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第二十三章:全ての始まり
523.秘密訓練所S 影の遭遇
しおりを挟む樹人族リアンは明らかに混乱状態だ。
そんな中、おれたちはあえて誘われるがままに後をついて行く。
「アック、アックを連れて……連れて行く、行けば……あはははは」
これから死地に飛び込むことになるのは目に見えている。
しかしどんな奴が待っていても、やることは変わらない。
「だ、大丈夫なんですかね……」
「アックさまが決めたことだし、いいんじゃない?」
「えぇ? でもでも罠だったら~」
「今は何が来ても怖くないわよね? 自分を信じて、アックさまを信じるしか無いと思うわ」
「は、はいい~」
シーニャが後ろを歩く中、ミルシェとルティはひそひそ話で紛らわしている。
パートナーとなった彼女たち。
2人を心配する必要は無くなった以上、おれは奴を討つだけ考えればいい。
「あはははははは……つ、着いた……アック、着いた。こ、ここにいる……ここに――…………」
――うっ?
リアンの気配が消えたのか?
連れて来られた場所は一面真っ暗闇。
しかし暗闇空間だとしても、何らかの気配を感じることは可能だ。
闇に乗じて姿を消したのかあるいは。
とにかくここにいれば……。
そう思いながら一歩足を踏み入れると――
「イスティさま、わらわを振り回すなのっ!!」
「――! おらぁぁっ!!」
ずっと眠っていたフィーサが突然目覚め、言われた通りに剣を振り回す。
敵らしき気配は感じていないが、何か脅威があったか。
どこに命中したのかは定かじゃない。
だが、フィーサブロスの剣先は黒々とした何かの一部を捕らえている。
「な、何だ……影の塊?」
「鈍い、鈍すぎるなの。イスティさまはわらわがいないと何にも気付かないなの?」
「……ごめん。で、この影は一体何なんだ?」
「それは――」
ふと後ろを振り向くと、すぐ近くを歩いていたミルシェたちがいない。
さらにシーニャの姿すらも見えなくなっている。
油断でも無く、何か気を付けていたわけではなかったとはいえ。
彼女たちが気付かないまま、おれだけ影の中に取り込まれていたのは驚きだ。
音も無く痛みも無い。
ただ闇の中で孤立させるのが目的だったのか。
「港町ラクルの倉庫番アック・イスティ……それとも、ワイバーンに無様にやられてガチャの力に覚醒させられた哀れな男? ドワーフの女がいなければ何も出来ず、しようと思わなかったアック・イスティ。あぁ、哀れな男……」
――何も見えない中、不気味な声だけが聞こえて来る。
「……アック・イスティはおれだ。倉庫番もガチャも全て事実だ。それがどうした?」
耳元で囁くより、直接おれの脳に直接語りかけて来る……無駄なことだが。
姿を見せずに来た敵の声は、今までの奴とは異なるようだ。
「他のと違う? 違わない? どちらでもいい……どんなものでも影は全て喰らえるのだから」
攻撃してくるでも無さそうだが、手にするフィーサからは警戒が緩むことが無い。
それどころか指示もしてないのに、剣全体で光属性を放ちそうな予感さえある。
「イスティさま、どこでもいいから上段から振り下ろすなの」
「何も見えないのにか?」
「早くするなの!」
この状況ではフィーサの言葉に従うしかない。
おれは言われた通り、上段構えから思いきり下段に向けて振り下ろす。
ビシッ。とした破れのような音が聞こえた直後、
「キィィィィィィ……!! な……ぜ、ぼくが、こ、んな……」
この声、まさか……?
「ああぁ~さすがはアック・イスティ。見込もうとしただけのことはある……樹人をいとも簡単に斬るなんて。これでまた一つ、種族を滅ぼした……ああぁ、いい気持ち……」
暗闇空間が晴れた――と同時に、おれが振り下ろした剣が樹人リアンを切り裂いていた。
何も手ごたえを感じてはいない。だが、間違いなくリアンを斬っている。
「……こいつを斬らせることがお前の狙いだったのか?」
「そうでもない。そんな過去の魔物など、何の役に立たない。アック・イスティが残して来たものを、アックの手でさせてあげた。それだけに過ぎない」
はっきりとした姿も無く、だが聞こえて来る声は"女"の声。
イルジナの側近の影と思われるが。
「影のまま姿を見せない奴が偉そうに言うな! 実体が無いにしても、存在くらい見せてもいいんじゃないのか? それともおれごときを恐れてのことか?」
ハッタリでも何でもいい。
影の正体を少しでも掴めば、次の時には捉えることが出来る。
「名だけは伝えておく。せいぜい足掻け……アック・イスティ。その手に持つその剣……最後に取っておく。全ての時を知った時まで……クククッ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
ちっ、影のまま消えたか。
名を伝えると言っておきながら消えるとはな。
「イスティさま……あの影は、ネルヴァ……」
「うん? ネルヴァ? それが影の名前なのか。イルジナだけが厄介と思ったが、ネルヴァか……」
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