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第二十五章:約束された世界

562.神と王を超えた者 前編

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「……んぅぅ。イスティさま……えっ? な、何なのなの!?」
「目覚めたか、フィーサ」

 光を弾かれ眠ったフィーサが目を覚ます。
 だがすぐにアレに気づき、かなり動揺を見せている。

「イスティさま、あのデーモンっぽいのは?」
「神の剣であるフィーサも知らないのか? あの男は冥界の神オーディンらしいぞ。人っぽいいでたちをしてるけどな」
「オ、オーディン!? えっ、でもでも、わらわが伝え聞いていた姿とは全然似ても似つかなく……」
「バヴァルのせいだ。レザンスで出会った魔女が中途半端に召喚して、仮の外見のまま契約をしたんだろうな。その本人もアレの中に喰われたが」

 フィーサの反応を見ると、やはり伝承にあるようなオーディンとは別物のようだ。しかし半端な存在でも奴から感じる気配はバヴァルとはワケが違う。

 ルティがアレに喰われていたらと思うとゾっとするな。

「ひゃぅぅ」

 おれとは別に、フィーサは剣を震わせ明らかに怯えを見せている。

「デーモン系は苦手なのか?」
「わ、わらわはしばらく眠っておくなの。仮の冥界神なら、イスティさまのお力と魔剣の技の方が楽に出来るなの。だ、だから、全て終わるまでわらわは封印眠りに入っておくなの」
「そうか。ありがとな、フィーサ」

 フィーサは神に創られた剣。冥界の神には触れたくないということだろう。そういう意味で魔剣ルストであれば、どんな相手でも全く問題ない。
 
 ――よし、やるか。
 荒ぶる魔女バヴァルと違い、オーディンは騎士のような存在を模している。
 
 そのせいか、奴は顕現した場所から微動だにしない。負けると思って無いからだろうが、動きを見せて来ないのは確固たる自信があるからだろう。

「……我を崇めるか、畏れるか、応とせずならば……自らの剣で示せ」

 冥界神は大剣を正面に構え、おれの返答を待っている。
 おれの答えはもちろん――

「おらああああああ!!」

 あえて剣での勝負を選ぶ。
 するとおれに呼応したかのように、奴は大剣を両手にして上段に構え始めた。

 魔法を込めず、まずは純粋に剣だけで攻撃を開始した。
 元々剣に関してはど素人だったおれがここまで挑めるのも、フィーサのおかげだ。
 
 ガチャで得られたソードスキルと魔剣を使用して、冥界神に突っ込む。
 とはいえ、騎士相手にまともに挑むのは無謀だ。
 
 奴とある程度の距離を保つために、遠当ての技である剣閃を放った。付与も何も無い技だが、奴の防御力を探るのには最適だ。

 剣閃による光の筋が奴に向かうと、奴は手にした大剣を十字に交差し全て受け止める構えを見せる。
 あれだけ重量のありそうな大剣を防御に使うということは、おれの攻撃に何かを感じてのことか。

 剣閃が奴に到達した直後。
 ――ガガガンッ、とした軋む音が響く。
 
 様子を見るに、おれの剣閃は奴のガード力を上回っているようだ。奴から反撃の兆候は見られないが、黒衣の外見からはその状態を掴むことは出来ない。

 そう思っていたが、前触れもなく急に膝下に重さを感じ、重心を僅かに奪われた。

「――くっ!? 影魔法か」

 表情も無く言葉も少ない黒衣の冥界神が礼儀正しいと思ったのはおれの勝手だが、そういえば奴の中にはずる賢い魔女が在ったのを思い出す。

 バヴァルの言葉こそ出て来ないが、冥界神の攻撃の一方で小賢しく知らずの魔法を繰り出すようだ。
 おれはすぐさま後ろに下がり、魔剣を構え直す。

「おれの言葉を理解してるかは分からないが、冥界神も余裕が無いようだな?」
「……それは貴様の方だろう? アック・イスティ。私が冥界神に喰われた……? クフフ、愚図め。完全に喰われるのは貴様だ、ガキィィ!!」

 何だ、ややバヴァルの方が色濃いのか。
 せっかく純粋に剣同士の戦いが楽しめると思っていたのに、興ざめなことをする。

「お望みのようだから出してやるよ。おれの召喚を始末したいんだろ?」
「ヒャハハハハハハハ!! さぁ、出せ! 貴様ごときガキの召喚など冥界神に敵うはずも無い! 出せ、出せ、出せーー!!」

 二度と会わずにさよならだなどと言われたが、あの男にはおれの召喚命令で現れてもらう。
 ついでに暇そうな神族国の神たちも呼んでおくか。

「バヴァル! 悪いがおれはとっくに超越してる存在だ。召喚した存在がどんなものでも後悔するなよ?」
「キヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 バヴァルは自我も失ったらしいな。

「――従属なる者、盟約に逆らわず、ここに集え!」

 まさか求めがあるとも思わず、こんなところに呼ばれるとは思って無いだろうな。
 ――そして。

「あぁぁぁ、そうか。アック・イスティ……君に負けた僕は血塗られた運命を決めていたか……」
「キ、キサマごときがこのラファーガを呼び出すとは!!」
「何じゃ、アグニをやっと使ってくれるのか? アック・イスティ。ご無沙汰ではないか、アック」
「冥界神に闇のアタシを当てるなんて、何て鬼畜な男なの!?」
 
 魔王スフィーダ、風神ラファーガ、火神アグニ……ついでに闇神クラティア。
 神も魔王もここで贅沢に使うことになるとは思わなかったが、冥界神には十分だろ。

「なっ――!? か、神……それに魔王が何故――」
「おれの召喚がお望みだっただろう? いい加減決着と行こうぜ? なぁ、元師匠のバヴァル!」
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