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第二十四章:影の終焉

539.アンデッドエリア 1

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 何が出て来たかと思えば――

「――いきなりアンデッド軍団か」

 後方は毒混じりの水面、部屋の中は倒された傭兵の姿。
 次の部屋につながる通路をひたひたと進んで来るのは、アンデッドのようだ。

「アックさま、ここに転がっている傭兵もアンデッド化するのでは?」
「ん、う~ん……そうなったら風を起こして吹き飛ばすから、放置でいい」
「承知しましたわ」

 ここに来る前、イルジナが言っていたな。
 ザームに残る人間のほとんどは、もはや人間と呼べるものでは無いと。

 魔改造された奴もいるだろうが、今見えているのはどう見ても……。

「アック。よく分からないけどやっつけていいのだ?」

 これが骨系なら、拳での攻撃が有効かつ有利に事が運ぶ。
 しかし今のシーニャはどんなタイプが出ても関係無く斬ることが出来る。
 
 数に物をいわせるだけのアンデッドに対して、遠慮は無用だな。

「いいぞ! シーニャの好きなように片付けていい」
「ウニャッ! 分かったのだ!!」

 おれの言葉に、シーニャは大量の群れとなっている通路に突っ込んで行く。
 前面から見える限り、低ランクのアンデッド軍団ばかりだ。

「虎娘だけ突っ込ませてよろしいのです?」
「見えているアンデッド軍団だけで判断すれば、シーニャだけで十分だ」
「ですけれど、アンデッドでも魔法を使う魔導士が出て来たら、その時は戦いを気をつける必要があるのでは?」
「よほどの威力があればね。今はまだ、自由にやらせるよ」

 シーニャはおれに準じた強さを得られている。
 こちらの攻撃を特殊に封じて来るややこしい敵が出て来ない限り、苦戦する心配はない。

「フウゥゥー!! ガウゥッ! ウニャゥ!!」

 次々と向かって来るアンデッド軍団に対し、シーニャはお構いなしに突っ込む。
 得意の爪は斬属性。爪を左右に振り回すだけで群がるアンデッドは無残に崩れていく。

 右に左に爪を切り払い、兵士タイプのアンデッドを切り崩す。
 切り刻まれた時に出る鮮血は、アンデッド化してから長いのか煤色すすいろばかり。
 それ自体に触れても、ダメージを負う成分はなさそうだ。

「イスティさま」
「うん? どうした? フィーサ」

 人化したまま剣に戻ろうとしないフィーサ。
 彼女がおれに何か言う時は、大抵良くないことが多い。

 おそらく、このままシーニャだけを突っ込ませるなということなのだろうが……。

「このエリアは無数にアンデッドが出て来る感じがするなの。シーニャの勢いはある程度になったら、一度戻してあげた方がいいなの」

 やはりそう言うと思った。
 それにアンデッドが最初に出て来る時点で、この辺りはまだ入り口付近。
 相当数の敵を消して行く必要があるだろうな。

「小娘の言うとおりですわね」
「ふんっ」
「アックさま。ここは小娘の言うように……」

 ミルシェの全身の傷はどうなったんだろうか。
 ちょうど近くに来たので、ミルシェを見てみると――
 傷がすっかり消えて、透き通りの肌に戻っているようだ。
 
「……アックさま。あたしのカラダがそんなに気になりますか?」
「へ?」
「ルティも虎娘もいないここでなら、ご遠慮なさらずにして頂ければ……」
「あ、いや、違う違う!! カリブディスとの戦いでかなり傷だらけになってたようだから大丈夫なのかなと」

 おれの言葉を聞いて、ミルシェはすぐにふくれっ面になった。
 良くない視線で何かを期待していたのだろうか。
 何故かフィーサも横で怒っているが。

「……とにかく、ダメージが無いなら良かったよ、うん」
「つまらない答えでしたけれど、そういうのは場所を考えてくださいませ」
「そうする……」

 この場にいないシーニャがアンデッド軍団を倒しまくっているのに、一体何をしているのやら。

「ともかく、虎娘は確かに強いですわ。ですけれど体力は無限ではありませんわ」
「確かに」
「その意味も込めて、虎娘の主人であるあなたさまがしっかりとしつけをするべきことが重要かと」

 といっても、どこまで突っ込んで行ったのか分からないくらい通路ががらんとしている。
 シーニャの爪は斬属性だ。斬られればアンデッドだろうと消失してしまう。

 その意味でも追われる心配はないが……。

「ウニャ~!! アック、早く来てくれなのだ!」

 そう思っていたら、かなり奥の方からシーニャの声が聞こえて来た。

「んっ? シーニャ?」
「殲滅させてやることが無くなったのでは?」
「全然違うなの。ここから2つほど先の部屋で、別種のアンデッドがいるっぽいなの。さすがにシーニャだけでは動かせないから呼んでいるはずなの」

 別種のアンデッドか。
 そうなると魔法を使うタイプか、あるいは……。

「アックさま、行きますわよ!」
「考え事してないで早く進んで欲しいなの!!」

 考えていたらミルシェとフィーサが先へ急いでいた。
 ちょっと悠長に考えてたな。

「あっ、うん」
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