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第二十四章:影の終焉

551.忍び寄る見慣れた影

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「ウニャ? あの魔王は何だったのだ? どうして急にいなくなったのだ?」
「それは……」

 おれと魔王のやり取りは、シーニャとミルシェには見えていなかった。
 シーニャが首を傾げるのも無理は無い。

「アックさま。魔王は何と?」
「訳が分からないことを言ってただけというか……」
「いいえ、アックさま。あなたは重要なことを聞いているはずですわ! あの子の身に何かが起きている……そういうことでしょう?」

 ルティのことをずっと案じているミルシェに誤魔化しは通じそうに無いな。
 しかし魔王が言っていた次元の狭間。その意味については正直言って答えようがない。

「ウニャッ? 何か近づいて来るのだ」

 ミルシェどころかシーニャにもはっきりと答えられない中、シーニャが耳を動かす。
 まさか影が現れるのか?

「アックさま、ご油断無きよう……」
「分かってる」

 薄暗さを残す中、近づく気配に備えていると――

「イスティさま~!! ただいま戻りましたなの~!」

 ――何とも嬉しそうなフィーサの声が聞こえてくる。
 拍子抜けと言ってはいけないが、シーニャたちも途端に気を抜いた。

「何だ、フィーサだったのだ」
「――全く、緊張感の欠片も持たない小娘ですわね」
「何なの何なの!! 戻って来てすぐに文句を言われるのは納得行かないなの!!」

 フィーサにはザームの大統領とアクセリナの保護を任せていた。彼女が戻って来るということは、防御的な心配は無くなったということだろうか。

「フィーサ。アクセリナの様子は? それから――」
「イスティさまの言わんとしてることは分かっているなの。落ち着いて聞いて欲しいなの」

 影との戦闘をあっさりと終え、おまけに魔王との別れを済ませても何か落ち着かない。
 そこにフィーサが何気なく戻って来ても、焦りがどうしても出てしまう。

 残る敵はネルヴァなる影だけなのに……。

「……いいわ。あなたの話を聞かせてもらうわ。アックさまもまずは冷静に」
「ああ」
「フィーサ、何なのだ?」

 見えない影が相手なだけに嫌な予感を感じている。
 ――とはいえ、今は落ち着かねば。

「まず、ザームの大統領とかいう人間には、脅威となる力は全く無いなの。そこは安心していいなの! 弱っている娘に変なことをしないように対策はしてきたなの」

 それはそうだろうな。
 影に操られていたらあそこまで無警戒に動かない。
 
 フィーサにはおれにも知らされていないスキルがありそうだし、防御系の何かをかけたなら問題無いだろう。

「それから、アクセリナという娘の魔力はやっぱり失われているなの。でもでも、完全に消えたんじゃなくて力の大半を影に奪われた感覚みたいなの」
「奪われた? それはどういう風に?」

 おれの言葉にフィーサが言いづらそうにしている。
 
「え、えっとえっと……全て乗っ取られてしまうなの。影が抜け切っても、何かが失われてしまうのはどうしようもないなの……」

 仮にルティが影によって操られてしまっている場合は、彼女の力が失われているという意味か。

「何かって、何? あの子はあの人間とは強さが違うわ!」
「わらわにもそれは分からないなの。小娘は確かに強いなの。でもでも、小娘の半分は人間なの……」

 ルティはドワーフハーフ。とはいえ、フィーサが言うように半分は人間だ。
 シーニャたちのように影に対する抵抗がどこまであるか、こればかりはルティに懸けるしかない。

「……どうなっているのかはルティに再会しないと分からない。おれたちがやるべきことは、最後の敵を消すだけだ。だから今は先に進むしかない」
「そ、そういうことなの。イスティさま、わらわが案内出来るなの!」
「……いいわ。進めばきっとあの子がいるもの。そうよね?」
「は、はいなの。影は地上にいるなの。わらわについて来て欲しいなの」
 
 そういうとフィーサは剣に戻り、明かりの無い通路に向かって飛びだした。
 
「この先に影とドワーフがいるのだ? それなら早く行くのだ」

 この先には何も無いと思っていたが……。

「ウニャ? フィーサが壁に突き刺さって行くのだ。進んでいいのだ?」

 シーニャが言うように、フィーサが何も無い壁をめがけて突っ込んで行く。
 どうやら壁に見えていたのは全て黒い影だったようだ。

「フィーサが進んでるし、大丈夫だろ。行こう」
「アックさま。あの子はきっと大丈夫ですわよね?」
「……当たり前だ」

 先導するフィーサについて行くと、そこは大統領のおっさんがいた部屋に似た場所に出た。
 光が注がれているように見えるが……。

「この場所はザームの外なのか? 光が注いでいるが……」
「わらわが感じる気配では確かに外のような感じがするなの。でも何とも言えないなの」
「ここはもしかして――旧ザーム市街地なのでは?」

 空を見上げると確かに光が見える。
 しかしその光が本当の光かは判断出来ない。

「アック! 何かが来るのだ!!」
「――! 敵か!?」

 シーニャの反応に、おれたちはすぐに戦闘態勢に入る。
 だが注がれた光から見えてきたのは見慣れた影だった。

「アックさま! あの影はきっと――!」
「……多分ルティだな」

 地下深くで再会するかと思っていたが、ようやく会えるってわけか。
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