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第二十三章:全ての始まり

526.ザーム共和国・空中戦 2

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 バシュッ、とした発射音が耳に届く。
 発射音からわずかに遅れるが、黒竜が吐き出す炎のブレスがおれをめがけて放たれる。

 おれは自分が呼吸する音だけを体内に響かせ、着弾まで静止を保つ。
 動きを見せないおれに対し、敵は連続した攻撃を繰り出す。

「――容赦ないな」
「イスティさま、どうするなの?」
「空での防御は地上とは別物だからな。全部喰らうつもりだ」

 基本的に、おれにはいかなる攻撃も効かない。
 しかし空中戦はあまり経験が無いこともあって、当たり前のバフが示すかは不明だ。

 多少被弾するのは仕方が無いと言える。まぁ、ダメージは通らないと思うが。

「わらわは?」
「ん~……可能なら属性を吸収しとくのもいいと思うぞ。ブレスはともかく、機械兵のミサイルは火属性だからいけるだろ?」

 魔剣ルストでも可能だが、フィーサなら攻撃属性を変換出来る。
 魔法剣としての動きの時に使えば、彼女の負担は減るはず。

「無茶を言うなの。でもでも、やってみるなの!」

 空中戦での戦いは、いかに敵を地上に落とすかだ。
 こればかりはそれぞれで対応してもらうしかないが……。
 自分の相手が消えていなくならない限り、個々で撃破してもらう。

「ガゥッ!!! ガウゥゥ!」

 シーニャの唸り声とともに、次々と機械兵が破壊され落下していく。
 爪による斬属性はあらゆる敵に有効だ。
 空中での動きも、おれに比べても自在のようで苦にしてもいない。

 問題はルティとミルシェだが、おれがいる所から見ることが出来ない位置にいるようだ。

「今は目先の敵を落とすことに集中するなの!」
「分かってる」

 視界良好の最中、機械兵から放たれる重力砲が圧をかけて来た。
 おれの全身は一時的にだが、かなり強い力で押されてしまう。

 しかし空での重力は身体中に分散、地上にいる時よりも負担は少ない。
 とはいえ、機械兵も地上に近づくにつれて攻撃速度が上がっていく。
 そのことを考えれば、まずは機械兵を全滅させるのが先だ。
 
「フィーサ! 機械兵に向かってめがけるから、自由に動いていいぞ」
「何が自由になの?」
「――これだ!」
「ひゃぁぁぁぁっ!?」

 いちいちまとまった機械兵相手を撃破していくのは、無駄な動き。
 それなら自分だけで動けるフィーサをぶん投げるのが一番効率がいい。

「イスティさまのバカーーーーーーー!!」

 機械兵に向かって、フィーサがかなりの速さで直線上に勢いよくまっしぐらに飛んでいく。
 
 フィーサは、覚醒前と同様に剣の形状を変えることが出来る。
 おれにぶん投げられた直後に変化し、機械的な動きで各個撃破し始めた。

「……ブレス攻撃を受け続けるおれが憎いか?」

 ゴアァァッ、という怒りに満ちた黒竜の咆えが、シーニャがいる辺りまで響き渡る。
 だがおれにブレスを浴びせても何ともならない。
 そのことにいら立っているのか、辺り構わず吐き出し続けている。

 ある程度ブレスを吐き出すと、黒竜は人語を使い出した。
 口にした言葉は、

「キサマタチゴトキニ、アラガイノスベハナシ……ワレノホノオニヤカレルガイイ」

 攻撃が効いていないことを理解していても、止めるつもりは無いようだ。
 そうなるとおれが見せる動きは、黒竜を完全に消滅させるのみ。

 しかしダメージが通らなくても、やはり空での動きは黒竜が有利。
 このままブレス攻撃を続けさせて地上に降り立つぎりぎりの位置に誘導だな。

「……それなら仕方が無いな。こっちだ! おれについて来い」

「ニガサヌ!! ワレノホノオデヤキツクシテクレルワ!」

「こっちについて来い、黒竜」

 黒竜は、おれがここから逃げるとでも思っているようだ。
 逃げられる前に正面に回り込むような飛び方に変えて来た。

 風穴から飛び出した直後にかけた浮遊魔法は、すでに飛行魔法に変えている。
 おれだけ曇天の空を駆けている状態だが、

「ウニャッ!? アックが落ちていくのだ? シーニャも落ちるのだ!!」

 シーニャたちにかけた魔法は、徐々にその効果を失い始めている。
 もっともシーニャは、おれを追って頭から地上に向かっているが……。

 ビリッ、としたわずかな痺れとともに、黒竜は空を振動で揺らす。
 おれの呼吸はすでに乱れることが無く、地上にいる時と変わらない。
 鼓動は正常な動きを繰り返している。

 だが黒竜は余裕の無い動きを見せ始め、
 バサバササッ……と、激しく翼を動かし続けている。

 目標であるおれへの距離を縮める為か、かなりの速さで地上へ向かって行く。
 次第におれとの距離が着実に詰まりつつある。

「イスティさま!! 機械兵はやっつけてきたなの! 黒竜をどうするつもりなの?」

 地上に近づく手前になって、フィーサが手元に戻って来た。
 黒竜相手には、自分の技が有効であると知っての素早い動きなのだろうが……。

「おれだけでやる。フィーサはルティたちの所に向かってくれ」
「ええぇぇ~……また上に飛んで行かなきゃいけないなの? 全く面倒くさいなの……」
「頼むよ、フィーサ」
「仕方ないなの。今度はわらわを乱暴に扱わないで欲しいなの!」

 ぶん投げられたことを言ってるな。
 とはいえ状況が状況なので、文句を言いながら上空に上がって行ったようだ。

 一方の黒竜の動きは、低空飛行を安定させつつ左右に動いている。
 おそらく低空での攻撃を確かめているはず。

 獲物を狙う機敏な動き、逃げるおれを追って旋回。
 それを黒竜がやっている。

 黒竜の攻撃が無効になるにしても、少し力を入れておく必要がありそうだな。
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