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第二十四章:影の終焉
556.ミルシェ、敵対する 前編
しおりを挟む「……消えたか」
テミドが影によって復活したのは正直言って少し驚いた。
だが、生きた肉体である弟ブラトの体を使ったことで弱点を露呈。
そのせいでテミドの逃げ場は失われ、あっけない幕切れとなったわけだ。
理解出来なかったのはテミドに対するネルヴァの動きだった。イルジナの時にあれだけ散々もてはやしたテミドを、ネルヴァはあっさりと見捨てた。
奴をよみがえらせたわりに最期まで面倒を見ることが無かったのは、一体何だったのか。
「ウニャ~! アック、こいつはやっつけてよかったのだ?」
「ん?」
フィーサによって回復したらしいシーニャが戻ってくる。
彼女の手をよく見ると、テミドの置き土産であるファントムウォームの一部があった。
「シーニャ、そいつをどうしたんだ……?」
「ウニャ! シーニャ、フィーサのおかげで治ったのだ。そしたら近くでうろうろしてたのだ。だから捕まえたのだ!」
「……そいつはもっと巨躯だったんだが、そうか……倒したのか」
「ウニャッ」
テミドが消えても召喚された獣だけは消えずに残っていたが、シーニャがあっさり倒していた。
脅威じゃないとはいえ、後々面倒になる可能性があっただけにシーニャの行動は素早かった。
「それで、シーニャはどういう様子だったんだ? フィーサ」
シーニャの様子を見る限り大したことはなさそうだが。
人化したフィーサの表情は割と深刻そうだ。
「わらわが感じたのは、誰であろうとあの影に触れると取り込まれる恐れがあることなの」
「影を引き裂いてもか?」
「なの。力を奪われるし全身を蝕んでしまうなの。このことから考えると……」
「……とにかく、ミルシェたちのところに行くぞ」
フィーサが言いたいのはルティのことについてだろう。
最悪を考えなければならないが、とにかく彼女たちがいるところへ行けば分かるはずだ。
「シーニャ、小娘のところに進むなの。そんなもんはとっとと捨ててしまえなの!」
「分かってるのだ。口の周りの牙だけでも取っておきたいだけなのだ。シーニャ、牙が好きなだけなのだ」
「全くもって薄気味悪いなの」
この先影響は無さそうだが、シーニャはファントムウォームの牙だけ手にしている。
何かの役に立つと思っての行動かは不明だ。
そんなやり取りをしつつ、おれたちよりも前方にいるミルシェたちの姿を捉える。
遠目で見てもすでに魔法生物の姿は無く、ミルシェとルティだけで話をしているようだ。
少なくとも、近くにネルヴァらしき影は見えない。
「ウニャ? 影はどこなのだ?」
「どこかに潜んでるはずだ。フィーサはどう思う?」
「すぐに分かるなの……イスティさま、油断したら駄目なの」
「……ああ」
シーニャを先頭に何気なくミルシェに近づく――
――その時だった。
「――ウニャ!? お前、何をするのだ!!」
ミルシェに近づき声をかけようとしたシーニャに向けて、ミルシェが水属性を放っていた。
不意打ち攻撃を放って来た辺り、決してふざけたものではないとされるが……。
「……あぁ、ごめんなさいね」
「どういうつもりなんだ、ミルシェ? それにルティは何でおれに目を合わせようとしないんだ?」
ルティはおれから顔を背け、ミルシェに隠れるようにして距離を置いている。
いつものルティなら真っ先に体当たりをしてくるはずが、全くそんな気配を感じない。
「ルティ……この子に厳しいあなたさまのことですから、きっとお叱りをするでしょうね」
「いきなり怒るわけないだろ……。ルティと話もさせてくれないのか?」
「いいえ、話は出来ますわ。その反応次第では、あたしはアックさまであっても容赦いたしませんわ!」
「な、何?」
シーニャは警戒して戦闘態勢になっているし、フィーサも人化のまま腕を武器に変形させている。
まさかこのままミルシェと敵対することになるのか?
「ルティ! ルティシア・テクス! おれは怒ってないし、話がしたいだけだ。とにかくおれと話を!」
何故ミルシェが反抗してるのか不明だが……。
もしかしたらすでに、影によってミルシェの自由が利かなくなっているのか。
ミルシェに気にされながら、ルティが顔を上げておれの前に近づいてくる。
「お久しぶりです! アックさん」
すると、ルティは満面の笑顔を見せておれに声をかけてきた。
何も変わってないように見えるも、どこか違和感を感じる。
「ルティ……だよな? いつもの調子じゃなさそうだけど、具合が悪いのか?」
「いえいえ。わたしはとっても元気ですよ! アックさんこそ、どうしてそんなに怖い顔をしているのですか? まさかと思いますけど、わたしに気づいているのですか?」
「――何? お前、まさか……」
赤毛のドワーフ娘ルティシア・テクス。
彼女の姿に特に変化は無い。違和感を感じるとすれば、どこかよそよそしい態度だ。
「気付いていてもいなくても、アックさん。わたしの破壊的な拳を喰らって、そのまま大人しく消えてくれますね?」
「! くっ――」
思わず後ろに跳んで避けてしまったが、あの拳をまともに喰らえばバフが削れる。
おれの後退に驚いたのか、シーニャとフィーサもついて来た。
「アック! ドワーフは敵なのだ?」
「……いや」
「イスティさま。小娘はもう、あの小娘じゃないなの……でも、あのミルシェはそれに気づいていながら敵対してきているなの」
「そうみたいだな。ミルシェはそう決めたんだろ」
ミルシェはルティを可愛がってたからな。
中身がたとえ敵でも、そうすることにしたということになる。
「アック。オリカとドワーフと戦うのだ?」
「敵対するならそうするまでだ」
もちろんどうにかしながら戦うが。
「アックさま。あたしは容赦しませんわ。始末するつもりで攻めてくることをおすすめしますわ!」
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