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第二十三章:全ての始まり
524.地上への緊急脱出
しおりを挟む影だけの存在を見せたネルヴァ。
そして樹人リアンはおれが振り下ろした剣で、倒された。
旧グライスエンドで少し戦ったことがあった敵だった。
おれを追ってザームについたと思われるが……。
利用された挙句の最期はあっけなさすぎた。
おれは今まで、イルジナだけが厄介な敵かと思っていた。
だが、これからは影のネルヴァも気を付けなければならない。
「アック様~!!」
「もう! 先に行きすぎですわよ!」
ネルヴァとの遭遇から間を置かず、ルティとミルシェがおれを追って来た。
シーニャの姿は彼女たちの後方に見えている。
「先に行きすぎてたわけじゃなかったんだけどな……。おれの姿は見えていたのか?」
「ほぇ? きちんと見えてましたよ。剣の練習でもしてたんですか?」
「――何? 見えてた?」
「アック様がお一人で剣をぶん回してたので、どうしたのかなぁと……」
影に包まれていたのは見えていないのか?
「ミルシェもそうなのか?」
「この期に及んでその剣を振り回すなんて、小娘をそんなに起こしたかったのです?」
「……」
少し距離が離れていただけなのに、空間を切り離したってことか。
「ふん! だぁれが、小娘だっていうなの!! この年増!」
「――なっ!? お、起きて……アックさまも意地が悪いですわね。小娘が目を覚ましていたなら教えて頂けませんと」
「ついさっき起きたから、言うのが遅れたんだ。ごめん」
「ふ~んだっ!」
目覚めた途端にこれだもんな。
「アック様、アック様! あのぅ、お取り込み中なところで申し訳ないんですけど~」
「……ん? どうした?」
「シーニャがすごい勢いで走って来るのが見えます。それも応戦しながら~」
ルティが気にする後方を見てみる。
すると、シーニャがかなりの勢いで向かって来ているようだ。
彼女は自分の後ろを気にする動きを見せているが……。
さっきの影ほどじゃないが、シーニャの後ろから無数の黒影?
「――敵だ!! ミルシェ、ルティ! 後ろから大量に敵が来てるぞ! 戦闘態勢を取れ」
「は、はいっ!」
「やれやれですわ」
シーニャが向かって来るということは、相当数いるということだ。
通路自体そこまで広くも無い。どこか広い場所まで連れて行けば戦いやすくなるはず。
「フィーサ、おれの手に」
「分かったなの!」
シーニャが間近に見える。
苦戦といったことではなく、数の多さと勢いで戻って来た感じだ。
「アック!! 今すぐここから出るのだ! でかいのが迫って来てるのだ!!」
恐れを知らないシーニャにしては珍しい。
ここで敵を迎え撃つつもりだったのに、逃げることを言って来るなんて。
「でかいの?」
「魔物の大群だけなら何も問題無いのだ。後ろに見えたでかいのが厄介なのだ」
シーニャの後方からは、入り混じった大量の魔物が群れをなして向かって来る。
そいつらの後ろはまだ見えて来ない。
だがシーニャが見たとなれば、何かいるのは間違いないだろう。
「ひぃぇえええええ!! 大量ですよ! 大量の魔物がどこから来たんですかぁぁぁ」
「大したことが無い雑魚ばかりですわね。あたしの水で押し流して差し上げるわ!」
押し流すのはいいが、秘密訓練所となっている所からどこへ出れるのか。
「イスティさま、上を見て!」
「うん?」
「空に通じてる風穴が見えるなの! そこから出れるかもなの」
「風か……よし」
フィーサの言うように上を眺めると、巨大な風穴があった。
海の真上かとも思っていたが、すでにザーム国内のどこかに進んでいたようだ。
「行きますわよ~! ハイドロ――」
ミルシェの水流を利用させてもらおう。
勢いで地上に飛び出ることになるが仕方が無い。
「ミルシェ、待った!!」
「な、何事です!? どうしてお止めに?」
「おれの足下にその魔法をぶつけてくれないか?」
おれの魔法だけでもいけそうだが、
「えぇ? アックさまを攻撃するのですか?」
戸惑い気味だが、ミルシェがすぐ魔法を出せる状態なら利用した方がいい。
「ルティとシーニャはおれのそばで待機だ。すぐに出るぞ」
「はぇ?」
「ウニャ? 何が出るのだ?」
彼女たちは首を傾げつつ、おれのいる所に集まった。
そして、
「いいぞ。ミルシェ! 魔法を出したらすぐに備えてくれ!」
「え、ええ……よく分からないですけれど、行きますわ! 《ハイドロ・ショット》!!」
おれの足下めがけ、ミルシェの水魔法が命中する。
もちろんそれだけでは、ただの水たまりとなるだけだったが――
風神ラファーガの技ばかり使ってる気がするが……仕方が無い。
「……地を裂き、吹き荒らせ……《シュトローム・ウィンド》!」
足元の水流ごと吹き飛ばし、おれたちは地上への風穴に向かって押し流されて行く。
強制的だが、これでザーム共和国で地上戦開始の合図ってことになりそうだ。
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