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第二十四章:影の終焉
537.剣士の不意打ち
しおりを挟む「――ぷはぁっ……!」
かなり泳いだが、ようやく空気がある部屋に上がれたな。
部屋といっても家具も何も無い空間だけど。
ここがザームかどうかはともかく、まさか都市ごと沈めるとは思い切ったもんだ。
「シーニャ、もういいぞ」
「……ム、ムニャ? もう着いたのだ?」
何だ、寝てたのか。
しがみつきの力が途中で弱くなったと思っていたけど……そういうことだった。
「イスティさま。わらわも、ここから人化するなの!」
「剣として戦う敵が出ないってことか?」
「逆なの……思いきり出て来るなの。わらわを使って戦っては駄目な相手が出て来るはずなの」
「んんん?」
索敵と勘が鋭いフィーサが自ら人化するなんて。
最初の部屋で出て来る敵は、剣士タイプの傭兵ということか?
どんな敵でも問題無い――そう思って待ち構えていたが、おれたちの前に現れたのは……。
「くっ、くっそおおおおおおおおおおお!!」
襲いたくないといった必死の声を響かせ、彼はおれの死角から剣を振り下ろしてきた。
水から上がったばかりで体の自由こそ利かないが、初撃がおれに当たることは無い。
パキンッ、とした弾く音が部屋中に響き渡った。
彼から振り下ろされた剣は、おれの肩付近に命中。
かなりの力が込められていて、ぷるぷると小刻みに震えているようだ。
「くっ……やっぱり、この人には敵わない……なのに、くぅぅっ!」
「……その声、剣士デミリスだね?」
「! み、見えていないはずなのに、どうして!?」
「おれには分かる。デミリスに命令をして、高みの見物をしている奴らともどもね」
――あぁ、全く……。
予想はしていたが、レイウルムの彼にそういうことをさせるわけか。あの影女め。
彼がここにいるとなると、アクセリナはルティの方だな。
「し、仕方ないんだ。こうしないと、アクセリナの命が……兄きも不明な今、オレがやるしか――」
「ジオラスなら問題無い。おれたちが救い出した。だからデミリス、どうすればいい?」
なるほど。人質を取って脅してのけしかけか。
「あ、兄きが? そ、そうか」
「それで、アクセリナは?」
「彼女は……そ、その前に、ここにいるのはザームの傭兵軍団。彼らを何とかしないとオレは身動きが取れないんだ。だからアックさん。オレに大人しく斬られるフリを……」
剣士デミリス一人だけだと従わざるを得ない状況だな。
人質を取られているうえに、おれに不意打ち攻撃をさせるとはしょうがない連中だ。
「……いや、大人しく不意打ち攻撃を喰らうのは、こそこそ隠れて出て来ない連中だけでいい。デミリス。あんたはそのまま力を入れたまま剣を構えていてくれないか?」
「――えっ?」
傭兵だろうとそうじゃなかろうと、連中を相手にするのはデミリスだけで十分だろ。
フィーサは――寝惚けのシーニャを制しているから任せるとして。
「デミリス。今からおれは君の背中に回る。そのままあんたを風で浮かせて、奴らの背後に飛ばすから遠慮なく斬ってくれないか?」
「え、風で? し、しかし……」
「心配ない。奴らに不意打ち攻撃する位置に動かすだけだから」
「じゃ、じゃあ……」
おれの肩に剣を当てたまま動きの無いデミリス。
連中に怪しまれてはいるが、こちらの動きを見張っているだけで動きは無い。
それならばと、おれはデミリスに対し少しずつ風を付与。
「デミリス。心配無い……ここの傭兵連中にあんたの実力を見せつけてやれ!」
「――う、うわっ!?」
弱い旋風を起こし、デミリスに与えた直後。
彼は部屋中に隠れている傭兵どもの背後に飛び、不意打ち攻撃を喰らわせていく。
「ぎゃぁっ……」
「な、何!? 何故、背後に……」
聞こえて来る声のほとんどは傭兵の弱々しい悲鳴だ。
まさか脅して言うことを聞かせているデミリスに、背後から不意打ち攻撃を喰らうとは。
正直いって思ってもみなかっただろう。
物がない部屋のあちこちには、姿を消す魔法がかけられていた。
それを使って傭兵連中はぽつぽつと散らばっていたが……。
人数はそこまで多くなく、せいぜい数十人程度だった。
風に乗って剣を振り下ろすだけのデミリスは、何の苦労も無く次々と傭兵を倒していく。
「――はぁはぁはぁ、す、すごい! オレが一人で敵を倒すなんて!」
「全ての敵に不意打ち攻撃。剣士がこんな動きをするのは、本当は偉ぶれないけどね」
「そ、そうだね。でも、うん……。アックさん、ありがとうございます!」
デミリスを使い、アクセリナを人質に。
こういう奴ら相手に容赦は無用。デミリス本人にやられた方がショックが大きいはずだ。
「イスティさま。これでよかったなの?」
「レイウルムの剣士自らが片をつけるって意味ではいいんじゃないかな?」
「むむむ……イスティさまが言うなら、わらわは黙っておくなの」
「ウニャ? 戦いはどうなったのだ?」
シーニャも目覚めたようだし、デミリスも助けた。
アクセリナの行方とルティの行方も気になるが、ミルシェを待つとするか。
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