように赤い長い髪をした豪快な性格の女性だ。時々町に卸す為の武器を作っているらしい。
 
「ねえねえ、サラさん。おじいちゃん、最近気難しい顔をしてうなってるんだけど、何でかなぁ?」
「それはアレだね、あんたが賢者の生まれ変わりだからじゃないのかい?」

 エドナは村のみんなから、かつてこの村にいた賢者の生まれ変わりだと言われている。それはエドナが現れた場所が深く関係しているからに他ならない。

 レンケン司祭の教えによれば、かつて存在していた賢者もまたウンディーネの湧水
を浴びながら生まれてきたからだと言われている。かつての賢者もこの村で成長を果たし、王都にある魔法学園に入学して巣立って行ったのだとか。

「賢者って言われてもよくわかんない。だって、わたし何の力も無いし」 
 
 そう言うとエドナは、自分の小さい手を何度も握ったり閉じたりしている。

「正しい力の使い方を教えるのは簡単じゃないからね」
「そうなの?」
「あぁ、そうだ。エドナ、さっき出来たばかりの炎の属性剣なんだけど、握ってみるかい?」

 そう言うとサラは、熱を帯びた深紅色の剣をエドナに渡してくれた。

「真っ赤だ~! これを握るだけでいいの?」
「握ってすぐに属性を感じられるなら、それだけでも力の使い方を覚えられるはずだよ」

 サラに手渡された剣を手にしたエドナは、剣を握って力を入れてみる。

 すると、

「――ひゃあぁぁっっ!! サラさん、剣が凍っちゃった~どうしよ~?」

 エドナが手にしたその剣は、熱く燃える色から無色の剣へと変化してしまった。

「えぇ!? そんな、まさか……。いや、確かに見事な氷の剣だね……まさか炎属性を消して凍らせるなんて前代未聞の力なんじゃ?」

 火造りで作製した剣が一瞬で氷漬けとなったことに、サラは不安を感じている。

「しかしまぁ、この力であればいつかでかいことをやり遂げる才能を備えているかもしれないね」
「この剣はどうなるの?」
「また打ち直せばいいから、気にしなくていいよ」
 
 この世界に来てから九年が経っているけど、これといって驚くような力を自覚したことはないんだけど、まさか氷の剣が出来上がるなんて驚いちゃった。

「でもサラさん、ごめんね~」
「いいさ。それより、シフルのところも寄るのかい?」
「うん。サラさんも一緒に行く?」
「……そうだね、心配だからあたしもついて行こうかな」

 ランバート村では、レンケン司祭をはじめとして役割を持った三人がエドナに知識や常識などを時々教えている。

 鍛冶職人のサラは武器の使い方を教え、風車小屋に暮らすシフルはエドナに風の操り方を教えようとしている人だ。

「シフルおばちゃん、こんにちは~」

 エドナが風車小屋のドアを開けて中へ入ると、おっとりとした年配の女性の姿があった。赤い髪をしたサラと違い、シフルは髪も瞳の色も透きとおった碧色をしている。

「はい、こんにちは。あら、サラも一緒なの?」
「付き添いだよ、ただの。たまにはそばで見守ることもあるだろ?」

 普段は鍛冶工房から出ることが無いサラがエドナのそばにいてしかも付き添っていることに、シフルは首をかしげた。

「……そうね。あら、その氷の剣は?」
「お前が気にすることじゃねえよ」

 サラが隠すように持っていた氷の剣が気になりつつも、シフルはエドナを外に連れ出すことにした。
 
「シフルおばちゃん。何を教えてくれるの~?」
「そうね、今日は風を操って風車を動かすことにしましょう」
「それって魔法?」

 村ではまだエドナには魔法を教えていない。それは力加減が出来ないことが関係しているからだ。

「そうね、どちらかというと目に見えない精霊さんの力を借りる感じかしら。目には見えないけれど、エドナちゃんならきっとすぐに出来るわ。今日は風も無いから精霊さんの力だけでいけるはずよ。あなたの手を使って風車を回してみてくれる?」

 シフルの言葉を聞いて、エドナは空気の要素を持つ精霊がいそうなところに手をかざし、勢い任せで空に向けて放ってみた。

 すると突然突風が吹き荒れたと同時に土台だけを残し、風車小屋ごと空高く吹き飛ばしてしまった。

「あれれ!? 風車小屋ごと飛んでっちゃった……」
 特に力を入れたわけじゃないのに何であんなに吹き飛んじゃったの?

「う、嘘でしょう? 精霊ごと吹き飛ばすなんて……ううん、エドナちゃんに悪気があってのことじゃなさそうだし、でもこれが賢者の力なのかしら」
「シフルおばちゃん、どうしよう~……風車小屋がどこかにいっちゃったよ~」
「そ、そのうち風で戻って来ると思うから大丈夫よ、きっと」

 目の前で起きた問題に、シフルは信じられないほど動揺している。

「シフルおばちゃん。ノオムおじさんのところに遊びに行っていい?」
「そうね……心配だから私もついて行こうかしら」

 サラさんもシフルおばちゃんもみんなわたしの為に沢山のことを教えてくれるけど、全然上手く出来ていないし身についていない。でもまだノオムおじさんがいるし、遊んでから悩めばいいかも。

 畑仕事をするノオムがいるところに近づくと、そこにいたのは神妙に話し込むレンケン司祭とノオムの姿があった。

「あれっ? おじいちゃん? どうしてこんなところにいるの?」
「ノオムのところで遊ぶって聞いたからの。心配になって……いや、気になって来てみたんじゃ。サラとシフルもついてきているんじゃな……なるほど」
「きむずかしくうなっていたのはなおったの?」
「どうじゃろうな……もっと心配の種が増えるかもしれんな」

 ノオムは初老の男性で、土の状態を良好に保つことを心掛けている人だ。普段は農作業をしていて、その合間にエドナと遊んでくれる気さくな人間でもある。

「うん? そこにいるのはエドナちゃん? それにシフルとサラまで付き添っているなんて珍しいこともあるね」
「そうなんだよ~。みんなついてきたの~」
「そしたら今日は何をしようか?」
「う~んとね、あっそうだ! ノオムおじちゃんが前に出してくれた泥のお人形さんと遊びたい!」

 この村にはエドナ以外に小さな子どもはおらず、遊んでくれているのはノオムだけである。そのおかげもあってエドナはノオムに懐いていた。

「あぁ、アレだね。泥人形か……ふむ、今日はエドナちゃんも泥人形を作ってみるかい?」
「えっ? わたしにも作れるの?」

 泥人形は畑の土に魔力を流して作られる人形で、意思は無いものの畑を荒らす獣への対策にはなるらしい。もっともエドナの魔力は脅威的な量ではなく、以前に作らせた泥人形は形にすらならなかった。

「え、でも、わたしの魔力で大丈夫かなぁ?」

 エドナはレンケン司祭を気にするが、レンケン司祭は微笑みながら静かに頷いているだけだ。

「心配いらないよ。レンケン司祭とは事前に話をしていたからね。エドナちゃんの微量な魔力なら何も起きないはずだよ」
「そうなんだ~。じゃあえっと、地面に触れるだけでいいんだよね?」
「あぁ、問題無いよ」

 そうしてノオムの他にレンケン司祭や村の人たちが大勢で見守る中、エドナは地面に向かって両手を思いきりついてみせた。

「え~いっ!!」
 気合いを入れて土に触ったはいいけど、わたしの魔力――といっても目に見えるものじゃないし、そう簡単に泥人形は出来ないよね。魔力もそうだけどシフルおばちゃんのところでも失敗してばかりだし、そう上手くいくものじゃなさそう。

 その心配もあってなのか、エドナの魔力を注がれた土からは特に何の変化も起きない。

「う~ん……やっぱり駄目だったよ~。わたしじゃなくてノオムおじちゃんが作って~!」

 エドナが無自覚に力を使うことを心配していたレンケン司祭たちは、何事もなかったことに安心したのか、その場から離れようとする。

「そっか、それじゃあオレが作ってあげようかな」
 
 だが、ノオムがエドナの元に近づこうとしたその時だった。

 ゴゴゴ。とした地鳴り音が一帯を響かせ、次第に村全体を揺らし始めたのだ。

「何じゃ……? これは大地の震えか?」
「お、おい、じいさん! これもエドナの力なんじゃねえのか?」
「あらあら? もしかしなくても時間差で問題が起きてしまったのかしら……」

 肝心のエドナは目の前の地面が激しく揺れているにもかかわらず、その場から逃げようとしていない。

「わわわわわわわわわ!! も、もしかして~!?」
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