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第二十四章:影の終焉

546.ザーム・旧砦跡

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 アクセリナがもう少しで目を覚ましそうだ。
 だが、完全に目が覚めるまでに今いる場所が安全な状態を保てるとは限らない。

「ふん。その女が何者かは分からぬが、恩人である貴様らには特別に案内してやろう! その女も連れてついて来るがいい」

 そう思っていたおれたちに対し、ザーム大統領が得意げな顔で手招きをする。
 ミルシェが無言で頷いていたので、大統領の後ろをついて行くことに。
 
「ここだ。この壁に触れれば……」

 アンデッドトードがいた部屋まで戻り、辺りの壁に対しおっさんが手をかざす。
 すると、国章が浮かび上がると同時に隠し階段が現れた。

「むむむっ? イスティさま、この先からわらわに似たものを感じるなの」
「ん?」

 胡散臭いおっさんを信用するのはしゃくだったが、フィーサやシーニャが警戒していない。
 ミルシェに至っては不敵に笑うだけで、黙っておっさんについている。

 しばらく階段を上がったところで、

「……ふはは! どうだ? 安心安全な部屋だろう?」

 したり顔のおっさんが両腕を広げて、光が差し込んだ広い部屋を示した。

「ここは?」

 全く光が届かない地下要塞とは真逆で、空からの陽射しがたっぷり降り注いでいる。
 天井からは光が注がれているが両側の壁には窓が一切ない。
 部屋には、大統領がふんぞり返って座りそうな椅子が置いてある。

「見て分からんか? ここはわしの部屋であり、ザーム共和国の中心にして大統領府である!」
「大統領府……ここが?」

 天井と椅子だけに気を取られていたが、よく部屋を見回してみた。
 すると部屋の片隅に、金属加工された物が無造作に置かれているのが見える。

「ふん、うるさい若造め」

 フィーサが少し興奮状態にあるが、ミスリル素材が近くにあるようだ。

 かつて武器加工が可能な職人を置いていた部屋ってことか。
 ザーム共和国は武器を使う傭兵が多かったし、そういう場所を設けていても不思議は無い。

「わしも職人のはしくれ。旧砦跡を利用したに過ぎん」
「ザームの旧砦跡……。陽射しが降り注いでいるということは、ここから地上へ?」
「もちろんだ。だが地上の市街地は今、深い霧が立ち込めている。空の陽射しだけは正直だが妙な連中が徘徊している以上、うかつに出ていけんのだ」

 うっかり外に出たところを魔王に見つかって、封じられたくさいな。
 
「アック、アック! 女が目覚めたのだ!」

 この部屋が旧砦跡ならそれなりに安全か。
 それはともかくアクセリナだ。

 彼女のそばにはシーニャ、フィーサ、そしてミルシェが見守っている。
 大統領のおっさんは自分の部屋に着いて安心したのか、あまり干渉してくるつもりは無いらしい。
 とはいえ、今度はフィーサに見張っててもらう。

「イスティさま。あの女性には、イスティさまが声をかけて欲しいなの。そうすればきっと気付くはずなの」
「うん、そうするよ」

 傷一つないアクセリナの顔は未だに生気が無いが、とにかく声をかけることにする。

「アクセリナ! おれです。アックです! 不安を感じているかもしれないけど、目を覚ましても大丈夫です! ここにルティはいないけど……おれがいるので目を開け――」
「ルティちゃんっ!!」
「あがっ!?」

 不覚だ。顎にクリティカルヒットされるとは……。
 しかしルティのことを耳にしただけで目覚めるなんて、よっぽど心配だったようだ。

「アック、大丈夫なのだ?」
「ふふん、無敵のアックさまも相変わらず女の攻撃には弱いですのね」
「いや、顎はさすがに……」

 アクセリナは置かれている状況を理解していないのか、辺りを見回している。

「あれ? アック……さん? それから、お仲間の……」

 ようやく落ち着いたらしい。
 しかしずっとルティを探しているようで、表情に焦りが感じられる。

「気付きましたか!」
「……ここはどこですか? 私、途中までルティちゃんと一緒にいて……ううぅっ、あ、頭が……」
「――! アックさま、この女性から魔力が感じられませんわ」
「魔力が?」

 アクセリナといえば回復士。
 かつてルティが傷を負った時も治癒してもらったことがある。
 その彼女から魔力が失われている――ということは、"影"に何かされた可能性が高い。

「アクセリナ。ルティは? ルティと一緒にどこにいたんです?」
「ごめんなさい……分からない。でも、ルティちゃんのことが分かったのは、私の意識が戻った時と同時で……そのすぐ後、今度はルティちゃんに黒い影が……」
「! 黒い影がルティに!?」

 アクセリナは黒い影に意識を乗っ取られてルティを誘っていたのか。
 そしてその影が今度はルティに……。

「……ア、アックさま。黒い影に入り込まれた彼女は、魔力を奪われたと思われますわ。ルティ、あの子はきっと……」

 ミルシェが声を押し殺しながら肩を震わせている。
 アクセリナが魔力を奪われたからといって、ルティもそうだとは限らない。

「ミルシェ。ルティなら心配ない。ルティならきっと大丈夫に決まってる」
「は、はい……」

 狡猾な影が随分と回りくどいことする。

「アックさん……ルティちゃんをどうか――」
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