522 / 577
第二十三章:全ての始まり
522.樹人族リアンの誘い
しおりを挟む「よ、よぉしよぉし……落ち着いたか?」
「フニャウゥ~……シーニャ、少し耐性ある。ドワーフよりも早かったのだ」
「何だ、そうなのか」
「ウニャッ」
ミルシェの言葉に従い、おれはシーニャとルティの頭を撫でまくった。
だがシーニャは暗闇に対し耐性があった。
しかもおれに撫でられたくて、言わなかったらしい。
「シーニャ、敵が出たらすぐに言うのだ!」
「分かった」
考えてみればシーニャはおれのスキルを共有している。
完全では無いにしても耐性もある程度ついているはずだ。それを知りつつ甘えていたとは……。
問題はルティだ。
ルティは全ての耐性があるわけではなく、一部だけ強化されている。
そのせいでなかなか視力が回復しない。
「はへぇぇぇ~アック様、ずっと近くにいますか~?」
「いるよ。頭を撫でてる」
「見えないだけでこうも不安になるものなんですね」
強力な技だったうえ、あのラファーガの技だと知ったら大泣きしそうだ。
もっとも、風神が使うよりも効果が強くなってしまったが。
厄介な技だと知れただけでも良かったといえる。
しばらくして、
「……どうにか見えてきたか?」
「はいい~何とか……アック様、わたしも暗闇耐性が欲しいです~」
ルティには薬師の知識があるし、自作してもらうしか無いな。
「アックさま!! 前方に何かがいますわ!」
シーニャよりも先にミルシェの声が響く。
お互いに警戒してくれたようだが、ミルシェの方が真っ先に気づいたようだ。
「ほら、ルティ。ミルシェのいる所に行くぞ」
「はいっ」
だいぶ見えるようになったようで、ルティが置いて行かれないようについて来る。
シーニャがおれたちの後ろの方を気にして、後ろに回ってくれた。
これなら前方に気を付けるだけだ。
ミルシェが気にしている方に行くと、
「――! お前は!」
どこかで見覚えのある敵がおれを待ち受けていた。
苦戦もなく戦ったことがある――くらいしか記憶に無いが……。
目の前に見えているそれは、人の姿をした樹人族だった。
「ぼくのことを覚えててくれたんだ! あぁぁ~嬉しいなぁ。アック……きみに会えて嬉しい」
樹人族は樹木の形をしている魔物だが、目の前のこいつはほぼ人間の姿をしている。
名前は確か……。
「お前は旧グライスエンド……そこにいた奴だったか?」
「そう、そうなんだ。ぼくはリアン。ぼくにはワーム族の味方もたくさんいるよ。戦いたい? 戦いたいよねえ~? でもどうしようか……ぼくはきみを誘いたいんだ。ねえアック?」
……なんだこいつは。
旧グライスエンドで戦った記憶も薄れているが、ちょっと変わったのか?
「アックさま。樹人族がなぜここに?」
「いや、おれにもさっぱり。ただ、こいつもザーム側の敵かどうかなんだが」
「聞いてみたらどうですか~?」
「しかしどうにも様子がおかしい気がするんだよな……」
誘うと言っているが、コイツの言うことを素直に聞いていいものかどうか。
戦いのことなのかあるいは。
「ぼくはアックと、アックと……ここを破壊し、破壊しよう……しよう?」
樹人族リアンはおれに対し、どこかについて来て欲しいといったような動きを見せている。
だがどう見ても異常な状態にしか見えない。
これがイルジナの仕業だとすればこの樹人族は……。
「ウニャ、やっつけちゃ駄目なのだ?」
おれとミルシェ、それにルティまでもが様子を見ていると、シーニャが戻って来た。
後ろの方は敵が出る心配は無いということか。
「こいつは何て言ってるのだ?」
「おれを誘ってるような感じだ。戦いなのか味方なのかは分からないが……」
「ふんふん? じゃあついて行ってみれば分かるのだ。敵だったらやっつけて、そうじゃなかったらついて行くだけなのだ!」
旧グライスエンドでも敵だった。
しかしシーニャが言うように、ひとまずついて行くのもありか。
どこに連れて行くつもりかは分からないにしても、戦闘になるのはどのみち避けられない。
「……よし、樹人族について行くぞ」
「やれやれですわね」
「むむむむむ……だ、大丈夫なんですか~?」
「シーニャ、アックの後ろを守るのだ!」
ザームの禁域だからといって、全ての場所で突発的な戦闘が起こる――
――とは予想したくない。
樹人族リアンの様子が気になるのは確かだ。
だが"秘密訓練所"という場所がいくつもあるとすれば。
それなら、そのうちのどこかに連れて行ってくれれば好都合だ。
「アック、ついて……ついて――S、Sに連れて行く……Sに――」
誰かに誘導されているようにして、おれたちは樹人族リアンについて行く。
0
お気に入りに追加
567
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる