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第二十三章:全ての始まり
518.ザーム秘密訓練所S ザームサイド
しおりを挟む「……そう、ブラトは予定通り逃げたというわけね……?」
「――は。しかしよろしいのですか?」
「構わないわ。所詮、血縁にあぐらを掻いていた男。いつ消えても何の問題も無い……それよりも――」
「あの男がアックの味方となり、かき回しています。いかがいたしますか?」
ザーム共和国地下。
秘密訓練所Sと呼ばれる地下空間には、二つの黒い影があった。
影以外、他に人影は見当たらない。
部屋の灯りも無く、暗闇の中で何の苦も無く淡々と動いている。
ザームを支配しているとされるイルジナなる女と、その傍らに立つネルヴァなる影。
ネルヴァは表情を一切見せない灰褐色のローブを深々と着込み、フードの下から時折漆黒の髪を出し、辺りを常に監視するような仄かな気配を放ち続けている。
暗闇ばかりが先行する部屋の端には、話し声をかき消す程度の細長い水路の存在があり、聞かれることの無いタイミングで水が流れ出す。
「復讐の末裔がザームに紛れている……それで合っている?」
「は。あれらはほとんどが腐敗化済み。人間であり、そうではない……そういう状態でございます」
「それならば好きに泳がせておけばいい。ザームが滅ぼす敵は魔王ではなく、テミド様を滅ぼしたアック・イスティ……魔王はどうでもいいわ」
「グライスエンドから引っ張って来た樹人と、イデアベルクの拾いものはどういたしますか?」
グライスエンドには地中を自在に這う樹人族と、複数のワーム族がいた。それらはアック・イスティに敗北し、行き場を失っていたが魔王に拾われた。
だが結局、使い勝手の悪さがあったことで魔王からも見捨てられた哀れな魔物でもある。
「魔導兵をAに投入。樹人は脱走兵もろともおとりに使う。それと、ネルヴァはSに向かいなさい。一度くらい手合わせをしておくといい……」
「能力解放は?」
「お好きなように」
イデアベルク側に魔王がついたのは想定内。
だがあの男はアック・イスティにとって、ただの影。こちらの戦力を少し削いだとしても、わたくしにとってはささいなこと。
こちらには何の問題も苦も無い。
人間どもの人質もどうでもいい……アック・イスティがここに来てからが始まり。
「イルジナさま。レイウルムから奪った回復士の女はどう使いますか?」
「ふふふふふ……、厄介なドワーフの油断を誘って落としてもらう。もろともな……」
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