上 下
537 / 577
第二十四章:影の終焉

537.剣士の不意打ち

しおりを挟む

「――ぷはぁっ……!」

 かなり泳いだが、ようやく空気がある部屋に上がれたな。
 部屋といっても家具も何も無い空間だけど。

 ここがザームかどうかはともかく、まさか都市ごと沈めるとは思い切ったもんだ。

「シーニャ、もういいぞ」
「……ム、ムニャ? もう着いたのだ?」

 何だ、寝てたのか。
 しがみつきの力が途中で弱くなったと思っていたけど……そういうことだった。

「イスティさま。わらわも、ここから人化するなの!」
「剣として戦う敵が出ないってことか?」
「逆なの……思いきり出て来るなの。わらわを使って戦っては駄目な相手が出て来るはずなの」
「んんん?」

 索敵と勘が鋭いフィーサが自ら人化するなんて。
 最初の部屋で出て来る敵は、剣士タイプの傭兵ということか?

 どんな敵でも問題無い――そう思って待ち構えていたが、おれたちの前に現れたのは……。

「くっ、くっそおおおおおおおおおおお!!」

 襲いたくないといった必死の声を響かせ、はおれの死角から剣を振り下ろしてきた。
 水から上がったばかりで体の自由こそ利かないが、初撃がおれに当たることは無い。

 パキンッ、とした弾く音が部屋中に響き渡った。
 彼から振り下ろされた剣は、おれの肩付近に命中。
 かなりの力が込められていて、ぷるぷると小刻みに震えているようだ。

「くっ……やっぱり、この人には敵わない……なのに、くぅぅっ!」
「……その声、剣士デミリスだね?」
「! み、見えていないはずなのに、どうして!?」
「おれには分かる。デミリスに命令をして、高みの見物をしている奴らともどもね」

 ――あぁ、全く……。
 予想はしていたが、レイウルムの彼にそういうことをさせるわけか。あの影女め。
 彼がここにいるとなると、アクセリナはルティの方だな。

「し、仕方ないんだ。こうしないと、アクセリナの命が……兄きも不明な今、オレがやるしか――」
「ジオラスなら問題無い。おれたちが救い出した。だからデミリス、どうすればいい?」

 なるほど。人質を取って脅してのけしかけか。

「あ、兄きが? そ、そうか」
「それで、アクセリナは?」
「彼女は……そ、その前に、ここにいるのはザームの傭兵軍団。彼らを何とかしないとオレは身動きが取れないんだ。だからアックさん。オレに大人しく斬られるフリを……」

 剣士デミリス一人だけだと従わざるを得ない状況だな。
 人質を取られているうえに、おれに不意打ち攻撃をさせるとはしょうがない連中だ。

「……いや、大人しく不意打ち攻撃を喰らうのは、こそこそ隠れて出て来ない連中だけでいい。デミリス。あんたはそのまま力を入れたまま剣を構えていてくれないか?」
「――えっ?」

 傭兵だろうとそうじゃなかろうと、連中を相手にするのはデミリスだけで十分だろ。
 フィーサは――寝惚けのシーニャを制しているから任せるとして。

「デミリス。今からおれは君の背中に回る。そのままあんたを風で浮かせて、奴らの背後に飛ばすから遠慮なく斬ってくれないか?」
「え、風で? し、しかし……」
「心配ない。奴らに不意打ち攻撃する位置に動かすだけだから」
「じゃ、じゃあ……」

 おれの肩に剣を当てたまま動きの無いデミリス。
 連中に怪しまれてはいるが、こちらの動きを見張っているだけで動きは無い。
 それならばと、おれはデミリスに対し少しずつ風を付与。

「デミリス。心配無い……ここの傭兵連中にあんたの実力を見せつけてやれ!」
「――う、うわっ!?」

 弱い旋風を起こし、デミリスに与えた直後。
 彼は部屋中に隠れている傭兵どもの背後に飛び、不意打ち攻撃を喰らわせていく。

「ぎゃぁっ……」
「な、何!? 何故、背後に……」

 聞こえて来る声のほとんどは傭兵の弱々しい悲鳴だ。
 まさか脅して言うことを聞かせているデミリスに、背後から不意打ち攻撃を喰らうとは。
 正直いって思ってもみなかっただろう。

 物がない部屋のあちこちには、姿を消す魔法がかけられていた。
 それを使って傭兵連中はぽつぽつと散らばっていたが……。

 人数はそこまで多くなく、せいぜい数十人程度だった。
 風に乗って剣を振り下ろすだけのデミリスは、何の苦労も無く次々と傭兵を倒していく。

「――はぁはぁはぁ、す、すごい! オレが一人で敵を倒すなんて!」
「全ての敵に不意打ち攻撃。剣士がこんな動きをするのは、本当は偉ぶれないけどね」
「そ、そうだね。でも、うん……。アックさん、ありがとうございます!」

 デミリスを使い、アクセリナを人質に。
 こういう奴ら相手に容赦は無用。デミリス本人にやられた方がショックが大きいはずだ。

「イスティさま。これでよかったなの?」
「レイウルムの剣士自らが片をつけるって意味ではいいんじゃないかな?」
「むむむ……イスティさまが言うなら、わらわは黙っておくなの」
「ウニャ? 戦いはどうなったのだ?」

 シーニャも目覚めたようだし、デミリスも助けた。
 アクセリナの行方とルティの行方も気になるが、ミルシェを待つとするか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...