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第二十三章:全ての始まり
522.樹人族リアンの誘い
しおりを挟む「よ、よぉしよぉし……落ち着いたか?」
「フニャウゥ~……シーニャ、少し耐性ある。ドワーフよりも早かったのだ」
「何だ、そうなのか」
「ウニャッ」
ミルシェの言葉に従い、おれはシーニャとルティの頭を撫でまくった。
だがシーニャは暗闇に対し耐性があった。
しかもおれに撫でられたくて、言わなかったらしい。
「シーニャ、敵が出たらすぐに言うのだ!」
「分かった」
考えてみればシーニャはおれのスキルを共有している。
完全では無いにしても耐性もある程度ついているはずだ。それを知りつつ甘えていたとは……。
問題はルティだ。
ルティは全ての耐性があるわけではなく、一部だけ強化されている。
そのせいでなかなか視力が回復しない。
「はへぇぇぇ~アック様、ずっと近くにいますか~?」
「いるよ。頭を撫でてる」
「見えないだけでこうも不安になるものなんですね」
強力な技だったうえ、あのラファーガの技だと知ったら大泣きしそうだ。
もっとも、風神が使うよりも効果が強くなってしまったが。
厄介な技だと知れただけでも良かったといえる。
しばらくして、
「……どうにか見えてきたか?」
「はいい~何とか……アック様、わたしも暗闇耐性が欲しいです~」
ルティには薬師の知識があるし、自作してもらうしか無いな。
「アックさま!! 前方に何かがいますわ!」
シーニャよりも先にミルシェの声が響く。
お互いに警戒してくれたようだが、ミルシェの方が真っ先に気づいたようだ。
「ほら、ルティ。ミルシェのいる所に行くぞ」
「はいっ」
だいぶ見えるようになったようで、ルティが置いて行かれないようについて来る。
シーニャがおれたちの後ろの方を気にして、後ろに回ってくれた。
これなら前方に気を付けるだけだ。
ミルシェが気にしている方に行くと、
「――! お前は!」
どこかで見覚えのある敵がおれを待ち受けていた。
苦戦もなく戦ったことがある――くらいしか記憶に無いが……。
目の前に見えているそれは、人の姿をした樹人族だった。
「ぼくのことを覚えててくれたんだ! あぁぁ~嬉しいなぁ。アック……きみに会えて嬉しい」
樹人族は樹木の形をしている魔物だが、目の前のこいつはほぼ人間の姿をしている。
名前は確か……。
「お前は旧グライスエンド……そこにいた奴だったか?」
「そう、そうなんだ。ぼくはリアン。ぼくにはワーム族の味方もたくさんいるよ。戦いたい? 戦いたいよねえ~? でもどうしようか……ぼくはきみを誘いたいんだ。ねえアック?」
……なんだこいつは。
旧グライスエンドで戦った記憶も薄れているが、ちょっと変わったのか?
「アックさま。樹人族がなぜここに?」
「いや、おれにもさっぱり。ただ、こいつもザーム側の敵かどうかなんだが」
「聞いてみたらどうですか~?」
「しかしどうにも様子がおかしい気がするんだよな……」
誘うと言っているが、コイツの言うことを素直に聞いていいものかどうか。
戦いのことなのかあるいは。
「ぼくはアックと、アックと……ここを破壊し、破壊しよう……しよう?」
樹人族リアンはおれに対し、どこかについて来て欲しいといったような動きを見せている。
だがどう見ても異常な状態にしか見えない。
これがイルジナの仕業だとすればこの樹人族は……。
「ウニャ、やっつけちゃ駄目なのだ?」
おれとミルシェ、それにルティまでもが様子を見ていると、シーニャが戻って来た。
後ろの方は敵が出る心配は無いということか。
「こいつは何て言ってるのだ?」
「おれを誘ってるような感じだ。戦いなのか味方なのかは分からないが……」
「ふんふん? じゃあついて行ってみれば分かるのだ。敵だったらやっつけて、そうじゃなかったらついて行くだけなのだ!」
旧グライスエンドでも敵だった。
しかしシーニャが言うように、ひとまずついて行くのもありか。
どこに連れて行くつもりかは分からないにしても、戦闘になるのはどのみち避けられない。
「……よし、樹人族について行くぞ」
「やれやれですわね」
「むむむむむ……だ、大丈夫なんですか~?」
「シーニャ、アックの後ろを守るのだ!」
ザームの禁域だからといって、全ての場所で突発的な戦闘が起こる――
――とは予想したくない。
樹人族リアンの様子が気になるのは確かだ。
だが"秘密訓練所"という場所がいくつもあるとすれば。
それなら、そのうちのどこかに連れて行ってくれれば好都合だ。
「アック、ついて……ついて――S、Sに連れて行く……Sに――」
誰かに誘導されているようにして、おれたちは樹人族リアンについて行く。
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